第二回デルカダール軍特別会議
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その日私は一介の兵士でありながら、マルティナ姫の私室に呼び出されていた。
何事だろうとも何か無礼を働いたのだろうかとも思ったけれど、前回のアレを思うに恐らく大したことではないだろう。
…いや私にとっては充分大したことだが。色んな意味で命の危機すら感じたができればあのことは今すぐ忘れたいのが本音だ。
そんな苦い経験を思い出しながらマルティナ姫の部屋のドアをノックする。
「兵士エルザです。お目通り…」
言い終わる前に、どうぞーと気のない返事が来る。重々しくドアを開ける。
相変わらず豪華な部屋だが、心なしかトレーニング機器が増えていた。
例の真っ赤でふわふわな絨毯に放置されているダンベルが、あの時より二回りは大きい気がする。
素人目にも完成まで年単位がかかっているだろうことは予想できる。
この絨毯を作った職人は本当に泣いていい。
座り心地最高の豪華なソファにマルティナ姫は座っていた。
傍らにはグレイグ将軍が立っている。そのことには特に触れず、マルティナ姫はにやりと笑う。
「来たわね、まあ座りなさい。…グレイグも」
グレイグさまとほぼ同じタイミングで返事をして、マルティナさんと向かい合う。
つまりもうすでにみんなオフだった。基本的にオンのスイッチしかないグレイグさま以外は。
尻が埋りそうなソファでこっそり寛いでいると、メイドさんがお茶とお菓子を運んでくる。
一礼し、こちらに手伝わせない素早い動きでそれらをセットしてからまたお辞儀して退出していくのも前回と同じだ。
「…で、グレイグ。会議の前に例によって聞きたいんだけど」
「何なりと」
「これ作ったの…あなた?」
「…本日はチーズケーキに挑戦してみたのですが、何かおかしなところでも?」
言葉面だけ見たら開き直ったかのようなグレイグさまの言。
しかし彼はなぜそんなことを聞かれたのか本気で理解できない様子だった。
困ったように眉を若干下げ、小首を傾げる。ゴリアテさん以外のおっさんには恐らく許されない所作だった。
「なんか腹立つわね…よく見なさい」
私の頭の中にあるチーズケーキは、表面は大体おいしそうなきつね色をしているが、グレイグさまの力作は真っ黒だった。
「煙が出てるでしょう?」
「はあ…」
「あなたが鎮圧した戦場でも表現したの?」
「そのようなつもりは…」
因みにこの自称チーズケーキ。
よく見たら所々炭化しているのだが、私のぶんに関しては実は小さな赤い光がひっそりと明滅している。
つまり、まだちょっと燃えているのだ。言うまでもなく全く嬉しくないサプライズである。
グレイグさまは城に住み込みだからたぶん台所を借りて作っているのだろうが、なんていうかメイドさん止めて差し上げてよ。
いつか火事が起きるぞ。
「…いい加減上達しないと、台所立入禁止にするわよ」
「返す言葉もありません」
そして意外とマルティナさんはグレイグさまをあっさりと許した。
前回会議のこの将軍の健気な様子を見るに、やめさせたくてもやめさせられないのが多分この方の本音なのだろうとは思うけれど。
『マルティナ姫でもダメか。グレイグの奴め、近頃墓に来ることが増えたと思ったらあのような菓子もどきを供えてくるのだ。
しかも一向に上達しない。あれは間違いなくセンスがない。迷惑している。この際お前でもいい即刻やめさせろ』
その折ふとそんな声が聞こえた。ここにはいるはずのない人。
深雪のように冷たく美しく、あくまで私の個人的な感想だが生理的に嫌いな声。
「…グレイグさま!私も応援してますね!お菓子作り!!」
私はその声を無視してグレイグさまを激励する言葉を投げた。
「そうか!姫にもエルザにも応援されるのであればますます頑張らねばなるまい!!」
根が単純もとい純粋なグレイグさまはそれで素直に機嫌が直った。
急変した私の態度に、マルティナさんはやや不審そうにしていた。まあいいかと髪をかき上げると。
「さてと。そろそろ本題に入るわよ。といっても、今回の議題は私じゃなくてグレイグの提供なんだけど。じゃ、お願いね」
何事だろうとも何か無礼を働いたのだろうかとも思ったけれど、前回のアレを思うに恐らく大したことではないだろう。
…いや私にとっては充分大したことだが。色んな意味で命の危機すら感じたができればあのことは今すぐ忘れたいのが本音だ。
そんな苦い経験を思い出しながらマルティナ姫の部屋のドアをノックする。
「兵士エルザです。お目通り…」
言い終わる前に、どうぞーと気のない返事が来る。重々しくドアを開ける。
相変わらず豪華な部屋だが、心なしかトレーニング機器が増えていた。
例の真っ赤でふわふわな絨毯に放置されているダンベルが、あの時より二回りは大きい気がする。
素人目にも完成まで年単位がかかっているだろうことは予想できる。
この絨毯を作った職人は本当に泣いていい。
座り心地最高の豪華なソファにマルティナ姫は座っていた。
傍らにはグレイグ将軍が立っている。そのことには特に触れず、マルティナ姫はにやりと笑う。
「来たわね、まあ座りなさい。…グレイグも」
グレイグさまとほぼ同じタイミングで返事をして、マルティナさんと向かい合う。
つまりもうすでにみんなオフだった。基本的にオンのスイッチしかないグレイグさま以外は。
尻が埋りそうなソファでこっそり寛いでいると、メイドさんがお茶とお菓子を運んでくる。
一礼し、こちらに手伝わせない素早い動きでそれらをセットしてからまたお辞儀して退出していくのも前回と同じだ。
「…で、グレイグ。会議の前に例によって聞きたいんだけど」
「何なりと」
「これ作ったの…あなた?」
「…本日はチーズケーキに挑戦してみたのですが、何かおかしなところでも?」
言葉面だけ見たら開き直ったかのようなグレイグさまの言。
しかし彼はなぜそんなことを聞かれたのか本気で理解できない様子だった。
困ったように眉を若干下げ、小首を傾げる。ゴリアテさん以外のおっさんには恐らく許されない所作だった。
「なんか腹立つわね…よく見なさい」
私の頭の中にあるチーズケーキは、表面は大体おいしそうなきつね色をしているが、グレイグさまの力作は真っ黒だった。
「煙が出てるでしょう?」
「はあ…」
「あなたが鎮圧した戦場でも表現したの?」
「そのようなつもりは…」
因みにこの自称チーズケーキ。
よく見たら所々炭化しているのだが、私のぶんに関しては実は小さな赤い光がひっそりと明滅している。
つまり、まだちょっと燃えているのだ。言うまでもなく全く嬉しくないサプライズである。
グレイグさまは城に住み込みだからたぶん台所を借りて作っているのだろうが、なんていうかメイドさん止めて差し上げてよ。
いつか火事が起きるぞ。
「…いい加減上達しないと、台所立入禁止にするわよ」
「返す言葉もありません」
そして意外とマルティナさんはグレイグさまをあっさりと許した。
前回会議のこの将軍の健気な様子を見るに、やめさせたくてもやめさせられないのが多分この方の本音なのだろうとは思うけれど。
『マルティナ姫でもダメか。グレイグの奴め、近頃墓に来ることが増えたと思ったらあのような菓子もどきを供えてくるのだ。
しかも一向に上達しない。あれは間違いなくセンスがない。迷惑している。この際お前でもいい即刻やめさせろ』
その折ふとそんな声が聞こえた。ここにはいるはずのない人。
深雪のように冷たく美しく、あくまで私の個人的な感想だが生理的に嫌いな声。
「…グレイグさま!私も応援してますね!お菓子作り!!」
私はその声を無視してグレイグさまを激励する言葉を投げた。
「そうか!姫にもエルザにも応援されるのであればますます頑張らねばなるまい!!」
根が単純もとい純粋なグレイグさまはそれで素直に機嫌が直った。
急変した私の態度に、マルティナさんはやや不審そうにしていた。まあいいかと髪をかき上げると。
「さてと。そろそろ本題に入るわよ。といっても、今回の議題は私じゃなくてグレイグの提供なんだけど。じゃ、お願いね」