仮面武闘会distortion
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結論から言えばグレイグさまから休暇は貰えた。…ただしあの方は非常に厳しいことを仰った。
『俺はかまわんのだがな、エルザ。…お前もう有給が残っていないぞ』
これを聞いたのちホメロスさまは、キャラを忘れ爆笑することになる。
とはいえ今回の目的は仮面武闘会。優勝すればハンサムと賞金を山分けでこそあるが、日給換算したデルカダール兵としてのお給料と較べればちょっといやかなり高い。ぐっと拳に力が入る。ハンサムはあれで実力者。私もイレブンくんたちほどじゃないにしろ、そこそこには戦える方だ。ハンフリーという要注意人物のくじ引きの結果に左右こそされるが、先日ハンサムが言ったとおり、勝ちの目自体はおそらくそれなりにあった。
「…そうだ、くじ引き!仮面武闘会ってさ、パートナーはくじで抽選するでしょ?私たちが確実に組めるって保証はあるの?」
デルカダールからソルティコまでは、自宅まで迎えに来たハンサムと乗合馬車の旅。そこから連絡船に乗りバンデルフォン地方入りして、再び乗合馬車。がたごととあぜ道の中々な乗り心地に揺られながら、ふと我ながらもっともな疑問を口にした。
それを受けてハンサムはふむ、とやっぱり揺られながらも腕を組んだ。
「くじ引きだがあれな、実はとっくの昔に形骸化していて、ほとんど本来の機能を果たしていない」
「というと?」
「不正が当然のように横行している」
うわ、と思わず嫌な声が出たせいで周りの目が一瞬で集まる。すみません、と頭を下げ、ハンサムに続きを促す。
「お前も一回くらい不自然に思っただろ。ビビアンに至ってはほぼ毎回サイデリアと組んでいる。どんな引きをしていたらああなるんだ」
「…確かに」
贔屓の闘士の闇の部分を指摘されて密かに凹む。ハンサムは気にした様子もなく続けた。
「まあこの程度の不正なんてかわいいもんだ。それでも知らないとかなり不利だろうが。…常連組でこれに手を出してないのはそれこそハンフリーくらいなものだろう」
グロッタ武闘大会絶対チャンピオン・ハンフリー。反応速度、防御力、破壊力共に常軌を逸した古強者。色々と噂こそあるが、彼の目的は己も育った孤児院の維持費稼ぎであり、基本的に善人の筆頭みたいな人物だ。それに裏打ちされたバトルマスターとしての圧巻の強さは、不正もものともしないのだろう。
「それでも強いというのがヤツの厄介なところだ。だが、それが故にヤツはパートナーとの連携面でどうしてもスキが生まれる。もし当たれば、そこを叩く!」
ぱしんとハンサムは小気味よく拳で手のひらを打つ。肉食獣のような獰猛で強い語調。乗合馬車に揺られていなければかなり格好がついたのではないかと思うが、あえて触れないのが優しさだ。
「じゃあ、私たちが確実に組めるという算段はついてるってことでいいのね?」
「当然だ。抜かりはない」
「わかった。ハンサムを信じることにする」
ちきり、と傍らのプラチナソードが私にだけわかるように鳴る。それで良いと言っているようだった。…もっとも取り憑いている悪魔がアレなので、実際のところそこに嫌味の十や二十ほど含まれていそうだったが。
「…あともう一つ気になること。聞いていい?」
「グロッタへの道のりはまだ長い。一つと言わず、ここでいくらでも潰していけ」
「ありがとう」
ちょっと前まで一人の男を巡って対立していたとは思えないほどマスク・ザ・ハンサムの態度は軟化していた。奇妙なくらい愛想が良いというのか、妙に優しいというか。……明らかに不自然だというのに、なぜか違和感を覚えることができない自分がいる。
「ハンサム。あなたが言うことには確か、ゴ…シルビアさんがグロッタに来るって話だよね。いくら【くじ引き】の結果とはいえ、私たちが組んでたらあの人から見たら不自然じゃない?」
「だがそれが【くじ引き】の結果だ。…それに恋敵同士が組むんだ、むしろドラマチックだと思わないか?」
そう言われて天を仰いでゴリアテさんのことを思う。脳内シミュレート。
「あー。シルビアさん、そういうの好きそう」
「だろ?もちろん不仲の体でいく。大まかな台本も用意している。ボクたちは元々友だちなんかじゃないんだ、これは簡単だろう」
ただし、少なくとも芝居は本気でやらないと万が一バレた時にあの人は怒る。少なくとも、くじ引きで不正するよりもだ。
何せ安っぽい演技をゴリアテさんはかなり嫌っていた。プロのエンターテイナーとして許せないのかもしれない。
「…なんかごめんね、色々準備してもらっちゃって」
「気にするな。…好きなんだ、こういうの」
そう言ったハンサムの笑みは、…少しだけ穏やかで満足そうだった。
と、不意に乗り心地最悪だった馬車の揺れが止まる。どういうわけか進行を止めたようだ。
乗り合わせた客たちが、思わぬ異常事態に戸惑いざわめき始める。年の頃はベロニカちゃん(の外見)と同じくらいだろうか。可愛らしい顔の男の子が、母と思しきそっくりな顔の女性の服の裾を怯えた顔で握るのが、ふと目に留まった。
「おおい!誰か!」
そんな中、外の御者のおじさんが困ったような声をあげた。
「魔物だ!!お客の中に戦える者はいないか!ちと俺の手には余る!手伝ってくれ!」
出発前、彼は元戦士だと自己紹介していたが、その声色に当時を思わせる勇ましさはない。しかしないなりに冷静な要請が終わらない頃には、私はプラチナソードを手に取り、馬車から降りるべく中腰になっていた。すぐにハンサムも続いてきて少し意外に思う。
私はデルカダールの兵士として民を守る教えを徹底的に叩き込まれていたが、彼がそのような思想を持ち合わせているイメージは、失礼ながらあまりないからだ。
「…丁度いい。連携をとる練習にでも洒落込もうじゃないか。なあ、エルザ」
演技掛かってにやりと笑う。どこか素直じゃないような理由付けがなんだか嬉しくなり、こちらも頬が緩んだ。
かくして始まるマスク・ザ・ハンサムとの初めての共闘。それがふと、奇妙な懐かしさに襲われる。たとえば大事な食材の買い忘れを、しかしまだ店内で気づくことができた、……そういう安堵感のような、ちょっとした嬉しささえ伴いながら。
「ライバル同士が組めば最強ってやつか」
そして悪い気はしなかった。
馬車を降りた先、縦にも横にも大きな御者のおじさんが必死になって剣を向け威嚇していたのは更に巨大なトロルだったけれど、それすらなんの問題にもならなかった。
「おもしろいね。乗った!」
土色をした巨大な敵に猛然と駆け寄るマスク・ザ・ハンサム。
やっぱりどこかで見たことがある光景だったけれど……それが何か思い出す日はきっと来ない。
『俺はかまわんのだがな、エルザ。…お前もう有給が残っていないぞ』
これを聞いたのちホメロスさまは、キャラを忘れ爆笑することになる。
とはいえ今回の目的は仮面武闘会。優勝すればハンサムと賞金を山分けでこそあるが、日給換算したデルカダール兵としてのお給料と較べればちょっといやかなり高い。ぐっと拳に力が入る。ハンサムはあれで実力者。私もイレブンくんたちほどじゃないにしろ、そこそこには戦える方だ。ハンフリーという要注意人物のくじ引きの結果に左右こそされるが、先日ハンサムが言ったとおり、勝ちの目自体はおそらくそれなりにあった。
「…そうだ、くじ引き!仮面武闘会ってさ、パートナーはくじで抽選するでしょ?私たちが確実に組めるって保証はあるの?」
デルカダールからソルティコまでは、自宅まで迎えに来たハンサムと乗合馬車の旅。そこから連絡船に乗りバンデルフォン地方入りして、再び乗合馬車。がたごととあぜ道の中々な乗り心地に揺られながら、ふと我ながらもっともな疑問を口にした。
それを受けてハンサムはふむ、とやっぱり揺られながらも腕を組んだ。
「くじ引きだがあれな、実はとっくの昔に形骸化していて、ほとんど本来の機能を果たしていない」
「というと?」
「不正が当然のように横行している」
うわ、と思わず嫌な声が出たせいで周りの目が一瞬で集まる。すみません、と頭を下げ、ハンサムに続きを促す。
「お前も一回くらい不自然に思っただろ。ビビアンに至ってはほぼ毎回サイデリアと組んでいる。どんな引きをしていたらああなるんだ」
「…確かに」
贔屓の闘士の闇の部分を指摘されて密かに凹む。ハンサムは気にした様子もなく続けた。
「まあこの程度の不正なんてかわいいもんだ。それでも知らないとかなり不利だろうが。…常連組でこれに手を出してないのはそれこそハンフリーくらいなものだろう」
グロッタ武闘大会絶対チャンピオン・ハンフリー。反応速度、防御力、破壊力共に常軌を逸した古強者。色々と噂こそあるが、彼の目的は己も育った孤児院の維持費稼ぎであり、基本的に善人の筆頭みたいな人物だ。それに裏打ちされたバトルマスターとしての圧巻の強さは、不正もものともしないのだろう。
「それでも強いというのがヤツの厄介なところだ。だが、それが故にヤツはパートナーとの連携面でどうしてもスキが生まれる。もし当たれば、そこを叩く!」
ぱしんとハンサムは小気味よく拳で手のひらを打つ。肉食獣のような獰猛で強い語調。乗合馬車に揺られていなければかなり格好がついたのではないかと思うが、あえて触れないのが優しさだ。
「じゃあ、私たちが確実に組めるという算段はついてるってことでいいのね?」
「当然だ。抜かりはない」
「わかった。ハンサムを信じることにする」
ちきり、と傍らのプラチナソードが私にだけわかるように鳴る。それで良いと言っているようだった。…もっとも取り憑いている悪魔がアレなので、実際のところそこに嫌味の十や二十ほど含まれていそうだったが。
「…あともう一つ気になること。聞いていい?」
「グロッタへの道のりはまだ長い。一つと言わず、ここでいくらでも潰していけ」
「ありがとう」
ちょっと前まで一人の男を巡って対立していたとは思えないほどマスク・ザ・ハンサムの態度は軟化していた。奇妙なくらい愛想が良いというのか、妙に優しいというか。……明らかに不自然だというのに、なぜか違和感を覚えることができない自分がいる。
「ハンサム。あなたが言うことには確か、ゴ…シルビアさんがグロッタに来るって話だよね。いくら【くじ引き】の結果とはいえ、私たちが組んでたらあの人から見たら不自然じゃない?」
「だがそれが【くじ引き】の結果だ。…それに恋敵同士が組むんだ、むしろドラマチックだと思わないか?」
そう言われて天を仰いでゴリアテさんのことを思う。脳内シミュレート。
「あー。シルビアさん、そういうの好きそう」
「だろ?もちろん不仲の体でいく。大まかな台本も用意している。ボクたちは元々友だちなんかじゃないんだ、これは簡単だろう」
ただし、少なくとも芝居は本気でやらないと万が一バレた時にあの人は怒る。少なくとも、くじ引きで不正するよりもだ。
何せ安っぽい演技をゴリアテさんはかなり嫌っていた。プロのエンターテイナーとして許せないのかもしれない。
「…なんかごめんね、色々準備してもらっちゃって」
「気にするな。…好きなんだ、こういうの」
そう言ったハンサムの笑みは、…少しだけ穏やかで満足そうだった。
と、不意に乗り心地最悪だった馬車の揺れが止まる。どういうわけか進行を止めたようだ。
乗り合わせた客たちが、思わぬ異常事態に戸惑いざわめき始める。年の頃はベロニカちゃん(の外見)と同じくらいだろうか。可愛らしい顔の男の子が、母と思しきそっくりな顔の女性の服の裾を怯えた顔で握るのが、ふと目に留まった。
「おおい!誰か!」
そんな中、外の御者のおじさんが困ったような声をあげた。
「魔物だ!!お客の中に戦える者はいないか!ちと俺の手には余る!手伝ってくれ!」
出発前、彼は元戦士だと自己紹介していたが、その声色に当時を思わせる勇ましさはない。しかしないなりに冷静な要請が終わらない頃には、私はプラチナソードを手に取り、馬車から降りるべく中腰になっていた。すぐにハンサムも続いてきて少し意外に思う。
私はデルカダールの兵士として民を守る教えを徹底的に叩き込まれていたが、彼がそのような思想を持ち合わせているイメージは、失礼ながらあまりないからだ。
「…丁度いい。連携をとる練習にでも洒落込もうじゃないか。なあ、エルザ」
演技掛かってにやりと笑う。どこか素直じゃないような理由付けがなんだか嬉しくなり、こちらも頬が緩んだ。
かくして始まるマスク・ザ・ハンサムとの初めての共闘。それがふと、奇妙な懐かしさに襲われる。たとえば大事な食材の買い忘れを、しかしまだ店内で気づくことができた、……そういう安堵感のような、ちょっとした嬉しささえ伴いながら。
「ライバル同士が組めば最強ってやつか」
そして悪い気はしなかった。
馬車を降りた先、縦にも横にも大きな御者のおじさんが必死になって剣を向け威嚇していたのは更に巨大なトロルだったけれど、それすらなんの問題にもならなかった。
「おもしろいね。乗った!」
土色をした巨大な敵に猛然と駆け寄るマスク・ザ・ハンサム。
やっぱりどこかで見たことがある光景だったけれど……それが何か思い出す日はきっと来ない。