仮面武闘会distortion
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人間とは本来朝に起きて活動し、夜には眠るものだ。デルカダールの兵士になった関係上夜勤もするようになったけれど、休日に関しては少なくともそういう体系を崩さないように意識して努力している。
そんなわけで本日も体形を守った爽やかな朝を迎えた。
顔を洗って窓を開ければ、ひんやりとした気持ちのいい風が入ってくる。日課としてコンロにメラで火を入れ、水を入れたヤカンを沸かす。火元から離れるのはなんとなく怖いので、しばらくそのまま待ってしまう派だ。ちりちりと金属を焼く音に耳を傾け数分、待ちくたびれる手前で水が沸騰してくる。コンロから湯気と熱を発するヤカンを降ろし、役目を終えた火を消すちょっと手前で、不意に呼び鈴が鳴った。
りんりん。
「はーい」
りんりん。
「ちょっと待ってくださーい」
りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん。
「ちょっ」
「何だ朝っぱらからやかましい」
執拗にチャイムを鳴らしまくる客に腹が立ったのか、背後霊ことホメロスさまが居候の分際で抗議をしてくる。
「さっさと出ろ、ウスノロ。これでは精神統一もままならん」
幽霊にそんなことをする必要があるのかと思ったけれど、いずれにせよ客を出迎えなければこの呼び鈴地獄は終わらなさそうだ。
無論私だってこの甲高いベル音ラッシュをいつまでも甘受していたくなんてない。
飽くまでも冷静に火を止めてから徒歩10歩をさっさと消化して、玄関のドアを開ける。
「遅い。いつまで待たせる気だバカ女」
ドアを閉め、施錠した。
「誰だ?」
と問いかけてくるホメロスさま。
顔はしっかり見ていたが、ドアの向こう側で火がついたように罵倒を繰り出すその男と面識はないようだ。
「グロッタの仮面武闘会の闘士です。…マスク・ザ・ハンサムっていう」
「ふざけているのか?」
「本名、知らないから」
ふうんと興味なさげホメロスさまの返事。
その間にもマスク・ザ・ハンサムはドアを叩いては聞くに耐えない暴言を撒き散らしている。闘士と言うにはずいぶんと線の細い女の子のような見た目をしているけれど、やはり彼も荒くれであるらしい。
この家の住所がデルカダール下層部近くでなければ即座に憲兵が飛んでくるのではと思うような、見事なまでの騒音だった。
「こっわいなー」
しかし喚くのにも疲れたのか、不意にぴたりとドア越しのハンサムの罵声が止む。
何事かと思ってもう少し待っていると、今度はすすり泣く声が聞こえ始めた。先ほどまで怒鳴り散らしていたくせに、とんだ豹変だった。
「エルザ…。エルザ、ひどいだろ…なあ?今更こんな仕打ちをボクにするのか?」
……聞いたこともない、甘えた声だ。
なんだこいつ突然きめんどうしでも現れてメダパニでもキメられたのだろうか、と一瞬バカらしい現実逃避などをしてみる。…すぐさま脳内で頭を振り、ハンサムはどうしたのだろうとホメロスさまに意見を聞いてみようかと彼の方を見ると、すでにもの凄い顔になっていた。
「忘れたとは言わせない。あの激しい夜…お前はボクの上で乱れながら何度も、何度も言ってくれたじゃないか!」
そしてまさかのド下ネタ。そして軽蔑の色を示したホメロスさまの顔が比例するようにどんどん険しくなっていく。
「で、デマカセだよ!あいつの!」
信じているのかいないのか、悪くも悪くもホメロスさまの表情は変わらない。
とにかくこの変なところで異様に潔癖な男に何を言っても、基本ドツボだと悟る。そして今はそれ以上に、ハンサムの発言がマズい。もちろん私はゴリアテさんしか知らないのだけれど、これを放置したらご近所さんから今後一体どんな目で見られるか!
「愛し……遅い!ヘンな芝居までさせやがって!」
「黙って!」
振りまかれる誤解を解くよりも、その元凶を黙らせるほうがとかく先決だ。なるべく不意をつくタイミングでドアをもう一度開くなり、ハンサムの腕を掴む。それからおよそ力任せに室内に引きずり込んでやる。 泣き喚く芝居に興じていた彼の姿勢はそれで崩れ、部屋に投げ込んだ頃には難なら尻もちをついていた。
「相変わらず乱暴な女だ!」
「はあ!?もう一回仮面割って泣かせてあげましょうか?」
「やらいでか!」
そう応えたハンサムが二本の短剣を抜こうとして――。
「…と、ケンカしに来たんじゃなかった」
やめた。思ったより理性的な言動。まじでなんだこいつ。
「エルザ。お前、何でも屋なんだってな。…頼みがある」
それは人に物を頼む態度とはとても思えない程のふてぶてしさだった。
……まず私何でも屋じゃないんだけど。
そんなわけで本日も体形を守った爽やかな朝を迎えた。
顔を洗って窓を開ければ、ひんやりとした気持ちのいい風が入ってくる。日課としてコンロにメラで火を入れ、水を入れたヤカンを沸かす。火元から離れるのはなんとなく怖いので、しばらくそのまま待ってしまう派だ。ちりちりと金属を焼く音に耳を傾け数分、待ちくたびれる手前で水が沸騰してくる。コンロから湯気と熱を発するヤカンを降ろし、役目を終えた火を消すちょっと手前で、不意に呼び鈴が鳴った。
りんりん。
「はーい」
りんりん。
「ちょっと待ってくださーい」
りんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりんりん。
「ちょっ」
「何だ朝っぱらからやかましい」
執拗にチャイムを鳴らしまくる客に腹が立ったのか、背後霊ことホメロスさまが居候の分際で抗議をしてくる。
「さっさと出ろ、ウスノロ。これでは精神統一もままならん」
幽霊にそんなことをする必要があるのかと思ったけれど、いずれにせよ客を出迎えなければこの呼び鈴地獄は終わらなさそうだ。
無論私だってこの甲高いベル音ラッシュをいつまでも甘受していたくなんてない。
飽くまでも冷静に火を止めてから徒歩10歩をさっさと消化して、玄関のドアを開ける。
「遅い。いつまで待たせる気だバカ女」
ドアを閉め、施錠した。
「誰だ?」
と問いかけてくるホメロスさま。
顔はしっかり見ていたが、ドアの向こう側で火がついたように罵倒を繰り出すその男と面識はないようだ。
「グロッタの仮面武闘会の闘士です。…マスク・ザ・ハンサムっていう」
「ふざけているのか?」
「本名、知らないから」
ふうんと興味なさげホメロスさまの返事。
その間にもマスク・ザ・ハンサムはドアを叩いては聞くに耐えない暴言を撒き散らしている。闘士と言うにはずいぶんと線の細い女の子のような見た目をしているけれど、やはり彼も荒くれであるらしい。
この家の住所がデルカダール下層部近くでなければ即座に憲兵が飛んでくるのではと思うような、見事なまでの騒音だった。
「こっわいなー」
しかし喚くのにも疲れたのか、不意にぴたりとドア越しのハンサムの罵声が止む。
何事かと思ってもう少し待っていると、今度はすすり泣く声が聞こえ始めた。先ほどまで怒鳴り散らしていたくせに、とんだ豹変だった。
「エルザ…。エルザ、ひどいだろ…なあ?今更こんな仕打ちをボクにするのか?」
……聞いたこともない、甘えた声だ。
なんだこいつ突然きめんどうしでも現れてメダパニでもキメられたのだろうか、と一瞬バカらしい現実逃避などをしてみる。…すぐさま脳内で頭を振り、ハンサムはどうしたのだろうとホメロスさまに意見を聞いてみようかと彼の方を見ると、すでにもの凄い顔になっていた。
「忘れたとは言わせない。あの激しい夜…お前はボクの上で乱れながら何度も、何度も言ってくれたじゃないか!」
そしてまさかのド下ネタ。そして軽蔑の色を示したホメロスさまの顔が比例するようにどんどん険しくなっていく。
「で、デマカセだよ!あいつの!」
信じているのかいないのか、悪くも悪くもホメロスさまの表情は変わらない。
とにかくこの変なところで異様に潔癖な男に何を言っても、基本ドツボだと悟る。そして今はそれ以上に、ハンサムの発言がマズい。もちろん私はゴリアテさんしか知らないのだけれど、これを放置したらご近所さんから今後一体どんな目で見られるか!
「愛し……遅い!ヘンな芝居までさせやがって!」
「黙って!」
振りまかれる誤解を解くよりも、その元凶を黙らせるほうがとかく先決だ。なるべく不意をつくタイミングでドアをもう一度開くなり、ハンサムの腕を掴む。それからおよそ力任せに室内に引きずり込んでやる。 泣き喚く芝居に興じていた彼の姿勢はそれで崩れ、部屋に投げ込んだ頃には難なら尻もちをついていた。
「相変わらず乱暴な女だ!」
「はあ!?もう一回仮面割って泣かせてあげましょうか?」
「やらいでか!」
そう応えたハンサムが二本の短剣を抜こうとして――。
「…と、ケンカしに来たんじゃなかった」
やめた。思ったより理性的な言動。まじでなんだこいつ。
「エルザ。お前、何でも屋なんだってな。…頼みがある」
それは人に物を頼む態度とはとても思えない程のふてぶてしさだった。
……まず私何でも屋じゃないんだけど。