エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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9話 廃城の戦い
国境の門を越えて街道をしばらく歩き、ようやくカイツール軍港に入る。
軍港に入ってすぐ鼻につくような臭いが漂う。さらに耳をつんざくような破壊音と魔物の声が聞こえる。頭上には鳥の魔物が飛んでいく。
「な、なんだ…?」
ルークが驚く。
「港のほうだ」
ニッドが先に走っていく。後ろからガイの悲鳴のような声を置いて船着場まで急ぐ。
「この惨状は…」
足が止まる。兵士と魔物の死体が船着場に横たわっている。船はひどく破壊されていて黒煙を上げている。死体の中心にはヴァンとアリエッタの姿。
みんなが遅れててやって来て、この惨状を目にして一斉に構える。
「魔物に船を襲わせていたのか…!」
ニッドが顔を歪めて言った。
「どうやらそのようだ。…アリエッタ!誰の許しを得てこんなことをしている!」
ヴァンは剣を突きつけて叫ぶ。
「総長…ごめんなさい…アッシュに頼まれて…」
「アッシュだと?」
ヴァンの一瞬の隙を見逃さず、鳥の魔物が現れアリエッタはその足に掴まって空へ舞い上がる。
「船を修理できる整備士さんは、アリエッタが連れて行きます。返して欲しければ、ルークとイオン様…死竜がコーラル城へ来い…です。来ないとあの人たち…殺す…です」
それだけ言い残してアリエッタは魔物と飛び去った。
「船は全滅か?」
ニッドは表情を変えずにヴァンに聞いた。
「すまない…全滅のようだ。応急処置でなんとかなる船は一隻だけあるが、それもエンジンの修理には専門家が必要だ。だが連れ去られた整備士以外となると、訓練船が戻るのを待つしかない」
「アリエッタが言っていたコーラル城とは?」
今度はジェイドが聞く。
「ファブレ公爵の別荘だよ。前の戦争で戦線が迫ってきて放棄されたんだ。7年前、誘拐されたルークが発見された場所でもある」
ガイが説明する、ルークは半分ポカンとしている。
「全っ然覚えてねぇや。もしかして行けば思い出すかな」
ヴァンは首を振る。
「駄目だ、訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタは私が処理する」
「ですが、ヴァン。それではアリエッタの要求を無視することになります。整備士の命がー」
「導師。今は戦争を回避するほうが重要なのでは有りませんか?」
ヴァンの言葉にイオンは黙ってしまう。
「それなら、俺1人で行きましょうか。アリエッタの要求には俺も含まれているし…」
ニッドが口を開く。
「貴方も貴方の目的があってここまで来たのではないのですか?」
「ま、まぁ…そうですけど…」
ヴァンの意味深な言い方も気になるが、反論の言葉が見つからず、ニッドは曖昧な返事しかできないでいた。
そんなイオンとニッドからヴァンはルークに視線を移す。
「ルーク、イオン様を連れて国境に戻ってくれ。ここには簡単な休息施設しかないのでな。私はアリエッタ討伐に向かう」
「はい、師匠」
素直にルークは返事する。ヴァンが軍港から行ったあとルークたちも国境へ戻るために港を出る。
誰かが後ろから追いかけてきて、彼らの前に出てくる。
「お待ちください!導師イオン」
アニスはイオンを背中に隠して、守るように前に出る。
「導師に何の用ですか?あなた誰です?」
「わ、私はここの整備士です!導師様、妖獣アリエッタに攫われたのは我らが隊長なのです。お願いします!どうか導師様のお力で隊長をお救いください!隊長は…隊長は、預言を忠実に守っている敬虔なローレライ教の信者です!今年の預言でも大厄は取り除かれると詠まれていたそうです。ですからー」
イオンは全てを言わさず頷いた。
「わかりました」
「イオン様」
諌めるようなジェイドの声にイオンは首を振る。
「ジェイド、預言は詠まれたのです。わかってください」
「私もイオン様の考えに賛同します」
「冷血女が…」
「ルーク!…も賛同するんだな?」
余計なことを言いそうだったルークにニッドは言葉を被せる。ルークは無視して舌打ちする。
「大厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視したことになるわ。それではユリア様の教えに反してしまう」
「預言を忠実に守る…か…」
ニッドは小さく呟く。
「確かに預言は守られるべきですが…ヴァン謡将にお任せしてはいかがです?」
ジェイドもコーラル城へ行くのはあまり賛成ではないらしい。
「兄さんはアリエッタを処理するとは言ってたけど、整備士を助けるとは言っていないわ。いえ、端から助けるつもりなんてない」
「そんなことあるかよ!」
「まあ確かにはっきりとそうは言ってなかったな…訓練船を待てば、ここにある船を整備する必要はない、イコール攫われた整備士は助けなくてもいい」
「揚げ足取りやがって…」
そう言ったニッドをルークは睨むが、彼は無視して、ジェイドに聞いた。
「コーラル城はやっぱり俺1人で行こうか…」
「ニッド1人で行くのは了承しかねます…仕方ありませんねぇ」
最終的には全員でコーラル城へ向かった。
