それが罠とも知らずに
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「シルビ…んん、ゴリアテさん来てたの」
「ええ、来てたわ。エルザちゃんがそろそろアタシに会いたがってる気がし・て」
多分自前のものだろう。
見覚えのない表紙の本をぱたんと閉じてシルビアさんもといゴリアテさんは可憐にウインクした。
それだけで酔っ払いは充分死ぬのだが、そこをグレイグさまに叩き込まれた兵士根性でなんとか堪える。
「嬉しい!本当にちょうどそう思ってたの!」
なお嘘である。
本当はぶっちゃけ、そろそろどころか常に一緒にいたいくらいなのだが、さすがにそれは無理というものなので心の中にしまいこむ。
座っててと言われるままに席につく。
ゴリアテさんはまさに勝手知ったると言った体で鼻歌交じりにお茶を入れてくれる。
同棲こそしてないが、合鍵を渡して出入りは自由ということにしているのだ。
信頼してるし、生活が引き締まるからである。
「それにしても、今日は随分遅かったのね。お仕事?」
「ううん。最近仕事帰りにお酒飲むのにハマってて…もしかして、ゴリアテさんはごはんまだだった?」
「心配ご無用。あなたの予定がわからなかったし、もう食べてるわよ」
にっこりと笑う。ああなんかいいなあこの感じ。
かわいいお嫁さんがお家で出迎えてくれるとか、そういうやつ。
そんなシチュエーションにも似ていて、心がほっこりする。
現実は長身の年齢おじさんに片足突っ込んだ自称おとめだけれど。いやむしろだから良い。幸せ。
「ねえエルザちゃん、聞いていい?」
多分本人に自覚はないのだろうが。
慣れたを通りこしそれ自体が一つの演技かのような美しい手つきで、ゴリアテさんはカップにお茶を注いでいく。
「なあに?」
カップを2つ手に、彼は席につく。
きれい(語彙力の欠如)な所作で私のぶんを置いてくれる。
今日の絵柄はラベンダー。
時々この人は自分の趣味のものを勝手に置いていく。
「お酒を飲んで帰ったってその…一人で?」
ちょっとむっとした。
「やだな、疑ってるの?」
「そうじゃないけど…」
眉を下げ、少し弱々しげに声音は変化した。
「少し心配になるわ。かわいい女の子が酔ってて、しかも一人なんて…」
一瞬、きょとんとした。
ゴリアテさんは、【旅芸人シルビア】として活動しているだけあって、割とかなり個性的な感性をしている。
だからわからないかも知れないが、私は全くとは言わないまでもあまりモテる方ではない。
もっとも彼からモテればそれで充分なので、どうでも良いのだけど。
「大丈夫ですよ、そりゃ声かけられないことが全くないわけではないけど」
「ほらあるじゃない。で、どうしてるの?実力行使?」
私はゴリアテさんではなく、普段比較的身近にいるある人物の仏頂面を思い浮かべる。
「一々ケンカしてられないので、グレイグ将軍がバックについてるって言ってます。
大体これでなんとかなる」
「確かにあの堅物以上の虫除けはないわね…」
邪神を倒して以降、グレイグさまの英雄としての名誉はいよいよ不動のものになっていた。
人気だけで言えば勇者様より変わらず上かも知れない。
ゴリアテさんは納得したように頷いたが、やや複雑らしい。
「それにしても、グレイグがそんな扱いを良しとするなんて…」
「あ、許可取ってないです。特には」
「えっ」
一瞬暖かかったはずの部屋が静まり返る。
ゴリアテさんは話は戻るけど、と前置きした。
「ちなみにグレイグが効果なかったことってあるの?」
「あるよ。そしたらもうこれしかないよね」
と腕を叩いてみせた。
実力行使。
確かに私は勇者様たちとは埋めようのない実力と才能の差がある。
…しかし腐っても魔法戦士にして現役デルカダール兵。
たとえ男だろうと一般の人間に劣るつもりもなかった。
「集団で来られたら?」
「ゴリアテさん、私が乱戦が得意なの知ってるでしょ。魔法でもなんでも駆使するの。
羽交い締めにされたこともあったけど、自分ごとメラミに巻き込んでやったりしてさ」
「…相変わらず無茶するわね」
呆れたようにシルビアさんは言う。
いやいや、無茶もするよ。と内心ツッコミを入れた。
騎士の信念とは相容れないかも知れないが、利用できるものは利用するのが私流だ。
それには攻撃魔法に滅法強いという私の体質だって、当然含まれる。
全ては本当に大切なものを守るためである。
弱い人間は、取捨選択せざるを得ないのだ。
カップに残っていたお茶を一気に飲み干し、無言で席を立つ。
「ちょっとこっち来てもらえる?」
なんて偉そうに言ったりして。
相変わらずこの人は私をただ守るべき存在だと思っている節がある。
彼のそういうところも無論好きなのだけど、少しわかってもらう必要があった。心配ばかりかけるのも嫌だし。
「どうしたの、エルザちゃっ…!」
不意打ちは昔から得意だ。
というかそうでもなければここまでとてもやってこられなかった。
おもむろにタックルして、ゴリアテさんを押し倒す。
完全に気を許してくれているせいか、今までで一番簡単だった。
「えっ…」
ゴリアテさんは呆気に取られた様子だったが、すぐに状況を受け入れ、なるほどと笑い始める。
その声は彼にしては珍しい、抑え込むように喉を鳴らすものだった。
「心配いらないってことね。そりゃそうよ、エルザちゃんもまだまだ成長しているのですものね」
「わかってもらえて、嬉しいな」
平和な現在、ゴリアテさんが普段どれくらい鍛錬しているかは知らないが、こちらは現役で戦っているのだ。
多少は実力が近づいても良いというものだろう。いずれにしても、だ。
「私はゴリアテさん以外に私をあげる気なんてないんだから!」
ちょっとカッコつけたような啖呵を切りながらも、あまりない状況。
押し倒したゴリアテさんを見下ろす。
それだけで、そしてたぶん酒のせいで理性は大きくぐらつきを見せるが、なんとか平静を保つ。
この先があるにせよないにせよ、今はまずいとその一心で。
「ええ、来てたわ。エルザちゃんがそろそろアタシに会いたがってる気がし・て」
多分自前のものだろう。
見覚えのない表紙の本をぱたんと閉じてシルビアさんもといゴリアテさんは可憐にウインクした。
それだけで酔っ払いは充分死ぬのだが、そこをグレイグさまに叩き込まれた兵士根性でなんとか堪える。
「嬉しい!本当にちょうどそう思ってたの!」
なお嘘である。
本当はぶっちゃけ、そろそろどころか常に一緒にいたいくらいなのだが、さすがにそれは無理というものなので心の中にしまいこむ。
座っててと言われるままに席につく。
ゴリアテさんはまさに勝手知ったると言った体で鼻歌交じりにお茶を入れてくれる。
同棲こそしてないが、合鍵を渡して出入りは自由ということにしているのだ。
信頼してるし、生活が引き締まるからである。
「それにしても、今日は随分遅かったのね。お仕事?」
「ううん。最近仕事帰りにお酒飲むのにハマってて…もしかして、ゴリアテさんはごはんまだだった?」
「心配ご無用。あなたの予定がわからなかったし、もう食べてるわよ」
にっこりと笑う。ああなんかいいなあこの感じ。
かわいいお嫁さんがお家で出迎えてくれるとか、そういうやつ。
そんなシチュエーションにも似ていて、心がほっこりする。
現実は長身の年齢おじさんに片足突っ込んだ自称おとめだけれど。いやむしろだから良い。幸せ。
「ねえエルザちゃん、聞いていい?」
多分本人に自覚はないのだろうが。
慣れたを通りこしそれ自体が一つの演技かのような美しい手つきで、ゴリアテさんはカップにお茶を注いでいく。
「なあに?」
カップを2つ手に、彼は席につく。
きれい(語彙力の欠如)な所作で私のぶんを置いてくれる。
今日の絵柄はラベンダー。
時々この人は自分の趣味のものを勝手に置いていく。
「お酒を飲んで帰ったってその…一人で?」
ちょっとむっとした。
「やだな、疑ってるの?」
「そうじゃないけど…」
眉を下げ、少し弱々しげに声音は変化した。
「少し心配になるわ。かわいい女の子が酔ってて、しかも一人なんて…」
一瞬、きょとんとした。
ゴリアテさんは、【旅芸人シルビア】として活動しているだけあって、割とかなり個性的な感性をしている。
だからわからないかも知れないが、私は全くとは言わないまでもあまりモテる方ではない。
もっとも彼からモテればそれで充分なので、どうでも良いのだけど。
「大丈夫ですよ、そりゃ声かけられないことが全くないわけではないけど」
「ほらあるじゃない。で、どうしてるの?実力行使?」
私はゴリアテさんではなく、普段比較的身近にいるある人物の仏頂面を思い浮かべる。
「一々ケンカしてられないので、グレイグ将軍がバックについてるって言ってます。
大体これでなんとかなる」
「確かにあの堅物以上の虫除けはないわね…」
邪神を倒して以降、グレイグさまの英雄としての名誉はいよいよ不動のものになっていた。
人気だけで言えば勇者様より変わらず上かも知れない。
ゴリアテさんは納得したように頷いたが、やや複雑らしい。
「それにしても、グレイグがそんな扱いを良しとするなんて…」
「あ、許可取ってないです。特には」
「えっ」
一瞬暖かかったはずの部屋が静まり返る。
ゴリアテさんは話は戻るけど、と前置きした。
「ちなみにグレイグが効果なかったことってあるの?」
「あるよ。そしたらもうこれしかないよね」
と腕を叩いてみせた。
実力行使。
確かに私は勇者様たちとは埋めようのない実力と才能の差がある。
…しかし腐っても魔法戦士にして現役デルカダール兵。
たとえ男だろうと一般の人間に劣るつもりもなかった。
「集団で来られたら?」
「ゴリアテさん、私が乱戦が得意なの知ってるでしょ。魔法でもなんでも駆使するの。
羽交い締めにされたこともあったけど、自分ごとメラミに巻き込んでやったりしてさ」
「…相変わらず無茶するわね」
呆れたようにシルビアさんは言う。
いやいや、無茶もするよ。と内心ツッコミを入れた。
騎士の信念とは相容れないかも知れないが、利用できるものは利用するのが私流だ。
それには攻撃魔法に滅法強いという私の体質だって、当然含まれる。
全ては本当に大切なものを守るためである。
弱い人間は、取捨選択せざるを得ないのだ。
カップに残っていたお茶を一気に飲み干し、無言で席を立つ。
「ちょっとこっち来てもらえる?」
なんて偉そうに言ったりして。
相変わらずこの人は私をただ守るべき存在だと思っている節がある。
彼のそういうところも無論好きなのだけど、少しわかってもらう必要があった。心配ばかりかけるのも嫌だし。
「どうしたの、エルザちゃっ…!」
不意打ちは昔から得意だ。
というかそうでもなければここまでとてもやってこられなかった。
おもむろにタックルして、ゴリアテさんを押し倒す。
完全に気を許してくれているせいか、今までで一番簡単だった。
「えっ…」
ゴリアテさんは呆気に取られた様子だったが、すぐに状況を受け入れ、なるほどと笑い始める。
その声は彼にしては珍しい、抑え込むように喉を鳴らすものだった。
「心配いらないってことね。そりゃそうよ、エルザちゃんもまだまだ成長しているのですものね」
「わかってもらえて、嬉しいな」
平和な現在、ゴリアテさんが普段どれくらい鍛錬しているかは知らないが、こちらは現役で戦っているのだ。
多少は実力が近づいても良いというものだろう。いずれにしても、だ。
「私はゴリアテさん以外に私をあげる気なんてないんだから!」
ちょっとカッコつけたような啖呵を切りながらも、あまりない状況。
押し倒したゴリアテさんを見下ろす。
それだけで、そしてたぶん酒のせいで理性は大きくぐらつきを見せるが、なんとか平静を保つ。
この先があるにせよないにせよ、今はまずいとその一心で。