エピソード2 オアシスからグランコクマまで
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カイツール軍港行きの船に乗る。皆は船内でそれぞれの場所で過ごしている。
海を眺めながらニッドはノルンを整備する。
「カースロットが使える。やはりシンクは…」
『これで確定したわけだな』
コーラル城で見たシンクの仮面の下の素顔を思い出す。
「わからないことだらけだな…六神将がセフィロトを回っている理由、それからライガクイーンの件…」
『どちらも、不可解だ』
汽笛が鳴る、カイツール軍港に到着したらしい。
「くそ、すっきりしないな…っ」
拳を握りしめて小さく吐き捨て、船の降り場へ向かった。
カイツール軍港を出てデオ峠まで更に歩く。ようやくデオ峠に着いたところでルークが口を開いた。
「ちぇ、師匠には追いつけなさそうだな。砂漠で寄り道なんてしなけりゃよかった」
それを聞いたアニスの表情が強張り、彼を見た。否アニスだけではない。皆がルークを見ている。
「寄り道ってどういう意味…ですか?」
「寄り道は寄り道だろ。今はイオンが居なくても俺が居れば戦争は起きないんだし」
ルークの発言には皆が呆れた。アニスは呆れた目でルークを見て一蹴した。
「あんた、バカぁ?」
「ば、バカだと!?」
「ルーク。今のは私も思い上がった発言だと思うわ」
流石にニッドもノルンも言わずにはいらない。
「ルーク、何か勘違いしてないか?」
『この平和はナタリアのお父上とマルクトの皇帝が導師に敬意を払っているから成り立っているのだぞ』
「ノルンの言う通りです、イオンがいなければ調停役が存在しなくなりますわ」
「いえ、両国とも僕に敬意を払っている訳じゃない。“ユリアの残した預言”がほしいだけなんです。僕なんて必要ないんです」
イオンは目を伏せる。
「ユリアの…預言…」
この時代の人たちにとっては預言というのはそれほどまでに大事なのか、ニッドは思わず顔をしかめた。
「そんな考え方には賛成できないな、イオンには抑止力があるんだ。それがユリアの預言のお陰でもね」
「なるほどなるほど、皆さん若いですね。じゃ、行きましょう」
険悪に近い雰囲気だと言うのにジェイドはそう言うと先に峠道を歩いていく。
「この状況でよくあー言う台詞が出るよな。食えないおっさんだせ」
ガイはやれやれと言った感じでジェイドを見送った。
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山道をしばらく登るとイオンが疲れて崩れるように座り込んだ。ティアとアニスが慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?少し休みましょうか?」
「僕は…大丈夫です…」
そう答えるイオンだが、息は荒く肩で呼吸をしていて大丈夫には到底見えない。
「駄目ですよぅ、皆ちょっと休憩!」
アニスが声を上げる。ルークは振り返り、信じられないとでも言うように叫ぶ。
「休むぅ?何言ってんだよ!師匠が先に行ってんだぞ!」
ノルンの盛大なため息が聞こえ、ニッドも顔が引きつる。
「ルーク!よろしいではありませんか!」
「そうだぜ!キツい山道なんだから仕方ないだろ」
ナタリアにガイも同調する。
「親善大使は俺なんだぞ!俺が行くって言ったら行くんだよ!」
「あ、アンタねえ…!」
イオンを気遣うこともなく自分の意見を通そうとするルークに再び皆が呆れる。
ニッドはルークに近く。いつもの温厚な雰囲気はそこにはなくルークは少し後ろへ下がる。
「ルーク、親善大使は王様でも皇帝でもない。イオンも皆も君の家来ではないんだぞ」
「…っ…」
「では少し休憩しましょう。イオン様、よろしいですね?」
ジェイドはイオンを見て問う。ルークはまだ文句を言おうとしたがニッドの静かな圧力に負けた。
「ルーク、すみません。僕のせいで…」
「ちぇ…わかった。…少しだけだぞ」
「ありがとうございます」
イオンは礼を言うが、他の皆は何も言わない。開けた場所でイオンを休ませる。ルークは少しは離れた場所で1人拗ねている。ティアが話かけに行ったが呆れた様子で戻ってきた。#ニッ#ドも入れ違いでルークに声をかける。
「ルーク」
「な、何だよ」
「何をそんなに焦っている?」
ルークは慌てて振り返る。
「あ、焦ってなんかねえよ」
「ヴァン謡将を慕うことは否定も非難もしない、ルークの自由だ。けど、少しは自分で物事を考えたらどうだ」
「けっ…また説教かよ…」
「ルーク、君は世界で1人だけ、誰のものでもない君1人の心を持っているんだ。周りを見てその心でよく考えてみるんだ」
「…」
ルークは背を向け、返事もせず、無視を決め込んでいるようだ。
「俺はルーク、君という存在に賭けているんだ…だから信じさせてほしい」
ニッドはそれだけ言い残して皆のところへ戻っていった。
下りでもイオンのために休憩を挟む。
峠を降りた出口付近で銃声が響く。先を歩いていたルークの足元に銃弾が撃ち込まれる。
「止まれ!」
皆は声の方を見る、崖の上にリグレットが立っていた。リグレットは鋭い視線で一行を見渡し最後にティアを捉えた。
「ティア、何故そんな奴らといつまでも行動を共にしている」
「モース様のご命令です!教官こそ、どうしてイオン様をさらってセフィロトを回っているんですか!」
「人間の意志と自由を勝ち取るためだ」
ティアの問いにリグレットはそう答える。セフィロトと聞いてニッドも黙っていられず、前に出る。
「どういう意味だ!?」
「この世界は預言に支配されている。何をするのにも預言を詠み、それに従って生きるなどおかしいとは思わないか?」
逆にリグレットはそう聞いてくる。
「預言は人を支配するためにあるのではなく、人が正しい道を歩むための道具にしか過ぎません」
「導師、貴方はそうでも、この世界の多くの人々は預言に頼り支配されている。酷い者になれば夕食の献立すら預言に頼る始末だ。お前たちもそうだろう」
「そこまで酷くはないけど…預言に未来が詠まれているならその通りに生きたほうが…」
「誕生日に詠まれる預言はそれなりに参考になるしな」
「そうですわ。それに、生まれた時から預言を聞いていますのよ。だから…」
「…結局の所、預言に頼るのは楽な生き方なんですよ。もっともユリアの預言以外は曖昧で読み解くのが大変ですがね」
皆が預言にそこまで頼っていたことにニッドは驚き、手を緩める。
「死竜、貴方はどうだ。預言に支配されたこの世界をどう思っている?」
リグレットはニッドを視線に捉える。
「俺もイオンの言う通りだと思う。けど、人が預言に支配されるのは確かにおかしい…」
ニッドは静かに言葉を絞り出した。
「そういうことだ。この世界は狂っている、誰かが変えなくてはならない。ティア、私たちとともに来なさい!」
「私はまだ兄を疑っています。貴方は兄の忠実な片腕。兄への疑いが晴れるまで貴方の元には戻れません」
ティアはぴしゃりと言い返した。リグレットは譜銃を構える。
「では力づくでお前を止める!」
リグレットの銃弾が全員を襲う。ティアとジェイドは詠唱を始める、ほかの者で時間を稼ぐ。ニッドは銃弾をノルンで防ぎながらリグレットに迫る。
「…世界を変えるとは、お前たちは何を考えている!」
「死竜!我々の考えに賛同しないというのなら邪魔をするな!」
リグレットはニッドの刃を譜銃の柄で受け止めて押し返す。
「悪いがそれはできない相談だ!」
お互いに後退して距離を取る。
「エリアルレイザー!」
「裂空斬!」
隙を逃さずナタリアとガイの技が飛んでくる。
「…スプラッシュ!」
リグレットの避けた先にジェイドが譜術を仕掛ける。
「…くっ……エクレールラルム!」
「…タービュランス!」
リグレットの譜術を回避し、ニッドは相殺する。
「流影打!」
「ゼファードフェイト!」
「ツインパレット!」
アニスの技を寸前で交わし、リグレットは銃弾を打ち込んでくる。
「させるか!」
ノルンの刃で銃弾を弾く。
「レイジレーザー!」
「スプラストショット!」
リグレットの放つ銃弾とニッドの銃弾がぶつかり、爆発を起こす。煙に紛れてニッドはリグレットの間合いに入り、技を叩き込む。
「氷結斬!」
「死竜め…!…くっ、ここまでか」
譜銃の柄で技を受け流し、リグレットは崖に登る。
「ティア!その出来損ないから離れなさい!」
「!」
ニッドは一瞬ルークを見てすぐにリグレットに視線を戻した。
「(リグレットはルークがレプリカだと知っている…ということは…)」
リグレットの言葉にジェイドが声を上げた。
「…そうか。やはりお前たちか!禁忌の技術を復活させたのは!」
「なるほど、そういうことか」
ジェイドの言葉にニッドは理解する。
「ジェイド!いけません!知らなければいいことも世の中にはある!」
イオンが叫ぶ。それにニッドとジェイドは驚き彼を振り返る。
「イオン様…ご存知だったのですか!」
「イオン…」
「なんだよ!俺を置いてけぼりにして話を進めるな!俺に関係あることなんだろ!」
ルークが後ろの方で叫んでいる。だが、それに答えることはニッドたちにはできない。
「誰の発案だ。ディストか!?」
「フォミクリーとセフィロト、預言…一体何を考えているんだっ」
「知ってどうなる、賽は投げられたのだ!」
そう言い残し、閃光に紛れてリグレットは消える。ニッドは仕方なく刃を仕舞いノルンを背に担いだ。
「……くっ。冗談ではない」
「ジェイド…」
ニッドは心配そうにジェイドを見た。
「大佐、珍しく本気で怒ってますね…」
アニスは驚いて言った。ジェイドは槍をしまって振り向いた。
「失礼、取り乱しました。…もう大丈夫です」
皆は静かに歩き出す。ルークとミュウがいないことに気づいたニッドは後ろを振り返る。そこには1人残されたルークは苛立って怒鳴る。
「ふざけんな!俺だけ置いてけぼりにしやがって。何がなんだかわかんねーじゃんか!」
「ご主人様、怒っちゃ駄目ですの…」
「どいつもこいつも俺を蔑ろにして!俺は親善大使なんだぞ!」
「ご主人様…」
ミュウの大きな耳がしゅんと垂れている。
「師匠だけだ…俺のことをわかってくれるのは…師匠だけだ…」
元気のないルークの元にニッドが近づく。
「ルーク!行くぞ」
「お、おい…」
相手にされないと思っていたルークはニッドが戻ってきたことに驚いたが、どうしても素直になれず、振り解こうとする。
「離せって!」
「いつまで拗ねてるつもりだ。ルークはそんな人間と仲良くしたいと思うか」
「ちっ、また説教ばっか…」
悪態はついたが、ルークは振り解こうとするのをやめた。彼の腕を引っ張ったままニッドは皆の後を追った。
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