エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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ニッドはティアにファストエイドをかけてもらい治療してもらった。ジェイドには散々説教を食らい、今は岩の上に座って空を眺めていた。
「あの…」
ルークが小さく声をかけると、ニッドは隣に座るように促す。
「怖かったか?」
ニッドは前を向いたままルークに聞いた。
「怖くなんかねぇよ…」
ルークの声は消え入りそうだ。
「ニッドは…怖くねぇのかよ…?」
「怖いよ、けどそれ以上に大切なものを守るために戦わなきゃいけないから」
「ニッドの大切なものってなんだ?」
「家族。あと、マルクトだ」
微笑してニッドが答えた。
「さっきのことは気にするな、最初は誰だって怖いもんだから」
「べ、別に怖くねぇよ!」
慌ててそう返してルークはみんなの元へ戻っていった。入れ替わりにティアがやって来る。
「准将、よろしいですか?」
「どうぞ」
ニッドは横に座り直しティアに座るように促す。彼女は「失礼します」とニッドの隣に座る。
「傷は大丈夫ですか?」
「大丈夫。ファストエイドかけてくれてありがとう」
「いえ…。あのずっと話す機会がなかったのですが、馬車代にって馭者に渡した髪飾り…あれは大切なものなんですよね…」
「あぁ、あれは姉さんからもらったんだ」
「そんな大切なものを…すみません…」
「気にしないで。あとで暇見つけてあの馭者追いかけて買い戻すから」
「いいえ、私が必ず見つけますから」
「気持ちだけもらっておくよ。明日も早いから休みな」
「はい、ありがとうございます」
ティアは一礼してルークと同じほうへ歩いていった。
一息ついたニッドだが、更に訪問者がやってくる、イオンだ。
「イオン様、座ってください」
「すみません」
イオンは座ってニッドを見た。
「傷は大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ありがとうございますイオン様」
「そうですか…僕のことはイオンで構いませんよ」
「けど、教団の最高責任者に対してそれは…」
「僕がそうしてほしいのです、お願いします… ニッド」
イオンの言葉が儚く感じた。
「わかった、イオン」
「ありがとうございます」
イオンはにこっと笑い、話を続ける。
「ニッドは始祖ユリアには弟がいたことは知っていますか?」
「…知ってるよ」
びっくりしそうになるのを抑えながらニッドは頷いた。
「彼は音素を司る竜と契約し、とても強い高等譜術を使ってユリアを支えたと伝わっています… ニッドはなんとなく彼に似ている気がします」
「恐れ多いなぁ…俺はただの軍人だよ」
「そんなことはないですよ」
「そうかな…イオン、明日も歩くからしっかり休むんだぞ」
イオンは元気よく返事をしてみんなと同じほうへ歩いて行った。ニッドは息をつく。
『ニッド、お前も休め。見張りは任せろ』
「あぁ、ありがと…ノルン」
ニッドはノルンに見張りを任せて静かに目を閉じた。
早朝、まだ夜が明ける前にニッドはジェイドに起こされ、ティアと見張りで起きていたガイとで陣形の話をする。出発する時間になったのでティアがまだ寝ているルークを起こしにいってくれた。
「もう動けるのか?」
ルークがニッドを見て聞いた。
「あぁ、もう大丈夫だ。ありがとう」
ニッドが笑顔で答え、ジェイドが陣形の話を切り出す。
「私とガイ、ニッドとティアで陣形を取ります。あなたとイオン様は中央にいて、もしもの時は身を守ってください」
「え…?」
「お前は戦わなくて大丈夫だってことだ。さあ行こう」
ガイが歩き出し、他もそれに続く。
「待ってくれ」
ルークがみんなを呼び止める。
「どうしたんですか?」
イオンが聞く。ルークは決心したように言った。
「…俺も戦う」
「人を殺すのが怖いのでしょう」
とジェイド。
「怖くなんかねぇ…」
今には消え入りそうなルークの声にティアも口を開く。
「無理しないほうがいいわ」
「本当だ!…そりゃやっぱ、ちっとは怖ぇとかはあるけど、戦わなきゃ身を守れないなら戦うしかねえだろ。俺だけ隠れていられるか!」
「ご主人様、偉いですの!」
ぴょんぴょん跳ねるミュウをルークは払いのける。
『ほう、言うではないか』
ノルンも関心したように呟く。
「もう決めたんだ、これからは躊躇しないで戦う」
ティアはルークに近づき、じっと目を見つめる。
「人を殺すということは相手の可能性を奪うことよ。それが身を守るためでも」
「恨みを買うことだってある…」
「報復だってあるかもしれない…」
ガイとニッドも小さく呟く。
「貴方、それを受け止めることができる?逃げ出さず、言い訳せず自分の責任を見つめることができる?」
「お前も言ってただろ、好きで殺してるんじゃねぇって。もう決心したんだ。これからはみんなに迷惑はかけられないし、俺も責任を負う」
「でも…」
ルークのことがよほど心配なのか、ティアは賛成できないようだ。
「ルークがそう決めたならいいんじゃないか、なあジェイド」
「ええ、ルークの決心とやら見せてもらいましょう」
ニッドの言葉にジェイドも頷いた。
ガイも少し心配そうにルークに無理するなと声をかけている。
ルークが決心したところで一行はセントビナー目指して歩き出した。
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