エピソード1 タタル渓谷からバチカル
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3話 森の声
朝日を全身に浴びながらニッドは背伸びをした。タルタロスの甲板からエンゲーブを眺める。
「ふぅ…」
一息つき、北のほうへと目を移す。
チーグルの森。昨日の騒動が頭を過る。
『気になるか?』
背中の銃から声がする。
「気にならないといえば嘘になるが…」
『すまん、ジェイドにはいい顔はされないがワタシが調べたい』
いつになく真剣な声にニッドは考え込むことなく歩き出す。
艦内の入ると兵士に声をかける。
「准将、お疲れ様です」
兵士は敬礼する。
「朝からお疲れさま。俺はこれから偵察に行く。二時間ほどで戻ると師団長に伝えてくれ」
「了解いたしました」
一礼して走っていった。一番近いハッチから外へ出てチーグルの森へ急いだ。
森の入り口付近でノルンが反応した。
反応がある場所へ行くと導師イオンが魔物に取り囲まれていた。
「!」
怪我をしているのか膝をついて肩で息をしている。
「イオン様!」
別の方向から声がする。ルークとティアの二人だ。
「イオン様を連れて下がっていろ!」
ニッドの大声に二人は一度は立ち止まるが、すぐにイオンに駆け寄る。
「貴方は…」
ニッドは歩きながら詠唱する。
「血の果ての十字!我が敵に刻め!…クロスファイア」
魔物の足元に譜陣が現れ、光が十字に走り、魔物が消滅していく。完全消滅を確認しニッドもイオンに駆け寄る。
「イオン様、ご無事ですか?」
「だ、大丈夫です。少しダアト式譜術を使いすぎただけで…」
イオンはニッドの手を借りて立ち上がる。大丈夫だとは言っても彼の顔色は良くはない。
「あなた方は…確か昨日エンゲーブにいらした…」
「ルークだ」
「ルーク…古代イスパニア語で『聖なる焔の光』という意味ですね。いい名前です」
にっこりと微笑みイオンは言った。ルークは面食らったようだ。
ー照れているのか
ニッドとノルンはかわいいところもあるものだとくすりと笑った。
イオンはティアのほうを振り返る。
「あなたはー」
ティアはローレライ教団式の礼を行う。
「導師イオン、私は神託の盾騎士団モース大詠師旗下情報部第一小隊所属、ティア・グランツ響長であります」
「あなたがヴァンの妹ですか。噂はきいていましたが、お会いするのは初めてですね」
ティアは頷く。
「はぁおまえが師匠の妹じゃあ、殺すとか殺さないとかってあれはなんなんだよ」
ルークは驚き、眉を吊り上げる。
ニッドは眉間に皺を寄せて様子を伺う。
「殺す…?」
イオンは首を傾げる。
「あ、いえ、こちらの話です」
「話をそらすな!なんで妹のおまえが師匠の命を狙うんだ!」
ルークがいくら聞いてもティアは黙っている。
ニッドは小さくため息をつき、周りを見渡す。ちょうど、チーグルが通りかかる。
「あ、チーグル!」
指で示すとルークの興味がチーグルにそれた。
「んやろ!やっぱりこの辺に住み着いてたんだな!追いかけるぞ!」
ルークは走り出した。チーグルを追いかけて茂みに飛び込むとイオンはティアを振り返る。
「ヴァンのこと、僕は追及しないほうがいいですか?」
「すみません。私の故郷に関わる話なのでできれば、彼やイオン様を巻き込みたくはー」
「おい、見失っちまうぞ!」
ルークの声が聞こえる。
「准将、先ほどはありがとうございます」
ティアが早口でルークの興味をそらしてくれたことへのお礼を言った。
「気にするな。ほら、行くぞ」
ルークを追って茂みに入っていく。
