君はオルタナティブ
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「でも、不思議。なんでホメロスさまの姿がゴリアテさんにも見えるの?波長とかいうやつが、合ったの?」
「否。お前の身体を乗っ取った際に、多少魔力を拝借した。
それを媒介にして、顕現してみたと言うわけだ。
…実体こそないが、今ならば誰にでも見ることができる」
「ちょっとそれって!」
ホメロスさまの説明に口を挟んだのはゴリアテさんだ。
「魔力を拝借って簡単に言ったけど、それってエルザちゃんの負担になってるってこと!?
そうなら冗談じゃないわよ!この子、たった今目が覚めたばかりだっていうのに!」
不謹慎ながら私のために怒ってくれるという状況に感動する。
場を和ませる(?)ためにも惚れ直したって言おうかなと思いかけたその時、ホメロスさまは嘲るように口をつり上げた。
「ゴリアテと言ったか。
貴君は随分とこの女に肩入れしているようだが――しかし勘違いもしている。
貴君が思うほどこの女はある面においてはやわではない」
「どういうことよ」
「魔法職でない貴君には理解できぬかも知れぬが、エルザは生きた魔力の貯蔵庫のようなものだ。
私の助けがあってのこととはいえ、黒竜をほぼメラミのみで倒してなお、その魔力は底を見せない。
…もっとも、身体の方は耐えきれなかったようだが」
実験観察しがいのある動物を見るようなホメロスさまの目が微かに煌めく。
生前は知将と呼ばれただけあり、知的好奇心は強いのだろう。
その対象くらいには私はなったのかも知れない。
「じゃあまさか…!エルザちゃんが倒れたのはブラックドラゴンじゃなく、あなたのせい!」
そしてその言に、ゴリアテさんは顔を真っ青にし、口を押さえた。
しかし目は鋭く、怒りを抑えているように見える。
「ご名答。しかし、恋人の命の恩人に対して随分な言い草ではないか、ゴリアテ殿。
私が使ってやらねば今頃この女は黒竜に食い殺されていただろう。貴君が間にあわなかったせいでな」
その様すらホメロスさまは嘲笑い、煽る。
私が言うのも難だが、この二人相当反りが合わないようだ。なんとなく想像はついていたけれど。
この二人と友だち(過去形含む)のグレイグさまって実はすごい気がしてきた。
「アタシがね……間に合わなかったのは認めるわ」
いよいよ空気が悪くなった折、ゴリアテさんが大きく息をつく。少し声が震えて、悔しさを滲ませながら静かに意を述べる。
「ホメロスちゃんが、エルザちゃんを救ってくれたのは事実よ……。
そこは感謝してるし、実際あなたの存在も彼女にとってはさほどの負担でもないのかもしれない。…でもね」
シリアスな場面ですらいつもどこか余裕の笑みを絶やさないゴリアテさんが、この時ばかりは真顔だった。
ひたすらに鋭い眼差しで、ホメロスさまに言い放つ。
「エルザちゃんが嫌がってる。理由はそれで充分なのよ。今すぐこの子から離れなさい」
空気を読まなければ卒倒上等のイケメンすぎる言い回し。
あと何度この人に惚れ直せば良いのだろうか、と思うと尊すぎて涙が出てきた。
一方で完全に悪役のようになったホメロスさまは皮肉な笑みを顔に貼り付けたまま、肩を竦める。聞く耳を持たないといったところだ。
「そうして私に何のメリットが?」
ゴリアテさんも色々と負けていなかった。
「メリット、ねえ。
…ちょっとホメロスちゃんってば、頭が良いからって人を見下しすぎじゃないかしら。
だからアタシみたいな伏兵にしてやられることになるの。
ダーハルーネでのあなたの失態、実に見物だったわ」
「…何が言いたい?」
ゴリアテさんはそこで唐突に私の方に向き直る。
「ね、エルザちゃん?…ってなんで泣いてるの」
私には打って変わって、優しい言葉遣いで。
「ゴリアテさんが尊すぎて…つい涙が」
「…あ、うん。ありがとう。とにかくショーが終わってからで、もちろんいいわ。
グレイグに少し休暇を延ばすようお願いしてもらえるかしら」
「なんで?」
首を傾げると、ゴリアテさんはにっこりと笑った。
優しくてきらきらとしたいつものそれは、ようやく誤解がとけて一つの危機が解決したのだと確信させてくれる。
「ロウちゃんのところに行くのよ。もちろんアタシもついて行くわ。
一緒に剣の呪い、解いちゃいましょ!」
な、とホメロスさまは声にならない声を上げる。ゴリアテさんの言うとおりと言ったところか、一気に焦り始める。
「ふざけるな貴様!そんなことできるわけが…!」
「あなたも一国の将軍だったなら、ロウちゃんの力くらい把握しているでしょう。
…仮にあの人自身がおはらいできなくても、そういう知り合いはいると思うわ、いくらでも」
そっか。幽霊であるがゆえにゴリアテさんを止める術を持たないせいで歯噛みするしかないホメロスさまを見やる。
なんかすごくナチュラルにホメロスさまの存在もプラチナソードも、嫌味も呪いも受け入れていたけど、拒絶する方法ってあったんだ。
むしろなんで気づかなかったレベルの大きすぎる目の鱗。
いや、そんなことをすればホメロスさまがどうなってしまうかわからない。
だからあえて気づきたくなかっただけなのか。
「おいエルザ。お前からもなんとか言え。出来損ないのお前がオレを手放して良いのか?
己よりはるかに強大な魔物を倒す爽快感、あれは何物にも替えがたいものだ。…また味わいたいものだろう?」
いっそ哀れなくらいホメロスさまの色んなものが崩壊している。
取り乱しっぷりを見るに、この方でもそして幽霊という存在でも、死ぬというのは怖いらしい。
「ゴリアテさん…」
「なあに?」
そう言って首を傾げる彼の提案にこそ、私が乗るべき選択肢だった。
「素敵な発想ですね!私ったら全然思いつかなかった!そうしましょう、ぜひ!」
そもそもホメロスさまは生理的に無理な相手である。
剣の幽霊としてしばらく過ごしてきて多少人となりを知って、悪感情も僅かだが和らいできた。
が、それ以上に色々無理だった。
もちろんゴリアテさんみたいに好きすぎて無理という意味ではない。
ゆえに恩を仇で返すと言われようが、迷いは生じない。
「うふふ。じゃあ決まりね!」
顔を見合わせ、笑いあう。自分を取り戻した気分だった。
「ちょっと待て!おかしいぞ貴様ら!」
喚くホメロスさまの身体が更に薄くなっていく。私が魔力の供給を意識的にやめたせいだ。
「…じゃ、そろそろ行きましょうか」
幽霊が完全に消えた(見えなくなった)のを確認してから、ゴリアテさんはぽつりと呟く。
「うん。本番前なのにほんとごめんね。余計な心配させちゃって」
「結果的に無事だったからもう良いのよ」
先ほどまでの不機嫌はどこへやら。
すでにホメロスさまがいた事実などまるでなかったことにするようにゴリアテさんは微笑み、未だに地べたに座っている私に手を差し伸べる。
「明日はね、新技を用意してるの。楽しみにしててね!」
彼に引っ張りあげられ、立ち上がる。ズボンについた草を払ってから、私は笑い返した。
「もちろんだよ!むしろ楽しみすぎて今日寝られるかなー?」
冗談めいた発言に、ゴリアテさんはくすくすと笑う。
「うふふ、エルザちゃんったら。ショーの時に寝てたなんてことになっちゃイヤよ」
そんなことを言い合いながら二人してイシの村を目指すわけだがその折に、
『このままで終わると思うなよ』
なんて恨みがましい声が確かに聞こえた。
「否。お前の身体を乗っ取った際に、多少魔力を拝借した。
それを媒介にして、顕現してみたと言うわけだ。
…実体こそないが、今ならば誰にでも見ることができる」
「ちょっとそれって!」
ホメロスさまの説明に口を挟んだのはゴリアテさんだ。
「魔力を拝借って簡単に言ったけど、それってエルザちゃんの負担になってるってこと!?
そうなら冗談じゃないわよ!この子、たった今目が覚めたばかりだっていうのに!」
不謹慎ながら私のために怒ってくれるという状況に感動する。
場を和ませる(?)ためにも惚れ直したって言おうかなと思いかけたその時、ホメロスさまは嘲るように口をつり上げた。
「ゴリアテと言ったか。
貴君は随分とこの女に肩入れしているようだが――しかし勘違いもしている。
貴君が思うほどこの女はある面においてはやわではない」
「どういうことよ」
「魔法職でない貴君には理解できぬかも知れぬが、エルザは生きた魔力の貯蔵庫のようなものだ。
私の助けがあってのこととはいえ、黒竜をほぼメラミのみで倒してなお、その魔力は底を見せない。
…もっとも、身体の方は耐えきれなかったようだが」
実験観察しがいのある動物を見るようなホメロスさまの目が微かに煌めく。
生前は知将と呼ばれただけあり、知的好奇心は強いのだろう。
その対象くらいには私はなったのかも知れない。
「じゃあまさか…!エルザちゃんが倒れたのはブラックドラゴンじゃなく、あなたのせい!」
そしてその言に、ゴリアテさんは顔を真っ青にし、口を押さえた。
しかし目は鋭く、怒りを抑えているように見える。
「ご名答。しかし、恋人の命の恩人に対して随分な言い草ではないか、ゴリアテ殿。
私が使ってやらねば今頃この女は黒竜に食い殺されていただろう。貴君が間にあわなかったせいでな」
その様すらホメロスさまは嘲笑い、煽る。
私が言うのも難だが、この二人相当反りが合わないようだ。なんとなく想像はついていたけれど。
この二人と友だち(過去形含む)のグレイグさまって実はすごい気がしてきた。
「アタシがね……間に合わなかったのは認めるわ」
いよいよ空気が悪くなった折、ゴリアテさんが大きく息をつく。少し声が震えて、悔しさを滲ませながら静かに意を述べる。
「ホメロスちゃんが、エルザちゃんを救ってくれたのは事実よ……。
そこは感謝してるし、実際あなたの存在も彼女にとってはさほどの負担でもないのかもしれない。…でもね」
シリアスな場面ですらいつもどこか余裕の笑みを絶やさないゴリアテさんが、この時ばかりは真顔だった。
ひたすらに鋭い眼差しで、ホメロスさまに言い放つ。
「エルザちゃんが嫌がってる。理由はそれで充分なのよ。今すぐこの子から離れなさい」
空気を読まなければ卒倒上等のイケメンすぎる言い回し。
あと何度この人に惚れ直せば良いのだろうか、と思うと尊すぎて涙が出てきた。
一方で完全に悪役のようになったホメロスさまは皮肉な笑みを顔に貼り付けたまま、肩を竦める。聞く耳を持たないといったところだ。
「そうして私に何のメリットが?」
ゴリアテさんも色々と負けていなかった。
「メリット、ねえ。
…ちょっとホメロスちゃんってば、頭が良いからって人を見下しすぎじゃないかしら。
だからアタシみたいな伏兵にしてやられることになるの。
ダーハルーネでのあなたの失態、実に見物だったわ」
「…何が言いたい?」
ゴリアテさんはそこで唐突に私の方に向き直る。
「ね、エルザちゃん?…ってなんで泣いてるの」
私には打って変わって、優しい言葉遣いで。
「ゴリアテさんが尊すぎて…つい涙が」
「…あ、うん。ありがとう。とにかくショーが終わってからで、もちろんいいわ。
グレイグに少し休暇を延ばすようお願いしてもらえるかしら」
「なんで?」
首を傾げると、ゴリアテさんはにっこりと笑った。
優しくてきらきらとしたいつものそれは、ようやく誤解がとけて一つの危機が解決したのだと確信させてくれる。
「ロウちゃんのところに行くのよ。もちろんアタシもついて行くわ。
一緒に剣の呪い、解いちゃいましょ!」
な、とホメロスさまは声にならない声を上げる。ゴリアテさんの言うとおりと言ったところか、一気に焦り始める。
「ふざけるな貴様!そんなことできるわけが…!」
「あなたも一国の将軍だったなら、ロウちゃんの力くらい把握しているでしょう。
…仮にあの人自身がおはらいできなくても、そういう知り合いはいると思うわ、いくらでも」
そっか。幽霊であるがゆえにゴリアテさんを止める術を持たないせいで歯噛みするしかないホメロスさまを見やる。
なんかすごくナチュラルにホメロスさまの存在もプラチナソードも、嫌味も呪いも受け入れていたけど、拒絶する方法ってあったんだ。
むしろなんで気づかなかったレベルの大きすぎる目の鱗。
いや、そんなことをすればホメロスさまがどうなってしまうかわからない。
だからあえて気づきたくなかっただけなのか。
「おいエルザ。お前からもなんとか言え。出来損ないのお前がオレを手放して良いのか?
己よりはるかに強大な魔物を倒す爽快感、あれは何物にも替えがたいものだ。…また味わいたいものだろう?」
いっそ哀れなくらいホメロスさまの色んなものが崩壊している。
取り乱しっぷりを見るに、この方でもそして幽霊という存在でも、死ぬというのは怖いらしい。
「ゴリアテさん…」
「なあに?」
そう言って首を傾げる彼の提案にこそ、私が乗るべき選択肢だった。
「素敵な発想ですね!私ったら全然思いつかなかった!そうしましょう、ぜひ!」
そもそもホメロスさまは生理的に無理な相手である。
剣の幽霊としてしばらく過ごしてきて多少人となりを知って、悪感情も僅かだが和らいできた。
が、それ以上に色々無理だった。
もちろんゴリアテさんみたいに好きすぎて無理という意味ではない。
ゆえに恩を仇で返すと言われようが、迷いは生じない。
「うふふ。じゃあ決まりね!」
顔を見合わせ、笑いあう。自分を取り戻した気分だった。
「ちょっと待て!おかしいぞ貴様ら!」
喚くホメロスさまの身体が更に薄くなっていく。私が魔力の供給を意識的にやめたせいだ。
「…じゃ、そろそろ行きましょうか」
幽霊が完全に消えた(見えなくなった)のを確認してから、ゴリアテさんはぽつりと呟く。
「うん。本番前なのにほんとごめんね。余計な心配させちゃって」
「結果的に無事だったからもう良いのよ」
先ほどまでの不機嫌はどこへやら。
すでにホメロスさまがいた事実などまるでなかったことにするようにゴリアテさんは微笑み、未だに地べたに座っている私に手を差し伸べる。
「明日はね、新技を用意してるの。楽しみにしててね!」
彼に引っ張りあげられ、立ち上がる。ズボンについた草を払ってから、私は笑い返した。
「もちろんだよ!むしろ楽しみすぎて今日寝られるかなー?」
冗談めいた発言に、ゴリアテさんはくすくすと笑う。
「うふふ、エルザちゃんったら。ショーの時に寝てたなんてことになっちゃイヤよ」
そんなことを言い合いながら二人してイシの村を目指すわけだがその折に、
『このままで終わると思うなよ』
なんて恨みがましい声が確かに聞こえた。