エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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ニッドは走って出航するギリギリで船に乗った。
「大丈夫だったか?」
船の入り口で待っていてくれていたガイが聞いた。
「おう。シンクは巻いてきたから追ってはこないだろう。書類を確認しよう」
「そうだな」
ガイはニッドに頷き、ともに船室に入り、解析結果を確認する。
「やっぱり書類が一部足りないな」
ニッドが書類を見て呟く。
「《烈風のシンク》に襲われた時になくしたな…」
ガイは肩を竦める。
「見せてください」
ジェイドに書類を渡す。
「…ふむ…どうやら、同位体の研究のようですね。3.141592653358979323846…これはローレライの音素振動数のようですね」
「同位体?ローレライ?音素振動数?全っ然わかんねー」
「ルーク、ローレライは第七音素の意識集合体の総称だ」
ジェイドの見ている書類を覗きながらニッドが言った。
「音素は一定以上集まると自我を持つの。それを操れると、高等譜術が使えるようになるわ」
「音素集合体にはそれぞれ名前がついているんだ」
『第四音素が《ウンディーネ》、第一音素が《シャドウ》のようにな』
ガイのあとにノルン、ニッドも続ける。
「ローレライはまだ観測されたわけじゃないんだ。まだいるんじゃないかっていう仮説だけだ」
「へぇ、みんなよく知ってんなぁ…」
「常識なんだが…」
ガイが苦笑する。
「仕方ないわ、これから知ればいいもの」
珍しくティアがルークを庇うような発言をしたのでアニスたちが少し驚く。
ティアは頰を赤らめて慌てて話を逸らす。
話がフォミクリーに移ったところで、難しい話について行けなくなったルークが根をあげた。
「難しい話はやめようぜ!」
「まあとにかく、これはジェイドに持っていてもらおう」
ニッドが顔を上げる。ジェイドに書類を任せて皆はそれぞれの場所で休憩していた。
ノルンにも海が見えるように前に担ぎ直し、ニッドは海を眺める。
「レプリカかぁ…」
『…』
「レプリカのことは預言には詠まれていない…もしかしたら…」
「レプリカがどうかしましたか?」
「…うおっ、ジェイドか」
後ろからジェイドに声がかけられてニッドは驚く。
『やはりルークはレプリカだったな…』
「そうですね」
「レプリカでも…人間と変わらないように思うけど」
「…貴方のように思うには時間がかかりそうです」
「無理に受け入れなくてもいいよ。俺がそう思うだけだから…」
「ルークには伝えるつもりですか?」
「いや…こういうのは自分で知るのが一番いいだろう…」
「そうですか…」
突然、キムラスカ兵が声をかけてきた。慌てているようだ。
「た、大変です!タコのような譜業機械が乗り込んできて…」
ジェイドがあからさまに嫌そうな顔をした。それだけでニッドは誰が追って来たのか理解した。そして船が大きく揺れた。
「ジェイド、嫌そうな顔してないで。俺はルークたちを呼んでくる」
ニッドは船内へ走っていく。
「やれやれ、仕方ありませんね」
ジェイドは一足早く先に甲板へ行った。
皆を連れて甲板へ行くと高らかな声が響き渡る。
「ハーハッハッハッ!野蛮な猿ども!とくと聞くがいい!美しき我が名は…」
ジェイドは心底嫌そうにため息をついた。
「我こそは神託の盾六神将…」
「あ、鼻垂れディスト」
後からきたニッドもジェイドの意地悪に乗っかる。
「ちっがーう!薔薇!バ・ラ!薔薇のディスト様!」
「死神ディスト!」
アニスも乗ってくる。
「黙りなさい!そんな二つ名認めるか!ニッド!貴方も笑ってるんじゃありませんよ!」
「なんだよ、知り合いなのか?」
ルークが聞くとアニスは頷く。
「私は同じオラクルだから。でも大佐と准将は?」
「そこの陰険ジェイドとニッドはこの天才ディスト様のかつての友」
「どこのジェイドとニッドですか?そんな物好きは」
「えーどこにいるの?そいつら」
2人同時に肩を竦める。
「何ですって!?」
「ほらほら怒るとまた鼻水が出ますよ?」
「大丈夫か〜?」
「きぃー!出ませんよ!ですから!ニッドまで陰険ジェイドに乗っならないでくださいよ!」
「こういうのをおいてけぼりって言うんだよなぁ…」
「あほらし…」
ルークとガイがこっそり呟く。ニッドはジェイドに乗りながらひたすら苦笑している。
「ま、まあいいでしょう。音譜盤のデータとニッドを渡しなさい!」
「音譜盤のデータはこれですよ」
ジェイドが書類を差し出すと、ディストは即座に奪っていく。
「ハーハッハッハッ!油断しましたねぇ、ジェイド」
「差し上げますよ、その書類の内容は全て覚えましたから」
「ムキー!猿が私を小馬鹿して!あとは貴方だけですよ!ニッド」
「ディスト!オラクルはどこまで知っているんだ!」
ニッドが声を上げる。
「ニッドのことは全てです、貴方はこちら側に来るべき人間なのです!」
「それはできない。君はそれを持って帰るんだ」
ノルンを握りしめてニッドが言った。
「ならばこの私の作った《カイザーディストR》の、スーパーウルトラゴージャスな技を食らって後悔するがいい!」
ディストは譜業機械に乗り込む。
『あれはわかってるのか?第四音素を使う我々とは相性が悪いと』
ため息混じりにノルンが呟く。
「…荒れ狂う流れよ……スプラッシュ!」
ジェイドの譜術が発動し、ディストは譜業機械ごと爆発し吹っ飛んでいった。
「ジェイド…」
ノルンを下ろしてジェイドを振り返る。
「あれこれ余計なことを言われる前に吹き飛ばすのが一番いいでしょう?」
「ま、まあ確かに…」
ルークが星になったディストを見て「お、おいあれ…」と少し心配にになっているようで。
「ディストなら大丈夫だって」
「そうです。殺して死ぬような男ではありませんよ。ゴキブリ並の生命力ですから」
「2人のその自信はどこから来るんだ…」
ガイが肩を竦める。汽笛が鳴った、もうすぐバチカルに着くらしい。
「全て知っている、か…」
『…』
ニッドはディストが飛んで行った方をぼんやりと見めた。
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