エピソード3 ルグニカ平野からベルケント
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城の上階に行き、豪華な扉の前に行くとティアが譜歌を歌った。周りにいた兵士も眠りにつく。どさっという音がしたのと同時にニッドたちは部屋に駆け込む。
「な…何事だ…?」
「間に合ったわね」
ティアが安堵する。ニッドは倒れた兵士の近くに転がっている瓶を見る、毒だ。本当にあと一歩遅かったらと思うとぞっとする。
「ティア!みんな!どうしてここに!?それにニッドもいつの間に…」
ルークの声は驚きと嬉しさが混じっている。
「牢に入れられていたんだが、思いがけない助力があってね…」
「俺とノルンもダアトで助けられたんだ」
「説明は後で!早く逃げようよ!」
アニスが警告するように言う。足音がぞくぞくと近づいてくる。
「お待ちになって!お父様に…陛下に合わせてください!陛下の真意を…聞きたいのです」
「俺からも頼む。戦争を止めるためにも伯父上には会うべきだ」
「……危険だけは覚悟してください」
少しの沈黙のあとジェイドが言った。ナタリアは小さく礼を言い、皆で部屋を出て行く。
謁見の間への階段を駆け上る。大きな扉を開けると、謁見の間にはインゴベルト陛下の他にモース、ディスト、ラルゴ、そして女性がいた。
「お父様!」
「逆賊め!まだ生きていたか!」
モースは全員を見て忌々しそうに言った。それでもナタリアは父に問うた。
「お父様!私はお父様の娘ではないとおっしゃいますの!?」
「それは…わしとて信じとうは…」
「殿下の乳母が証言した。お前は亡き王妃様に仕えていた使用人シルヴィアの娘メリル。そうだな?」
モースは乳母を振り返る。
「…はい。本物のナタリア様は、死産でございました。しかし、王妃様はお心が弱っておいででした。そこで私は数日早く誕生しておりました我が娘シルヴィアの子を王妃様に…」
「そ、それは本当ですの?ばあや」
乳母は何も答えなかったが、代わりにモースが言い放った。
「今更見苦しいぞ、メリル。お前はアクゼリュスへ向かう途中、自分が本当の王女でないことを知り、実の両親と引き裂かれた恨みから、アクゼリュス消滅に荷担した」
「よくもまあそんな作り話が出てくるよな」
ニッドも呆れて思わず肩を竦めた。
「違います…!そのようなこと…!」
「伯父上!本気ですか!そんな話を本気で信じているのですか!」
言葉に詰まるナタリアの横からルークが声を張り上げた。
「わしとて信じとうはない!だが、これの言う場所から嬰児の遺骨が発掘されたのだ!」
「…も、もしそれが本当でもナタリアは貴方の実の娘として育てられたんだ!第一ありもしない罪で罰せられるのはおかしい!」
「他人事のような口振りですな。貴公もここで死ぬのですよ、アクゼリュス消滅の首謀者として」
「…そちらの死を以て、我々はマルクトに再度宣戦布告する」
「あの二人を殺せ!」
モースはディストとラルゴに命令を下す。だが、ラルゴだけは動かなかった。
「何をしているのです!ラルゴ!他の者の手にかかってもよいのですか?」
「…くっ、強引に連れてこられたと思えば…!こういうこととはなっ!」
覚悟を決めたかのようにラルゴが一歩踏み出してきた。ニッドがナタリアとルークの前に出る。
「ルークとナタリアは殺らせない」
ラルゴと睨み合い始めてすぐにアッシュが飛び込んできた。
「アッシュ!ちょうどいい!そいつらを捕まえなさい!」
現れたアッシュにディストが叫ぶ、だが彼はディストたちとニッドの間に割って入ってきた。
「せっかく牢から出してやったのに、あんたも…こんなところで何をしている!ささっと逃げろ!」
「…すまん!アッシュ!」
アッシュに怒られてしまったので思わずニッドが謝る。
「お前が助けてくれたのか!だったらお前も一緒に…」
「うるせぇ!誰かがここを食い止めなきゃならないだろう!ニッドあんたもさっさと行け!」
自分も残ろうとしたニッドの意思がわかったのかアッシュはニッドを出口へと促す。ニッドは早く行けとルークの背中を押した。
「…ご無事で」
ナタリアはアッシュの背に祈りを込めるように呟き、ルークたちのあとを追った。
「アッシュ、ありがとう…っ」
ニッドも呟き、最後に謁見の間を出た。その先でナタリアが立ち止まっていた。父から聞いた言葉が突き刺さってしまったようだ。
「…お父様…」
「せっかく奴がくれた脱出の機会を無駄にしちゃいけない。わかるよな」
「…ええ…それはわかっています…」
「とにかくバチカルを出よう!ここにいたらアッシュの厚意が無駄になる」
『ルークとガイの言う通りだ。足止めを食うわけには行かない』
「ほらほら、急いで!」
ルークとニッドでナタリアを引っ張って城を出る。下へ降りて行く昇降機の前ではファブレ家の騎士団とルークの家の庭師のペールが待ち受けていた。
「ルーク様!ご命令通り、白光騎士団がこの先の道を開いておりますぞ」
ニッドは城へ向かう前にアッシュがファブレ家へ走って行ったのを思い出して心の中で納得した。
「命令…?」
「ん?御髪が…?やはり先ほどはカツラを…」
ルーク自身も最初は首を傾げていたがやがてアッシュが手配してくれたのだと理解したようだ。そうこうしているうちに、城から次々とキムラスカ兵士たちが追ってくる。
「ありがとう、ペール!おまえは逃げろ!」
「いえ、微力ながらここで皆さんの盾になります」
「危険です!お逃げなさい!」
「心配するな。ペール爺さんは俺の剣の師だ。後は頼むぜ、ペール」
「ガイラルディア様、無事をお祈りしております」
ペールに見送られて一行は何度も昇降機を乗り換えて下へ降りる。行く先々で白光騎士団とキムラスカ兵との戦いが繰り広げられていた。待ち構えていた兵士たちに左右を囲まれた。
「ええい!待て!逆賊共!」
足を止めざる終えなかったルークたちの脇をたくさんのバチカル市民たちが何かを手に通り過ぎていく。彼らは武器というにはあまりにも乏しいフライパンやおたまを振り上げて兵士たちを攻撃し始めた。
「何をする!」
「ナタリア様!お逃げください!」
「な、何故私を…」
「サーカスの連中から聞いたんです!姫様が無実の罪で処刑されようとしているって!」
「お顔は存じ上げませんでしたが上の階から逃げてこられたということは姫様でしょう」
「さあ!逃げてください!」
戸惑うナタリアにバチカル市民たちが兵士を抑えてくれた。
「行きましょう!ナタリア!」
ティアに手を引かれナタリアは開かれた道を走っていく。
『サーカスの連中、しっかり仕事してくれたようだな』
「結構いい奴らだな」
心の中で漆黒の翼に礼を言いながら、下の階の広場に到着した。街の出口は目の前だ。
「待て!その者は王女の名を騙った大罪人だ!即刻捉えて引き渡せ!」
広場ではゴールドバーグが待ち構えていた。
「そうです!みんな、私は王家の血を引かぬ偽者です。私のために危険を冒してはなりません。どうか逃げて!」
必死に逃げるように言うナタリアだが、市民たちは妨害をやめなかった。
「ナタリア様が王家の血を引こうか引くまいがどっちでもいいんですよ」
「わしらのために療養所を開いてくださったのはあなた様じゃ」
「職を追われた俺たち平民を、港の開拓事業に誘ってくださったのもナタリア様だ」
「ええぃ、うるさい!どけ!」
取り囲んでいる市民たちに向かってゴールドバーグが剣を抜く。腰を抜かした老人にゴールドバーグが詰め寄る。
『ニッド!銃身を上げろ!自分で撃つ!』
「…ノルン!」
銃身を上げて照準を合わせる。
「やめろ!」
ルークが駆け寄って老人を庇う。
「ええぃ!うるさい!」
ゴールドバーグが振りかぶった瞬間、通常弾が一人でに発射され、剣が吹き飛ぶ。同時にアッシュが駆けつけてゴールドバーグを突き飛ばした。
「いい腕だな、ニッド」
「今のは俺じゃなくてノルンな。アッシュもナイスタイミング」
アッシュはニッドを振り返ったが、すぐに軍人たちを睨んだ。
「…屑が!!キムラスカの市民を守るのがお前ら軍人の仕事だろうが!ここは俺たちに任せろ!早く行け!ナタリア!」
「…アッシュ…」
アッシュは厳しい口調で言ったかと思えばナタリアには優しい口調で語りかける。
「…お前は約束を果たしたんだな」
「…アッシュ…“ルーク”!覚えてるのね!」
「行け!…そんなシケたツラしてる奴とは一緒に国を変えられないだろうが!」
「!…わかりましたわ!」
「ルーク!ドジを踏んだら俺がお前を殺す!」
「ケッ!お前こそ無事でな!」
「ニッド!こいつらのこと頼んだぞ!」
「はいはい、わかったよ!」
一行は市民たちが口々にかけてくれる言葉を背にバチカルを出て行く。市民たちがザオ砂漠は危険なので南西のイニスタ湿原へ行くようにと忠告をくれたので一行はイニスタ湿原を目指した。
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