エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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誰もいないことを確認してノルンを取り出した。
『私をダシに使ったな?』
「ごめん!ほんとごめん」
『まあいいさ。…ようやく外の景色が見れる…』
ノルンは深く呼吸するように言った。
「バチカルも中々に綺麗だな…」
『あぁ…本当に美しいな…』
2人で景色を楽しんでいるところへ、誰かが声をかけてきた。
「おや……おぉ、貴方は!」
先ほど謁見の間にいた大詠師モースだ。
ニッドはノルンを再び隠し、モースに向き直った。
「大詠師殿、こんなとこで会うとはな」
「バチカルのオラクル支部を訪問してきたのですよ。それにしても貴方のようなお方が何故あのような者たちと行動を共にしているのですか。我々ともに教団へ参りましょうぞ」
「…それはできない」
ニッドが静かに言った。
「始祖ユリアの実弟ならば預言は守られるべきものだとおわかりでしょう」
「…預言は…」
気配がしたのでニッドは口を噤んだ。
「お待ちしておりますぞ」
モースはすれ違い様にそう言い残して歩き去っていった。
ニッドは遠くを睨むように見つめた。
「あれ、准将ぅ〜ここに居たんですか?」
アニスが声をかけてきた。
「どうしたんです?怖い顔してますよ」
イオンが顔を覗き込んできた。
「あ…あぁ、なんでもない」
そうは言ったが黙ってこちらを見ているジェイドの視線が痛い。
「みんなそろってどうしたんだ?」
全員を見渡してニッドは首を傾げた。
「イオンたちが街を見てみたいって言うから案内するんだ」
ルークが答えた。
「日が沈むまでには帰って来いって」
ガイは肩をすくめた。
「これから行くところなんですよ、准将も行きませんか?」
ティアが言った。
「そうなのか。俺も興味があるな、ルークが案内してくれるのか、楽しみだ。行こうぜ」
「はい!」
「行きましょ行きましょ!」
ニッドが軽快に歩き出すとイオンとアニスも続いた。
昇降機で下に降りて街に入る。中央広場に行くとケセドニアで遭遇した漆黒の翼と神託の盾兵が話している姿が目に入った。
「なるほど。そいつはあたしらの得意分野だ」
「報酬ははずんでもらうゲスよ」
「しかしこいつは一大仕事になりますねノワール様!」
浮き足立っている漆黒の翼3人組にニッドが近く。
「今度は何を盗むんだ?漆黒の翼さん?」
「またスリでもしようってか?」
ルークが白い目で三人を見る。
「!…で、では頼むぞ!導師イオン、失礼します」
神託の盾兵は慌ててその場を去った。
ノワールの視線がイオンを捉える。
「へえ〜そっちのおぼっちゃまがイオン様かい」
アニスはイオンの前に守るように立つ。
「何ですか、おばさん!」
「つるぺたのおちびさんは黙っといで。楽しみにしといで。坊やたち。行くよ」
ノワールたちは人混みに消えた。
「…妙なことを企んでいそうですね」
3人が消えた方を見ながらジェイドが言った。
「イオン様を気にしていたみたい…」
ティアも不安そうに呟く。
「そうみたいだったな。イオン、気をつけるんだぞ」
「はい、わかりました」
ニッドにイオンは頷く。
市場を見に行くのに広場を横切ろうとしたところガイが女性たちに声をかけられる。
「あ、ガイよ!」
「ガイ〜元気〜?」
「う、うわっ!君たちか…!」
ガイは一気に囲まれてしまう。
「もう君たちって言い方がかわいい〜」
「や、やめてぇ…」
ガイは逃げようとしたが逆にだんだん追い詰められていく。
「やー、幸せそうですねぇ」
ジェイドはそう言って肩をすくめる。
「おい!ジェイドの旦那!助けてくれてもいいだろ!ルークでも…!」
「うへへ、お幸せに」
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死んでしまえと言いますし」
ルークとジェイドは助ける気はさらさらないようだ。
『いや、かわいそうだろう、あれ』
ノルンはため息をつく。ガイは見つけた隙間からニッドの後ろに隠れた。
「そのあたりにしてあげてくれないか?」
「そうよ、困ってるわ、彼」
見兼ねたニッドとティアが助けに入る。
「そこがかわいいのに〜」
「またね、ガイ」
「今度はそっちの素敵なお兄さんたちも紹介してね!」
女性たちは手を振って歩いていった。
「ティア、ニッド。助かったよ」
「大丈夫?」
ティアがガイに近く。
「あ、ティア。それ以上は…」
「ひゃっ!?」
「お、おぉ…」
ガイに引っ張られたニッドはバランスを崩しかけた。
「あ、ごめんなさい」
ティアは下がる。
「いやー、ニッドはガイのいい隠れ家ですねぇ」
「ジェイド、助けてやれよ…」
「ニッド!本当にごめんな!」
「大丈夫、大丈夫だから」
ガイが何回も謝ってくるのをニッドが宥める。
「あ、あれは市場ですね。行ってみてもいいでしょうか?」
イオンが市場を示して聞いてくる。
「まだ少し時間もあるしな」
ガイが頷く。
「おう!行こうぜ、ルーク!案内頼むな〜」
ニッドはガイと楽しげに歩いていく。
「だから俺もほとんど初めてなんだってば…」
そんなことを呟きながらルークも皆と追いかけた。
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バチカルの街を散々楽しんだ一行は日が暮れて来たので戻ることになった。ルークと屋敷で別れ、ニッドたちは城に入る。ティアとイオン、アニスとも別れそれぞれ案内された部屋に入っていく。誰もいないのを確認して2人だけになると、小声でジェイドが切り出した。
「モースと何を話していたんです?」
「う…バレていたか…」
『隠すほどでもないがな。相変わらずの教団へのお誘いの話さ』
「困ったなぁ…」
ニッド.がため息をついた。
「そうでしたか。これは隠し通せるか怪しくなってきましたね」
「秘預言を抑えられれば良かったのに」
「それは難しいでしょう。秘預言ともなればモースが教団の最高機密にしているかもしれません…」
「あり得る…。念のために陛下に報告しておくべきか」
「それがよいでしょう」
ジェイドに頷いて宛てがわれた部屋に入りベッドにダイブしてそのまま眠りについた。
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