Hevenly sun
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対バリクナジャ戦。役割分担は各々無言でありながら明確かつ的確に行われた。
まずは前衛。
サイデリアちゃんが斬り、分身したベロリンマンが身をもって守るという単純明快かつ有効な作戦。
「ぐうう、くそ!鬱陶しい!!」
「醜男のくせにムチなんか使うからだ!少しはシルビアさんを見習ったらどうだ!?」
「誰だそれは!」
「ボクの未来の夫だ!!」
わけのわからないことを言ってはいるが。
マスク・ザ・ハンサムの二丁ブーメランが飛び交うことで牛鬼を翻弄。
サイデリアちゃんたちの攻撃を躱せばそれらが、逆ならば斬撃の餌食になるというなんともえげつないシステムが完成しつつあった。
「オレが!このオレがこんなヤツらなどに!!」
しかしバリクナジャもやられっぱなしではない。すでに切り傷にまみれた己の身体を一度捨て置くことにしたらしい。
先ほどまでせわしなく動かしていた蹄つきの足を止める。
ぐっと屈められた太ももから膝から、そこに尋常じゃない力が込められたのが傍目にもわかった。
「図に乗るなよ!!人間風情が!!!うおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
鼓膜も裂けんばかりにバリクナジャは声を張り上げる。地底から響いてくるような激しい雄叫び。
その気合いと共にムチで地面を割らんばかりに殴りつける。
先ほどの瓦礫飛ばしとはまるで威力が違う。地中を大蛇が這うように地面が隆起。
「くあああ!!」
「分身が!」
見る見るそれは速さと高さを増し、私たちに逃げるスキなど与えなかった。
地這い大蛇。元々範囲攻撃が得意分野のムチのリーチを更に手広くしてしまう大技中の大技。
岩の蛇は前衛の二人(と分身たち)はもちろん中衛の私たちまでも豪快すぎるほどに飲み込み、一気に壊滅状態まで追いやってくる。
「ううう…くそ」
他の人のことは知らない。ベロリンマンの分身が全て消えたことくらいしか。
私に関しては足が潰されている。
出血はほとんどしていなかったがそうであるだけで、骨は折れ中でひどいうっ血を起こしているのはひと目見ただけで充分すぎるほどわかった。
…現状幸い死人は出ていないようだが、ホイミすら使えない私にはもう動くことすらままならない。
そんな感じで今の今まで楯突いてきた人間どもがせいぜい死ぬ前の芋虫のようにもがくことしかできなくなったのを見て、二代目妖魔軍王は満足気に笑う。
「ふ、ふん。所詮は人間よ。このオレが本気を出せば、切り札など使うまでもなし」
下等生物たちのうめき声に気を良くした魔人はますます饒舌になる。
「せっかくだ、冥土の土産に教えてやろうか。
どのようにしてここをかぎ当てたかは知らんが、キサマらの狙いはどうせこいつらだろう」
ゆらり、と闇の一部が蠢く。
鳥かごのような檻がどこからぶら下がっているのか揺れていた。
それはなぜかと言うと、中にぎちぎちに犠牲者が詰まって、それでもどうにかもがこうとしているから。
それは単にシャドーと呼ばれる魔物たちだと言えばそれまでだが、私たちはその正体を知っている。なぜ、同じ魔物でありながら妖魔軍王自らにに監禁されているのかも。
「マジかよ…こんなに…子どもたちが」
サイデリアちゃんがか細い声で呻く。私たちが調査で知った被害は所詮氷山の一角でしかなかったのだ。
「先代妖魔軍王ブギーはああ見えて慈悲深く平和主義でな。何とか人間との共存を目指していた。…グロッタの住民共の魔物化はその研究の成果によるものだ」
口上はなんともきれいなものだが、ブギーの凶悪さはここにいる誰もが知るところだ。
いや、或いは人間と魔物とでは価値観がそもそも違うのかも知れない。
現にバリクナジャの言葉には人間を嘲るようなニュアンスは感じなかった。
「軍王でありながらなんとも甘い思想の持ち主よ。しかし、そのこ狡い技術は役に立った!」
…むしろ、ブギーを侮蔑するものに近い。
「オレとホロゴーストは人間のガキに目をつけた。
先代の術は、本来魔力が豊富かつ魂が純なる者に使う方が効果を発揮しやすいためだ。
…先代の魔力はそのような制約などものともしなかったようだが。とにかく」
つまり魔力が豊富にも関わらずろくな魔物にならなかった私は魂が純粋ではないらしいという、ごくどうでもいいことにさりげなく傷ついた。
死にかけているのに場違いなことだ。
「かつてメルトアが造ったこの異世界が残っていたことも都合が良かった。
オレたちはここに拐ったガキどもを隠し、魂を変質させ魔物へと変えた。いずれ来たる、このバリクナジャ率いる妖魔軍復活の日のため!」
「つまり、子どもたちをあなたたちの兵士にするためにさらって来てたってこと?」
「そうだ!魔法の素養が強力な人間の戦力を削りつつ我が軍の戦力を増強!この功績を以って元人間の魔軍司令を――」
「それだけ聞ければ、充分だわ」
どす。
言葉にするならそんな音だ。
そして気がついた時には、何かが機嫌よく演説していたバリクナジャの肩の辺りをを刺し貫いていた。
次いでもう二本ほどがその腹から突き出る。
「な、なんだぁ……!?」
口からごぷりと黒い血を吐きながらバリクナジャから溢れる疑問。
斬っても殴っても揺らがなかった牛の鬼が、今明らかに弱り始めている。
私たちの方こそなんだと聞きたかったくらいだ。
そんなわけのわからない状況の中唐突に傷が癒えていく。…あのぐちゃぐちゃになった足さえ。
「ちょっとした賭けだったの。ピンチから逆転しかけるとやたら喋るタイプの悪役っているでしょ。あなたああ見えたから」
数秒もせず、痛みがすっかり消える。
強力な回復呪文・ベホマラーを披露したバニーの女性は愛想よくも挑発的な笑みを浮かべながら前に出てきた。
「そうしたらまさかのビンゴ!
ラゴスの苦しむ顔を見られたし、怒られるの覚悟で回復遅らせた甲斐があったわん」
「おいビビアン絶対あとで泣かすからな」
先ほどは私よりも前に出ていたから、ハンサムのダメージはより深刻だったはずだ。
しかし今はそれを感じさせないほどに元気になり、回復してくれた本人に悪態を吐くことができるまでになっている。
…いやこれは仕方ないと思うけれど。
「お、お前…!これはお前の仕業か…!」
逆流したポンプのように溢れる血反吐。
あまり見たいとは思えないグロテスクな光景を目の当たりにしながら、私はビビアンちゃんの代わりに首を振る。
「違うよ、バリクナジャ。お前は人間の怒りを買いすぎたの」
視線をバリクナジャから外す。更に向こう。
臆病でありながらここ一番では決めてくれる男が、戦場においては珍しく自信満々の笑みを見せていた。
「悪いね。スキだらけだったから狙わせてもらった」
ファーリスが放った矢は、本人が先ほど宣言した通りの強烈な毒が仕込まれたものだろう。
そうでなければ、たった3本の矢で身長3mはありそうな巨大な相手に血まで吐かせることができるとは到底思えなかった。
「くそ…なぜオレが毒に弱いと……卑怯だぞ……」
「ボクはキミほど愚かではないからね。多弁は好きだが時と場合を選ぶのさ。…とはいえ」
きっと優男然とした眉が吊り上がる。
朗らかな彼の滅多に見せない怒りの顔はひどく迫力がある。
「卑劣な魔物相手に手段を選ぶ必要なんてないだろう?」
それほどまでのことをこの魔物はしたのだ。絶対に許すわけにはいかない。
内心で彼に賛同し、バイキルトの詠唱を始める。
先ほどの王子のセリフを合図にハンサムはすでに動き始めていた。
こちらの切り札たるタナトスハントをキメるためだ。
ならばサバクくじら戦同様に、こちらも援護していく必要がある。
とはいえ難しく考えることはない。こちらは単純にバイキルトとピオリムを仕掛ければ良いだけだ。
あとの直接的な彼のサポートは、
「騎士の国の王子サマですらああだ!」
「オレたち闘士が手加減する理由はないベロン!!」
同じく回復したサイデリアちゃんも再び分身を展開しているベロリンマンもできる。
こちらに気を取られて対策を取ろうとすればファーリスの毒矢がバリクナジャを襲う。
それらをどうにかやっつけ先程のように攻撃を通しても、ビビアンちゃんがなんとかしてしまう。
彼女は賢者でありながら魔力量が少ないという欠点を持つけれど、そのサポートはむしろ私の十八番だ。
ビビアンちゃんとは逆に唱えられる呪文の種類こそ少ないが、分け与えられる魔力に関しては有り余るほどに持っている。
盤石だった。
これ以上ないくらいバリクナジャを追い詰めている。頭が悪いとはいえ腐っても自称次期軍王。
勇者様でもなければ即座に討伐を諦めるレベルの大物を、私たちが今。
駿馬を思わせる速さで駆け抜ける双子の昏い光を見送る。
ファーリス王子の見抜いた牛鬼の弱点である毒は極めて致命的なものであったらしく、すでに随分と敵は弱っている。
バイキルトまで乗せたハンサムのタナトスハントを耐えられるとは思えなかった。
まずは前衛。
サイデリアちゃんが斬り、分身したベロリンマンが身をもって守るという単純明快かつ有効な作戦。
「ぐうう、くそ!鬱陶しい!!」
「醜男のくせにムチなんか使うからだ!少しはシルビアさんを見習ったらどうだ!?」
「誰だそれは!」
「ボクの未来の夫だ!!」
わけのわからないことを言ってはいるが。
マスク・ザ・ハンサムの二丁ブーメランが飛び交うことで牛鬼を翻弄。
サイデリアちゃんたちの攻撃を躱せばそれらが、逆ならば斬撃の餌食になるというなんともえげつないシステムが完成しつつあった。
「オレが!このオレがこんなヤツらなどに!!」
しかしバリクナジャもやられっぱなしではない。すでに切り傷にまみれた己の身体を一度捨て置くことにしたらしい。
先ほどまでせわしなく動かしていた蹄つきの足を止める。
ぐっと屈められた太ももから膝から、そこに尋常じゃない力が込められたのが傍目にもわかった。
「図に乗るなよ!!人間風情が!!!うおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
鼓膜も裂けんばかりにバリクナジャは声を張り上げる。地底から響いてくるような激しい雄叫び。
その気合いと共にムチで地面を割らんばかりに殴りつける。
先ほどの瓦礫飛ばしとはまるで威力が違う。地中を大蛇が這うように地面が隆起。
「くあああ!!」
「分身が!」
見る見るそれは速さと高さを増し、私たちに逃げるスキなど与えなかった。
地這い大蛇。元々範囲攻撃が得意分野のムチのリーチを更に手広くしてしまう大技中の大技。
岩の蛇は前衛の二人(と分身たち)はもちろん中衛の私たちまでも豪快すぎるほどに飲み込み、一気に壊滅状態まで追いやってくる。
「ううう…くそ」
他の人のことは知らない。ベロリンマンの分身が全て消えたことくらいしか。
私に関しては足が潰されている。
出血はほとんどしていなかったがそうであるだけで、骨は折れ中でひどいうっ血を起こしているのはひと目見ただけで充分すぎるほどわかった。
…現状幸い死人は出ていないようだが、ホイミすら使えない私にはもう動くことすらままならない。
そんな感じで今の今まで楯突いてきた人間どもがせいぜい死ぬ前の芋虫のようにもがくことしかできなくなったのを見て、二代目妖魔軍王は満足気に笑う。
「ふ、ふん。所詮は人間よ。このオレが本気を出せば、切り札など使うまでもなし」
下等生物たちのうめき声に気を良くした魔人はますます饒舌になる。
「せっかくだ、冥土の土産に教えてやろうか。
どのようにしてここをかぎ当てたかは知らんが、キサマらの狙いはどうせこいつらだろう」
ゆらり、と闇の一部が蠢く。
鳥かごのような檻がどこからぶら下がっているのか揺れていた。
それはなぜかと言うと、中にぎちぎちに犠牲者が詰まって、それでもどうにかもがこうとしているから。
それは単にシャドーと呼ばれる魔物たちだと言えばそれまでだが、私たちはその正体を知っている。なぜ、同じ魔物でありながら妖魔軍王自らにに監禁されているのかも。
「マジかよ…こんなに…子どもたちが」
サイデリアちゃんがか細い声で呻く。私たちが調査で知った被害は所詮氷山の一角でしかなかったのだ。
「先代妖魔軍王ブギーはああ見えて慈悲深く平和主義でな。何とか人間との共存を目指していた。…グロッタの住民共の魔物化はその研究の成果によるものだ」
口上はなんともきれいなものだが、ブギーの凶悪さはここにいる誰もが知るところだ。
いや、或いは人間と魔物とでは価値観がそもそも違うのかも知れない。
現にバリクナジャの言葉には人間を嘲るようなニュアンスは感じなかった。
「軍王でありながらなんとも甘い思想の持ち主よ。しかし、そのこ狡い技術は役に立った!」
…むしろ、ブギーを侮蔑するものに近い。
「オレとホロゴーストは人間のガキに目をつけた。
先代の術は、本来魔力が豊富かつ魂が純なる者に使う方が効果を発揮しやすいためだ。
…先代の魔力はそのような制約などものともしなかったようだが。とにかく」
つまり魔力が豊富にも関わらずろくな魔物にならなかった私は魂が純粋ではないらしいという、ごくどうでもいいことにさりげなく傷ついた。
死にかけているのに場違いなことだ。
「かつてメルトアが造ったこの異世界が残っていたことも都合が良かった。
オレたちはここに拐ったガキどもを隠し、魂を変質させ魔物へと変えた。いずれ来たる、このバリクナジャ率いる妖魔軍復活の日のため!」
「つまり、子どもたちをあなたたちの兵士にするためにさらって来てたってこと?」
「そうだ!魔法の素養が強力な人間の戦力を削りつつ我が軍の戦力を増強!この功績を以って元人間の魔軍司令を――」
「それだけ聞ければ、充分だわ」
どす。
言葉にするならそんな音だ。
そして気がついた時には、何かが機嫌よく演説していたバリクナジャの肩の辺りをを刺し貫いていた。
次いでもう二本ほどがその腹から突き出る。
「な、なんだぁ……!?」
口からごぷりと黒い血を吐きながらバリクナジャから溢れる疑問。
斬っても殴っても揺らがなかった牛の鬼が、今明らかに弱り始めている。
私たちの方こそなんだと聞きたかったくらいだ。
そんなわけのわからない状況の中唐突に傷が癒えていく。…あのぐちゃぐちゃになった足さえ。
「ちょっとした賭けだったの。ピンチから逆転しかけるとやたら喋るタイプの悪役っているでしょ。あなたああ見えたから」
数秒もせず、痛みがすっかり消える。
強力な回復呪文・ベホマラーを披露したバニーの女性は愛想よくも挑発的な笑みを浮かべながら前に出てきた。
「そうしたらまさかのビンゴ!
ラゴスの苦しむ顔を見られたし、怒られるの覚悟で回復遅らせた甲斐があったわん」
「おいビビアン絶対あとで泣かすからな」
先ほどは私よりも前に出ていたから、ハンサムのダメージはより深刻だったはずだ。
しかし今はそれを感じさせないほどに元気になり、回復してくれた本人に悪態を吐くことができるまでになっている。
…いやこれは仕方ないと思うけれど。
「お、お前…!これはお前の仕業か…!」
逆流したポンプのように溢れる血反吐。
あまり見たいとは思えないグロテスクな光景を目の当たりにしながら、私はビビアンちゃんの代わりに首を振る。
「違うよ、バリクナジャ。お前は人間の怒りを買いすぎたの」
視線をバリクナジャから外す。更に向こう。
臆病でありながらここ一番では決めてくれる男が、戦場においては珍しく自信満々の笑みを見せていた。
「悪いね。スキだらけだったから狙わせてもらった」
ファーリスが放った矢は、本人が先ほど宣言した通りの強烈な毒が仕込まれたものだろう。
そうでなければ、たった3本の矢で身長3mはありそうな巨大な相手に血まで吐かせることができるとは到底思えなかった。
「くそ…なぜオレが毒に弱いと……卑怯だぞ……」
「ボクはキミほど愚かではないからね。多弁は好きだが時と場合を選ぶのさ。…とはいえ」
きっと優男然とした眉が吊り上がる。
朗らかな彼の滅多に見せない怒りの顔はひどく迫力がある。
「卑劣な魔物相手に手段を選ぶ必要なんてないだろう?」
それほどまでのことをこの魔物はしたのだ。絶対に許すわけにはいかない。
内心で彼に賛同し、バイキルトの詠唱を始める。
先ほどの王子のセリフを合図にハンサムはすでに動き始めていた。
こちらの切り札たるタナトスハントをキメるためだ。
ならばサバクくじら戦同様に、こちらも援護していく必要がある。
とはいえ難しく考えることはない。こちらは単純にバイキルトとピオリムを仕掛ければ良いだけだ。
あとの直接的な彼のサポートは、
「騎士の国の王子サマですらああだ!」
「オレたち闘士が手加減する理由はないベロン!!」
同じく回復したサイデリアちゃんも再び分身を展開しているベロリンマンもできる。
こちらに気を取られて対策を取ろうとすればファーリスの毒矢がバリクナジャを襲う。
それらをどうにかやっつけ先程のように攻撃を通しても、ビビアンちゃんがなんとかしてしまう。
彼女は賢者でありながら魔力量が少ないという欠点を持つけれど、そのサポートはむしろ私の十八番だ。
ビビアンちゃんとは逆に唱えられる呪文の種類こそ少ないが、分け与えられる魔力に関しては有り余るほどに持っている。
盤石だった。
これ以上ないくらいバリクナジャを追い詰めている。頭が悪いとはいえ腐っても自称次期軍王。
勇者様でもなければ即座に討伐を諦めるレベルの大物を、私たちが今。
駿馬を思わせる速さで駆け抜ける双子の昏い光を見送る。
ファーリス王子の見抜いた牛鬼の弱点である毒は極めて致命的なものであったらしく、すでに随分と敵は弱っている。
バイキルトまで乗せたハンサムのタナトスハントを耐えられるとは思えなかった。