Hevenly sun
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「本当にそう思うか?」
しかしながら実際のところ私たちは何一つ怪我など負わなかった。
なぜかわからなかったけれどそれも一瞬のこと。
その声が誰のものか判明した時にはすべて理解できていたと言って良い。
「勝敗を分けるのが数じゃなくて良かったな」
空気の淀んだ闇の世界に強風が吹いた。
と言ってもそれは自然現象ではなく、ホロゴーストのかがやく息を跳ね返すためのもの。
おいかぜ。敵にとっての向かい風。
平たく言えば魔物がしたのと同じことを彼はしたのだが、一方で味方として充分信用に足る人物だ。
「ハンサム!みんな!」
嬉しくて思わず名前を呼ぶと、マスク・ザ・ハンサムは示し合わせたように嫌な顔をした。
それを横目で見たファーリスが、フォローするように言う。
「間に合って良かったよ」
「だよな。まったく、ベロリンマンのおかげさね!」
サイデリアちゃんがそう言ってベロリンマンの背中を叩く。
ぱしりと痛がるそのベロリンマンは、一人だけ先ほど攻撃に参加しなかった分身だ。
その代わり彼には、別の役割を負ってもらっていた。すなわちハンサムたちとの合流及び道案内である。
「…で、あちらが今回の黒幕さん?」
語尾を半音上げるその割には、ビビアンちゃんの口調は確信めいていた。そのおちゃらけた見た目に反して頭の回転が速い彼女は、早くも全てを悟ったらしい。
「こいつらを倒して、子どもたちを助けて大団円ってところねん。やる気出てきたわ」
手にしたステッキでホロゴースト、それからバリクナジャを指しておちょくるようにくるくる回す。
彼女にしてはまた随分と直球の挑発だとは思ったが。
「な・ん・だ・とぉ!?」
土気色の肌を湯気でも噴き出さんばかりに真っ赤にし、目を血走らせるバリクナジャには効果抜群だったらしい。
…レベルを合わせたと言ったところか。
「どいつもこいつもこのオレをコケにしおって!!!」
豪快に鞭が打ち鳴らされる。見た目にも強烈なそれは威嚇だけを意図したものではない。
すでに砕けていた足場の欠片をこちらに弾き飛ばすためだ!
と気づいたら時にはすでに遅く、大小様々の尖った破片が私たちを襲う。
「きゃぁ!」
「くっ…!たかが石つぶてにこれほどまでの威力が…」
ハンサムが呻く。それもそのはず。
通常盗賊などが使う同名の特技といえば、そこらへんで拾った石を投擲するもの。
もちろん各々の腕力により威力には差が出るが、基本的には牽制用のお手軽技だ。
だが、ただ鞭を用いて飛ばしただけでそれを通り越し攻撃として成り立つこの威力、危険度。
…バリクナジャの腕力は計り知れなかった。
「これはもしかして力はグレイグ以上かな?」
腕で顔を庇っていたファーリスが、わかったようなことを言うけれど、恐らくはその通りだ。
そもそも魔物だし、3メートルはありそうな巨体だし。
「そのぶんおつむには難ありみたいだけどねっ」
バリクナジャをキレさせた張本人のベホマラー。
身体は癒えていくのを実感しながら、私もまた別の呪文の詠唱を始める。
「サンキュー、エルザ!あたいとベロリンマンが前に出るよ!」
ピオリムで素早くなったサイデリアちゃんとベロリンマンたちが、多方向からバリクナジャを襲う。
最初にサイデリアちゃんの火炎切りがバリクナジャの脛を切り裂き、下がろうとした彼女を巨大なムチが追ってくる。
あわや、というところで。
「ベロリンマン!」
「大丈夫!こういうのは得意だベロン!!」
舌をたらした武闘家の分身が彼女を庇い代わりにその攻撃を受けた。
実体のあるまがい物を消滅していくのを見ながらバリクナジャは忌々しく舌打ちする。
それで一瞬見せた隙をベロリンマンの本体は見逃さず死角から殴りつける。
私が彼女らにかまえたのはここまでだった。
「よもや忘れていませんよね、私のこと」
音もなくホロゴーストが迫る。振りかぶった赤いツメが、風を切って標的を襲う。
「あいつと一緒にすんな!」
それを私は剣で受ける。ぎちぎちと攻防を繰り広げながら、ホロゴーストはそれでもにやりと目を細めた。
「これはすみません。愚かな上司を持つと、それはもうストレスが溜まるのですよ」
「人間みたいなことを言うんじゃない!」
鍔迫り合いを中断させたのはハンサムだった。
両手に持った二振りの短剣のそれぞれで、器用にホロゴーストの腕だけを切断する。
それに困惑させる前に、私が体勢を整えてから袈裟斬りにしてやる。
「二人ともどいて!!」
斜めに2つに割かれた赤い影に更に追い打ちをかけるのは、大きな火の玉。
メラミを撃ち出したビビアンちゃんの顔にはいつものような余裕はない。もっとも怯えているのではなくただ真剣なだけだけれど。
とはいえそれがトドメとなり、ホロゴーストは消滅する。
「…呆気なかったな」
ぐいっと最初のバリクナジャの瓦礫飛ばしに汚された顔を拭いながらハンサムはそんな感想を述べる。
私もビビアンちゃんも頷く。
「やっぱり本命はあっちみたいね」
油断なくビビアンちゃんが睨む先では、サイデリアちゃんとまたいつの間にか増えたベロリンマンがバリクナジャとの熾烈な争いを繰り広げている。
現状数で辛うじて有利を取っているが、いつ逆転するかわからない。
ブギーの後釜かしらないけれど、バリクナジャか妖魔軍を率いていると自称するに恥ずかしくない程度の実力を持っていることは、もはや疑いようもなかった。
「急ごう、二人とも余裕がなさそう」
三人で無言で目を見合わせた。
「その前に、聞いて行ってくれないか」
静かな声に振り向くと、ファーリス王子が青い顔で立っている。
いっそ滑稽ないつもの怯え方のように膝が笑っているわけではない。
そんなところはすでに通り越し、すでに死んでいるのではないかと疑いたくなるような、そんな極限レベルのものだ。
「ま、まずは…。ボクがキミたちのように戦闘に参加できないことを大変恥じている。心底、申し訳無いと思っている」
悔しそうに歯噛みするファーリス。
そんな彼に厳しい言葉を投げかけたのはハンサムだった。
「あいつらがやられるかも知れないっていうのに、そんなくだらない言い訳を聞きにボクたちは足を止めたわけじゃないぞ」
「ちょっとラゴス!」
ビビアンちゃんが彼の毒舌に非難の声をあげる。ハンサムは興味なさげに手を振ると続けた。
「ファーリスに戦力としての期待は誰もしていない。もっと重要な役目があるからな。
……もうわかったんだろ?あいつの弱点」
「ハンサムくん、キミは優しいね」
ファーリスは僅かに笑みを浮かべると、すぐに表情を変える。
「端的に言う。バリクナジャは毒が弱点だ。サバクくじら、あの時と同じだ。ボクが狙おう」
ボウガンを握り締め、確固たる口調でファーリスが言う。
「できるのか?」
「やるのさ。前回ほど甘い相手じゃないのもわかっている」
「ならいい。お前が上手くやったあかつきには、ボクが必ず仕留めてやる」
二人の男の視線が交錯する。
私がベロリンマンに拉致られていた間に随分と厚い信頼を築いたものだ。少し羨ましくなる。
「私らはそのサポートだね。行こう、ビビアンちゃん」
「はーい。二人を待たせてるんだから。うまくやってね、ラゴス」
嫌味でありながらどことなく柔らかな笑みをビビアンちゃんは湛える。
そのまま今度はスクルトを詠唱し、私は対抗するようにバイキルトをハンサムにかけた。
こうして三人が前に出る一方、ファーリスはその場に居残り毒を仕込んだボウガンをかまえる。
「ボクらの旅もあと一息だ。必ず、勝とう」
振り返らず、返事に手を上げた。
しかしながら実際のところ私たちは何一つ怪我など負わなかった。
なぜかわからなかったけれどそれも一瞬のこと。
その声が誰のものか判明した時にはすべて理解できていたと言って良い。
「勝敗を分けるのが数じゃなくて良かったな」
空気の淀んだ闇の世界に強風が吹いた。
と言ってもそれは自然現象ではなく、ホロゴーストのかがやく息を跳ね返すためのもの。
おいかぜ。敵にとっての向かい風。
平たく言えば魔物がしたのと同じことを彼はしたのだが、一方で味方として充分信用に足る人物だ。
「ハンサム!みんな!」
嬉しくて思わず名前を呼ぶと、マスク・ザ・ハンサムは示し合わせたように嫌な顔をした。
それを横目で見たファーリスが、フォローするように言う。
「間に合って良かったよ」
「だよな。まったく、ベロリンマンのおかげさね!」
サイデリアちゃんがそう言ってベロリンマンの背中を叩く。
ぱしりと痛がるそのベロリンマンは、一人だけ先ほど攻撃に参加しなかった分身だ。
その代わり彼には、別の役割を負ってもらっていた。すなわちハンサムたちとの合流及び道案内である。
「…で、あちらが今回の黒幕さん?」
語尾を半音上げるその割には、ビビアンちゃんの口調は確信めいていた。そのおちゃらけた見た目に反して頭の回転が速い彼女は、早くも全てを悟ったらしい。
「こいつらを倒して、子どもたちを助けて大団円ってところねん。やる気出てきたわ」
手にしたステッキでホロゴースト、それからバリクナジャを指しておちょくるようにくるくる回す。
彼女にしてはまた随分と直球の挑発だとは思ったが。
「な・ん・だ・とぉ!?」
土気色の肌を湯気でも噴き出さんばかりに真っ赤にし、目を血走らせるバリクナジャには効果抜群だったらしい。
…レベルを合わせたと言ったところか。
「どいつもこいつもこのオレをコケにしおって!!!」
豪快に鞭が打ち鳴らされる。見た目にも強烈なそれは威嚇だけを意図したものではない。
すでに砕けていた足場の欠片をこちらに弾き飛ばすためだ!
と気づいたら時にはすでに遅く、大小様々の尖った破片が私たちを襲う。
「きゃぁ!」
「くっ…!たかが石つぶてにこれほどまでの威力が…」
ハンサムが呻く。それもそのはず。
通常盗賊などが使う同名の特技といえば、そこらへんで拾った石を投擲するもの。
もちろん各々の腕力により威力には差が出るが、基本的には牽制用のお手軽技だ。
だが、ただ鞭を用いて飛ばしただけでそれを通り越し攻撃として成り立つこの威力、危険度。
…バリクナジャの腕力は計り知れなかった。
「これはもしかして力はグレイグ以上かな?」
腕で顔を庇っていたファーリスが、わかったようなことを言うけれど、恐らくはその通りだ。
そもそも魔物だし、3メートルはありそうな巨体だし。
「そのぶんおつむには難ありみたいだけどねっ」
バリクナジャをキレさせた張本人のベホマラー。
身体は癒えていくのを実感しながら、私もまた別の呪文の詠唱を始める。
「サンキュー、エルザ!あたいとベロリンマンが前に出るよ!」
ピオリムで素早くなったサイデリアちゃんとベロリンマンたちが、多方向からバリクナジャを襲う。
最初にサイデリアちゃんの火炎切りがバリクナジャの脛を切り裂き、下がろうとした彼女を巨大なムチが追ってくる。
あわや、というところで。
「ベロリンマン!」
「大丈夫!こういうのは得意だベロン!!」
舌をたらした武闘家の分身が彼女を庇い代わりにその攻撃を受けた。
実体のあるまがい物を消滅していくのを見ながらバリクナジャは忌々しく舌打ちする。
それで一瞬見せた隙をベロリンマンの本体は見逃さず死角から殴りつける。
私が彼女らにかまえたのはここまでだった。
「よもや忘れていませんよね、私のこと」
音もなくホロゴーストが迫る。振りかぶった赤いツメが、風を切って標的を襲う。
「あいつと一緒にすんな!」
それを私は剣で受ける。ぎちぎちと攻防を繰り広げながら、ホロゴーストはそれでもにやりと目を細めた。
「これはすみません。愚かな上司を持つと、それはもうストレスが溜まるのですよ」
「人間みたいなことを言うんじゃない!」
鍔迫り合いを中断させたのはハンサムだった。
両手に持った二振りの短剣のそれぞれで、器用にホロゴーストの腕だけを切断する。
それに困惑させる前に、私が体勢を整えてから袈裟斬りにしてやる。
「二人ともどいて!!」
斜めに2つに割かれた赤い影に更に追い打ちをかけるのは、大きな火の玉。
メラミを撃ち出したビビアンちゃんの顔にはいつものような余裕はない。もっとも怯えているのではなくただ真剣なだけだけれど。
とはいえそれがトドメとなり、ホロゴーストは消滅する。
「…呆気なかったな」
ぐいっと最初のバリクナジャの瓦礫飛ばしに汚された顔を拭いながらハンサムはそんな感想を述べる。
私もビビアンちゃんも頷く。
「やっぱり本命はあっちみたいね」
油断なくビビアンちゃんが睨む先では、サイデリアちゃんとまたいつの間にか増えたベロリンマンがバリクナジャとの熾烈な争いを繰り広げている。
現状数で辛うじて有利を取っているが、いつ逆転するかわからない。
ブギーの後釜かしらないけれど、バリクナジャか妖魔軍を率いていると自称するに恥ずかしくない程度の実力を持っていることは、もはや疑いようもなかった。
「急ごう、二人とも余裕がなさそう」
三人で無言で目を見合わせた。
「その前に、聞いて行ってくれないか」
静かな声に振り向くと、ファーリス王子が青い顔で立っている。
いっそ滑稽ないつもの怯え方のように膝が笑っているわけではない。
そんなところはすでに通り越し、すでに死んでいるのではないかと疑いたくなるような、そんな極限レベルのものだ。
「ま、まずは…。ボクがキミたちのように戦闘に参加できないことを大変恥じている。心底、申し訳無いと思っている」
悔しそうに歯噛みするファーリス。
そんな彼に厳しい言葉を投げかけたのはハンサムだった。
「あいつらがやられるかも知れないっていうのに、そんなくだらない言い訳を聞きにボクたちは足を止めたわけじゃないぞ」
「ちょっとラゴス!」
ビビアンちゃんが彼の毒舌に非難の声をあげる。ハンサムは興味なさげに手を振ると続けた。
「ファーリスに戦力としての期待は誰もしていない。もっと重要な役目があるからな。
……もうわかったんだろ?あいつの弱点」
「ハンサムくん、キミは優しいね」
ファーリスは僅かに笑みを浮かべると、すぐに表情を変える。
「端的に言う。バリクナジャは毒が弱点だ。サバクくじら、あの時と同じだ。ボクが狙おう」
ボウガンを握り締め、確固たる口調でファーリスが言う。
「できるのか?」
「やるのさ。前回ほど甘い相手じゃないのもわかっている」
「ならいい。お前が上手くやったあかつきには、ボクが必ず仕留めてやる」
二人の男の視線が交錯する。
私がベロリンマンに拉致られていた間に随分と厚い信頼を築いたものだ。少し羨ましくなる。
「私らはそのサポートだね。行こう、ビビアンちゃん」
「はーい。二人を待たせてるんだから。うまくやってね、ラゴス」
嫌味でありながらどことなく柔らかな笑みをビビアンちゃんは湛える。
そのまま今度はスクルトを詠唱し、私は対抗するようにバイキルトをハンサムにかけた。
こうして三人が前に出る一方、ファーリスはその場に居残り毒を仕込んだボウガンをかまえる。
「ボクらの旅もあと一息だ。必ず、勝とう」
振り返らず、返事に手を上げた。