エピソード2 オアシスからグランコクマまで
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タルタロスはユリアシティに入港した。
「ユリアシティ…」
ニッドは天井を見上げる。
『預言で世界を繁栄に導く監視者の街か…預言が全てではないというのに…』
「うん…」
皆は奥にいるという市長の元へ向かう。ニッドも歩いていく。
『待て、何か騒がしい』
背後を見ていたノルンが言うとティアの叫び声が聞こえた。
「アッシュ!やめて!」
「アッシュ?アッシュがいるのか!」
ニッドはルークたちのところへ走り出す。広場ではアッシュとルークが対峙していて、ティアが二人を見ていた。
「俺とお前、どうして同じ顔をしていると思う?」
「…し、知るかよ」
「俺はバチカル生まれの貴族なんだ。七年前、ヴァンって悪党に誘拐されたんだよ」
「…ま…さか…」
「そうだよ!お前は俺の劣化複写人間だ。ただのレプリカなんだよ!」
ルークは驚愕し、頭を抱える。
「…う…嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!」
そして剣を抜き、刃をアッシュに向ける。
「遅かったか…!」
ニッドが駆けつけて来たが少し遅かったようで、二人剣で戦い始めた。同時に放たれた烈破掌でまた同時に吹き飛び、ルークが動けなくなる。
「俺はお前なんかじゃない…!」
ショックで上手く立ち上がれないルークの前にアッシュが剣を突きつける。
「…う、嘘だ…俺は…」
「俺だって認めたくねえよ!こんな屑が俺のレプリカなんてな!こんな屑に…俺の家族も居場所も奪われていたなんて!情けなくて反吐が出る!死ね!」
殺意のある言葉とともにアッシュが剣を振りかざす。ニッドがルークの前に出る。
「止めろ!アッシュ!」
「お前…!何故庇う!?こいつが何をしたか、わかってるだろ!」
「…わかってる。だが、命を奪うまではしなくていいだろう」
ニッドの行動にアッシュだけでなくティアも驚く。
「何を言ってやがる!レプリカに情けをかけるってのか」
「アッシュにとっては許せないだろうけど、レプリカも命であることに変わりはない」
アッシュに迫られても怯むことなく毅然とした態度でニッドは言った。
「それに…ルークなら、自分を変えることができるって俺は信じてるから」
「…ちっ、もういい、勝手にしろ」
アッシュは剣を収めて街の方へ歩いていった。ニッドはいつの間か気を失ったルークを背負う。
「准将…」
「ティア、宿屋みたいなところはないか?このままじゃこいつ、風邪引きそうで…」
「あ、は、はい…私の部屋に寝かせましょう。こちらです」
ルークを担いでティアについて彼女の部屋へ向かう。
「すまないな、ティア」
ルークをベッドに下ろしたニッドが言った。
「いえ…」
「ティアも怒っていたけど、結局はルークのことほっとけないんだな」
「な、流れでこうなっただけです…」
「素直じゃないな〜……い、いや…あの市長に挨拶してくる」
ティアが軽く睨んでくるのでニッドは分が悪そうに彼女の部屋を出て行く。
途中でジェイドと遭遇して今後の話を聞く。外殻大地へ戻ることになった、タルタロスをセフィロトで浮上させることができるらしい、今はその準備をしているという。
「時間が少しあるよな。ユリアシティ、散策してもいいか?」
「いいですよ、その代わり時間までには来てください」
「了解」
出発までの時間、ユリアシティを歩き回る。街の人の預言への考え方には賛同できないが、自分がこの時代へ送られる前に居た街もユリアシティなのでニッドには嬉しかった。会議室に行くと入り口でティアの祖父、テオドーロがニッドを迎えた。ニッドは一礼する。
「初めましてになりますな。ニッド、ヴィースドラゴン。いや…貴方のことはニッドヘルグと呼ぶべきでしょうか」
『おっと、これは驚きだな』
「…俺のことだけでなくノルンのこともご存知でしたか」
「ええ、秘預言に詠まれてました」
驚きを見せるニッドとノルンとは反対にテオドーロ市長は静かに頷いた。
「そうですか…」
「アクゼリュスのことは貴方が気にやむ必要はありませんよ」
「それは…預言に詠まれていたからですか」
「そうです」
「そんなに…預言は大切なものなのですか…たくさんの人の命が消えても、それでも預言は遵守されるものなのですか!」
先程泥の海に沈んで行ったあの親子の姿がフラッシュバックする、ニッドは思わず叫んだ。
「ユリアの実弟とは思えぬ発言ですな。預言を守り穏やかに生きること、今も昔もローレライ教団の教えは変わっていないはずです」
『…そのために苦しむ人がいても良いと?』
怒りに手が震えているニッドを横目にノルンは冷静にテオドーロに問う。
「ではユリアは何のために預言を詠んだのです?それはオールドラントの繁栄のためでしょう」
「俺には…それがよくわかりません。世界があって、人々が居てこその繁栄だ、それでたくさんの人が死ぬのを見過ごすことは正しいとは思えません…。もしまた崩落があったりしたら…」
「安心なさい。外殻大地の崩落はこれ以上は預言に詠まれていない。ですが貴方がいてくれれば今まで以上に預言通りに歴史が動くでしょう」
「違う、預言通りに歴史を動かして人が死ぬのを肯定したいわけじゃない…それに俺はユリアの呼んだ預言を覆すためにここへ来たのです、人々が預言の奴隷になるのは認められません」
なんとか怒りを抑えて平静を保つ、だがまだ手は震えている。
「しかし、ニッドヘルグ。預言なくして繁栄はあり得ませんよ?」
テオドーロのその問いにニッドは上手く返す言葉が見つからない。
「よくお考えください」
一言そう言われニッドは目を伏せつつ、テオドーロに一礼して会議室を出た。
会議室の前にイオンが立っていた。彼は申し訳なさそうに「少しだけお話してもいいでしょうか」と聞いてきたので2人は隅の方に移動する。
「ニッド…貴方の本当の名前はニッドヘルグですか?」
「…そうか、バレてしまったか」
「すみません…セフィロトでヴァンがそう呼んでいたのが聞こえてしまったんです」
「いや…いいんだ、気にしないでくれ。イオンの言う通り、俺はニッドヘルグ・ジュエ。ユリアは俺の姉だ」
「やっぱりそうでしたか。それでカースロットのことやアクゼリュス崩落のことを知っていたんですね。でもどうやって二千年前から…いや、どうしての方が重要ですね」
「それが俺にも詳しいことは……。姉さんは預言とオールドラントのことを頼む、としか教えてくれなかったから…」
「イオン様ー!!」
遠くでアニスがイオンを呼ぶ声がする。タルタロスの準備ができたようだ。
「イオン、一つだけはっきりしていることがあるんだ。俺も姉さんも決して預言を遵守することを、それで人々が命を落とすことを肯定してはいない。だけど預言は人を幸せへと導くものだと俺も思ってる」
「貴方と同じ思いで…本当に良かったです」
「…あぁ。イオン、このことは皆には黙っていてほしい。他に知ってるのはジェイドとマクルトの皇帝と上層部だけなんだ」
「……わかりました」
「ありがとう。アニスを心配させちゃダメだな、行こう」
「はい!」
ニッドはイオンとタルタロスへ向かった。
アッシュとともにタルタロスへ乗船し、セフィロトの吹き出す記憶粒子の流れに乗ってアクゼリュスのあった穴から外殻大地の海へ着水した。
「上手く上がれたようですね」
『それで外殻大地へ戻って来たはいいが、タルタロスをどこにつけるのだ?』
「ヴァンが頻繁にベルケンドの第一音機関研究所へ行っている。そこで情報を集める」
ノルンの問いにアッシュが答える。
「ベルケンドかぁ…ヴァンの目的を知るためか?」
ニッドは腕を組んで言った。
「そうだ。俺はヴァンの目的を誤解していた。奴の本当の目的を知るためには、奴の行動を洗う必要がある」
「えー、あたしとイオン様はダアトへ返してほしいんだけど」
「こちらの用が済めば帰してやる。今はタルタロスを動かす人間が欲しいだけだ」
「まあいいじゃないか、俺たちだってヴァンの目的を知っておいたほうがいいだろう」
「ええ、そうですわね」
「ニッドの言う通りです」
ニッドの言葉にナタリアとイオンが大きく頷き、アニスもしぶしぶ了承する。
「イオン様がそう言うなら協力しますけどぉ」
「私も調べたいことがありますからね。少しの間アッシュに協力するつもりです」
「…じゃあベルケンドへ」
ニッドは考え込んでいるガイのことが気になったが、タルタロスはベルケンドへと進路を向けた。
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