君はオルタナティブ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ようやく気絶ができたことに感謝するのは後にも先にもこれっきりにしたい。
気がつけば私は木陰に寝かされていた。
そしてのぞき込んでくるゴリアテさんの顔が。とても近い。
「よかった!目が覚めたのね!」
「う、うん…。って、ゴリアテさん!?ショーは!?」
慌てて身を起こす私にゴリアテさんは微笑み、優しく首を振る。
「安心して。まだ前日よ。追い込みがうまくいかなくて気分転換にお散歩してたの。
そうしたら…魔物ちゃんのすごい悲鳴が聞こえて。
何事かと思って駆けつけてみたら、あなたがいたっていうわけ」
「そうなの…。助けてくれて、ありがとう。
ブラックドラゴンに出くわしちゃって、勝てる気なんかしてなかったから」
「それが…」
と言ってゴリアテさんは一度言葉を切る。どこか気まずそうだった。
「間にあわなかったのよ。あなたが倒れた直後、ブラックドラゴンちゃんも倒れたわ。
それでそのまま事切れちゃったの。…アタシは気絶したエルザちゃんをここまで運んだだけ。
こう言っちゃ失礼だけど、あなたがたった独りでブラックドラゴンちゃんを倒したことを疑問に思いながらね」
にっこりとゴリアテさんは笑った。が、なんていうかめっちゃ怒っていた。
怒鳴ったりしないが一方でその静けさに、私は震え上がるしかない。
「さ、エルザちゃん。今回はどんな無茶をしてどういう言い訳を聞かせてくれるの?
事と次第によっては、もう無理ができないようにしちゃうわね」
ゴリアテさんにすでに色々教育されている身体が危機感に反応して泣きそうになる。
そして当然のように剣の霊の声は聞こえず。
ただ本当のことを言ったって信じてもらえないだろうという当然の結末を予想しながら、おずおずと傍らに置いてあったプラチナソードを手に取り、差し出す。
「そういえば、剣を新調したのね。
…その割には随分使い込まれてるみたいだけど。それが、どうかしたの?」
ホメロスさま怒るだろうなぁと思ったけど、他にいい表現が浮かばないからそういうことにした。
「これ、ある人のお古なんだけどね。…呪われてたの」
「お古?…って呪い!?」
「これに取り憑いた霊に、すごく嫌味を言われる呪い。あと、すごく強い魔法が撃てるようになるけど、滅茶苦茶無理をさせられる呪い!」
そう言った瞬間、予想もしないことが起きた。
プラチナソードが輝き出す。黄みがかった、覚えのあるそれ。
次には半透明になった金髪に真っ白な鎧を着た美しい男が現れていた。紛れもなくホメロスさまである。
「なっ…。えっ…。これは一体…」
ゴリアテさんは色を失う。
かつて勇者の仲間として旅をして、たくさんの不思議な出来事に触れてきたはずの彼だけれど、さすがにこれは困惑ものでしかないらしい。
「これはこれは、勇者様のお仲間殿。私の姿が見えるとはな」
私には絶対見せない笑み。よそ行きの顔。
私を相手にする時とは違い、取り繕う価値がゴリアテさんにはあるのだと嫌でも察する。
「あなた…確か命の大樹で、…死んだはずじゃ…!」
ゴリアテさんの声が震えている。ホメロスさまは、愉快そうに目を細めた。
「…ゴリアテさん、落ち着いて。ホメロスさまは実際死んでる。
つまり、この人こそがこの剣に取り憑いた霊」
プラチナソードを持ち直すと、返事をするように音が鳴った。
「デルカダールで色々あってこの剣を持つことになったんだけど。そうしたら憑いてきたの」
「人をおまけのように」
事情を説明してはみたけれど、やはりゴリアテさんは理解しきれなかったようだ。
…無理もない。全ての命は寿命を終えると命の大樹に送られるとされているのだ。
だからこの世にホメロスさまが未だに留まっているのは、通常考えられない話。
魔族に殺されたせいか、或いは犯した罪があまりにも大きかったせいか。
彼を取り巻く因果が何かはわからないが、いずれにしてもロトゼタシアにおいてはあり得ない存在であることには変わりない。
「深く考えなくていいよ、ゴリアテさん。
この人の魂ってやつが、命の大樹に受取拒否されたみたいなものだから」
「おい貴様オレに対する口の利き方には気をつけろ」
「えーっと、つまり…」
ゴリアテさんは目を白黒させながらようやく答えを出した。
「アタシ浮気されたってこと…?」
ただしまだ混乱しているみたいで、全くトンチンカンなものだった。
「ゴリアテさん!!」
なおかつ私の全く気にいらない結論だった。
「なんで私が!
あなたをほっぽってあんな良いのは顔だけの性格最悪男のしかも幽霊を好きになんなきゃいけないの!!
いくらゴリアテさんでも、言っていいことと悪いことっていうのがあるよ!!」
「…今回ばかりはお前に同意だ、エルザ殿。お前と恋仲など、死んでもごめんだ。すでに死んだ身だがな」
滅茶苦茶腹が立ったに任せて、言う。ホメロスさまも、とてもムカつく言い回しで後押ししてくれた。
「あ、うん。ごめんなさい。そうみたいね…」
珍しく気圧された風なゴリアテさんはあっさり(引き気味にだが)自分の意見を覆した。