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小咄 うらばなし

「林檎、ご馳走さまでした」
それが彼女の最後の言葉だった。朝が来て空が青くなった私だけの楽園で、修道服を脱ぎ湖に飛び込み水とちゃぷちゃぷ戯れながら彼女のことを思い出す。長い前髪に隠した紅茶色の瞳。少し貧相な体つき。8歳の少女と思えぬ賢い物言い。「無垢と空っぽの意志」という極めて貴重な精神性と相まって、今まで観測した人間の中でも最高の素材だと思ったのだ。私の魔力を受け入れるに値する器。私の見込みは間違いなかったのだと思う。彼女はきっと世界に光をもたらす魔術師に化けるだろう、から。

さて、伏線を回収しよう。
彼女は私が張った伏線すべてを私の予想通りにこなしてくれたのだ。
林檎。アレは私が人間を試すだけに育てたモノであり、「試す」とは至極簡単なことで「体内に取り込み、何でもなければ魔術師の才能がある」というだけの代物だ。今までこの楽園に迷い込んできた人間、私に目を付けられ迷い込まされた人間全てに試した。勿論完食した人間もいたし、一口で拒絶反応を起こした人間もいた。
彼女は一口目で食の手を止めた。それは魔術師の適性の有無ではなく、単なる緊張からだとは彼女の思考を読んで知った。でもどうしても完食してもらう必要があったし、少し遊びたい気分になってしまった故に二口目の前に一度林檎を取り上げて林檎に「催淫」の効果を与えたのちに全部食べるよう脅した。性感に幼も老も関係なくなる強い催淫効果だ。ここで術に掛かったら彼女の無垢性は比較的浅いものだと判断し魔力の継承の資格は無いと思うしかなかった。…が期待通りに易々と催淫効果に掛かってくれない彼女であった。
次。円卓の騎士の話。
アレは彼女の知識の大勝利だ。
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