仮面武闘会distortion
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「なあ、二回戦のあんたたちの試合さ。ガレムソンとベロリンマン。久しぶりに見たと思ったら……なんだい、あれ!滅茶苦茶強くなってるじゃないか!」
「ふつうに優勝候補だったわよね。ドゥルダ郷にでも行ったとばかり思ってたけど……、イシの村って聞いたこともないような田舎で用心棒をしていただけらしいわ。…どこまで本当なんだか」
「ああ。しかしボクたちの敵ではなかった」
「確かにね。とはいえ、あのバカ二人が仮面武闘会のルールを忘れてなきゃ、ラゴスたちこそ危うかったわよ」
「だからボクはラゴスじゃないと言ってるだろ!!」
仮面の闘士の常連連中によく見られる習性なのだが、タッグを組む武闘会のルールの関係上、結構頻繁に複数人でつるんで酒を飲む。その習性は、かのイベントが一度終わりを告げてからもなくなることはなく、カジノ内のバーなんかは完全にボクらのたまり場になっていた。今回仮面武闘会が復活したので、これからはもっとその傾向が強くなるだろう。
それにしても、ビビアンはいつもボクのことをラゴス呼ばわりしてくる。なんでも【ラゴス】というビビアンの幼い頃の初恋の人物にボクがそっくりだからだそうで――いや実にいい迷惑だ。
一回戦で難なくくだした相手(エルザにこの女の呪文がほぼ効かなかったためだ。戦闘力も高いけれど攻撃魔法への耐性は常軌を逸している)にきっちり否定の言葉を返して、先ほど注文したばかりの二杯目のカシスオレンジに口をつける。甘ったるいリキュールを甘ったるいジュースで割った砂糖水と見紛う安酒だが、ボクはこのチープさが案外好きだった。そんないつものやりとりに、隣に座るサイデリアはくすっと笑う。
「何がおかしい?」
「悪い。だが、思っちまうのさ。こんな他愛ないケンカができるのも、勇者様たちが平和を勝ちとってくれたからなんだなって」
「言いたいことはわかるが、そういう〆っぽい良いセリフはもう少しあとで頼む」
「あ、ああ…。でも湿っぽいかなぁ?」
ついガラにもなく頼み込む。サイデリアは小首を傾げながらも了承してくれ、なぜだか妙な安堵感を得た。
「…話を戻すけど、あのムンババっていうのは一体なんだったのかしらね」
「ビビアンでもわからないのかい?」
「ええ。見たことも聞いたこともないわ、あんなの…」
ビビアンはごくごく真面目な様子で顎に手をあてがい、じっと考え込む。こいつはバニーのナリをしているがこれで賢者の卵であり、当然ボクらの中で一番頭が良い。けれどガレムソンとベロリンマンが【連携技】として繰り出してきた【マスコットよび】の正体については皆目見当もつかないようだ。
「あのムンババとかいうやつ、ずいぶんとぼけた顔をしてはいたが、とんでもない威圧感だった。今回は『助っ人呼び禁止』ルールに助けられたが、そうでなかったらと思うと…」
思わず身震いした。アレは間違いなくバケモノだ。ガレムソンよりも、ベロリンマンよりも、…恐らくかつてボクたち闘士を操ったアラクラトロよりも強い。しばらく見ないうちに恐ろしくウデをあげてきたあの二人と一緒に相手をしなくてはいけないとあっては、まず勝てなかっただろう。エルザがどう思ったかは知らないが、少なくともボクは反則勝ちのゴングを聞いた時にはひどくほっとしてしまった。
会場は大いに盛り下がってしまったけれどそんなの知るか。ボクは悪くない。
「しかし、あんたのパートナーのエルザって女は相当だね。ムンババを目の前に眉一つ動かしてなかったじゃないか」
「サイデリアは見えたのか」
「ああ、客席からだからな。っていってももちろん仮面で表情なんか見えないんだけどさ。でも、狼狽えるあんたよりはよっぽど落ち着いていたよ。ありゃ相手が反則取られてなかったら戦ってたね」
「肝の据わり方っていうのかしら。むしろどこかおかしいわよあのコ」
先ほどまで黙りこくってて考え込んでいたらしいビビアンの顔が、今度は忌々しげに歪む。
「効かないっていってもさすがにノーダメージには見えなかったし、何より痛みがあるはずよ。なのに、なんでベギラゴンにあんな平気なカオで突っ込んで!どうかしてるわ!」
そう言ってビビアンはぐっとハイボールを呷る。よっぽどボクらに負けたのが悔しかったのだろう。6:4で濃いめが好みの酒豪はダンと勢い良く音を立ててジョッキを置くなり、マスターにおかわりを要求していた。サイデリアが飲みすぎだと忠告するが、聞く耳を持つ気はないらしい。うさ耳バンドを含めれば4つもあるのに、その内1つもだ。
「ラゴス!!」
思わぬ迫力に肩がびくりと跳ね上がる。ボクはラゴスじゃないと否定することができなかった。ビビアンの目は完全に据わっていた。
「ビビアンたちに勝ったんだから、絶対優勝しなさいよね!!」
「あ、ああ…」
圧倒的に気圧されて、つい気弱な同意しかできない。
「それにしても、エルザの方はどこへ行ったのかね。せっかくあたいらが奢ってやろうってのに、飲みに参加もしないなんて」
サイデリアが再び話題を変える。確かに不思議に思うのも無理ない話だ。あの女はサイデリアの熱いファンらしい(そのままそっちでくっつけば良かったのに)。
1回戦での二人のやり取りを見る限り、エルザならば喜んで参加しそうなものだったが、蓋を開けてみればいつもの三人での飲みでしかなかった。
「なんだか様子がおかしくはあったぞ。あまり体調が良くないらしい」
「なるほどねん。……でも次の相手は甘くないわよ。そんなこと言っていられるのかしら…」
絶対勝てと高圧的に言い放ったビビアンの声が、今度は擦れて、眼前の厳しいカードを憂えたものになる。
明日待ち受ける試合は、ビビアンですら同情を禁じえないほどの……そして間違いなくボクらにとっては山場であり試練に他ならなかったのだ。
「ふつうに優勝候補だったわよね。ドゥルダ郷にでも行ったとばかり思ってたけど……、イシの村って聞いたこともないような田舎で用心棒をしていただけらしいわ。…どこまで本当なんだか」
「ああ。しかしボクたちの敵ではなかった」
「確かにね。とはいえ、あのバカ二人が仮面武闘会のルールを忘れてなきゃ、ラゴスたちこそ危うかったわよ」
「だからボクはラゴスじゃないと言ってるだろ!!」
仮面の闘士の常連連中によく見られる習性なのだが、タッグを組む武闘会のルールの関係上、結構頻繁に複数人でつるんで酒を飲む。その習性は、かのイベントが一度終わりを告げてからもなくなることはなく、カジノ内のバーなんかは完全にボクらのたまり場になっていた。今回仮面武闘会が復活したので、これからはもっとその傾向が強くなるだろう。
それにしても、ビビアンはいつもボクのことをラゴス呼ばわりしてくる。なんでも【ラゴス】というビビアンの幼い頃の初恋の人物にボクがそっくりだからだそうで――いや実にいい迷惑だ。
一回戦で難なくくだした相手(エルザにこの女の呪文がほぼ効かなかったためだ。戦闘力も高いけれど攻撃魔法への耐性は常軌を逸している)にきっちり否定の言葉を返して、先ほど注文したばかりの二杯目のカシスオレンジに口をつける。甘ったるいリキュールを甘ったるいジュースで割った砂糖水と見紛う安酒だが、ボクはこのチープさが案外好きだった。そんないつものやりとりに、隣に座るサイデリアはくすっと笑う。
「何がおかしい?」
「悪い。だが、思っちまうのさ。こんな他愛ないケンカができるのも、勇者様たちが平和を勝ちとってくれたからなんだなって」
「言いたいことはわかるが、そういう〆っぽい良いセリフはもう少しあとで頼む」
「あ、ああ…。でも湿っぽいかなぁ?」
ついガラにもなく頼み込む。サイデリアは小首を傾げながらも了承してくれ、なぜだか妙な安堵感を得た。
「…話を戻すけど、あのムンババっていうのは一体なんだったのかしらね」
「ビビアンでもわからないのかい?」
「ええ。見たことも聞いたこともないわ、あんなの…」
ビビアンはごくごく真面目な様子で顎に手をあてがい、じっと考え込む。こいつはバニーのナリをしているがこれで賢者の卵であり、当然ボクらの中で一番頭が良い。けれどガレムソンとベロリンマンが【連携技】として繰り出してきた【マスコットよび】の正体については皆目見当もつかないようだ。
「あのムンババとかいうやつ、ずいぶんとぼけた顔をしてはいたが、とんでもない威圧感だった。今回は『助っ人呼び禁止』ルールに助けられたが、そうでなかったらと思うと…」
思わず身震いした。アレは間違いなくバケモノだ。ガレムソンよりも、ベロリンマンよりも、…恐らくかつてボクたち闘士を操ったアラクラトロよりも強い。しばらく見ないうちに恐ろしくウデをあげてきたあの二人と一緒に相手をしなくてはいけないとあっては、まず勝てなかっただろう。エルザがどう思ったかは知らないが、少なくともボクは反則勝ちのゴングを聞いた時にはひどくほっとしてしまった。
会場は大いに盛り下がってしまったけれどそんなの知るか。ボクは悪くない。
「しかし、あんたのパートナーのエルザって女は相当だね。ムンババを目の前に眉一つ動かしてなかったじゃないか」
「サイデリアは見えたのか」
「ああ、客席からだからな。っていってももちろん仮面で表情なんか見えないんだけどさ。でも、狼狽えるあんたよりはよっぽど落ち着いていたよ。ありゃ相手が反則取られてなかったら戦ってたね」
「肝の据わり方っていうのかしら。むしろどこかおかしいわよあのコ」
先ほどまで黙りこくってて考え込んでいたらしいビビアンの顔が、今度は忌々しげに歪む。
「効かないっていってもさすがにノーダメージには見えなかったし、何より痛みがあるはずよ。なのに、なんでベギラゴンにあんな平気なカオで突っ込んで!どうかしてるわ!」
そう言ってビビアンはぐっとハイボールを呷る。よっぽどボクらに負けたのが悔しかったのだろう。6:4で濃いめが好みの酒豪はダンと勢い良く音を立ててジョッキを置くなり、マスターにおかわりを要求していた。サイデリアが飲みすぎだと忠告するが、聞く耳を持つ気はないらしい。うさ耳バンドを含めれば4つもあるのに、その内1つもだ。
「ラゴス!!」
思わぬ迫力に肩がびくりと跳ね上がる。ボクはラゴスじゃないと否定することができなかった。ビビアンの目は完全に据わっていた。
「ビビアンたちに勝ったんだから、絶対優勝しなさいよね!!」
「あ、ああ…」
圧倒的に気圧されて、つい気弱な同意しかできない。
「それにしても、エルザの方はどこへ行ったのかね。せっかくあたいらが奢ってやろうってのに、飲みに参加もしないなんて」
サイデリアが再び話題を変える。確かに不思議に思うのも無理ない話だ。あの女はサイデリアの熱いファンらしい(そのままそっちでくっつけば良かったのに)。
1回戦での二人のやり取りを見る限り、エルザならば喜んで参加しそうなものだったが、蓋を開けてみればいつもの三人での飲みでしかなかった。
「なんだか様子がおかしくはあったぞ。あまり体調が良くないらしい」
「なるほどねん。……でも次の相手は甘くないわよ。そんなこと言っていられるのかしら…」
絶対勝てと高圧的に言い放ったビビアンの声が、今度は擦れて、眼前の厳しいカードを憂えたものになる。
明日待ち受ける試合は、ビビアンですら同情を禁じえないほどの……そして間違いなくボクらにとっては山場であり試練に他ならなかったのだ。
