エピソード2 オアシスからグランコクマまで
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15話 不安と焦燥の峠越え
砂漠を歩いてケセドニアの街へようやく着いた時、ルークの頭痛が再び始まった。
「また…か…!」
「ルーク!またか!頻繁になってきたな…!」
ガイが駆け寄ってくる。
「大丈夫、治ってきた…」
「マルクト領事館へ行く前に宿で休んだ方がいい」
「そうですよ、イオン様をどうするのかも考えなきゃいけないし…」
「わかった…」
ニッドの提案にアニスが同調し、ルークも頷いた。
宿の目の前に来るとルークを頭痛と幻聴が襲った。
「う…」
『オラ!どうした、宿はそっちじゃないぜ!』
「うるさ…」
『いいザマだな、お前と俺は繋がってるんだ。お前は俺なんだよ!』
ルークの様子が明らかにおかしい、何かに操られているような動きをしている。
「ご主人様!大丈夫ですの!?」
『ミュウ!下がっていなさい!』
駆け寄ろうとしたミュウをノルンは声で静止する。
「ルーク!しっかりして!」
ルークの体はティアに向き直り、剣を抜いた。
「黙れ!俺を操るな…!」
ルークは抵抗しているが、剣が下がることはない。
「ルーク!どうしたの!」
「ち…ちが…う!体が勝手に…っ」
「ティア!下がって!」
剣を向けているルークに向かってニッドは歩いていく。
「准将!」
「ここは彼に任せてください」
ジェイドが静かに止める。
「お、おい…」
「ルーク、落ち着いて。深呼吸しなさい」
ルークは必死に冷静になろうとしているが剣は震えている。
「……」
彼の手に自分の手を置いて小さな声で譜歌を口ずさむ。
「…」
ルークは眠ってしまい、倒れそうな彼をニッドが支える。それを見たガイが走ってくる。
「ルーク!」
「気を失っただけだ」
「すまないな、ニッド」
気絶したルークをガイに渡して皆と宿に入った。一室を取ってベッドにルークを寝かせ、イオンは隣のベッドに座って休んでいる。
「ルークの奴。どうなっちまったんだ?」
ガイがルークを見て呟いた。
「健康に難ありかぁ…介護するならぽっくり逝きそうなお金持ちの爺さんの方が…」
「何か言いまして?アニス」
アニスの独り言はしっかりナタリアに聞こえていたのか彼女はじろりとアニスを見た。
「えへ♡なんでもない♡」
アニスは笑顔で誤魔化す。
「…大佐、ルークのこと思い当たる節があるんじゃないですか」
「…そうですねぇ」
「アッシュというあのルークにそっくりの男に関係あるのでは?」
「……今は言及を避けましょう」
「ジェイド!もったいぶるな!」
業を煮やしたガイがそう叫ぶ。
「もったいぶってなどいませんよ、ルークのことはルークが一番に知るべきだと言っているだけです」
ニッドはルークを見やる。
レプリカ、同位体、自分がそうだと知った時、彼はどう受け止め、何を思うのだろう…。
ルークのそばでずっと見守っていたミュウがこちらを向いた。
「ご主人様が目を覚ましたですの」
ミュウはぴょんっと下へ降りる。するとルークがゆっくりと起き上がる。
「…俺がどうしたって?」
一部聞こえていたのかルークは起き上がってそう聞いてくる。
「いえ、何でもありません。どうです?まだ誰かに操られている感じはありますか?」
ジェイドはルークの疑問をさらりと流して話題を変える。
「いや…今は別に…」
「コーラル城でディストに何かされたんじゃないか?」
ニッドの言葉にジェイドは頷いた。
「ええ、おそらくそうでしょう。あの馬鹿者を捕まえたら術を解かせます。それまで辛抱して下さい」
「頼むぜ、全く…。ところでイオンのことはどうするんだ?」
ルークは頭を掻いて答え、イオンを振り返る。
「とりあえず六神将の目的がわからない以上、彼らにイオン様を奪われるのは避けたいわ」
「ティアに同感だ、イオンの体調のこともある。ダアト式封咒を解かせるのはなるべく回避したい」
ニッドが同調して言った。イオンは皆を見渡して静かに口を開いた。
「もしご迷惑でなければ、僕も連れて行ってもらえませんか?」
「イオンもアクゼリュスに…?」
イオンが一緒に来てくれるのは嬉しい。だが、あの街は危険なのだ。そう言いたい、だが伝えることはできない。ニッドはそれ以上の言葉をぐっと飲み込んだ。
「イオン様、モース様が怒りますよぅ」
アニスが口を尖らせる、だがイオンは柔らかくそしてどこか力強い口調で言った。
「僕はピオニー陛下から親書を託されました。アクゼリュスの救出についてもお伝えしたいと思います」
ニッドも含めて皆は賛成し兼ねているのか、誰も何も言わなかった。そのうちにジェイドが了承した。
「よろしいのではないですか、アクゼリュスでの活動が終わりましたら、私とニッドと首都へ向かいましょう」
彼はそこまで言うと思い出したかのようにルークを振り返る。
「…ああっと、決めるのはルークでしたね」
「勝手にしろ」
ルークはそう言い捨てる。
「またしばらくよろしくお願いします」
イオンは軽く一礼した。
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翌日、一行はマルクト領事館を訪れる。中では領事が待ち受けていた。
「大佐、准将。ルーク様も。お待ちしておりました。グランツ謡将より、伝書鳩が届いております。グランツ謡将は先遣隊とともにアクゼリュスに向かわれるそうです」
「えー!師匠早すだよー!」
「流石、海路のほうが早かったな」
「ニッド、ええ、そうですね。僕たちも急がねば!」
その後ろでガイが突然片膝をつく。
「ガイ!?」
ルークが素早く動きガイに駆け寄っていくが、振り払われてしまい彼はその場に尻餅をつく。
「いてて…!おい、お前もアッシュに操らているんじゃ…」
「いや…別に幻聴は聞こえねえけど…」
ジェイドはガイに近づく。
「おや、傷ができていますね。ニッド.、これはもしや…」
彼に呼ばれニッドもその傷を確認する。
「あぁ、カースロットだな…」
「カースロット?」
何だそれと小首を傾げるルークにイオンが答える。
「人間のフォンスロットに施すダアト式封咒の一つです。脳細胞から情報を読み取り、そこに刻まれた記憶を利用して人を操るんですが…」
「術者が近くに居るんだ、早く街を離れたほうがいい。ガイ、大丈夫か」
ニッドはガイの顔を覗き込んで聞いた。
「……あぁ、俺は平気だ。早く船に乗ってグランツ謡に追いつこうぜ」
ガイは何とか立ち上がる。
「でも、ヤバくないのか?」
「カースロットは術者との距離が近いほど威力が変わります。ニッドの言う通り、早くケセドニアを離れた方がいいでしょう」
「それではこちらからどうぞ」
マルクト領事が案内する。イオンは先に部屋を出るニッドの背を見つめる。
「何故カースロットのことを…もしかして彼が…?」
イオンの呟きは届くことなく虚しく消えた。
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