エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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12話 胸騒ぎ
ファブレ家の屋敷に入ると、公爵と会い挨拶を交わした。少しの会話のあとファブレ公爵は屋敷を出て行った。
一息つけるそう思った時に、応接間の扉が大きく開かれ、青いドレスをきた気品のある少女が入ってきた。
「ルーク!」
呼ばれたルークは振り返ると、げっと声を漏らした。
「まあ!何ですの?その態度は!私がどれだけ心配したか!」
腰に手を当てて睨むようにルークを見ている。
「いやまあ、ナタリア様。ルークは照れているんですよ」
ガイがそう言うとナタリアと呼ばれた少女は一歩踏み出す。
「ガイ!貴方も貴方ですわ!ルークを探しにいく前に私のところへ寄るように申し伝えたてあったでしょう?どうして黙って行ったです?!」
ガイは近くにいたニッドの背中に隠れる。
「お、俺みたいな使用人が城に行けるわけないでしょう!」
ナタリアは更に前に出、ガイは小さくなる。
「何故逃げるのです!」
「ご存知でしょう!」
「わたくしとルークが結婚したらおまえはわたくしの使用人になるのですよ!少しは慣れなさい」
「無理です!」
ナタリアは大きくため息をつく。
「ほんとにおかしな人…こんなに情けないのになんでメイドたちはガイがお気に入りなのかしら…」
アニスは「ルーク様と結婚…」と呟いて震えている。
「あの…俺は壁じゃないんですが…」
流石にニッドも痺れを切らして口を開いた。
「あ、これは失礼いたしました。お父様からお話は聞いております。わたくしはナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申します。お見知りおきを」
優雅にそして丁寧にナタリアは挨拶をした。
ガイを隠したままニッドもお辞儀をする。
「それにしてもヴァン謡将も大変ですわね」
声のトーンを落としてナタリアは呟いた。ナタリアが離れたのでガイもニッドに礼を言って後ろから出てくる。
「師匠?師匠がどうかしたのか?」
ヴァン謡将と聞いたルークが食いつく。
「あら?お父様から聞いていらっしゃらないの?貴方の今回の出奔はヴァン謡将が仕組んだものと疑われているの」
「公爵もティアとヴァン謡将が共謀だと思っていそうだな…」
ニッドも頰に手を当てて考える、先ほど玄関でティアに向けた視線ときつい言葉を思い出す。
「さっき旦那様の様子がおかしかったのもそれが原因かもな」
ガイも腕を組んで言った。
「それで私と共謀だと…」
「おい!師匠はどうなっちまうんだよ!?」
ルークは不安と苛立ちから叫んでしまう。
「姫の話が本当なら、バチカルに到着次第捕らえられ、最悪…処刑ということもありえるのではありませんか?」
ジェイドの言葉がルークの不安を更に掻き立てる。
「処刑!?」
「はうあ!イオン様!総長が大変ですよ!」
「そうですね。至急、ダアトから抗議しましょう」
アニスが仰け反りつつ、そう言うとイオンは頷く。
「ナタリア!師匠は関係ないんだ!伯父上に取り成してくれよ!」
「わ、わかりましたわ…」
彼女は目を瞬きながら、僅かに頰を赤らめる。
「ルークの頼みですもの。その代わり…あの約束、早く思い出してくださいましね」
ナタリアはうっとりとしているが、ルークは一歩下がる。
「ガ、ガキの頃のプロポーズの言葉なんて覚えてねーっつーの」
「記憶障害のことはわかってますわ。でも、最初に思い出す記憶があの約束だと…とても運命的でしょう?」
ルークはナタリアをくるっと回して扉のほうへ押す。
「い、いいからとっとと帰って、伯父上に師匠の取り成しして来いよ!」
「もう!意地悪ですわね。わかりましたわ」
ナタリアは御機嫌ようと言って優雅に部屋を出て行った。
「おー青い青い」
ニッドが冷やかす。
「あんた、そういうとこあのおっさんに似てるっての」
ルークに軽く睨まれたニッドは明後日の方を見る。
「ナタリア様って綺麗な人…可愛いドレスも似合うし…」
ティアがぼそりと呟く。
「そうかあ?ぎゃあぎゃあうるせーだけだよ」
ルークは盛大にため息をついた。
「それに。ティアだって綺麗じゃないか」
さらっとガイが言うと思わずニッドが食いつく。
「そうだよ!ティア、自信持って」
「あ、ありがとう…」
ティアは驚いたように目を瞬き、照れている。
「おまえさぁ、さらっとそう言うから女に惚れられるんだよ」
「思ったことを言っただけなんだがなぁ。ニッドもそうなのか?」
ガイに話を振られニッドはドキッとする。
言ってしまってからやばいと気づいたニッド。
「ま、まあ、そんなとこだ」
口から心臓が飛び出そうになるのを抑えながら答える。ジェイドの視線がぐさくさ刺さってくるのを感じる。
「俺ちょっと先に出るよ、そろそろノルンを構ってやらないと怒りそうだから」
半分苦し紛れの言い訳をして、ニッドはルークの屋敷を出た。
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