エピソード3 ルグニカ平野からベルケント
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2日目、3日目は敵との遭遇率が上がった。出会わないようにしていても、話し合いで解決したいと思ってはいてもキムラスカ軍は容赦なく襲ってきた。それでも怪我人は最小限でここまでは亡くなった村人はいなかった。
4日目はついに目的地ケセドニアが見えてきた。この街道を行けば街に入れる。
「ケセドニアまであと少し、このまま何もなければいいけど…」
歩く村人たちを眺めながらニッドが呟いた。
「そうですね、みんな疲労も溜まってるみたいですし…」
一緒に見ていたアニスがそれに頷いた。
「うわああ!」
後方の方で叫び声がした。
「な、何ですかぁ!?」
「アニスは前方へ行ってジェイドに報告してくれ!」
彼女の返事も聞かずにニッドは声の方へ走り出した。現場に行くと、剣を構えている神託の盾兵数名と村人たちが血を流して倒れていた。
神託の盾兵と住民の間に割って入った。後からジェイドたちが駆けつけてくれた。
「やめろ!彼らは民間人だ!」
ニッドはノルンを構える。
「民間人が何故…」
「そこの兵士!騙されるな!預言によれば民間人の参列に敵兵も潜んでいる!殲滅しろ!」
「本気で言ってるのかよ!お前らそれでも聖職者か!」
ニッドの怒りの声が戦場に虚しく響く。
「ニッド、構えてください」
ジェイドに言われ、彼は少し乱暴にノルンを構えた。アニスとイオンに怪我人を任せて、ニッド.はジェイドと2人で神託の盾兵を駆逐した。
手当てを終えたアニスは倒した神託の盾兵を見て言った。
「なんで神託の盾の兵士がいるんですか!?」
「これは…モースがキムラスカに対して戦闘正当性証明を発布したのかもしれません」
「そんなの導師にしかできないことなのに!」
イオンの返答にアニスはかわいらしい声を荒げた。
「村人は?大丈夫なのか?」
ニッドは村人のほうを振り返る。
「一部に負傷者が出たようです」
ジェイドが答えてくれた。それを聞いたニッドは顔をしかめた。
「次に攻撃を受けたらもたないな…」
「ケセドニアまであと少しです、気を抜かないように。村人が落ち着いたら出発しましょう」
「わかった」
もう一度、態勢を立て直して一行は出発した。無事にローテルロー橋を渡りきり、ついにケセドニアに到着した。エンゲーブの村人たちが街へ入っていくのを見て、ニッド.は安堵した。
「多少怪我人が出たりしましたが、おおむね成功でしょう」
「まあ…なんとか着いて良かった」
「さあ、エンゲーブの皆さんは先に街に入りました。私たちも行きましょう」
イオンとアニスも先に行ってアスターに話をしているらしい。ニッドはジェイドに頷いて彼に続いた。
「…あれは!おーい、ニッド!」
街へ入いると、別の方向からルークたちカイツール組が走ってきた。
「ニッド、ノルンのおかげで見つけやすいなぁ…」
「ん?ルーク!?」
「何故ここに?停戦はどうなったのです?」
ニッドのあとにジェイドも驚いたように聞いた。
「総大将のアルマンダイン伯爵がモースと会談するって、ここに来ているらしいんだ。それで追いかけてきたんだけど…」
「それで戦場を抜けてきたのですか?危険な選択をしましたね」
「まったく無事で良かった」
ニッドがルークの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「そっちこそ、てっきりグランコクマに逃げてると…」
「グランコクマは要塞都市です。開戦と同時に外部からの侵入はできなくなりました」
「それでケセドニアへ…」
「それで…アルマンダイン伯爵との話は?」
「これからだ」
「急ぎましょう」
酒場の国境は両軍の兵士によって塞がれている。一行は丁度そこでアルマンダイン伯爵とモースを発見した。
「アルマンダイン伯爵!どういうことです!?」
到着早々ナタリアが声を上げた。突然のナタリアの登場に2人は驚き足を止める。そばにいたマルクト兵はすぐに道を空けた。
「ナタリア殿下!?」
「私が命を落としたのは誤報であると、マルクト皇帝ピオニー9世陛下から一報があったはずですわ!」
「しかし実際に殿下への拝謁が叶わず、陛下がマルクトの策略であると…」
「私が早くに城にもど戻らなかったのは私の不徳のいたすところ。しかしこうしてまみえた今、もはやこの戦いには義はないはず。直ちに休戦の準備に取り掛かりなさい」
彼女の隣にルークも一歩踏み出して並んだ。
「アルマンダイン伯爵。ルークです」
ルークの登場にアルマンダイン伯爵の表情がさらに驚いたものへと変わる。
「生きて…おられたのか…!?」
「アクゼリュスが消滅したのは、俺がー私が招いたことです。非難されるのはマルクトではなく、このルーク・フォン・ファブレただ一人だ!」
「此度の戦いが誤解から生じたものならば、一刻も早く正すべきではありませんか」
「それに戦場になっているルグニカ平野は、アクゼリュスと同じ崩落…消滅の危険があるんだ!」
「さあ、戦いをやめて、今すぐ国境を開けなさい!」
ナタリアとルークに説得され、アルマンダイン伯爵は心を動かされたのか少し考えているようだ。
「待たれよ、ご一同」
モースが歩み出てきた。そして衝撃的なことを口にした。
「偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」
『ほう…』
ノルンが微かに呟き、ニッドは一瞬目を伏せた。
「無礼者!いかなローレライ教団の大詠師といえど、私への侮辱はキムラスカランバルディア王家への侮辱となろうぞ!」
「わたしはかねてより、敬虔な信者から悲痛な懺悔を受けていた。曰くその男は、王妃のお側役と自分との間に生まれた女児を恐れ多くも王女殿下とすり替えたのだ」
「でたらめを言うな!」
「でたらめではない。ではあの者の髪と目を何とする。いにしえより、ランバルディア王家に伝わるのは赤い髪と緑の瞳であった。この話は陛下にもお伝えした。しっかりと証拠の品も添えてな。バチカルに行けば、陛下はそなたを国を謀る大罪人としてお裁きになられましょう!」
「そんな…そんなはずありませんわ…」
ナタリアはあまりのショックに倒れそうになるのをなんとか耐えている。同時に周りにいた民衆もざわめきだした。
「伯爵。そろそろ戦場へ戻られたほうがよろしいのでは?」
「む、むう…そうだな…」
アルマンダイン伯爵はモースに頷き去っていく。
「おい、待てよ!戦場は崩落するんだぞ!」
ルークが叫ぶが、モースは慌てる様子もなく言った。
「それがどうした」
モースの返答にイオン以外の全員が驚いた。
「は?」
ニッドも思わず目を丸くしてモースを見た。
「戦争さえ無事に発生すれば、預言は果たされる。ユリアシティの連中は崩落ごときで何を怯えているのだ」
「大詠師モース…なんと恐ろしい…」
「ふん、まことに恐ろしいのはお前の兄であろう」
信じられないというようなティアをモースは一蹴した。
「お前…正気かっ」
怒りを抑えられなくなったニッドがついに声を荒げた。今にもモースに掴みかかりそうな彼をジェイドが落ち着いてくださいと言わんばかりに片手で制する。
「預言のために命を落とすことを…ユリアは望んでいない!」
「預言に従って生きるのは美徳であるというのに貴方は何故わからないのですか。それでも貴方は…」
「大詠師モース、私は一度ダアトに戻ろうと思います」
モースに被せるようにイオンが言う。アニスがはうあ!と驚いて彼のほうを見た。
「イオン様!?マジですか!帰国したら、総長がツリーを消すためにセフィロトの封印を開けって言ってきますよぅ!」
「ヴァンに勝手な真似はさせぬ。さすがにこれ以上崩落を狙われては少々面倒だ」
「力づくでこられたら…」
不安げなアニスにイオンはいつものように優しい笑みを向けた。
「そうなったらアニスが助けに来てくれますよね?」
「…ふへ?」
アニスは首を傾げる。そんな彼女にイオンは凛とした声で言い渡した。
「唱師アニス・タトリン。ただ今を以て、貴方を導師守護役から解任します」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんなの困りますよぅ」
イオンはアニスの近くへ行き、小声で囁いた。
「ルークから片時も離れず御守りし、伝え聞いたことは後日必ず僕に報告してください」
彼は次にニッドのほうへ行く。
「イオン…」
正体がバレそうになるのを上手く回避してくれたので礼を言いたいところだがニッドはぐっと飲み込んだ。それが伝わったのかイオンは笑顔だった。
「僕のほうでもう少しニッドのことを調べてみます」
早口で小さな声でイオンが呟く。ニッドもノルンも理解して小さく頷いた。そしてイオンは皆に向き直る。
「頼みましたよ。皆さんもアニスをお願いします」
イオンは一人で国境を越えてモースと共にダアトへと戻っていた。それを見送ったルークが一言。
「イオンのやつ、何考えてんだ…」
「アニスをここに残したということは、いずれ戻られるつもりなのでしょう。それより…」
ジェイドたちはナタリアを見つめた。彼女は先ほどから呆然としている。
「…私は大丈夫です。それよりもバチカルへ参りましょう。キムラスカ軍を止められるのは…父…いえ、国王陛下だけですわ」
「それなら国境を越える方法を探さないといけないわ」
「ここは国境線上の街です。きっと通り抜けられる場所がありますよ」
みんなが動き出す。
『ナタリア、心配だな…』
「いつものようにお父様と呼ぶのを躊躇うなんて…彼女から目を離さないようにしよう」
『ああ…』
国境を通り抜けられるところを探し回り、酒場へとたどり着いた。この中を通り抜けられれば国境を越えられそうだ。
「そこ、通れそうじゃないか?」
酒場は国境をまたいでいる。そこを店員が仁王立ちで塞いでいた。
「ここを通りたいなら合言葉を言いな」
「んだよ、うぜーな」
「うざかろうがなんだろうが、知らないなら通せないな」
「じゃあ、国境警備隊に報告しておこーっと」
「名案ですねぇ」
ジェイドとニッドが脅しをかけてみる。
「な…!脅しても駄目だ!通せないものは通せない」
作戦が失敗してしまい、2人はため息をついた。だが、完全に行き詰まった一行に向かって背後から声をかける者がいた。
「ぐへへ、合言葉を買わないか?」
「あ!おまえら!」
ルークが振り返ったほうを見てみると漆黒の翼の姿があった。
「あらん。いつかの坊やたちかい」
「あんたたち!イオン様を誘拐したり、こんなとこでお金儲けしたり、何考えてんのよ!」
アニスがびしっと指をさして言った。
「あはん。だってお金が大好きなんですもの」
「私だって大好きよ!」
アニスも負けじと対抗する。ガイはオイオイと苦笑して続けた。
「それより漆黒の翼さんよ、一体いくらで売ってるんだ?」
「七人でがスから…」
「ミュウとノルンさんもいるですの!」
ウルシーが全員を見渡して数え出すと、ミュウは飛び跳ねて自分とニッドの背中のノルンを示した。
「九人でがスから9000ガルドでやんスな」
「マジかよ」
「呆れた商売ね…」
ニッドとティアが呆れ返る。ルークはミュウを締め上げている。
「アホ。おめーが余計なことを言うから2000ガルド増えただろ」
「みゅぅぅぅぅ」
「払うのか?払わないのか?」
ヨークが選択を迫ってくる。
「どう考えても高すぎる」
「そうだな。大体馬鹿正直に払うこともないと思うぜ」
腕を組んで言ったニッドにガイも同意する。
「ここはまだマルクトですよねぇ?大佐たち、捕まえちゃってくださいよぅ」
「…だそうです。ここを通してくれるなら見逃してあげてもいいと思うのですが」
「お言葉ですがね、ダンナ。あんたらがあっしら平民を苦しめる戦争をおっぱじめたから、あっしらはそれを利用して金儲けさせてもらってるんでさぁ」
「…それもそうですわね。ここはお金を払って…」
「ナタリアらしくないわね。戦争があろうとなかろうと、犯罪を行うのは個人の道徳に因るはずよ」
「…それは…そうですけど…」
ナタリアは動揺が収まらないのか、らしくないことを言ってティアに諭されている。
「…じゃあ、憲兵呼んでくるわぁ」
ニッドが手を上げて身を翻す、それをノワールが止めた。
「待ちな」
呼び止められたニッドは立ち止まる。
「…いいだろう、あんたたちを通してやるよ。その代わりこのことは誰にも言うんじゃないよ。戦争で国境を封鎖されて、困った挙句にここを通る連中もいるんだからさ」
道を塞いでいた店員が開けてくれた。
「ありがとう」
去り際にルークが漆黒の翼に礼を言ってみんなで酒場を出た。
