エピソード2 オアシスからグランコクマまで
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17話 鏡
ベルケンドの港から徒歩で移動すると、ベルケンドの街に着いた。目的の施設である第一音機関研究所に入り、奥の部屋に行くとアッシュが老人に話かけた。
スピノザという老人はアッシュを見て驚いた様子を見せる。
「お前さんはルーク…!?いや、アッシュ!」
アッシュはスピノザを見て吐き捨てるように言った。
「はっ!キムラスカの裏切り者が、ぬけぬけとまだこの街にいたとはな!笑わせるっ」
「裏切り者ってどういうことですの?」
ナタリアはアッシュを見て問うた。
「こいつは俺の誘拐に一枚噛んでやがったのさ」
アッシュの答えを聞いたナタリアは驚いてる。
スピノザはアッシュからニッドへ視線を移した。その瞬間、アッシュを見た時とは違う完全に怯えた表情に変わった。
「あ…あ…何故ここに…確かヴァン様の命令で海に捨てたはずじゃ…!」
「ど、どういうことだ……俺に似た何かがライガクイーンを殺した、という情報と関係しているのか…だとしたら俺と同じ顔の奴も存在している…?」
ニッドは顔をしかめた。
「まさか!フォミクリーの禁忌に手を出したのは…!」
「ジェイド、あんたの予想通りだ」
スピノザはまた驚いた顔をする。
「ジェイド!?死霊使いジェイドか!」
「フォミクリーを生物に転用するのは禁じられたはずですよ」
「フォミクリーの研究者なら一度は試したいと思うはずじゃ!あんただってそうじゃろう!ジェイド・カーティス!いや、ジェイド・バルフォア博士!あんたはフォミクリーの生みの親じゃ!何十体のレプリカを作っただろう!」
「おい!やめ……ジェイド…」
ニッドが声を上げて遮ろうとするがジェイドがそれを制した。
「否定はしませんよ。フォミクリーの原理を考案したのは私ですし」
「ならあんたにわしを責めることはできまい!」
ニッドはスピノザを睨んだ。睨まれたスピノザは怯えている。
「すみませんねえ、自分が同じ罪を犯したからと言って相手を庇ってやるような傷の舐め合いは趣味ではないんですよ。私は自分の罪を自覚しています、だから禁忌としたのです。生物レプリカは、技術的にも道議的にも問題があった。貴方も研究者ならご存知のはずだ。最初の生物レプリカがどんな末路を迎えたか」
「わしはただ…ヴァン様の仰った保管計画に協力しただけじゃ!レプリカ情報を保存するだけなら…」
「保管計画?どういうことだ?」
アッシュが聞き返してくるのを見てスピノザは目を見開く。
「お前さん、知らなかったのか!」
「いいから説明しろ!」
アッシュが睨んで声を荒げる、スピノザはそれでも詳細を明かそうとしない。
「言えぬ。知っているものとばかりに口を滑らせてしまったがこれだけは言えぬ」
「俺のレプリカがいるかもしれない、それもその保管計画と関係はあるのか」
ニッドが前に出てきて言った。スピノザは怯えてカタカタと震え出した。
「…わ、わしはあんな化け物のことなど知らぬ…!」
スピノザは逃げるように部屋に駆け込んで行った。
『謎が深まっただけだな…』
ノルンがやれやれと嘆息する。一行は諦めて施設を出て、今後のことを話し合う。
「ヴァンはレプリカ情報を集めて何をするつもりなのでしょう…」
「そりゃレプリカを作るんだとは思うけど…」
アニスとナタリアが不安げに話す。難しい顔をしているニッドを見たアッシュが口を開く。
「…ワイヨン鏡窟に行く」
「西のラーデシア大陸にあるという洞窟ですか?でもどうして…?」
ナタリアが聞くがアッシュは答えない。代わりにジェイドが言った。
「レプリカについて調べるつもりなのでしょう。あそこではフォミニンが採れるようですし…」
『ラーデシア大陸ならキムラスカ領だ。ディストが隠れるにはもってこいだな』
「…お喋りはそれくらいにしろ。行くぞ」
「ぶー。行った方がいいですか、イオン様」
アニスは鏡窟に行くのは反対なようで、イオンを振り返る。
「そうですね。今は大人しく彼に従いましょう」
イオンは静かに答え、アニスはそれでも不満でぶーぶーと口を尖らせている。
「俺は降りるぜ」
ガイが唐突にそう言い出した。
流石のアッシュも驚いてガイを見た。
「……どうしてだ、ガイ?」
「あー、ルークが心配か」
ニッドが納得したように呟く。
「なんだ、お見通しってか。そうなんだ、あいつを迎えに行ってやらないとな」
答えるガイにアニスは腰に手を当て彼に言い放った。
「呆れた!あんな馬鹿ほっとけばいいのに!」
「馬鹿だから、俺がいないと心配なんだよ。それに…あいつなら立ち直るって信じてる」
ガイはルークを見捨てていなかった、あえて突き放してルークの成長を信じて待っていたのだ。
「ガイ!貴方はルークの従者で親友ではありませんか。本物のルークはここにいますのよ」
ナタリアがアッシュを示す。
「本物のルークはこいつだろうさ。だけど…俺の親友はあの馬鹿のほうなんだよ」
どんなことがあろうと、ガイにとってはルークと一緒に過ごした日々は変わらないのだろう。
「迎えに行くのはご自由ですが、どうやってユリアシティに戻るつもりですか?」
ジェイドが聞くとアッシュがガイに背を向けた。
「…ダアトの北西にアラミス湧水洞って場所がある。もしもレプリカがこの外殻大地に戻ってくるなら、そこを通るはずだ」
「悪いなアッシュ」
「ふん、お前があいつを選ぶことはわかってたさ」
「ヴァン謡将から聞きましたってか?まあ…それだけってわけでもないが」
ガイが何かを言いかける。
「どういうことですの?」
ナタリアが小首を傾げる。
「…何でもないさ。それじゃ」
それだけを言い残してガイは風のように走っていった。それを止めようとしないアッシュをナタリアが見た。
「ルーク!止めないのですか!」
「その名前で呼ぶな。それはもう俺の名前じゃねえんだ」
アッシュはそう言い捨て歩いていったが、その様子はどこか悲しげに思えた。皆も歩いていったのでニッドもそれを追おうとしたが、ジェイドに呼び止められた。
「ニッド、先程の…庇わなくてもいいんですよ」
ニッドはジェイドがスピノザに責められていた時のことを思い出す。
「でも、傷つかないわけじゃないだろ」
ジェイドは隣まで歩いてきた。
「……気持ちだけもらっておきます」
それだけ言って階段を降りていった。ニッドもその後を追った。
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ワイヨン鏡窟にタルタロスをつけて、入り口に立った一行。
「なんだかじめじめしていますわね」
「海風が吹き込むからでしょうね」
鏡窟の内部を見てナタリアとイオンが言った。アニスはぴょんっとイオンの隣にジャンプしてきた。
「イオン様はタルタロスで待っていてくださいね」
「僕も興味があるんですが…」
ダメ?と懇願するような目でイオンはアニスを見る。
「ダメです!危ないんですから!」
アニスに速攻で断られたイオンは助けを求めるようにニッドに視線を移した。
「そうだね、アニスの言う通り危ないからね」
「そうだ。導師は戻れ、ついてこられると邪魔だ」
アッシュはさっさと行ってしまった。
「…残念です」
苦笑するイオンに見送られて一行は奥へ向かった。魔物を倒しながら歩いていくと、分かれ道にぶち当たる。
「…足跡?」
ニッドが地面を見て眉間に皺を寄せた。
「まだ新しいですね…」
ジェイドが隣に来て言った。
「誰かが先に来てるってこと…?」
「敵かもしれませんわね…」
アニスとナタリアが不安そうに呟く。アッシュが足跡の続く道の奥を見る。
「どうする?こっちから先に調べるか?」
「…いや…俺1人で行く。アッシュたちはあっちを調べてくれ」
しばらく考えていたニッドが答える。
「…わかった、終わり次第そっちへ行く」
アッシュに頷いたニッドは更に奥へ歩いていく。
『気をつけろ、誰かいるかもしれない』
施設の前でノルンが小声で注意する。ニッドは壁に身を隠してノルンを構え、警戒しながら施設に入っていく。中は巨大な檻と演算機が残されていた。
警戒を解くことなく大きな檻に近づく。壁には血の跡や譜術が発動した跡や鎖が残っていた。
『何だこれは…魔物でも飼っていたとでも言うのか…』
上から下へ視線を移していくと足元に資料が散らばっていた。ニッドはそれを拾い上げる。
『書類のようだな…コーラル城で拾った書類に似ている…』
「第四音素…の音素振動数…?これも同位体研究だ。持ち帰ってジェイドに見てもらおう」
必要そうな書類を拾って集め、次に演算機を確認する。
「まだ動くな…。あ、俺の名前…やっぱり#あか#のレプリカは存在していたのか…?」
『一体何のためにレプリカを…いや…預言を成就させるための道具か』
ノルンは忌々しそうに言った。
「この計画は破棄されているようだ。…これも持ち帰る。それから…データを消しておこう」
『それがいい』
演算機を操作してデータを削除した。突然、何かが動く音がした。思い切り振り返って確認する。
「おい、死竜」
声のしたほうへ目を向けるとアッシュたちが入り口に立っていた。
「…そっちは終わったのか」
「ああ」
アッシュが頷く。
「ここも研究施設なのでしょうか…」
「なんだか不気味だよぅ…暴れた跡って感じで…」
ナタリアとアニスが巨大な檻を見て言った。2人とも怖がっていてあまり檻に近づかない。
その側でジェイドが演算機を見ている。
「これも先程の施設にあったものと同じですね、ですがデータが削除されています」
「ああ…それは…俺が…」
ジェイドのほうを向いた瞬間、譜陣が出現する。
「伏せろ!」
アッシュは咄嗟にナタリアを守り、ニッドもアニスを守る。
「……フレイムバースト!」
ジェイドの譜術が発動した譜術を相殺するが、大爆発が起こり辺りは煙に包まれる。
『今の!第四音素の譜術…!』
「あー!…今、人影が!」
アニスの視界に走り去る影が映る、彼女は入り口を指して叫ぶ。
「追うぞ!」
アッシュが真っ先に走り出し、後の皆も少し遅れて走り出した。
施設を出て通過をしばらく行くと広い場所に出る。ナタリアの放った矢が相手の足元に刺さり、足を止めた。そこでようやく追いつく。
「そこまでですわ!」
ナタリアは弓を構えたまま鋭く叫んだ。
「…っ…!」
「何者だ!」
アッシュが相手を睨む。
「ここへ来るということは元研究者か、オラクルか…もしくは」
「レプリカ…」
ジェイドの後にニッドが小さく呟く。ナタリアとアニスがばっとこちらを振り向く。
「まさか、先程の施設にいたかもしれないレプリカなのですか…」
「そんな…あの檻にレプリカが…!」
「答えろ!お前は俺の…」
思わずレプリカか!と聞こうとしたニッド。しかし、異様な気配に口を閉じた。
「気をつけろ、何か居る…」
アッシュが海面を見る。向こうも同じく海面を見ている、両者の間に緊張感が漂う。
轟音とともに海面から巨大な魔物が飛び出してくる。
「はうあ!何あれ!」
アニスが驚愕の声を上げる。
『アンキュラブルブだ』
皆の意識が魔物に集中している隙に相手は再び走り出す。
「あー!逃げた!」
指差すアニスの先にはレプリカと思わしき人物が船着場への道を走っているのが見える。
「あちらにはタルタロスがありますわ!」
「船はタルタロス一隻のみです、もし鏡窟から出るのなら乗り込むつもりでしょう!」
ニッドはノルンを構える。
「イオンに危害が及ぶ前にあいつに追いつく必要がある!」
「そういうことだ!」
アッシュは剣を抜いてアンキュラブルブに斬りかかる。アンキュラブルブも長い触手のようなものを振り回して攻撃を回避する。ニッドはその触手に照準を合わせて撃ち落としついく。
全部撃ち落としたところでまともに攻撃が効くようになった。
「喰らえ!氷結斬!…落水!」
アンキュラブルブを突き上げ、更には叩きつけて地面に落とす。そこへジェイドの譜術、ナタリアの矢、アニスのトクナガの拳が追い打ちをかけ、最後にアッシュの技でアンキュラブルブは動くかなくなった。
「何の、今の!でか!キモ!」
音素に帰るアンキュラブルブをアニスが見る。
「フォミクリー研究には、生物に害を及ぼす薬品も多々使用します。その影響かもしれませんね。…それよりも先程の人物が気になります」
ジェイドはニッドを横目で見やる。ニッドは思いつめた顔をしていて、アニスははっと我に返る。
「イオン様!」
「行くぞ!」
アッシュの後に続いて皆は来た道を引き返した。
船着場に戻るとイオンが駆け寄ってくる。
「おかえりな…」
イオンが全てを言い終える前に地震が襲ってきた。アニスとイオンをニッドが、アッシュはナタリアを支え、ジェイドも背を低くて揺れが収まるのを待った。
しばらくすると、地震が収まる。
「…あ、あの、ありがとう…」
ナタリアは頰を赤く染めアッシュを見る。彼はナタリアから手を離す。
「前にもこんなことがあったな…」
「そうですわ!城から抜け出そうとして窓から飛び降りて…」
思い出に浸る気はないのかアッシュはナタリアには答えずにニッドたちのほうを見る。
「今の地震、南ルグニカ地方が崩落したのかもしれない」
「そんな!なんで!?」
「南ルグニカを支えていたセフィロトツリーをルークが消滅させたからな。今まで他の地方のセフィロトでかろうじて浮いていたががそろそろ限界のはずだ」
「他の地方への影響は…?」
「俺たちが導師をさらってセフィロトの扉を開けさせていたのを忘れたか?」
「扉を開けてもパッセージリングはユリア式封咒で封印されています。誰にも使えないはずです」
「ヴァンの奴はそいつを動かしたんだよ!」
ティアは譜歌を歌える、つまりはユリアの子孫。彼女の兄であるヴァンも同じ…ということはセフィロトを扱えてもおかしくはないとニッドは思う。
「つまりヴァンはセフィロトを制御できるということですね。ならば彼の目的は…」
「…さらなる外殻大地の崩落。アッシュ、次はどこが落ちる?」
ニッドはアッシュに聞いた。
「そうみたいだな。俺が聞いた話では次はセントビナーの周辺が落ちるらしい」
「セントビナー…そんな…あそこは預言には詠まれていない…」
1人でぶつぶつとしゃべり出したニッドを引き戻すかのようにジェイドがイオンに切り出した。
「イオン様、我々より先にタルタロスに乗り込む人影を見ませんでしたか?」
「!」
ニッドは我に返る。
「?いえ、皆さん以外誰も来ていませんよ?」
「そうですか、恐らく気のせいだったのでしょう」
「ジェイド…」
「イオン様に危害が及ばなかったということは我々と事を構える気はないのでしょう。今は時間がありません、レプリカのことは後回しにしましょう」
周りに聞こえないくらいの声でジェイドはニッドにそう言い、彼も納得して頷いた。
その後はタルタロスに乗り込む。戦争を回避するためナタリアの提案でイオンに導師詔勅を発令してもらうことになったので、一行はダアトに向かった。
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