第二回デルカダール軍特別会議
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マルティナ姫の命令に一瞬で態度をごく真面目なものに切り替えたグレイグ将軍は短く返事する。
「…とはいえ、今日は議論をするわけではありません。前回も結局のところそうでしたが。
ただ私は兵士エルザに問いたいことがあり、この場を姫に設けていただいた次第です」
「前置きはいいわ。早く話してちょうだい」
「はっ。つい先日のことでした。私はエルザと模擬試合を行ったのですが――」
「グレイグと?うわっエルザかわいそー」
「ええ…」
グレイグさまを急かしてみたり、かと思えば話を脱線させてみたり。
あまりにマイペースなマルティナさんに翻弄されながら、グレイグさまはどうにか話を押し進める。
「その際、気になることがございました」
そこまで話したグレイグさまは、こちらを向く。
「エルザ、偶然お前の首に妙なアザが見えた。首を締められたような、そんなものだ。…何かあったのか?」
びっくりして思わず、首を触った。
「そんなのあったの?グレイグよく見えたわね」
「肉迫した際全くの偶然だったのですが…」
マルティナさんがつっと寄ってきて、首のところをのぞき込んでくる。少し恥ずかしくなりながら、手をどけて見せた。
「あー、ホントだまだ残ってる。もうほんの微かに、まだ赤いってだけだけど」
「マジ?」
「マジよ。何かあったの?」
そう言う彼女の声は真剣だった。
私はどう言ったものか、黙りこむ。
…首を締められるなんて事態ふつうではないことくらいわかっているが、今回ばかりは別にそう深刻な話ではない。
とはいえ、説明はひどく難しかった。
「エルザ。何を言い淀む必要がある?まさか軍内でお前に手を出した不届き者がいるわけではあるまいな?」
「それは違う!違うんですが…」
やはり言い回しに迷ってしまう。
言い淀んだのをグレイグさまは明後日の方向に解釈してしまった。
「まさか、本当にいるのか?お前を妬…んだかどうかはわからんが。軍内でそのようなことなど、あってはならんことだ!」
「グレイグ。私エルザにはしばらくなるべくかまわない方が良いって言ったわよね?
本当にそうなら私の忠告を無視したあなたにも多分責任があるわ」
「そ、そうですね」
まるで猪のような勢いで義憤に駆られるグレイグさまと、それを冷たくたしなめるマルティナさん。
それを眺めていた私にしか見えない霊が、相変わらずの男だと呆れた感じにため息を吐く。
「…すまないことをしたな、エルザ」
「い、いえ。私は…」
「改めて約束しよう。このグレイグ、必ずこの問題を解決してみせると」
多分すごく熱い展開なのだろうこれは。
心なしかグレイグさまの顔がいつもより若干イケメンに見える。
いやホメロスさまやゴリアテさんと並ぶから残念に見えるだけで、そして私服のセンスがとても残念なだけで、顔は悪くない。
ただ全く好みじゃなかった。
「違うんです…」
あと時々セーニャさん以上の天然なのもポイントが低かった。
でもそれらを全部クリアしたとしても、私にはゴリアテさんがいるのでまるで関係ない話だった。
そういうことを思いながら、先輩の女性兵士たちが楽しそうに(かなり美化が入った)グレイグさまの噂話しているのを聞いていた。
彼女らもデルカダール軍の一員、仕事の面ではひどく厳しかったが、オフでは新参者でロクな生まれではない私にもとても優しかった。
当然職場いじめみたいなのとは、およそ無縁である。
「このアザは別に誰にやられたってわけじゃなくて…」
「自分で締めたとでも言うのか?それほあり得んだろう」
すかさず反論が入る。
暴力が絡めば正論が言えるんだなこの人と非常に失礼な感想が脳裏を過ぎる。
「いやそうなんですけど。…うーん」
本当に大したことではない。ただ、プライバシーに関わる問題だから、話したくないだけ。
…と言ったところで、すでに私のことを哀れにも暴力の犠牲になった者認定しているグレイグさまは納得しないだろう。
「まさか、加害者を庇っているのではあるまいな?なぜそんな必要が…」
彼がそこまで言ったところで、マルティナさんははっと何かを察したように自分の口もとを抑えた。
本来私は割と物怖じしない性格であり、言いたいことがあれば、良くも悪くも誰にでもはっきり言う。
少しも後ろめたいことがない限りはだが。
「ねえ、グレイグ。もうその辺にした方が良いんじゃない?エルザも言いたくないみたいだし」
「何を仰るか、姫様。これはデルカダール軍全体の問題に他がありませんぞ。
新人を妬み危害を加えるなど決してあってはならぬことです!」
「だーかーらー!そもそも軍は関係ないのよ!そうでしょう?ねえ、エルザ?」
マルティナさんの問いに、私は頷く。妖怪四角四面男は困惑する。
「ありがとう。マルティナさん庇ってくれて。
…でも本当のこと言わないと、グレイグさまは納得しないでしょ。絶対」
はーっ、とため息を吐き、覚悟を決める。絶対ドン引きされるけどもういいや。
「私の首を締めたのはゴリアテさんです」
マルティナさんはほらねという顔をしたし、グレイグさまは動揺した。
「なっ…!お前とゴリアテは良い仲だろう!?
なぜそんなことをする必要がある!ケンカでもしたのか?」
「ケンカで首を締める展開になってたら、多分私もうこの世にいませんよ」
自分の羞恥心をおいて苦笑してしまう。
いっそおもしろいくらいにグレイグさまの声は震えていた。
ではなぜ、と聞かれる前に白状する。…少しでも覚悟が決まっているうちに。
「で、なんで彼がそうするかなんですけど、首を締めたら、よく締まるって」
グレイグさまはすぐに意味が理解できなかったらしい。
疑問符を数個並べたおじさんが己の中で解答を弾き出した頃には、顔が赤くも青くもなっていた。
「あ、あのゴリアテが己の欲望のためにそんなことを…!?にわかには信じられんが…しかし」
「それも若干違います」
口を挟む。が、それ以上を言うことはさすがに躊躇われた。
…いやもう言っても良いのだが(すでに手遅れ感満載だが)完全に逆セクハラだ。
コンプライアンス大丈夫?と為政者の娘に確認を取る。ゴーサインが出た。
「その、なんていうか…私の希望でもあるし」
「は?」
「自分の命すらあの人に委ねるのってなんか…すごいイイなって」
油断していれば自分の世界に行ってしまう。
それはさすがにまずいので内心で喝を入れつつ、本音を言語化する。
当然ながらグレイグさまは何もわからないようだったが、この件に関しては多分そして本当にそれでいいと思う。
「グレイグ。シルビアもエルザも、多分あなたが思ってるより大分救いようのない人間よ。性的な意味で」
「そ、そのようですな…」
マルティナさんが非常に的確かつ失礼な形で話を〆て、こちらに向き直る。
ここで完結してるからいいじゃんか。いや、だからこそ庇ってくれてるのか。
「それでエルザ」
小悪魔とも女神ともつかない感じに、マルティナさんは笑った。
「あなたたち、いつ結婚するのかしら?」
その直後、色々とキャパシティを超過したらしいグレイグさまが、とうとうぶっ倒れて病院に運ばれた。
こうして、第二回デルカダール軍特別会議はお開きとなった。
そのままグレイグ将軍は2日ほど入院したが、原因はストレスによる重度の胃潰瘍だった。
その様子を見て私の剣に取り憑いている金髪の幽霊も、さすがに眉間に深いしわを刻みつつも気の毒そうにしていた。
彼は生前親友であるグレイグさまのことを相当に妬み、それが頂点に達した結果、デルカダールも裏切る凶行に出たわけだが、初めてそれを後悔も反省もした様子だった。
『グレイグの周りの人間がこれほどまでに濃いとは。兄弟弟子も部下も変態など、オレならば到底堪えられぬ。
…支えてやらねばならなかったのだな』
いやでもお前が言うな???
「…とはいえ、今日は議論をするわけではありません。前回も結局のところそうでしたが。
ただ私は兵士エルザに問いたいことがあり、この場を姫に設けていただいた次第です」
「前置きはいいわ。早く話してちょうだい」
「はっ。つい先日のことでした。私はエルザと模擬試合を行ったのですが――」
「グレイグと?うわっエルザかわいそー」
「ええ…」
グレイグさまを急かしてみたり、かと思えば話を脱線させてみたり。
あまりにマイペースなマルティナさんに翻弄されながら、グレイグさまはどうにか話を押し進める。
「その際、気になることがございました」
そこまで話したグレイグさまは、こちらを向く。
「エルザ、偶然お前の首に妙なアザが見えた。首を締められたような、そんなものだ。…何かあったのか?」
びっくりして思わず、首を触った。
「そんなのあったの?グレイグよく見えたわね」
「肉迫した際全くの偶然だったのですが…」
マルティナさんがつっと寄ってきて、首のところをのぞき込んでくる。少し恥ずかしくなりながら、手をどけて見せた。
「あー、ホントだまだ残ってる。もうほんの微かに、まだ赤いってだけだけど」
「マジ?」
「マジよ。何かあったの?」
そう言う彼女の声は真剣だった。
私はどう言ったものか、黙りこむ。
…首を締められるなんて事態ふつうではないことくらいわかっているが、今回ばかりは別にそう深刻な話ではない。
とはいえ、説明はひどく難しかった。
「エルザ。何を言い淀む必要がある?まさか軍内でお前に手を出した不届き者がいるわけではあるまいな?」
「それは違う!違うんですが…」
やはり言い回しに迷ってしまう。
言い淀んだのをグレイグさまは明後日の方向に解釈してしまった。
「まさか、本当にいるのか?お前を妬…んだかどうかはわからんが。軍内でそのようなことなど、あってはならんことだ!」
「グレイグ。私エルザにはしばらくなるべくかまわない方が良いって言ったわよね?
本当にそうなら私の忠告を無視したあなたにも多分責任があるわ」
「そ、そうですね」
まるで猪のような勢いで義憤に駆られるグレイグさまと、それを冷たくたしなめるマルティナさん。
それを眺めていた私にしか見えない霊が、相変わらずの男だと呆れた感じにため息を吐く。
「…すまないことをしたな、エルザ」
「い、いえ。私は…」
「改めて約束しよう。このグレイグ、必ずこの問題を解決してみせると」
多分すごく熱い展開なのだろうこれは。
心なしかグレイグさまの顔がいつもより若干イケメンに見える。
いやホメロスさまやゴリアテさんと並ぶから残念に見えるだけで、そして私服のセンスがとても残念なだけで、顔は悪くない。
ただ全く好みじゃなかった。
「違うんです…」
あと時々セーニャさん以上の天然なのもポイントが低かった。
でもそれらを全部クリアしたとしても、私にはゴリアテさんがいるのでまるで関係ない話だった。
そういうことを思いながら、先輩の女性兵士たちが楽しそうに(かなり美化が入った)グレイグさまの噂話しているのを聞いていた。
彼女らもデルカダール軍の一員、仕事の面ではひどく厳しかったが、オフでは新参者でロクな生まれではない私にもとても優しかった。
当然職場いじめみたいなのとは、およそ無縁である。
「このアザは別に誰にやられたってわけじゃなくて…」
「自分で締めたとでも言うのか?それほあり得んだろう」
すかさず反論が入る。
暴力が絡めば正論が言えるんだなこの人と非常に失礼な感想が脳裏を過ぎる。
「いやそうなんですけど。…うーん」
本当に大したことではない。ただ、プライバシーに関わる問題だから、話したくないだけ。
…と言ったところで、すでに私のことを哀れにも暴力の犠牲になった者認定しているグレイグさまは納得しないだろう。
「まさか、加害者を庇っているのではあるまいな?なぜそんな必要が…」
彼がそこまで言ったところで、マルティナさんははっと何かを察したように自分の口もとを抑えた。
本来私は割と物怖じしない性格であり、言いたいことがあれば、良くも悪くも誰にでもはっきり言う。
少しも後ろめたいことがない限りはだが。
「ねえ、グレイグ。もうその辺にした方が良いんじゃない?エルザも言いたくないみたいだし」
「何を仰るか、姫様。これはデルカダール軍全体の問題に他がありませんぞ。
新人を妬み危害を加えるなど決してあってはならぬことです!」
「だーかーらー!そもそも軍は関係ないのよ!そうでしょう?ねえ、エルザ?」
マルティナさんの問いに、私は頷く。妖怪四角四面男は困惑する。
「ありがとう。マルティナさん庇ってくれて。
…でも本当のこと言わないと、グレイグさまは納得しないでしょ。絶対」
はーっ、とため息を吐き、覚悟を決める。絶対ドン引きされるけどもういいや。
「私の首を締めたのはゴリアテさんです」
マルティナさんはほらねという顔をしたし、グレイグさまは動揺した。
「なっ…!お前とゴリアテは良い仲だろう!?
なぜそんなことをする必要がある!ケンカでもしたのか?」
「ケンカで首を締める展開になってたら、多分私もうこの世にいませんよ」
自分の羞恥心をおいて苦笑してしまう。
いっそおもしろいくらいにグレイグさまの声は震えていた。
ではなぜ、と聞かれる前に白状する。…少しでも覚悟が決まっているうちに。
「で、なんで彼がそうするかなんですけど、首を締めたら、よく締まるって」
グレイグさまはすぐに意味が理解できなかったらしい。
疑問符を数個並べたおじさんが己の中で解答を弾き出した頃には、顔が赤くも青くもなっていた。
「あ、あのゴリアテが己の欲望のためにそんなことを…!?にわかには信じられんが…しかし」
「それも若干違います」
口を挟む。が、それ以上を言うことはさすがに躊躇われた。
…いやもう言っても良いのだが(すでに手遅れ感満載だが)完全に逆セクハラだ。
コンプライアンス大丈夫?と為政者の娘に確認を取る。ゴーサインが出た。
「その、なんていうか…私の希望でもあるし」
「は?」
「自分の命すらあの人に委ねるのってなんか…すごいイイなって」
油断していれば自分の世界に行ってしまう。
それはさすがにまずいので内心で喝を入れつつ、本音を言語化する。
当然ながらグレイグさまは何もわからないようだったが、この件に関しては多分そして本当にそれでいいと思う。
「グレイグ。シルビアもエルザも、多分あなたが思ってるより大分救いようのない人間よ。性的な意味で」
「そ、そのようですな…」
マルティナさんが非常に的確かつ失礼な形で話を〆て、こちらに向き直る。
ここで完結してるからいいじゃんか。いや、だからこそ庇ってくれてるのか。
「それでエルザ」
小悪魔とも女神ともつかない感じに、マルティナさんは笑った。
「あなたたち、いつ結婚するのかしら?」
その直後、色々とキャパシティを超過したらしいグレイグさまが、とうとうぶっ倒れて病院に運ばれた。
こうして、第二回デルカダール軍特別会議はお開きとなった。
そのままグレイグ将軍は2日ほど入院したが、原因はストレスによる重度の胃潰瘍だった。
その様子を見て私の剣に取り憑いている金髪の幽霊も、さすがに眉間に深いしわを刻みつつも気の毒そうにしていた。
彼は生前親友であるグレイグさまのことを相当に妬み、それが頂点に達した結果、デルカダールも裏切る凶行に出たわけだが、初めてそれを後悔も反省もした様子だった。
『グレイグの周りの人間がこれほどまでに濃いとは。兄弟弟子も部下も変態など、オレならば到底堪えられぬ。
…支えてやらねばならなかったのだな』
いやでもお前が言うな???