獣たちの宴
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狭い空間で不意を打たれなければ、正直大したことのない相手ばかりだった。
「あまり調子に乗るなよ。お前はこれまで通りサポートに徹していろ」
などとホメロスさまが親みたいなことを言ってきたりはしたものの、実際普段通りに動いているだけで魔物はみるみる数を減らした。
元よりカミュくんマヤちゃん兄妹は先手を切ってガンガン攻める反面守りは割と疎かなところがあるし、私も戦士と名こそつくが実はタンク職ではない。
そして守る戦いがこの中で唯一得意なゴリアテさんだけれど、どちらかというとこの人も攻める方が向いている。
こういう言い方をすると負けた言い訳っぽいけれど、今回はとにかく攻撃特化のパーティーなのだ。
だから攻守が逆転すればもっとまともな戦いができたのだろうとあの時にも思っていた。けれど、まさかここまで顕著な差が出るなんて……。そんな驚きを抱えつつ、四人で残ったデザートゴーストを囲む。
「とうとう追い詰めたぜ」
ぱん、とマヤちゃんが両拳を打ち付ける。
少女と思えないくらい低く恐ろしげな声音。彼女の事情を聞く限り、この子もやはりこの魔物には相当な怒りを覚えているようだ。
「ひっ…ひいい!」
魔物の部下を全員倒され、いよいよ生命の終わりを感じているのだろう。つい先ほどまであんなに傲慢不遜だったデザートゴーストの悲鳴は、いよいよ情けないことになっていた。
尻もちをついたままそれでも必死に下がろうとするが、その度にマヤちゃんが追い詰める。まるで弱い者いじめのような絵面だったが、ゴリアテさんも兄であるカミュくんでさえ止めに入ろうとしない。
みんなこいつには散々コケにされてきている。全体的に殺気立っているのも当然のことだった。
「許してくれ!悪気はなかったんだ!」
「…だ、そうだが?」
内心腸煮えくり返っているだろうに、カミュくんはこの期に及んでクールを気取る。小首を傾げて話題を私に振るのを見て、デザートゴーストは声を裏返しながら命乞いを重ねてゆく。
あまりにも必死で憐れみを誘う様は、知らない人が見れば本当に弱いものいじめに思えたかも知れない。
「そ、そうだ!ファーリス王子を始めとした今回ボクたちが化けるのに使った『素材たち』だが、実は全員存命だ!人殺しはさすがにいけないと良心が働いたんだ!」
「ええ、知ってるわ。実際本物の王子ちゃんにもらったんだもの。このカ・ガ・ミ♥
……だから、ねーえ?そこはだけはとっても素敵よん、デザートゴーストちゃん」
先ほど勢い良くぶん投げたラーの鏡は、ゴリアテさん自ら回収していた。
それを手に、にっこり笑う。
「とはいえ、殺さなければ何をやっても良いわけじゃないと思うの。ね、エルザちゃんもそう思うでしょう?」
一転、甘く誘うような彼の視線が私に注がれる。劇を演じるよう、頷く。
事前に打ち合わせたとおり、ラーの鏡を受け取ってから、数歩前に出る。マヤちゃんと同じくらいの位置に並びデザートゴーストを睨みつけた。
「私の彼氏はこんなことを言うけどね、別にこちらは必要以上にお前を痛めつける気はない。私はお前なんかさくっと斃しちゃって、それでお終いで良いと思ってるけど」
ゴリアテさんの言動は、本当に単に斃すのとは違うところにある。
まあまあ彼の本性を知っている私はともかく、兄妹の前でその嗜虐性はありなんだろうかと、ごくどうでもいい心配をしながら続ける。
「ねえ、デザートゴースト。お前に良心っていうもののがあるなら、やったことに対する反省もできるはずだよね?」
ウンウンとデザートゴーストはよく動く口を止めてまで必死で頷く。続けるはずだった言葉を、
「じゃあ反省してもらおうじゃねーか。
…鏡の中でなぁ!!」
マヤちゃんに強奪された。
つまり鏡の悪魔を再び今までいたラーの鏡に封印するわけなんだけれども、この話はゴリアテさんと(そしてその意見に珍しく賛成したホメロスさまと)ちらっとしかしていない。
しかも終盤で魔物も数を減らしていたとはいえ戦闘中に。
本当にどうやって聞きつけたんだろう。
「そんな!…鏡は、鏡はイヤだ!」
デザートゴーストは真っ青になって絶叫する。
「そこに戻るくらいなら死んだ方がマシだ!頼む!殺してくれ!」
態度が先ほどまでと180度違う。俗っぽい気質を持つこの悪魔のことだから、想像するに鏡の中は、たとえばよっぽど何もない死ぬほど退屈な世界なのだろうか。
「いやいや、私たちも人間だからね。同胞の命を奪わなかった魔物の命を、奪うことまではしたくないの」
わざとらしく的はずれな回答を用いる。同胞なんて舞台か本の中でしか聞かないようなクサイ言葉も初めて使った。つまりそれほど適当なレベルの発言というわけだ。
一方でやりたいこと――デザートゴーストの封印だけは超本気。
鏡は異世界の入り口とはよく言ったもので、ラーの鏡のような特別な品でなくとも、封印のアイテムとしては比較的ポピュラーなものらしい。
もちろんこれはホメロスさまの入れ知恵だ。その方法も同時に習った。
私は契約により、悪魔の力を得たけれど、魔力の行使の方向性としてはむしろ元々の資質とよく噛み合った。知識さえあれば、ホメロスさまとの契約の下地すら恐らく必要ないほどに。
更に術式もさして複雑なものではなかった。使用するアイテム自体が強力なため、習ったその日に挑戦できるような初歩的な封印術でも、かなりの効果を期待できるようだ。だからぶっつけ本番ではあるが、失敗することはないだろう。溜飲も下がるし、あまりにも現状におあつらえ向きだった。
「さよなら、デザートゴースト。今度現世に復活してくることがあれば、ぜひ真っ当になってね」
「あまり調子に乗るなよ。お前はこれまで通りサポートに徹していろ」
などとホメロスさまが親みたいなことを言ってきたりはしたものの、実際普段通りに動いているだけで魔物はみるみる数を減らした。
元よりカミュくんマヤちゃん兄妹は先手を切ってガンガン攻める反面守りは割と疎かなところがあるし、私も戦士と名こそつくが実はタンク職ではない。
そして守る戦いがこの中で唯一得意なゴリアテさんだけれど、どちらかというとこの人も攻める方が向いている。
こういう言い方をすると負けた言い訳っぽいけれど、今回はとにかく攻撃特化のパーティーなのだ。
だから攻守が逆転すればもっとまともな戦いができたのだろうとあの時にも思っていた。けれど、まさかここまで顕著な差が出るなんて……。そんな驚きを抱えつつ、四人で残ったデザートゴーストを囲む。
「とうとう追い詰めたぜ」
ぱん、とマヤちゃんが両拳を打ち付ける。
少女と思えないくらい低く恐ろしげな声音。彼女の事情を聞く限り、この子もやはりこの魔物には相当な怒りを覚えているようだ。
「ひっ…ひいい!」
魔物の部下を全員倒され、いよいよ生命の終わりを感じているのだろう。つい先ほどまであんなに傲慢不遜だったデザートゴーストの悲鳴は、いよいよ情けないことになっていた。
尻もちをついたままそれでも必死に下がろうとするが、その度にマヤちゃんが追い詰める。まるで弱い者いじめのような絵面だったが、ゴリアテさんも兄であるカミュくんでさえ止めに入ろうとしない。
みんなこいつには散々コケにされてきている。全体的に殺気立っているのも当然のことだった。
「許してくれ!悪気はなかったんだ!」
「…だ、そうだが?」
内心腸煮えくり返っているだろうに、カミュくんはこの期に及んでクールを気取る。小首を傾げて話題を私に振るのを見て、デザートゴーストは声を裏返しながら命乞いを重ねてゆく。
あまりにも必死で憐れみを誘う様は、知らない人が見れば本当に弱いものいじめに思えたかも知れない。
「そ、そうだ!ファーリス王子を始めとした今回ボクたちが化けるのに使った『素材たち』だが、実は全員存命だ!人殺しはさすがにいけないと良心が働いたんだ!」
「ええ、知ってるわ。実際本物の王子ちゃんにもらったんだもの。このカ・ガ・ミ♥
……だから、ねーえ?そこはだけはとっても素敵よん、デザートゴーストちゃん」
先ほど勢い良くぶん投げたラーの鏡は、ゴリアテさん自ら回収していた。
それを手に、にっこり笑う。
「とはいえ、殺さなければ何をやっても良いわけじゃないと思うの。ね、エルザちゃんもそう思うでしょう?」
一転、甘く誘うような彼の視線が私に注がれる。劇を演じるよう、頷く。
事前に打ち合わせたとおり、ラーの鏡を受け取ってから、数歩前に出る。マヤちゃんと同じくらいの位置に並びデザートゴーストを睨みつけた。
「私の彼氏はこんなことを言うけどね、別にこちらは必要以上にお前を痛めつける気はない。私はお前なんかさくっと斃しちゃって、それでお終いで良いと思ってるけど」
ゴリアテさんの言動は、本当に単に斃すのとは違うところにある。
まあまあ彼の本性を知っている私はともかく、兄妹の前でその嗜虐性はありなんだろうかと、ごくどうでもいい心配をしながら続ける。
「ねえ、デザートゴースト。お前に良心っていうもののがあるなら、やったことに対する反省もできるはずだよね?」
ウンウンとデザートゴーストはよく動く口を止めてまで必死で頷く。続けるはずだった言葉を、
「じゃあ反省してもらおうじゃねーか。
…鏡の中でなぁ!!」
マヤちゃんに強奪された。
つまり鏡の悪魔を再び今までいたラーの鏡に封印するわけなんだけれども、この話はゴリアテさんと(そしてその意見に珍しく賛成したホメロスさまと)ちらっとしかしていない。
しかも終盤で魔物も数を減らしていたとはいえ戦闘中に。
本当にどうやって聞きつけたんだろう。
「そんな!…鏡は、鏡はイヤだ!」
デザートゴーストは真っ青になって絶叫する。
「そこに戻るくらいなら死んだ方がマシだ!頼む!殺してくれ!」
態度が先ほどまでと180度違う。俗っぽい気質を持つこの悪魔のことだから、想像するに鏡の中は、たとえばよっぽど何もない死ぬほど退屈な世界なのだろうか。
「いやいや、私たちも人間だからね。同胞の命を奪わなかった魔物の命を、奪うことまではしたくないの」
わざとらしく的はずれな回答を用いる。同胞なんて舞台か本の中でしか聞かないようなクサイ言葉も初めて使った。つまりそれほど適当なレベルの発言というわけだ。
一方でやりたいこと――デザートゴーストの封印だけは超本気。
鏡は異世界の入り口とはよく言ったもので、ラーの鏡のような特別な品でなくとも、封印のアイテムとしては比較的ポピュラーなものらしい。
もちろんこれはホメロスさまの入れ知恵だ。その方法も同時に習った。
私は契約により、悪魔の力を得たけれど、魔力の行使の方向性としてはむしろ元々の資質とよく噛み合った。知識さえあれば、ホメロスさまとの契約の下地すら恐らく必要ないほどに。
更に術式もさして複雑なものではなかった。使用するアイテム自体が強力なため、習ったその日に挑戦できるような初歩的な封印術でも、かなりの効果を期待できるようだ。だからぶっつけ本番ではあるが、失敗することはないだろう。溜飲も下がるし、あまりにも現状におあつらえ向きだった。
「さよなら、デザートゴースト。今度現世に復活してくることがあれば、ぜひ真っ当になってね」