Hevenly sun
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グロッタに住む元仮面の闘士は、武闘会のルールの影響か元々つるみがちではあったけれど、あの一件があってから更にその傾向は強くなった。
勇者によって魔王が討伐され、世界は平和を取り戻したある日のこと。
今では名物となったグロッタカジノも魔物の置土産のイメージすら払拭し、ますます賑わいを見せている。
ステージ付きの酒場も同様で、このぶんならば魔物に魔改造された闘技場を復活させる資金ができるまですぐなのではないかと素人目にも思えた。
…もっともカジノの方がむしろ儲かりすぎて、逆に復活しないのではとか、そんな危惧もあったけれど。
「今日は踊らないの?ラゴス」
「気分じゃない」
そ。ビビアンは流すように返すと、勝手に隣に座る。
許可した覚えはないんだが、と言おうとするも、ボクの隣に更に誰か座ったせいで中断せざるを得なかった。
「サイデリア…」
いつも愉快犯じみた相方と違い、女戦士の表情は心配そうなそれだった。
「…大丈夫かい?アンタ、あれからずっと元気ないじゃないか」
当然だろ、と思いながらグラスの安酒を呷る。
ベタベタしたオレンジ色に違わず品も何もないアルコールと、甘ったるい果汁風の添加物の味しかしないカクテル。
酒は得意ではないのだけれど、飲んでいなければとてもやっていけない。
「そう、見えるか」
「ああ、仮面越しでもわかる。顔が死んでんだ」
「そうか…」
バリクナジャとホロゴーストによってさらわれた挙句魔物に変えられた子どもたちは、全員人の姿を取り戻した上で戻って来た。
数が予想以上に多く、ブチャラオ村まで先導するだけでも一苦労だったが、そこは面倒みのいいファーリスやベロリンマンが上手くやってくれた。
ボクにはできそうにないと感心したものだ。
なお、旅の同行者が一気に増えたせいで一番の懸念と化した帰りの船に関してだが、驚いたことにカンダタの船がメダチャットに、曰く『偶然』寄港していた。
しかも、仕事の都合でこれまた『偶然』バンデルフォン地方まで行くというので、ありがたく同乗させてもらった。
なお、エルザがカンダタとの約束を守れなくなった件について話す必要があったがそれについては『俺様があの世に行ったら覚えてろよ』とのことである。
…言葉の割にひどく残念そうにしていたけれど。
「なあ。ハンフリーは、今どうしてる?」
「子守りで忙しいみたいだよ。やっぱり何もかも元通りとはいかなかったようでね」
かくしてボクたちはハンフリーと交わした子どもたちを取り戻す約束を履行した。
しかし一方で厄介な利息をつけてしまった。
一つはすでに飽和状態に近かった孤児院の子どもの数を更に増やしてしまったこと。
魔物どもは子どもを主にグロッタ、ブチャラオ、メダ女学園の三箇所から集めていたようだが、他の地方も全く手つかずというわけではなかったようだ。
親も家も、下手したら健在かすらわからないような行き場のない子どもが少なからずいた。
当然人の良いハンフリーのこと、そういった子を見捨てるなどするはずもなく受け入れている。
現状サイデリアやベロリンマンあたりが特に積極的に手伝いに入っているが、それでも手が回り切っていなかった。
「こちらの問題だからファーリスに頼るわけにもいかないし、困ったものだな」
「あら、あの王子サマなら、喜んで手伝ってくれると思うわよ。他ならぬおトモダチの頼み事だもの。
サイデリアも喜ぶわよ。…ねえ?」
ビビアンもボクのよりずっと強い酒を注文していた。
薄っすら琥珀色をしたグラスの中身をちろりと舐めながらそんな助言をし、怪しく笑う。
「ちょ、ちょっと!そういう言い方はせめてアタイがいない時にするもんだろ!!」
それは同意だが、マジかお前。サイデリアは顔を面白いくらいに真っ赤にして首を振る。
マジかお前。二回目に思う。惚れてるのか。この女は昼間から酒を飲むほど不真面目ではない。
だからおよそ図星だ、と確信する。
ビビアンと一緒になってからかってやっても良かったが、そんな気力はなかった。
「まあ、サイデリアのことは別にしても、あいつの助けは借りなければならないとはボクも思う。
…はしゃいでいるチビたちのこともあるしな」
「ハンクたちね。…バリクナジャったら、つくづくいらないことをしてくれたわね」
ビビアンは唇を尖らせ、珍しいくらいに直接的な言葉で バリクナジャを非難する。
しかしもっともだ。
恐らく魔物どもも想定していなかったであろう置土産。
奴らは魔法の才能がある子どもたちをさらい魔物に変えていたわけだが、おそらくそれがきっかけだろう。
今まで良くも悪くもただの人間に過ぎなかったのに、すっかり魔法の才能に目覚めてしまったのだ。
その程度や反応に個人差こそあるが、いずれにしても年齢に見合う力とは到底言えない。
このままでは心や身体の成長が追いついていない彼らが事故を起こすのは時間の問題。
今はビビアンなど魔法の得意な連中が魔力の制御の方法を早急に叩き込んでいるが、正直心許ないのが本音だ。
「…まあ、あれだけ苦労した結果がこの状況じゃヤツも納得しないだろ。サマディーには、ボクが行っても良い」
「むしろ、ラゴスはそれしかできないわよねっ」
「黙れ」
生来ボクは人付き合いが苦手だ。
そのせいか助けた子どもにすら一切懐かれないし魔法も不得手だが、ボクも呑気に遊んでいるというわけでもなかった。
魔王が討伐されても、魔物がいなくなったわけではない。
ただその支配を離れ以前のように時折好きに暴れるように戻っただけだ。
ボクやガレムソンといった元闘士でも一部の者は、近頃ではそいつらを退治して日銭を稼ぐことに明け暮れている。
何せ魔物共は相変わらず強いのだ。
仕事の危険度こそ増したがこんな割の良い仕事はなかったし、多少違った形とはいえ今再び世間はボクらの強さに向いている。
「じょーだんよ!成果を期待してるわ!」
…と、まあ色々言ったがビビアンの言うとおりではあった。ボクは結局、戦うことしか能がない。
サマディー行きも当然のことだったというよりも、あの事件の渦中にあって一人だけ元通りの生活に戻っているというのは、やはりなんだか居心地が悪かったのだ。
「ああ。言われなくてもとびきりのやつを持って帰ってきてやる」
ビビアンに強気に微笑みかける。
キツいことも多かったあの旅で意外と得たものは多かったのかも知れないとボクは思う。
もちろん全て丸く収まったなどとは口が裂けても言えないが。
勇者が不在でもできることはあるのだなんてガラにもない自己肯定感を持つことができた。
あるいはそれは、あいつのお陰なのかもしれない。今はもういない憎い恋敵のことを思い浮かべる。
あいつが誘ってくれなかったら、今頃ボクはどうしていたのだろうか、と多少殊勝な気持ちになった。
…とにもかくにも、話は纏まった。
そうと決まれば旅支度だ。
経験があるからわかるが、砂漠の旅は過酷なことこの上ない。
以前は強行軍だったが今度はしっかりしていって損はないだろう。
けれど。
「まあ、この酒が終わってからだ」
「…そうだな」
「いちお、世界は平和になったものね。なんにせよ、前ほど急ぎはしないわ」
先に戦友と肩を並べて飲むというのも悪い気はしなかった。
勇者によって魔王が討伐され、世界は平和を取り戻したある日のこと。
今では名物となったグロッタカジノも魔物の置土産のイメージすら払拭し、ますます賑わいを見せている。
ステージ付きの酒場も同様で、このぶんならば魔物に魔改造された闘技場を復活させる資金ができるまですぐなのではないかと素人目にも思えた。
…もっともカジノの方がむしろ儲かりすぎて、逆に復活しないのではとか、そんな危惧もあったけれど。
「今日は踊らないの?ラゴス」
「気分じゃない」
そ。ビビアンは流すように返すと、勝手に隣に座る。
許可した覚えはないんだが、と言おうとするも、ボクの隣に更に誰か座ったせいで中断せざるを得なかった。
「サイデリア…」
いつも愉快犯じみた相方と違い、女戦士の表情は心配そうなそれだった。
「…大丈夫かい?アンタ、あれからずっと元気ないじゃないか」
当然だろ、と思いながらグラスの安酒を呷る。
ベタベタしたオレンジ色に違わず品も何もないアルコールと、甘ったるい果汁風の添加物の味しかしないカクテル。
酒は得意ではないのだけれど、飲んでいなければとてもやっていけない。
「そう、見えるか」
「ああ、仮面越しでもわかる。顔が死んでんだ」
「そうか…」
バリクナジャとホロゴーストによってさらわれた挙句魔物に変えられた子どもたちは、全員人の姿を取り戻した上で戻って来た。
数が予想以上に多く、ブチャラオ村まで先導するだけでも一苦労だったが、そこは面倒みのいいファーリスやベロリンマンが上手くやってくれた。
ボクにはできそうにないと感心したものだ。
なお、旅の同行者が一気に増えたせいで一番の懸念と化した帰りの船に関してだが、驚いたことにカンダタの船がメダチャットに、曰く『偶然』寄港していた。
しかも、仕事の都合でこれまた『偶然』バンデルフォン地方まで行くというので、ありがたく同乗させてもらった。
なお、エルザがカンダタとの約束を守れなくなった件について話す必要があったがそれについては『俺様があの世に行ったら覚えてろよ』とのことである。
…言葉の割にひどく残念そうにしていたけれど。
「なあ。ハンフリーは、今どうしてる?」
「子守りで忙しいみたいだよ。やっぱり何もかも元通りとはいかなかったようでね」
かくしてボクたちはハンフリーと交わした子どもたちを取り戻す約束を履行した。
しかし一方で厄介な利息をつけてしまった。
一つはすでに飽和状態に近かった孤児院の子どもの数を更に増やしてしまったこと。
魔物どもは子どもを主にグロッタ、ブチャラオ、メダ女学園の三箇所から集めていたようだが、他の地方も全く手つかずというわけではなかったようだ。
親も家も、下手したら健在かすらわからないような行き場のない子どもが少なからずいた。
当然人の良いハンフリーのこと、そういった子を見捨てるなどするはずもなく受け入れている。
現状サイデリアやベロリンマンあたりが特に積極的に手伝いに入っているが、それでも手が回り切っていなかった。
「こちらの問題だからファーリスに頼るわけにもいかないし、困ったものだな」
「あら、あの王子サマなら、喜んで手伝ってくれると思うわよ。他ならぬおトモダチの頼み事だもの。
サイデリアも喜ぶわよ。…ねえ?」
ビビアンもボクのよりずっと強い酒を注文していた。
薄っすら琥珀色をしたグラスの中身をちろりと舐めながらそんな助言をし、怪しく笑う。
「ちょ、ちょっと!そういう言い方はせめてアタイがいない時にするもんだろ!!」
それは同意だが、マジかお前。サイデリアは顔を面白いくらいに真っ赤にして首を振る。
マジかお前。二回目に思う。惚れてるのか。この女は昼間から酒を飲むほど不真面目ではない。
だからおよそ図星だ、と確信する。
ビビアンと一緒になってからかってやっても良かったが、そんな気力はなかった。
「まあ、サイデリアのことは別にしても、あいつの助けは借りなければならないとはボクも思う。
…はしゃいでいるチビたちのこともあるしな」
「ハンクたちね。…バリクナジャったら、つくづくいらないことをしてくれたわね」
ビビアンは唇を尖らせ、珍しいくらいに直接的な言葉で バリクナジャを非難する。
しかしもっともだ。
恐らく魔物どもも想定していなかったであろう置土産。
奴らは魔法の才能がある子どもたちをさらい魔物に変えていたわけだが、おそらくそれがきっかけだろう。
今まで良くも悪くもただの人間に過ぎなかったのに、すっかり魔法の才能に目覚めてしまったのだ。
その程度や反応に個人差こそあるが、いずれにしても年齢に見合う力とは到底言えない。
このままでは心や身体の成長が追いついていない彼らが事故を起こすのは時間の問題。
今はビビアンなど魔法の得意な連中が魔力の制御の方法を早急に叩き込んでいるが、正直心許ないのが本音だ。
「…まあ、あれだけ苦労した結果がこの状況じゃヤツも納得しないだろ。サマディーには、ボクが行っても良い」
「むしろ、ラゴスはそれしかできないわよねっ」
「黙れ」
生来ボクは人付き合いが苦手だ。
そのせいか助けた子どもにすら一切懐かれないし魔法も不得手だが、ボクも呑気に遊んでいるというわけでもなかった。
魔王が討伐されても、魔物がいなくなったわけではない。
ただその支配を離れ以前のように時折好きに暴れるように戻っただけだ。
ボクやガレムソンといった元闘士でも一部の者は、近頃ではそいつらを退治して日銭を稼ぐことに明け暮れている。
何せ魔物共は相変わらず強いのだ。
仕事の危険度こそ増したがこんな割の良い仕事はなかったし、多少違った形とはいえ今再び世間はボクらの強さに向いている。
「じょーだんよ!成果を期待してるわ!」
…と、まあ色々言ったがビビアンの言うとおりではあった。ボクは結局、戦うことしか能がない。
サマディー行きも当然のことだったというよりも、あの事件の渦中にあって一人だけ元通りの生活に戻っているというのは、やはりなんだか居心地が悪かったのだ。
「ああ。言われなくてもとびきりのやつを持って帰ってきてやる」
ビビアンに強気に微笑みかける。
キツいことも多かったあの旅で意外と得たものは多かったのかも知れないとボクは思う。
もちろん全て丸く収まったなどとは口が裂けても言えないが。
勇者が不在でもできることはあるのだなんてガラにもない自己肯定感を持つことができた。
あるいはそれは、あいつのお陰なのかもしれない。今はもういない憎い恋敵のことを思い浮かべる。
あいつが誘ってくれなかったら、今頃ボクはどうしていたのだろうか、と多少殊勝な気持ちになった。
…とにもかくにも、話は纏まった。
そうと決まれば旅支度だ。
経験があるからわかるが、砂漠の旅は過酷なことこの上ない。
以前は強行軍だったが今度はしっかりしていって損はないだろう。
けれど。
「まあ、この酒が終わってからだ」
「…そうだな」
「いちお、世界は平和になったものね。なんにせよ、前ほど急ぎはしないわ」
先に戦友と肩を並べて飲むというのも悪い気はしなかった。