獣たちの宴
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ヘルバトラーには歯が立たなかったマヤちゃんだが、ごうけつぐまたち相手ならば完全に無双状態だった。
さっさと補助呪文を一通り重ねがけし、素早く雑魚を殲滅。
残すはあらくれパンダのみになる。
転生体というのは通常の個体に較べ数こそ少ないが、大抵の場合その実力は比較にならないほど高い。
正直言って勝てるかどうかわからないのだが、それは一対一でやりあえば、という前提での話。
こちらには麒麟児マヤちゃんがいる。
彼女のようなタイプには、自分みたいな補助専門家は非常に相性が良い。
もちろんバイキルト優先だ。しかし一応、念の為。私は覚えたての詠唱を辿々しくなぞる。
『そいつを使うのか』
「…仕事に私情は挟まない主義です」
『ククク…エルザ殿にしては良い心がけだ』
耳元でまた幽霊が囁いた。どこか満足気なところが、また鬱陶しかった。
そんな私を嫌いなはずのホメロスさまは、しかしどういう気まぐれか最近いくつか魔法を教えてくれた。
たとえばこの防御力を上げる『スクルト』。
スペルこそ知ってはいたが、どうしてかこれまで唱えられなかった呪文。それがホメロスさまの教えに従い、特別製のプラチナソードを用いることでようやく唱えられるようになった。
とはいえぶっちゃけ詠唱直前まで、嘘を教えられていたのではないかとかなり本気で疑っていたけれど、魔法は問題なく発動。
マヤちゃんと自分を守る、見えない防御壁が生まれる。
「うわっ。姉御、スクルトまでできるんだな。おれ、魔法はからっきしだから、ほんとソンケーしちゃう」
「まだ覚えたてだけどね。…あとホイミはできないから、なるべく攻撃は貰わないで」
「オッケー、オッケー」
マヤちゃんは準備運動よろしくぴょんぴょんとその場でジャンプ。そうするなり、おもむろに猛スピードで駆け出す。
作戦も何もあったものではないが、彼女の最大の強みは恐らくアドリブ力の高さ。
圧倒的な身体能力で敵の動きに自分を同期させるのがうまいという長所は、これまでの戦いを見てわかったことだ。
「おせえな!さっきのヤツに比べたらコイツ全然おせえ!」
あらくれパンダの繰り出す鋭いパンチすら、マヤちゃんは示し合わせたように躱し続ける。
ある種のダンスのような動きは、才能に愛された者にしかできないのだと悟るに余りあった。
だんだん焦りが見えてくるあらくれパンダの隙をつき。
「るぉらっ!!」
懐に飛び込み、一撃。
これまでのタイガークローと違い翼が生えたように軽やかに飛び上がる両手アッパー。
バイキルトによって筋力を強化された、一見か弱い女の子のウイングブロウたったそれだけで、あらくれパンダの巨大な図体が浮き上がる。
美しささえ感じる一連の動き。もはや動く的でしかないモンスターが先に尻もちをついて、少女が降り立つ。
その瞬間が、私の出番。
マヤちゃんが戦っている間、彼女を手伝いもせずにずっと溜めていた魔力を解放する。
闇色の炎が一直線にあらくれパンダを撃ち抜き、内部から呑み込み、灼く。
その苦痛に、獣がとうとう悲鳴を上げた。
「あ…姉御?」
「ドルモーア。…ゴリアテさんたちには内緒ね」
唇に人差し指を当ててちょっとだけ気取ってみせて、それから、言う。
トドメを。
呆気に取られたままのマヤちゃんが曖昧に頷き、もうろくに動くこともできないあらくれパンダに黄金色のツメを突き刺して、仕留める。
「お疲れ、マヤちゃん」
「おう、エルザの姉御もお疲れ」
ぱちんと、マヤちゃんとお互いに軽く手のひらを打ち合わせる。もう立派な戦友の気分で、ムカムカした気分すら多少晴れていた。
だからというわけではないけれど、闇に還っていくあらくれパンダがどこかに持っていたパワーベルトは、彼女にあげることにした。
兄譲りの圧倒的な戦闘力を見せるこの子ならば、私よりよっぽど活用ができそうだからだ。
「マヤ!エルザ!無事だったか!」
そこにタイミングよくカミュくんとシルビアさんも帰ってくる。ヘルバトラー戦は無事に終えられたらしい。
「兄貴!こっちは姉御のお陰でまるで無傷だ!」
マヤちゃんが明るい声でする報告に付け足す。
「クマも全滅。何体かは逃げたかも知れないけど、リーダーっぽいあらくれパンダは仕留めたから、当面は問題ないと思う」
へへーんとマヤちゃんが戦利品であるパワーベルトを自慢げに見せびらかす。
そのあまりにも無邪気なはしゃぎっぷりに苦笑する兄に促されるままに、早速腰に巻き付け、装備をしていた。
「これで百人力だな」
「おう!」
すっかりご機嫌を直したマヤちゃんがあまりにもかわいい。
「二人とも」
一方で普段からは考えられないくらいのローテンションのシルビアさんが、これ以上ないくらい真顔で呼びかけてくる。
「ヘルバトラーを倒した辺りでね、見つけたわ。例のダンジョンの入り口」
もはやその機嫌は氷点下だったが、完全に自分のせいだ。謝らなきゃいけない。
……わかっていても、言い出せない。
「ま、そういうことだ。さっさと攻略しちまおうぜ」
マヤちゃんが、カミュくんが、私を抜き去りシルビアさんの方に歩いてゆく。
そのすれ違いざま、
「さっさと仲直りしてくれ。…頼むから」
とカミュくんにすごく困ったように言われた。
それができれば苦労しないんだけど…。
そんなことを思いつつも、ひとまずは彼らに追いつかなければならない。
誰にもわからないように溜息をついてから、再び重くなり始める足でがんばって歩き始めた。
さっさと補助呪文を一通り重ねがけし、素早く雑魚を殲滅。
残すはあらくれパンダのみになる。
転生体というのは通常の個体に較べ数こそ少ないが、大抵の場合その実力は比較にならないほど高い。
正直言って勝てるかどうかわからないのだが、それは一対一でやりあえば、という前提での話。
こちらには麒麟児マヤちゃんがいる。
彼女のようなタイプには、自分みたいな補助専門家は非常に相性が良い。
もちろんバイキルト優先だ。しかし一応、念の為。私は覚えたての詠唱を辿々しくなぞる。
『そいつを使うのか』
「…仕事に私情は挟まない主義です」
『ククク…エルザ殿にしては良い心がけだ』
耳元でまた幽霊が囁いた。どこか満足気なところが、また鬱陶しかった。
そんな私を嫌いなはずのホメロスさまは、しかしどういう気まぐれか最近いくつか魔法を教えてくれた。
たとえばこの防御力を上げる『スクルト』。
スペルこそ知ってはいたが、どうしてかこれまで唱えられなかった呪文。それがホメロスさまの教えに従い、特別製のプラチナソードを用いることでようやく唱えられるようになった。
とはいえぶっちゃけ詠唱直前まで、嘘を教えられていたのではないかとかなり本気で疑っていたけれど、魔法は問題なく発動。
マヤちゃんと自分を守る、見えない防御壁が生まれる。
「うわっ。姉御、スクルトまでできるんだな。おれ、魔法はからっきしだから、ほんとソンケーしちゃう」
「まだ覚えたてだけどね。…あとホイミはできないから、なるべく攻撃は貰わないで」
「オッケー、オッケー」
マヤちゃんは準備運動よろしくぴょんぴょんとその場でジャンプ。そうするなり、おもむろに猛スピードで駆け出す。
作戦も何もあったものではないが、彼女の最大の強みは恐らくアドリブ力の高さ。
圧倒的な身体能力で敵の動きに自分を同期させるのがうまいという長所は、これまでの戦いを見てわかったことだ。
「おせえな!さっきのヤツに比べたらコイツ全然おせえ!」
あらくれパンダの繰り出す鋭いパンチすら、マヤちゃんは示し合わせたように躱し続ける。
ある種のダンスのような動きは、才能に愛された者にしかできないのだと悟るに余りあった。
だんだん焦りが見えてくるあらくれパンダの隙をつき。
「るぉらっ!!」
懐に飛び込み、一撃。
これまでのタイガークローと違い翼が生えたように軽やかに飛び上がる両手アッパー。
バイキルトによって筋力を強化された、一見か弱い女の子のウイングブロウたったそれだけで、あらくれパンダの巨大な図体が浮き上がる。
美しささえ感じる一連の動き。もはや動く的でしかないモンスターが先に尻もちをついて、少女が降り立つ。
その瞬間が、私の出番。
マヤちゃんが戦っている間、彼女を手伝いもせずにずっと溜めていた魔力を解放する。
闇色の炎が一直線にあらくれパンダを撃ち抜き、内部から呑み込み、灼く。
その苦痛に、獣がとうとう悲鳴を上げた。
「あ…姉御?」
「ドルモーア。…ゴリアテさんたちには内緒ね」
唇に人差し指を当ててちょっとだけ気取ってみせて、それから、言う。
トドメを。
呆気に取られたままのマヤちゃんが曖昧に頷き、もうろくに動くこともできないあらくれパンダに黄金色のツメを突き刺して、仕留める。
「お疲れ、マヤちゃん」
「おう、エルザの姉御もお疲れ」
ぱちんと、マヤちゃんとお互いに軽く手のひらを打ち合わせる。もう立派な戦友の気分で、ムカムカした気分すら多少晴れていた。
だからというわけではないけれど、闇に還っていくあらくれパンダがどこかに持っていたパワーベルトは、彼女にあげることにした。
兄譲りの圧倒的な戦闘力を見せるこの子ならば、私よりよっぽど活用ができそうだからだ。
「マヤ!エルザ!無事だったか!」
そこにタイミングよくカミュくんとシルビアさんも帰ってくる。ヘルバトラー戦は無事に終えられたらしい。
「兄貴!こっちは姉御のお陰でまるで無傷だ!」
マヤちゃんが明るい声でする報告に付け足す。
「クマも全滅。何体かは逃げたかも知れないけど、リーダーっぽいあらくれパンダは仕留めたから、当面は問題ないと思う」
へへーんとマヤちゃんが戦利品であるパワーベルトを自慢げに見せびらかす。
そのあまりにも無邪気なはしゃぎっぷりに苦笑する兄に促されるままに、早速腰に巻き付け、装備をしていた。
「これで百人力だな」
「おう!」
すっかりご機嫌を直したマヤちゃんがあまりにもかわいい。
「二人とも」
一方で普段からは考えられないくらいのローテンションのシルビアさんが、これ以上ないくらい真顔で呼びかけてくる。
「ヘルバトラーを倒した辺りでね、見つけたわ。例のダンジョンの入り口」
もはやその機嫌は氷点下だったが、完全に自分のせいだ。謝らなきゃいけない。
……わかっていても、言い出せない。
「ま、そういうことだ。さっさと攻略しちまおうぜ」
マヤちゃんが、カミュくんが、私を抜き去りシルビアさんの方に歩いてゆく。
そのすれ違いざま、
「さっさと仲直りしてくれ。…頼むから」
とカミュくんにすごく困ったように言われた。
それができれば苦労しないんだけど…。
そんなことを思いつつも、ひとまずは彼らに追いつかなければならない。
誰にもわからないように溜息をついてから、再び重くなり始める足でがんばって歩き始めた。