エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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13話 不安な旅へ
翌朝早くニッドは目が覚めた。まだ時間もあるので散歩をしようと通路を歩くとイオンの部屋の扉が少し開いていた。
「…イオン?いるか?入るぞ」
扉を開けて中を覗くがイオンは居ない。不安になって足音を立てないように走って辺りを探す。角に差し掛かると何かとぶつかった。
「ぶわっ!いったーい!」
アニスが尻餅をつく。
「アニスか!ごめん!」
彼女を軽々と持ち上げて立たせる。
「あー、准将!聞いてくださいよぉ、イオン様がいなくなったんです!」
「イオンが?さっき部屋が開いていたけど…」
「ただ散歩して、迷子になってるだけだと思ってこのあたりを探してたんですけど、いないみたいですぅ…」
「街に出て探してみよう」
「はい」
アニスが頷いた。
街に出てしばらくアニスと2人で探し回ってみたがイオンは見つからない。
「いないな…」
「イオン様どこ行っちゃったんだろう…」
「失礼します、バーゼライド准将ですね?」
キムラスカ兵が声をかけてきた。
「そうですけど?」
ニッドが首を傾げると、キムラスカ兵は敬礼した。
「カーティス大佐より、すぐに城へ戻るようにとのことです」
「謁見の時間か…イオンがまだ見つからないのに…」
「准将は城へ行ってください、私もうちょっと探してみます」
アニスが言った。
「そうか、ごめんなアニス…一緒に探してやれなくて。ジェイドには伝えておくから」
「お願いしますね!」
アニスと分かれてニッドはキムラスカ兵と一緒に城へ戻った。
✳︎✳︎✳︎✳︎
謁見の間に続く階段の前でジェイドが待っていた。
「すみません、遅くなりました」
「街まで散歩ですか」
「まあね…ジェイド、ちょっと……………イオンがいなくなった」
曖昧に返事をした後、周りの兵士に聞こえないように小声で重要な要件を伝える。
「イオン様が?」
「さっきまで手分けして探していたけど、見つからなかった。アニスがもう少し探してみるって」
「そうですか…それで街に出ていたのですね。謁見が終わったらアニスと合流しましょう」
「わかった」
ニッドは頷き、階段を上り2人で謁見の間に入った。玉座にはインゴベルト陛下、そしてナタリア、更に内務大臣アルバイン、ファブレ公爵も居た。
インゴベルト陛下から話を聞いた後、少し時間を置いてルークとティア、モースが一緒に謁見の間に入ってきた。
「おお、待っていたぞ。ルーク」
ルークを見たインゴベルト陛下が声を上げた。
「昨夜緊急会議が招集されてマルクト帝国と和平条約を締結することで合意しました」
内務大臣が口を開き、そう言った。
国王が続ける。
「その第一歩として、親書には平和条約締結とともに救援要請があったのだ」
「救援?」
首を傾げるルークにアルバインが説明する。
「現在マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市が瘴気なる大地の毒素で壊滅の危機に陥っているとのことです」
「マルクト側で住民を救出したくても、アクゼリュスへ繋がる街道は瘴気で完全にやられているそうよ」
ナタリアがそう言った。
「(アクゼリュスか…確か姉さんの預言に詠まれていたはず…預言を覆すなら、崩落を防ぐかそれが無理なら……せめて住民を全員救助しなくては…)」
ニッドは静かに決意する。
「アクゼリュスは元々我が国の領土、当然カイツール側からも街道は繋がっている。そこで我が国に住民の保護を要請してきたのだ」
「そりゃあっちの人間を助ければ和平の印になるだろうよ。けど、俺になんの関係があるんだよ?」
「陛下はありがたくもお前をキムラスカ・ランバルディア王国の親善大使に任命されたのだ」
ファブレ公爵がそう言うとルークは驚き、首を振った。
「俺ぇ!?やだよ!もう戦ったりするのは!」
「ナタリアからヴァンの話は聞いた」
インゴベルト陛下の口から師の名前が出てくるとルークの表情が変わる。
「!」
「ヴァンが犯人であるかどうか、我々も計りかねている。そこでだ、お前が親善大使としてアクゼリュスへ行ってくれればヴァンを解放し協力させよう」
「ヴァン師匠は捕まってるのか!?」
「城の地下に捕らえられているわ」
ナタリアがそう答える。
「わかった…ヴァン師匠を解放してくれるなら…」
「ヴァン謡将が関わると聞き分けがいいですね」
そう言ったジェイドにルークは「うるせぇ」と返した。
「しかしよく決心してくれた。実はな、この役目お前でなればならない意味があるのだ」
王がそう言うと、ファブレ公爵が譜石を取り出した。
「!(もしかして第六譜石か…!)」
ニッドは思わず出てしまいそうになった声を抑える。
「この譜石をごらん。これは我が国の領土に降った第六譜石の一部だ」
「ティアよ。この譜石の下の方に記された預言を詠んでみなさい」
王は静かに言った。
「…はい」
譜石を受け取りティアは詠み始める。
「ND2000 ローレライの力を継ぐ者キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう…」
預言を詠み上げるティアは…まさにユリアそのものだ。
「ND2018 ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へ向かう。そこで…この先は欠けています」
「結構。つまりルークお前は選ばれたのだ」
ルークは連絡船でヴァンに言われたことを思い出す。
「今までその力を守るため、やむなく軟禁状態を強いてきたが、今こそ英雄になる時なのだ」
「英雄…」
「英雄ねぇ…」
ファブレ公爵の言葉にニッドとジェイドは同時に呟く。
「お2人とも、何か?」
アルバインがこちらを見てきたのでニッドは咳払いする。
「…いえ。それでは同行者は私とバーゼライド准将、他は誰になりましょう?」
ジェイドが上手く話を切り出す。
「ローレライ教団としてはティアとヴァンを同行させたいと存じます」
モースが言った。
「ルーク、お前は誰を連れて行きたい?おおそうだ、ガイを世話係に連れて行くといい」
ファブレ公爵がそう言うが、ルークは「師匠を解放してくれるならなんでもいい」とそっけない返事をする。
ナタリア姫は自身も同行したいと申し出たが許可されなかった。
「伯父上、俺、師匠に会ってきてもいいですか?」
「好きにしなさい。他の同行者は城の前に待たせておこう」
ルークは先に出て行き、ニッドとジェイドもインゴベルト国王に一礼して謁見の間を出る。
城の前でティア、ガイとともに待っていると、上機嫌のルークとヴァンが城から出てきた。
「兄さん…」
ティアは複雑そうな表情をしている。
「話は聞いた。いつ出発だ?」
ヴァンが聞く。
「そのことでジェイドとニッドから提案があるそうだ」
ガイが答え、ジェイドが続ける。
「ヴァン謡将にお話するのは気が引けますが…まあいいでしょう。中央大海をオラクルが監視しているようです。大詠師派の妨害工作でしょう」
「大佐…」
「事実です。まあ大詠師派かどうかは未確認ですが。とにかく海は危険です」
「じゃあどうすんだよ?」
ルークはニッドを振り返る。ニッドが続きを説明する。
「海へ囮の船を出航させて、我々は陸路でケセドニアへ。ケセドニアから先のローテルロー海はマルクトの制圧下だから、船でカイツールへ行くのは難しくないはずです」
「なるほど、ではこうしよう。私が囮の船に乗る」
「えー!」
師が一緒に行かないことにルークは驚く。
「私がアクゼリュス救援隊に同行することはすでに発表されているのだろう?ならば、私の乗船で信憑性も増す」
「なるほど、それならオラクルは尚更船の方を救援隊の本体だと思うかもしれない…」
ヴァンの提案にニッドは腕を組んで言うと、彼はは頷いた。
「よろしいでしょう。どのみち貴方を信じる他にありません」
ジェイドも了承したところでヴァンは港へと歩き出すが、ルークはまだ納得いかないようだ。
「だけど…」
「ルーク、私が信じられないか?」
「…わかったよ」
「では私は港へ行く。ティア、ルークを頼むぞ」
ティアにそう言ってヴァンはその場を離れた。
「まあ、少人数だし目立たなくて良かったよ」
ニッドが肩をすくめる。
「ええ、これ以上同行者を増やさないようにしましょう。話を通しておきますので街の出口で待っていてください、ニッドはルークたちと居てください」
「わかった」
ジェイドが歩いていく。
「…で残ったのが冷血女と女嫌いと説教野郎か」
「誰が説教野郎だ」
「誤解を招く言い方をするな!女性は好きだ!」
「ガイ…それを大声で言うと違う誤解を招くと思うぞ」
「そうね、女が好きだと声高に叫ぶのはどうかしら」
「そうじゃない!そうじゃなくて!」
「行きましょう」
ティアが歩き出し、ルークは知らん顔して後を追う。流石のニッドも特にガイを助けることもなくガイの「人の話を聞けー!」という声だけが響いた。
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