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佐々木 令の個人ファイル

私は飛び起きた。暗い自室のベッドの上。

長い夢を見ていた気がした。全身に風を感じていたような爽快感があった。ベッドサイドに転がる目覚まし時計を見やる。アラームを設定している06:00にはまだ早い、04:21を指していた。ちょうど夜明けの時間くらいだろうか。私はベッドに座ったままカーテンを隙間だけ開けて外を見る。空は美しい明けの明星と見事なグラデーションを持って一日の始まりを告げている。

綺麗な朝だ。けれどこれよりも綺麗な朝をさっき見た気がする。たとえばそれはどこかの湖で、どこかの庭で。

…そんな錯覚をするほど寝ぼけているのだろうか?いや、寧ろ頭はスッキリしている気がする。起床にはまだ早いが今から二度寝をしようにも頭が冴えすぎて眠れない。ならば開き直り洗顔と歯磨きをしてしまおう。そう思い立ってベッドから降りた瞬間。私は左手首と胸にじわりと違和感を覚えた。洗面所へ行く前に、部屋の姿見で確認しようと思いパジャマを脱いだ。そして胸の違和感の前に、左手首を見やる。

翡翠色の線で精密な魔方陣が描かれていた。その中央には「Ambrose M」と気取った文字でサインされている。アンブローズ ・M?見覚えがないわけではない。さて、それよりも胸の違和感の正体を知りたい。私は少し貧相な胸部を姿見に映した。

私は驚き、そして、長い夢の正体を何もかも思い出した。

胸の真ん中に、拳大の林檎の形の刺青のようなものが入っている。
手首と同じく翡翠色の線で、林檎の枠線の中には夢に見た楽園ーー庭と湖と森と朝焼けの空、が写真のように描かれている。

「夢だけど夢ではなかったのだ。その模様は契約の証さ、魔法使い以外には見えないから安心したまえ。愛を込めて、A・M」

姿見に文字が浮き出た。
本当に夢ではなかった、らしい。
魔法使いになったらしい。
意志を持って奇跡を起こす存在になったらしい。
本当に、本当にびっくりした。


ーーー08/05、日記。

これがかれこれ8年前。私が8歳の時の出来事。今でも私の体には林檎のかたちの契約の証がある。そして私は今ーーーー

魔法少女として、世界を脅かす魔生物達と、私の意志を持って「戦う」という奇跡を起こしている。
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