エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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廃工場の更に奥へやって来た一行。不意に異様な臭いが漂い始め、背中のノルンが警戒している気配がする。
「なんか臭うな」
ルークは立ち止まり鼻をつまんでそう言った。他の皆もあまりの臭いに顔をしかめる。
「油臭いよぅ!」
「音機関用の油の臭いだ」
ニッドも手で口を覆う。
「この工場が機能していた時の名残りか、それにしちゃ…」
ガイは薄暗い中、辺りを見渡す。
「待って!何か…いる…!」
ティアが警戒している。
「まあ、何も聞こえませんわよ」
ナタリアは足を止めてこちらを振り返る。
「いえ、いますね。ノルン、魔物か?」
『ああ、音が近い。皆構えなさい!』
ノルンの声で全員が構える。ニッドはノルンを掲げる。この薄暗い状況下では人の視覚では見落としかねないのだ。
『ナタリア!上!』
ニッドはナタリアの頭上から降ってきた魔物を撃ち軌道をずらす。その間にティアがナタリアをその場から移動させる。
魔物はすぐに態勢を整える。
「くそ、通常弾じゃ効かない」
『あの纏っているぬるぬるしたものを取り除くしかない』
魔物は全員に襲いかかる。
「う、うわー!きたー!」
アニスはトクナガで応戦する。
「ニッド!まだ譜術は使えませんか?」
ジェイドに聞かれ、ニッドは悔しそうに歯ぎしりする。
「いや…封印術はそこまで解除出来てない。けど、ぬるぬるの膜に隙間があれば銃弾が届くはずなんだ!」
「では、時間稼ぎをお願いしますよ」
「わかった!」
彼が詠唱する間、ニッドはルークたちと時間を稼ぐ。刃を出して魔物に斬りかかる。
「双牙斬!」
「弧月閃!」
「夢幻氷帝!」
ルークとガイ、ニッドの技が連続で繰り出され、魔物が怯む。その隙にナタリアのピアシスライン、アニスの鷹爪襲撃が炸裂する。
「…ロックブレイク!」
ジェイドの譜術で纏っていたぬるぬるの膜に一瞬だけ隙間ができた。
「ノルン!」
刃を仕舞うと銃口が大きく開く。ニッドは狙いを定める。
『「奥義!シャッタークラスター!!」』
その隙間に向けて放たれた銃弾が破裂し、魔物は粉々に砕けて動かなかった。
「な、なんだったんだあの魔物…」
ルークが残骸を見て呟いた。
「このあたりじゃ見かない魔物だな。中身は蜘蛛みたいだったぜ?」
「廃工場ですもの。蜘蛛ぐらいいてもおかしくないけれど…」
ニッドはノルンによく見えるように残骸を譜石に映す。
『この魔物…油を食料にしていたようだな。その内に音素暴走を起こしたか…』
「ええ、おそらくそうでしょう」
同じく残骸を見ていたジェイドが眼鏡を上げながら言った。
「まぁ…なんとか倒せて良かった」
ニッドは安堵する。
「あの…ティア…」
後ろでナタリアがティアに声をかける。
「何?」
「ありがとう、助かりましたわ。…貴方にも皆にも迷惑をかけてしまいましたわね」
ティアは少し驚きながらも微笑んだ。
「!いいのよ」
「よくねえよ!足引っ張んなよ」
ルークの嫌味でティアの笑みが消える。
「ルーク、そんなこと言うんじゃない」
ニッドが注意する、ルークは相変わらず煩わしいという顔をしている。
『やれやれ』
ノルンが嘆息する。
「排水施設ってのはここにはなさそうだな?」
あたりを見回してニッドが言った。
「下の方かな……ん?あれ非常口か?」
ガイは視線の先に非常口を見つける。
「調べてみましょう」
見つけた非常口に近く。梯子が折りたたまれている。
「よし、あの梯子を降ろせば外に出られるな」
「はいですの、ご主人様。ここを抜ければ目指せケセドニアですの!」
ミュウがぴょんぴょん跳ねる、それにルークは苛立ちミュウを踏みつける。
「ミュウを虐めるな」
踏みつけられているミュウを助けたニッドは、彼をティアに預けて梯子を降ろす。
ティアはかわいいミュウを目の前に顔がほころびそうになるのを抑えつつ言った。
「ケ、ケセドニアへは砂漠越えが必要よ。途中にオアシスがあるはずだから、そこで休憩しましょう」
「ガイ。貴方が先に降りなさい。私が足を滑らせたら貴方が助けるのよ」
ナタリアに言われガイはまた怯えている。
「…俺がそんなことできないこと知ってて言ってな」
「だって早くそれを克服していただかないと、ルークと結婚した時に困りますもの」
「ルーク様!」
アニスがルークに抱きつく。
「ルーク様はもっとず〜っと若くてぴちぴちな子がいいですよね♡婚約なんていつでも破棄できますし」
アニスとナタリアはちらっとお互いを見る。
「…なんですの」
「何よぅ…」
廃工場は一気に修羅場と化す。
「ルーク、貴方って最低だわ」
ティアが呆れたようにそう言った。
「何なんだよ!俺のせいかよ!」
納得いかないとでも言うようにルークが声を荒げる。
「やー、皆さん仲が良さそうで何よりですね、ニッド?」
ジェイドが的外れなことを言い、ニッドに振ってくる。
「あー…そうだねぇ」
何で自分に振るんだと思いつつ、適当に頷くニッド。
「というか、何でもいいから早く出ようぜ」
梯子を示してニッドがため息混じりに言った。ルークが先に梯子を登る。ニッドは足を滑らせたナタリアを支えるなんてとてもできないとガイに頼まれ、ルークの次に出る。
外は雨が降っている。ルークが何かを見て固まっていて、ニッドは瞬時にルークの視線の先を辿る。
そこには大きな陸艦、そして見覚えのある赤い髪、更に神託の盾兵が数名。その中にイオンの姿があった。
ルークは剣を抜いて走る。
「待て!ルーク!」
制止も聞かずにルークは斬りかかる。
「イオンを返せっ!」
「お前かっ…!」
ルークの剣を受け止めたのは彼と同じ赤い髪の《鮮血のアッシュ》だ。
他の仲間は何事かと驚いて駆け寄ってきたが、誰も何も言えない。
アッシュの髪は雨のせいで下りている、そのため対峙する2人は鏡のよう。
その様をジェイドが真剣な目で見ている。ニッドもその場を動けなかった。
アッシュはルークの剣を弾いて距離を取る。
「アッシュ!今はイオンが優先だ!」
《烈風のシンク》が現れる。
「わかっている!」
シンクにぶっきらぼうに返事をし、アッシュは剣を収める。
「いいご身分だな、女をちゃらちゃら連れて」
ルークに吐き捨てるように言ってアッシュはイオンを連れてタルタロスへ走っていく。その後ろに譜陣が出現する。
「ま、待て!」
ルークは気づかずに後を追おうとする。その腕をニッドが掴んで止めると、同時に譜陣が発動して視界を遮った。
バランスを崩したルークはしゃがみこんだままだ。
「…あいつ……俺と同じ顔…」
「…」
混乱して呟くルークをニッドは黙って見つめた。
「どういうこと…」
ナタリアも同じく混乱しているのか状況を聞こうとしてくる。
「ところで…イオン様が連れて行かれましたが」
ジェイドがそう言うとアニスがはっとする。
「…あああ!しまった!」
「イオンも連れて行かれたし、六神将に会った時点で囮作戦は失敗だな」
ニッドは肩を竦める。
「バチカルに戻って船を使った方がいいんじゃないか?」
ガイがそう提案するが、ナタリアは首を横に振る。
「無駄ですわ。お父様はまだマルクトを信じていませんもの。囮の船を出港させた後、海からの侵略に備えて港を封鎖したはずです」
「陸路を行ってイオン様を捜しましょう。仮にイオン様が命を落とせば今回の和平に影響が出る可能性もゼロではないわ」
「そうですよ!イオン様を捜してください!ついでてもいいですから!」
『イオンはついで、なのか…』
ノルンはニッドの背中で小さく呟く。
「決めて下さいルーク。イオン様を捜しながら陸路を行くか、或いはナタリアを陛下に引き渡して港の封鎖を解いてもらうというのも…」
ジェイドの言葉にナタリアは目を丸くしてルークの腕を引っ張る。
「そんなの駄目ですわ!ルーク!わかっていますわね!」
ルークは心底面倒くさそうに頭を抱える。
「あー!うるさい!大体なんで俺が決めるんだよ」
「さっき、親善大使は俺だって言ってただろ」
ニッドが腰に手を当ててルークに言う。言われたルークはニッドを睨んでいる。
「あんたも、イヤミな奴だな。…陸路!ナタリアを連れて行かないと色々やばいからな」
「イオン様、どこへ連れて行かれたんだろう…」
アニスがぽつりと呟く。
「陸艦の立ち去った方角を見ると東ですね」
「東の方角はちょうどオアシスがあるな…」
ジェイドの後にニッドが続ける。
アニスはルークのそばに寄ってきて彼の腕を引っ張る。
「私たちもオアシスへ寄る予定でしたよね!ルーク様、追いかけてくれますよね!」
「ああ…」
ルークの返事は元気がない。皆は静かにオアシスへ向けて歩き出す。
「謁見の間でティアが詠んだ第六譜石…あれはこう続くんだ。…ND2018 ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へ向かう」
『そこで若者は力を災いとしキムラスカの武器となって…か』
ニッドは不安を抱えたまま、皆を追った。
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