エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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前を歩くニッドの背には長い譜銃剣。その側面には譜石がついている。
「なんだ、あれ…」
「あれは譜石ね」
小さな声で少女が答えた。彼は気になって譜石に触れようとする。
『ガアア!!』
「うわあ!」
譜石が光って、少年の大きな声がした。
「…どうした?」
ニッドは足を止めて振り返った。
「な、なんか鳴ったし光ったぞ!?」
「盗難防止のロックが発生したんじゃないか」
ニッドが可笑しそうに笑って、譜銃剣を軽く叩いた。
「驚かせて悪かったな」
謝って、また歩き出す。
「珍しい譜銃ですね」
歩きながら少女が譜銃剣を見て言った。
「あ、ああ…ちょっと特殊なんだ」
大事そうに撫でて前を向いた。
「着いたみたいだぞ」
ニッドが示した先には川が流れていた。
「…ったく、やっとかよ。もう土臭ぇ場所はうんざりだぜ」
「しっ。誰か来るわ」
少女の言葉にニッドは譜業銃に触れる。
現れたのは桶を持った人物。
「あ、あんたたちまさか、漆黒の翼!?」
「漆黒の翼?この辺りに出没してるのか…」
ニッドが一人呟く。
その相手は怯えている。
少女も杖を握っていた手を緩める。
「…漆黒の翼?誰かと勘違いしているのかはわからないけど、違うわ」
「違う?」
男はそれでも警戒を解かない。
じっと三人を見る。
「そういやあ、漆黒の翼は男女三人組の盗賊ー」
「盗賊!?」
そう声を上げたのは少年。かちんと来 たのだろう。
「俺をケチな盗賊と一緒にするんじゃねぇ!見りゃわかるだろう」
「そうね。その漆黒の翼って人が怒るかも」
それに頷いたのは少女。
「あのなっ!」
「俺も心外だな」
自分の捕まえなきゃいけない相手と間違えられるなんて…。
少女と少年のやり取りを横目にそう思うニッド。
「私たちは道に迷ってここに来ました、貴方は?」
「あ、ああ…俺は辻馬車の御者だよ。この近くで馬車の車輪がいかれちまってね…修理はすんだが、水瓶がなくなって飲み水がなくなったんで、ここまで汲みにきたのさ」
「馬車か!助かった」
少年がパチンと指を鳴らす。
「馬車は首都へも行きますか?」
「ああ、終点は首都だよ」
「乗せてもらおうぜ!もう歩くのはうんざりだ! 」
この機を逃す気はないと言わんばかりに少年が叫ぶ。
「そうね、私たち土地勘もないし。あのお願いできますか?」
「あんたたち、三人か?」
御者はニッドを見る。
「あぁ、俺も首都へ戻る」
ニッド御者を見て頷いた。
「首都までとなると、一人、一万二千ガルドだ。持ち合わせはあるのかい?」
ニッドはポケットや荷物を探る。急いで出てきてしまったために、ガルドを置いてきてしまった。
「高い…」
少女が呟き、首のペンダントに触れた。ニッドがその様子を見ていると、少年が軽く言った。
「そうか、安いじゃん。首都に着いたら親父が払うよ」
「そうはいかないよ、前払いじゃないとね。あんたたちが嘘を言ってるとかそういうことじゃないんだよ?さっき言った漆 黒の翼みたいな連中もいる。道中は何があるかわからないんだ。だから例外く、代金は前払いとなっているのさ」
考えこんでいた少女が首のペンダントを取ろうとするのをニッドが止めて、髪飾りを取って外し御者に渡した。
ニッドに髪飾りの見て少女が目を見開いた。髪飾りについている宝石と彼女のペンダントの宝石が同じだった。
「これなら三人分あるだろ」
「ほー、これは大した宝石だ。よし、これでいいだろう。水を汲んだらすぐ出発だ。ちょっとここで待っててくれ」
ニッドの髪飾りをポケットに仕舞い、馬車のほうへ行ってしまった。
少年が息をつき、ニッドに向かって言った。
「お前いいもん持ってるな!これで靴を汚さなくてすむ」
ニッドはそれに答えることもなく、少年を 一度見て小さくため息をつくと御者を追いかけ闇へ消えた。
少女は一瞬彼を冷たく睨んで、御者の消えたほうと歩き出した。
