獣たちの宴
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鏡の世界はひどく退屈だ。
何もなく、ただ鏡面に己の姿がずっと、それこそ無限大に映り続けていく。言うまでもなく、そのどれもが憔悴しきったシケた顔をしていた。
それでもボクの変身能力が失われたわけではない。……けれど、姿を変えるには『お手本』というものがボクには必要だった。
というわけで特徴をしっかり捉えられていて、かつ直近のファーリス王子や『ゴリアテさん』にならば、今でも簡単に化けられる。けれどそんなことしたって当然暇つぶしにもならない。
それ以前の人物はもうビジュアルすらも覚えていない。
……もっとも立派なドラゴンになれたところで、ボクの戦闘力は実のところそう大きく変わらない。彼の有名なグレイグ将軍に化けられたって、この状況の打開につながることはあり得なかった。
どうしてこうなっちゃったんだろうなぁと貧相にすら感じるヒトの膝を抱える。やっぱり王族なんて大物を狙わず、適当な町人にでも成りすましておくんだった。ひっそりとしたつまらない生き方かもしれないけれど、ささやかでも幸せだったはずだ。
従えていた現代の魔物たちに、良いのいいのと言われて担がれていた時を思い出す。あの考え無しどもめ、あいつらのせいでボクは、と責任転嫁をしかけ、しかし思い直す。
これをきっかけにロトゼタシアで天下を獲るという非現実的な野望に乗ったのは、紛れもなく自分だった。
「どこかに都合よく落ちてないかな。逆転の一手。…なんてあるわけないよなぁ」
泣いてしまいそうになる。いや、もう泣いている。どうせここにはボクとその鏡像しかいないのだから、涙を流してもかまいやしなかった。
堪える気もないのだから、水滴は留まることを知らず零れ落ちまくる。
くそ、なんなんだよ一体。
ボクがこうなる全てのきっかけとなった女に今度は思いを馳せる。エルザ。ボクをこんな事態に陥れた張本人にも関わらず、まだその名前はひどく魅力的に響く。
あの時、確かにボクは本気だった。彼女の戦士としての立ち回りのすべてがボクには妖精のダンスのように愛くるしく見えた。溢れんばかりの魔力は美酒のように芳醇にボクを酔わせた。
戦士であるという自称(実際に魔法戦士だった)に反して柔らかな身体を抱き締めた時は、二つの意味でおいしそうだと思った。
そして何よりあの愛の深さ。なりふり構わずに『ゴリアテさん』を愛する姿は底を見せず、狂気的でありながら、あまりに美しかった。
その情の一欠片でも向けてもらえたらどれだけボクは幸せだっただろうか!その思いが募り、そして逸り、あのダンジョンで、ボクのボウガンはエルザを狙った。
結果的に射抜いたのは彼女ではなく、彼女を庇った『ゴリアテさん』の方だったが。
そしてボクは完全にエルザの怒りを買ったのだ。
あとは思い出すのも恐ろしい。
「…ボクは手を出してはいけないものに手を出してしまったのか」
思わず口をついて出る彼女に対する感想も、誰に届くことなく消えてゆく――。
何もなく、ただ鏡面に己の姿がずっと、それこそ無限大に映り続けていく。言うまでもなく、そのどれもが憔悴しきったシケた顔をしていた。
それでもボクの変身能力が失われたわけではない。……けれど、姿を変えるには『お手本』というものがボクには必要だった。
というわけで特徴をしっかり捉えられていて、かつ直近のファーリス王子や『ゴリアテさん』にならば、今でも簡単に化けられる。けれどそんなことしたって当然暇つぶしにもならない。
それ以前の人物はもうビジュアルすらも覚えていない。
……もっとも立派なドラゴンになれたところで、ボクの戦闘力は実のところそう大きく変わらない。彼の有名なグレイグ将軍に化けられたって、この状況の打開につながることはあり得なかった。
どうしてこうなっちゃったんだろうなぁと貧相にすら感じるヒトの膝を抱える。やっぱり王族なんて大物を狙わず、適当な町人にでも成りすましておくんだった。ひっそりとしたつまらない生き方かもしれないけれど、ささやかでも幸せだったはずだ。
従えていた現代の魔物たちに、良いのいいのと言われて担がれていた時を思い出す。あの考え無しどもめ、あいつらのせいでボクは、と責任転嫁をしかけ、しかし思い直す。
これをきっかけにロトゼタシアで天下を獲るという非現実的な野望に乗ったのは、紛れもなく自分だった。
「どこかに都合よく落ちてないかな。逆転の一手。…なんてあるわけないよなぁ」
泣いてしまいそうになる。いや、もう泣いている。どうせここにはボクとその鏡像しかいないのだから、涙を流してもかまいやしなかった。
堪える気もないのだから、水滴は留まることを知らず零れ落ちまくる。
くそ、なんなんだよ一体。
ボクがこうなる全てのきっかけとなった女に今度は思いを馳せる。エルザ。ボクをこんな事態に陥れた張本人にも関わらず、まだその名前はひどく魅力的に響く。
あの時、確かにボクは本気だった。彼女の戦士としての立ち回りのすべてがボクには妖精のダンスのように愛くるしく見えた。溢れんばかりの魔力は美酒のように芳醇にボクを酔わせた。
戦士であるという自称(実際に魔法戦士だった)に反して柔らかな身体を抱き締めた時は、二つの意味でおいしそうだと思った。
そして何よりあの愛の深さ。なりふり構わずに『ゴリアテさん』を愛する姿は底を見せず、狂気的でありながら、あまりに美しかった。
その情の一欠片でも向けてもらえたらどれだけボクは幸せだっただろうか!その思いが募り、そして逸り、あのダンジョンで、ボクのボウガンはエルザを狙った。
結果的に射抜いたのは彼女ではなく、彼女を庇った『ゴリアテさん』の方だったが。
そしてボクは完全にエルザの怒りを買ったのだ。
あとは思い出すのも恐ろしい。
「…ボクは手を出してはいけないものに手を出してしまったのか」
思わず口をついて出る彼女に対する感想も、誰に届くことなく消えてゆく――。