獣たちの宴
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高いところから落としても、猫という生き物は死なないらしい。
なんでも、その柔軟な身体能力と肉球のクッションで傷一つなく華麗に着地できるんだとか。……実際にそれを見たことはないけれど。
サマディー城の二階バルコニー。天井までの高さがあるぶん、通常の建物であれば三階か、下手をすれば4階に相当するかもしれない。
そんなところから私は今しがた飛び降りた。
…いや、落ちたという方が正しいのかもしれない、それも頭から。とはいえ、表現はこの際どちらでもいい。
元々高いところを得意とする旅芸人ことゴリアテさんやずば抜けて運動神経の良いカミュくんあたりならばともかく、自分があの高さから落ちて無事でいられる自信なんてまるでなかった。
そこで咄嗟に思いついたのがイオの呪文だ。
『メガンテ』を唱えたあとバルコニーから落下。着地する寸前に、イオを得意の高速詠唱をして自分に当て、爆風で本命の衝撃を和らげる。
当然完全に無傷とはいかない結果にこそなったが、致命傷を負わずに済んだ。妥協点としては悪くない以上の成果である。
ちなみに『メガンテ』という呪文は、もちろん私には唱えられない。ホメロスさまの教えを受けている現在さえ、私には高度すぎる――このため、結局いつものハッタリ呪文だ。
今回はベギラマを自分に使った。
目くらましのギラを超える広範囲の閃光を爆発の光と思わせるために、わざわざ即興でそれっぽい詠唱まで作った。
なお破壊神シドーとは、最近オカルト雑誌で見かけた、小さなカルト宗教が崇拝する邪神の名前から適当に頂戴したものである。
嘘は大きいほど騙しやすい。とはいえあの演技の安さは、確実にゴリアテさんを怒らせるレベルなので、彼があの場にいなかったのは僥倖としか言いようない。
それはそれとして彼が唱えてくれるであろうリホイミが地味に楽しみである。閑話休題。
そんな死亡フラグに近いことを考えながらどうにかサマディー軍を撒き、ゴリアテさんたちが待つ宿に戻ってきた。
彼は本来サーカスのショーに出演するためにここに来ていて、私は仕事終わりにそれを楽しく観る予定だった。……予定が狂っちゃったなぁと若干泣きそうになりながら、部屋のドアをノックする。
「エルザちゃん!!」
わかっていてもその勢いに肩がびくんと跳ね上がった。
とはいえあれだけの濃い出来事の直後だったからか。早くも懐かしくすら感じるその愛しい声。
涙腺が緩んでいくのをはっきり自覚した。
「…って一体どうしたの!?ボロボロじゃない!」
そして決壊する。
「ゴリアテさん!ぅわああああん!!」
ぼたぼたと大粒の涙を溢しながら彼に抱きつく。
ああ。このにおいだ。
甘い花の香水と混じり合うゴリアテさんのにおいは、とにかくやわらかくて、大好きでたまらない。
依存してしまいそうなほどはまると言うのだろうか。
以前マルティナさんにうっかりそれを言ってしまってかなりガチ目にドン引きされたことがあるけれど、一番落ち着くものであることには間違いないし譲らない。
ファーリス王子のような何かの時とは違い、そっとながらもつい思い切り堪能してしまう。
「よしよし。エルザちゃんったら、大変だったのね。でももう大丈夫。今はアタシがいるんだから」
ゴリアテさんは優しく私の背中をぽんぽんと叩いてくれる。
その脱力を促すかのような心地よさの導くままにふにゃりとした声を出してしまった。
「少しは落ち着いたかしら」
「ん…ありがとう」
「いいのよ、お礼なんて」
いつの間にか後ろ髪で遊ばれている感覚に気づく。正直いつものことなので気にはならなくはある。けれどもなぜか、なんだかそれがとても嬉しくなってしまって、じわっと胸が温まる。その感覚を心地よくすら思いながら、ゴリアテさんの服の裾を握り、ずっと背の高い彼を見上げた。
「ねぇ、エルザちゃん。つもる話もあるでしょうけど――先にお風呂に入っちゃいましょうか。お湯も、もう張ってあるし」
何も考えず頷いてから……気づいてしまった。一気に不安に襲われる。
「…もしかしてにおってる?」
ファーリス【偽】王子のあのひどい獣臭が、あれほど密着していたのだ。移っていたって不思議ではない。
「あー…」
ゴリアテさんは決まり悪げに目を泳がせてからようやっと切り出した。
「お背中、流しますわよ。お嬢様」
きれいに微笑むも、割と無理矢理な感じだった。
「ゴリアテさん、これは…」
何か言い訳しようと思ったのだけれど。それを発声する直前、ゴリアテさんに膝裏と背中を抱えられてしまい、びっくりして引っ込んでしまった。
「やん、エルザちゃんってばそんな顔しないで」
「だって」
「とってもかわいくて。我慢できなくなっちゃう」
こうしてお姫様抱っこをいとも容易くされた私は、そのままゴリアテさんに風呂場まで強制連行されてしまうのであった。
なんでも、その柔軟な身体能力と肉球のクッションで傷一つなく華麗に着地できるんだとか。……実際にそれを見たことはないけれど。
サマディー城の二階バルコニー。天井までの高さがあるぶん、通常の建物であれば三階か、下手をすれば4階に相当するかもしれない。
そんなところから私は今しがた飛び降りた。
…いや、落ちたという方が正しいのかもしれない、それも頭から。とはいえ、表現はこの際どちらでもいい。
元々高いところを得意とする旅芸人ことゴリアテさんやずば抜けて運動神経の良いカミュくんあたりならばともかく、自分があの高さから落ちて無事でいられる自信なんてまるでなかった。
そこで咄嗟に思いついたのがイオの呪文だ。
『メガンテ』を唱えたあとバルコニーから落下。着地する寸前に、イオを得意の高速詠唱をして自分に当て、爆風で本命の衝撃を和らげる。
当然完全に無傷とはいかない結果にこそなったが、致命傷を負わずに済んだ。妥協点としては悪くない以上の成果である。
ちなみに『メガンテ』という呪文は、もちろん私には唱えられない。ホメロスさまの教えを受けている現在さえ、私には高度すぎる――このため、結局いつものハッタリ呪文だ。
今回はベギラマを自分に使った。
目くらましのギラを超える広範囲の閃光を爆発の光と思わせるために、わざわざ即興でそれっぽい詠唱まで作った。
なお破壊神シドーとは、最近オカルト雑誌で見かけた、小さなカルト宗教が崇拝する邪神の名前から適当に頂戴したものである。
嘘は大きいほど騙しやすい。とはいえあの演技の安さは、確実にゴリアテさんを怒らせるレベルなので、彼があの場にいなかったのは僥倖としか言いようない。
それはそれとして彼が唱えてくれるであろうリホイミが地味に楽しみである。閑話休題。
そんな死亡フラグに近いことを考えながらどうにかサマディー軍を撒き、ゴリアテさんたちが待つ宿に戻ってきた。
彼は本来サーカスのショーに出演するためにここに来ていて、私は仕事終わりにそれを楽しく観る予定だった。……予定が狂っちゃったなぁと若干泣きそうになりながら、部屋のドアをノックする。
「エルザちゃん!!」
わかっていてもその勢いに肩がびくんと跳ね上がった。
とはいえあれだけの濃い出来事の直後だったからか。早くも懐かしくすら感じるその愛しい声。
涙腺が緩んでいくのをはっきり自覚した。
「…って一体どうしたの!?ボロボロじゃない!」
そして決壊する。
「ゴリアテさん!ぅわああああん!!」
ぼたぼたと大粒の涙を溢しながら彼に抱きつく。
ああ。このにおいだ。
甘い花の香水と混じり合うゴリアテさんのにおいは、とにかくやわらかくて、大好きでたまらない。
依存してしまいそうなほどはまると言うのだろうか。
以前マルティナさんにうっかりそれを言ってしまってかなりガチ目にドン引きされたことがあるけれど、一番落ち着くものであることには間違いないし譲らない。
ファーリス王子のような何かの時とは違い、そっとながらもつい思い切り堪能してしまう。
「よしよし。エルザちゃんったら、大変だったのね。でももう大丈夫。今はアタシがいるんだから」
ゴリアテさんは優しく私の背中をぽんぽんと叩いてくれる。
その脱力を促すかのような心地よさの導くままにふにゃりとした声を出してしまった。
「少しは落ち着いたかしら」
「ん…ありがとう」
「いいのよ、お礼なんて」
いつの間にか後ろ髪で遊ばれている感覚に気づく。正直いつものことなので気にはならなくはある。けれどもなぜか、なんだかそれがとても嬉しくなってしまって、じわっと胸が温まる。その感覚を心地よくすら思いながら、ゴリアテさんの服の裾を握り、ずっと背の高い彼を見上げた。
「ねぇ、エルザちゃん。つもる話もあるでしょうけど――先にお風呂に入っちゃいましょうか。お湯も、もう張ってあるし」
何も考えず頷いてから……気づいてしまった。一気に不安に襲われる。
「…もしかしてにおってる?」
ファーリス【偽】王子のあのひどい獣臭が、あれほど密着していたのだ。移っていたって不思議ではない。
「あー…」
ゴリアテさんは決まり悪げに目を泳がせてからようやっと切り出した。
「お背中、流しますわよ。お嬢様」
きれいに微笑むも、割と無理矢理な感じだった。
「ゴリアテさん、これは…」
何か言い訳しようと思ったのだけれど。それを発声する直前、ゴリアテさんに膝裏と背中を抱えられてしまい、びっくりして引っ込んでしまった。
「やん、エルザちゃんってばそんな顔しないで」
「だって」
「とってもかわいくて。我慢できなくなっちゃう」
こうしてお姫様抱っこをいとも容易くされた私は、そのままゴリアテさんに風呂場まで強制連行されてしまうのであった。