エピソード3 ルグニカ平野からベルケント
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夜になった頃、上階が騒がしくなった。そのせいか看守もいなくなった。脱出するには今だが、牢から抜け出すには鍵が必要だ。急がなければルークたちの命が危ないというのに時間だけが過ぎて行く。
「くそ!」
苛立ちながらも鉄格子に体当たりする。何度も体当たりするが開くはずはなく…体力だけが削られていく。力付きて倒れたのと同時に足音が聞こえてきた。
「おい…!何をしている!」
アッシュが鉄格子を壊して駆け寄る。
『ニッド!どうしたんだ!?』
「あれ、ノルン?アッシュ?」
「鉄格子に体当たりしたのか、無茶苦茶だな」
アッシュはニッドの両手を拘束していた手錠を剣で壊してくれた。自由になった両手で今までの不安を払拭するかのようにノルンを大事そうに抱いた。
「…そうだ、早くバチカルへ行かないとルークとナタリアが…!」
「そんなことはわかっている!立てるか?」
「なんとか…」
壁に手を置いてニッドは立ち上がる。それを確認したアッシュが先に走り出しニッドも続いた。
「今は治癒術師はいない。お前らの乗り物に行けば薬はあるだろうが…」
「アルビオール、ここにまだあるのか?でもノエルが…」
「操縦士なら導師に言われて助け出した、安心しろ。とにかく走れ」
アッシュの後を追ってひたすら走り街の外れまで逃げ切ることに成功した。そこから第四譜石の丘を越えた、ダアト港の手前でアッシュに呼び止められた。
「ニッド!」
「なんだよ?…うおっ…」
「それじゃバレる、あと譜銃剣も巻いておけ」
そう言ってアッシュはニッドの頭からフード付きのコートを被せる。もらった布で急いでノルンを巻く。そのおかげでダアト港に入っても兵士には見つからずにすんだ。船着場に行くとアルビオールが待っていた。
「アッシュさん!ニッドさん!」
二人の姿を見たノエルが駆け寄ってきた。
「ノエル!無事で良かったよ」
「はい、アッシュさんに助けていただきました。怪我は大丈夫ですか?」
「まあ…なんとか…」
「薬か何かあるか?」
「アルビオールに救急箱があります。どうぞ中へ」
アルビオールに入り、席に座るとノエルが救急箱を出してきてくれた。
「ティアさんかナタリアさんに会うまでそれで大丈夫ですか?」
アッシュと一緒に中身を確認する。
「いや、十分だろう」
「ありがとう、ノエル」
ノエルは笑顔で返してくれた。時間が惜しいのでアルビオールはすぐにバチカルへ出発する。飛行機関はディストに回収されてしまったのでアルビオールは水上と地上でしか動けないとノエルから説明を受ける。揺れる艦内で何とか包帯を巻いてみるがうまく行かない。
「貸してみろ」
見兼ねたアッシュがキレイに巻いてくれた。
「アッシュ、何から何までありがとう…」
「導師に頼まれたからな」
「そうか、イオンが…」
疲れているニッドを見たアッシュが声をかける。
「バチカルの手前で下ろしてもらう予定だ、それまで休んでおけ」
「すまない…」
小さく謝ってニッドは目を閉じた。
空が明るくなった頃、アルビオールはバチカルの手前の浜辺で停止した。
「おい。起きろ」
アッシュの声にニッドはかばっと起き上がる。
「…着いたのか」
「バチカル港へは入れないだろうから、ここから歩くぞ」
「そうか、わかった」
「お二人ともお気をつけて。皆さんの無事を願っています」
「ありがとう、ノエル。君も気をつけて」
ノエルに礼を言ってアッシュと共にアルビオールを降りてバチカルへ向かう。
「…ルークとナタリア…大丈夫だろうか…」
ニッドがぽつりと呟く。先を歩いていたアッシュが少しだけ振り返る。
「アンタはレプリカ派か」
「なんだよ、それ」
「いや…別に…ただやけに肩入れするなと思っただけだ」
「どっち派でもないさ。アッシュはアッシュだし、ルークはルーク。俺はどっちも好きだぞ」
『もちろんワタシもだ』
「へ、変なこと言うんじゃねえ」
顔を逸らしていつものようにぶっきらぼうにアッシュが返してきた。
「それで…自分の正体はレプリカたちには隠しておくのか」
「そりゃ黙っておくさ。知ってるのはジェイドとイオン、マルクト皇帝と軍上層部だけだ」
「そうか…。あんたがそう言うなら俺もレプリカたちには黙っておく」
「あぁ、そうしてくれるとありがたい…」
話しているうちに街の入り口に着いた。そこには漆黒の翼の三人組が待ち受けていた。
「あ、お前ら…なんでいるんだよ」
「あらん♪つれないこと言わないどくれ」
「こいつらにも手伝ってもらう」
「こいつら、大丈夫なのかよ…」
アッシュの返答にニッドは三人に怪しげな目線を送る。
「旦那からは前払いで金をもらったのさ」
「金の分は働くでゲス」
「街の人間の扇動はこいつらに任せて行くぞ」
アッシュに引っ張られるようにしてニッドは昇降機でバチカルの上階に上がって行く。
城の前でアッシュが立ち止まる。
「俺は白光騎士団を動かす。お前は先に城に入ってレプリカたちを助けに行け」
「あ、ああ…わかった」
彼と分かれたニッドは兵士が死なない程度に譜術を使って城内に侵入する。
『ジェイドたちは地下牢かもしれない』
「じゃあ、こっちか…!」
兵士を蹴散らして地下への階段を駆け降りていく。突然騒がしくなった城内を監獄に閉じ込められたジェイドたちも不思議に思う。
「何かあったんでしょうか…?」
ティアが不安げに呟いた。
「侵入者でも現れたのでしょうか」
「侵入者ってこのタイミングで…」
メガネの位置を直しながら言うジェイドにガイが苦笑する。一行が閉じ込められている鉄格子にキムラスカの兵士が投げつけられてきた。
「ぎゃ…!」
驚いたアニスから変な声が出る。
銃声と同時にフードを被った人物が現れる。
「あー!もう!しつこい!」
「第四音素の譜術?もしかしてニッドか!?」
「おう!ガイ!みんな!」
「准将!無事だったんですか!」
「まあなんとかね」
ノルンで牢の鍵を壊すと皆んなが出てくる。
「ニッド、貴方一人でここまで来たのですか?」
「アッシュが色々と助けてくれてな、ここまで一緒に来たんだ。とにかく今はルークとナタリアを助けに行こう」
『さっき兵士を尋問したんだ。ナタリアの私室に閉じ込められているらしい』
「急ぎましょう」
ティアが先に歩き出し、皆も後を追った。
