Hevenly sun
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「あなたが悲劇のヒーローやるのは勝手だけどね、巻き込まれた方はたまったもんじゃないわ!」
エルザにより止められていた時が動き出す。
命を取り戻したように再生されるビビアンの怒声。
バリクナジャとホロゴーストの口喧嘩。狼狽える他三人、蠢く子どもたちだったシャドー。
「…ボクが悲劇のヒーロー気取りだ?あまり見くびるなよビビアン」
ちょっと卑怯だとは思うが、そう反論する。
それと同時、仮面が外れていたことに気づく。拾い上げて、手早く装着し直す。
「ボクはグロッタで最も華麗な闘士、マスク・ザ・ハンサム。ラゴスという名前では断じて、ない」
声は張らず、ポーズをキメず、キャラを演じず。ただボクはボクのままで常套句を述べる。
ブラッドエッジ2つ。
真紅の色をした一対のブーメランが、あの時エルザが放った光をまとい始める。ボク自身を、巻き込みながら。
「とはいえビビアン、お前には最低なことを言ってしまった。…あとで改めて謝らせてくれ」
「ラゴス。そんなことより、あなた、……その魔力…?」
「シルビアさんじゃないが、大事なヤツにもらったんだ。羨ましいだろ?」
記憶にある限り、多分初めてビビアンに微笑みかける。
この女も大概愉快犯気質でお世辞にも性格が良いとは言えないが、その尖った言葉にはいつだって含蓄があった。
口は大変に悪い一方で、ボクを案じての発言も多かった。先程のように。
もしボクがシルビアさんと出会わなければ、ビビアンとも何か進展することがあったのだろうかなどと、いかにもくだらないたらればを考える。
まあ、いずれにせよ、場違いか。
思い直して集中。ブーメランから、ボクから放たれる光が増し、同時に重量感が増す。
ボクはそもそも魔法職ではないし、魔法自体苦手だ。当然こんな魔力なんか扱ったことない。
…だから初めて思い知る。魔力も膨大になってくると質量のようなものを持ち始めるのだ。
こんなものをどうやらあの女は背負って戦ってきていたらしい。
なんというか、そういう所は認めてやっても良いかも知れない。
上から目線に思いつつ、ブラッドエッジを時間差で思い切り放る。
目指すは魔物ではなく、はるか天上。
というといささか大げさだが、まあそんな飾った言葉もボクらしいといえばボクらしい。
「な、なんだぁ…?」
「魔力!あの魔力は……!?」
空で留まり、そこで組み合わさってくるくるとブーメランは回転する。ビカビカと、ド派手とまで言ってしまえる光は暖かみなど通り越してもはや禍々しい。
更に魔力を収束させる。こんなに集中したのはゾーン状態を除けば初めてのことだった。
「いけません!バリクナジャ、あれを止めるのです!!
あんなもの、ただのニンゲンが扱っていい魔力ではない!!」
「ぐぬぬぅ、お前の言う通りのようだ!」
それでも恐怖を感じるわけではなかった。
あれは味方だ、というのはこちら側の人間たちの誰もが直感したらしい。
「なんだかわからないが、邪魔はさせないベローーーーン!!!」
…その正体まで理解できたのがどれだけいるかはわからないが。
それでもベロリンマンは突進してくる牛鬼を止めるために前に出る。分身も使わず、自分よりはるかに巨大な相手と組み合う。
たった一瞬でも、互角に渡り合ったことは驚愕に値すべきだろう。
とはいえ、単純な力比べでは勝敗は明らかで、やはりあっという間にマウントを取られ、押し切られそうになる。
しかしその僅かな一瞬の隙を、見切る者がいた。
「足もとがお留守だよ!」
サイデリア。
得意の火炎切りで、バリクナジャのふくらはぎを斬りつける。
腱を切り裂くには至らなかったが、それでも巨体はバランスを崩した。
「今だ!!」
こうして力の差は逆転する。
今度はベロリンマンが押し切る番だった。渾身の体当たりを、ブチかます。
「ぐ、くそおおおお!!!」
いよいよバランスが崩れ倒れゆく上司。
そこに割って入ることはせず、しかしホロゴーストは呪文を詠唱する。
「この呪文で死になさい!!」
聞いたこともない禍々しい口上。
バリクナジャのピンチを差し置いて唱え続けていたそれに、否応なく死の予感を想起させる。
――間違いない。エルザを死に追いやった【ザキ】の魔法。それよりも、恐らく更に高位の。
悍ましい真っ黒のオーラがボクたちを――。
「ホントに学ばないわね、魔物って」
ボクらを狙った死の呪文が、金属のような高い音とともに矛先を反転した。
呆気にとられたホロゴーストは帰ってきてしまった禍々しい言霊を、浴びる。
……さすがにそんなことで絶命することはなかったが。
それを見届けたビビアンの得意気なウインクは、それはもう見事なものだった。天敵ながら。
「反射呪文ならまだできるのよ。だってビビアンちゃん、賢者だもん」
ホロゴーストの顔が、ついに絶望に染まる。
「…今だ、今がチャンスだハンサムくん!」
最後においしいところはファーリスが持っていった。
けれどそんなことが気にならないくらい圧倒的なエネルギーが、天上のブーメランだったものに充填されている。
どう贔屓目に見てもボクと一歩下がっているファーリス以外は危険。
だから発射を躊躇するボクの肩を、柔らかく誰かが叩いた気がして、なぜか妙に落ち着く。
そうだよな、何も問題はない。
だってボクたちが組めば最強なのだから。
「……ああ。これで、最後だ」
いくぞ、エルザ。
声に出さず口の中だけで呟き、反して叫ぶ。
手を上から下に振り下ろしたを合図にそれは始まった。
輝くブーメランから光が落ちる。巨大な雨粒のように。しかし重力などないかのような猛スピードで。
そして当然、それはひと粒というわけではない。
術者であるボク自身とても把握しきれるものではない。
誰も、雨の粒の数を数えたことがないように。
避けようのない光の散弾は、逃げ惑うバリクナジャとホロゴーストだけに集中し、その身を有無を言わさず灼き尽くした。
予想通り一見無差別攻撃のようになってしまうほどき規模が膨らんだシャインスコールと呼ばれるはずの特技。
それがなぜ他の連中を巻き込まずに済んだのか、一瞬疑問に思った。
…すぐに解決したけども。
「お前……」
やっぱり、助けてくれたのか。
光熱を浴び続けた結果、バリクナジャもホロゴーストもその死骸すら残らなかった。
辺りは煙り、一瞬だけれども先の攻撃でも無事だった仲間たちの姿が誰も見えなくなる。
たった一人、恐らくボクにしか見えない存在を除いて。
それでついボクも呼び掛けて、それに気づいた女はこちらに向き直ると、胸に手を当てて恭しくお辞儀をした。
「なんでここで騎士の真似事なんだ、ヘタクソがぁ…」
女は苦笑して消える。
ボクはそれでいよいよこらえ切れず、膝をついた。
けれどそれは、再び絶望に囚われたからではない。
ただとんでもない魔力を扱ったことによる極度の疲労のせいだった。
勇者たちが魔王ウルノーガを討伐したという報せを聞いたのは、グロッタに戻ってから三日後のことだった。
エルザにより止められていた時が動き出す。
命を取り戻したように再生されるビビアンの怒声。
バリクナジャとホロゴーストの口喧嘩。狼狽える他三人、蠢く子どもたちだったシャドー。
「…ボクが悲劇のヒーロー気取りだ?あまり見くびるなよビビアン」
ちょっと卑怯だとは思うが、そう反論する。
それと同時、仮面が外れていたことに気づく。拾い上げて、手早く装着し直す。
「ボクはグロッタで最も華麗な闘士、マスク・ザ・ハンサム。ラゴスという名前では断じて、ない」
声は張らず、ポーズをキメず、キャラを演じず。ただボクはボクのままで常套句を述べる。
ブラッドエッジ2つ。
真紅の色をした一対のブーメランが、あの時エルザが放った光をまとい始める。ボク自身を、巻き込みながら。
「とはいえビビアン、お前には最低なことを言ってしまった。…あとで改めて謝らせてくれ」
「ラゴス。そんなことより、あなた、……その魔力…?」
「シルビアさんじゃないが、大事なヤツにもらったんだ。羨ましいだろ?」
記憶にある限り、多分初めてビビアンに微笑みかける。
この女も大概愉快犯気質でお世辞にも性格が良いとは言えないが、その尖った言葉にはいつだって含蓄があった。
口は大変に悪い一方で、ボクを案じての発言も多かった。先程のように。
もしボクがシルビアさんと出会わなければ、ビビアンとも何か進展することがあったのだろうかなどと、いかにもくだらないたらればを考える。
まあ、いずれにせよ、場違いか。
思い直して集中。ブーメランから、ボクから放たれる光が増し、同時に重量感が増す。
ボクはそもそも魔法職ではないし、魔法自体苦手だ。当然こんな魔力なんか扱ったことない。
…だから初めて思い知る。魔力も膨大になってくると質量のようなものを持ち始めるのだ。
こんなものをどうやらあの女は背負って戦ってきていたらしい。
なんというか、そういう所は認めてやっても良いかも知れない。
上から目線に思いつつ、ブラッドエッジを時間差で思い切り放る。
目指すは魔物ではなく、はるか天上。
というといささか大げさだが、まあそんな飾った言葉もボクらしいといえばボクらしい。
「な、なんだぁ…?」
「魔力!あの魔力は……!?」
空で留まり、そこで組み合わさってくるくるとブーメランは回転する。ビカビカと、ド派手とまで言ってしまえる光は暖かみなど通り越してもはや禍々しい。
更に魔力を収束させる。こんなに集中したのはゾーン状態を除けば初めてのことだった。
「いけません!バリクナジャ、あれを止めるのです!!
あんなもの、ただのニンゲンが扱っていい魔力ではない!!」
「ぐぬぬぅ、お前の言う通りのようだ!」
それでも恐怖を感じるわけではなかった。
あれは味方だ、というのはこちら側の人間たちの誰もが直感したらしい。
「なんだかわからないが、邪魔はさせないベローーーーン!!!」
…その正体まで理解できたのがどれだけいるかはわからないが。
それでもベロリンマンは突進してくる牛鬼を止めるために前に出る。分身も使わず、自分よりはるかに巨大な相手と組み合う。
たった一瞬でも、互角に渡り合ったことは驚愕に値すべきだろう。
とはいえ、単純な力比べでは勝敗は明らかで、やはりあっという間にマウントを取られ、押し切られそうになる。
しかしその僅かな一瞬の隙を、見切る者がいた。
「足もとがお留守だよ!」
サイデリア。
得意の火炎切りで、バリクナジャのふくらはぎを斬りつける。
腱を切り裂くには至らなかったが、それでも巨体はバランスを崩した。
「今だ!!」
こうして力の差は逆転する。
今度はベロリンマンが押し切る番だった。渾身の体当たりを、ブチかます。
「ぐ、くそおおおお!!!」
いよいよバランスが崩れ倒れゆく上司。
そこに割って入ることはせず、しかしホロゴーストは呪文を詠唱する。
「この呪文で死になさい!!」
聞いたこともない禍々しい口上。
バリクナジャのピンチを差し置いて唱え続けていたそれに、否応なく死の予感を想起させる。
――間違いない。エルザを死に追いやった【ザキ】の魔法。それよりも、恐らく更に高位の。
悍ましい真っ黒のオーラがボクたちを――。
「ホントに学ばないわね、魔物って」
ボクらを狙った死の呪文が、金属のような高い音とともに矛先を反転した。
呆気にとられたホロゴーストは帰ってきてしまった禍々しい言霊を、浴びる。
……さすがにそんなことで絶命することはなかったが。
それを見届けたビビアンの得意気なウインクは、それはもう見事なものだった。天敵ながら。
「反射呪文ならまだできるのよ。だってビビアンちゃん、賢者だもん」
ホロゴーストの顔が、ついに絶望に染まる。
「…今だ、今がチャンスだハンサムくん!」
最後においしいところはファーリスが持っていった。
けれどそんなことが気にならないくらい圧倒的なエネルギーが、天上のブーメランだったものに充填されている。
どう贔屓目に見てもボクと一歩下がっているファーリス以外は危険。
だから発射を躊躇するボクの肩を、柔らかく誰かが叩いた気がして、なぜか妙に落ち着く。
そうだよな、何も問題はない。
だってボクたちが組めば最強なのだから。
「……ああ。これで、最後だ」
いくぞ、エルザ。
声に出さず口の中だけで呟き、反して叫ぶ。
手を上から下に振り下ろしたを合図にそれは始まった。
輝くブーメランから光が落ちる。巨大な雨粒のように。しかし重力などないかのような猛スピードで。
そして当然、それはひと粒というわけではない。
術者であるボク自身とても把握しきれるものではない。
誰も、雨の粒の数を数えたことがないように。
避けようのない光の散弾は、逃げ惑うバリクナジャとホロゴーストだけに集中し、その身を有無を言わさず灼き尽くした。
予想通り一見無差別攻撃のようになってしまうほどき規模が膨らんだシャインスコールと呼ばれるはずの特技。
それがなぜ他の連中を巻き込まずに済んだのか、一瞬疑問に思った。
…すぐに解決したけども。
「お前……」
やっぱり、助けてくれたのか。
光熱を浴び続けた結果、バリクナジャもホロゴーストもその死骸すら残らなかった。
辺りは煙り、一瞬だけれども先の攻撃でも無事だった仲間たちの姿が誰も見えなくなる。
たった一人、恐らくボクにしか見えない存在を除いて。
それでついボクも呼び掛けて、それに気づいた女はこちらに向き直ると、胸に手を当てて恭しくお辞儀をした。
「なんでここで騎士の真似事なんだ、ヘタクソがぁ…」
女は苦笑して消える。
ボクはそれでいよいよこらえ切れず、膝をついた。
けれどそれは、再び絶望に囚われたからではない。
ただとんでもない魔力を扱ったことによる極度の疲労のせいだった。
勇者たちが魔王ウルノーガを討伐したという報せを聞いたのは、グロッタに戻ってから三日後のことだった。