Hevenly sun
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「ベロベローーーン!!!」
ベロリンマンの大きな声で気がつく。
どうやら先の戦いの際、魔物の攻撃により気を失っていたようだ。
寝覚めとしてははっきり言って最悪の部類だと内心で愚痴る。
「オレが悪かったベローーーン!!
せっかくアンタたちはオレを拾ってくれたのに!!あの時は気が動転して、それで逃げちまったんだ!!」
「ベロリンマン……?」
必死の様子で何者かに呼びかけている。私が呼ぶのにも、ベロリンマンは無視して。
「詫びと言っては難だが!ウマそうな魔力を持った女を連れてきた!!
どうかこれで気を鎮めて、オレを改めて仲間にしちゃくれないか!?ベロベローーーン!!!」
「ベロリンマン…っ!お前!!」
覚醒したばかりの頭だが明確にベロリンマンの裏切りを理解した。瞬時に怒りが湧き上がる。
衝動の赴くまま彼に斬りかかろうと起き上がった時、(ベロリンマンに運ばれる際地面を引きずられていたらしく、全身に痛みが走った)地響きが鳴り響いた。
「ベロベロ!バリクナジャ様!こちらです!ベロベローーーン!!」
犬が尻尾を振るように媚びた態度でベロリンマンはその魔物を迎える。
その魔物は、あの絵画とは一切関係のないような姿形をしていた。
巨大な黒い身体は大柄なベロリンマンより1.5倍は大きく、この場にはいないがグレイグさまより更に頑強そう。
それから乱暴に布を巻いていたりムチを持っていることから、ある程度の知性は伺える。
人のように直立で歩きながら一番異形を感じさせるのはその顔。まるで牛のようだった。
そして額からはツノが生えており、鬼のようにも見える。
「フン!魔物にもヒトにもなれぬ腰抜けが!生贄を連れてきたから今更仲間にしてほしいだと!?」
低く、よく通る声だが決して愉快なものではない。
ギロリ、とバリクナジャは立ち上がりかけた私を睨む。ぎしゃりと歪んだ笑みを浮かべた。
「ほう!ほうほうほう!!」
その堅物そうなビジュアルに反しころりと機嫌を直す。
「腰抜けのくせにやるではないか!これはエサどころか!
おれの嫁にしても良いくらいの良質の魔力を持っている!!」
その好色な顔に吐き気すらしたが、今は抑える。このバリクナジャという魔物は完全に油断している。
「ベロベロ!というと!」
今すぐに切り捨てたくなるほどの嫌悪感に、もう少し堪えろと言い聞かせる。
「ああ、ベロリンマン!お前の態度は不問としてやる!!改めて我が妖魔軍に迎え入れてやろう!!」
魔物にしては気風は良いのか、がははと大きな声で気持ちよくバリクナジャは笑う。
それからひょいと私を片手で持ち上げ、顔を近づけてきた。
「オレの花嫁となる、この女と共にな……」
「バリクナジャ様!!」
ベロリンマンは感激したような声を上げる。
「そいつはとってもありがたいベローーーン」
その時バリクナジャを背後から襲ったのは二人のベロリンマン。
もちろん彼の得意技である分身の産物だが、私の得意のバフ魔法でその能力は大幅に増している。
本体を含めたそんな彼らの強力な一撃が、牛鬼を強烈に襲った。
「ぐっ…。ベロリンマン貴様…!」
攻撃を受けたことでバリクナジャの握力が緩み、私も脱出を果たしていた。
乱暴に掴みあげられた腹いせに一発魔物を切り裂いてから着地。
「女、お前…」
「ベロリンマンがさ、今更人間を裏切るわけないでしょ」
三人のベロリンマンから袋にされ、胸から血を流しバリクナジャは揺らいでいた。
けれども斃れるには至っていない。
…これで決めるつもりだったんだけどな。
「この人が一番子どもたちを助けたがってるんだから」
「そうだそうだ!あとエルザにはもう男がいるベローーーン!!」
今に限定すれば微妙に余計なことを言いながら、ベロリンマンは後押ししてくれる。
彼の裏切りは作戦の内だった。
ファーリス王子とハンサムたち闘士がいつ来られるかわからない以上頼れるのは己とベロリンマンだけ。
どちらもそれなり以上に戦える。
しかしながら、いくつもの村や町から子どもを何人もさらうような強力な魔物を相手にするには、かなり心許ない戦力だ。
とするならばどうすると考えた時真っ先に浮かんだのが奇襲戦法。作戦はごく単純。
ベロリンマンが魔物側に寝返ったと思わせ、敵が油断したところを叩く。
黒幕こそメルトアではなくバリクナジャだったが、その見た目の通りの脳筋であったのも幸いし、作戦はほとんど完璧な形で遂行された。
もちろん、私の描いたシナリオと魔物にわざとやられまでした演技力、そしてベロリンマンの意外なまでの役者っぷりがあってのものだが。
「ゆ……許さんぞ……っ!ベロリンマン…、女ァ!!」
しかしながらたった一つの誤算。バリクナジャのダメージがどう見ても大したことないことを除けば。
ムチが打ち鳴らされる。それだけで地面に穴が開く。
シルビアさんもムチ使いだけどここまでのパワーはさすがにない。ピンチを察知する。
「許しを乞うのはあんただよ、バリクナジャ!」
それでも強気に啖呵を切る。ウンウンとベロリンマンが頷く。
なんだかんだ言っても二対一、ベロリンマンの分身を含めれば最大五体一だ。勝ち目は充分にあると言えた。
「あらん、バリクナジャ。ピンチですのね」
ここで先ほどのベロリンマンの証言は真実であったと唐突に判明する。どこに潜んでいたのか赤い影が揺らめいていた。
それは間もなく紙のように薄っぺらくも一つの魔物として体を成す。ニヤニヤと面白げに目尻を下げる。
「だから言いましたのに。その男はどうぜ使い物になりませんと」
「連れてきたのはキサマだろうが、ホロゴースト」
「あら、そうでしたっけ?」
バリクナジャのイライラとした口調を涼しく躱し、ホロゴーストと呼ばれた赤い影のモンスターはこちらに向き直る。
「二体一。非力なニンゲンでも、協力すれば強大な相手に立ち向かえる。そんな風に思われましたか?」
ホロゴーストが現れたことにより空気は冷たく張りつめた気がした。
「残念でしたね。私が加わることで数字の上ではイーブン。更に」
否。それは気持ちや比喩の問題ではない。ホロゴーストは実際周囲の熱を奪っていた。
大きく口を開けるとそこには輝く氷の粒が舞っている。空気も凍る絶望がそこにはあった。
「私はバリクナジャより強いのです」
ホロゴーストに猛烈な勢いで吐き出されてなおその吹雪は輝きを失わない。それどころか大気を冷やすことにより氷の粒は更に量を増し、美しくさえ思えた。
そういうことを考えなければならないくらい、もはやどうしようもなかった。なす術がないと諦めるとどうして妙に時間がゆっくりに感じるのだろうか。
私とベロリンマンの命を奪うきらきらとした極寒の吐息が襲う。吹き抜ける死の風を前に、私たちに成すすべなどなく――!
ベロリンマンの大きな声で気がつく。
どうやら先の戦いの際、魔物の攻撃により気を失っていたようだ。
寝覚めとしてははっきり言って最悪の部類だと内心で愚痴る。
「オレが悪かったベローーーン!!
せっかくアンタたちはオレを拾ってくれたのに!!あの時は気が動転して、それで逃げちまったんだ!!」
「ベロリンマン……?」
必死の様子で何者かに呼びかけている。私が呼ぶのにも、ベロリンマンは無視して。
「詫びと言っては難だが!ウマそうな魔力を持った女を連れてきた!!
どうかこれで気を鎮めて、オレを改めて仲間にしちゃくれないか!?ベロベローーーン!!!」
「ベロリンマン…っ!お前!!」
覚醒したばかりの頭だが明確にベロリンマンの裏切りを理解した。瞬時に怒りが湧き上がる。
衝動の赴くまま彼に斬りかかろうと起き上がった時、(ベロリンマンに運ばれる際地面を引きずられていたらしく、全身に痛みが走った)地響きが鳴り響いた。
「ベロベロ!バリクナジャ様!こちらです!ベロベローーーン!!」
犬が尻尾を振るように媚びた態度でベロリンマンはその魔物を迎える。
その魔物は、あの絵画とは一切関係のないような姿形をしていた。
巨大な黒い身体は大柄なベロリンマンより1.5倍は大きく、この場にはいないがグレイグさまより更に頑強そう。
それから乱暴に布を巻いていたりムチを持っていることから、ある程度の知性は伺える。
人のように直立で歩きながら一番異形を感じさせるのはその顔。まるで牛のようだった。
そして額からはツノが生えており、鬼のようにも見える。
「フン!魔物にもヒトにもなれぬ腰抜けが!生贄を連れてきたから今更仲間にしてほしいだと!?」
低く、よく通る声だが決して愉快なものではない。
ギロリ、とバリクナジャは立ち上がりかけた私を睨む。ぎしゃりと歪んだ笑みを浮かべた。
「ほう!ほうほうほう!!」
その堅物そうなビジュアルに反しころりと機嫌を直す。
「腰抜けのくせにやるではないか!これはエサどころか!
おれの嫁にしても良いくらいの良質の魔力を持っている!!」
その好色な顔に吐き気すらしたが、今は抑える。このバリクナジャという魔物は完全に油断している。
「ベロベロ!というと!」
今すぐに切り捨てたくなるほどの嫌悪感に、もう少し堪えろと言い聞かせる。
「ああ、ベロリンマン!お前の態度は不問としてやる!!改めて我が妖魔軍に迎え入れてやろう!!」
魔物にしては気風は良いのか、がははと大きな声で気持ちよくバリクナジャは笑う。
それからひょいと私を片手で持ち上げ、顔を近づけてきた。
「オレの花嫁となる、この女と共にな……」
「バリクナジャ様!!」
ベロリンマンは感激したような声を上げる。
「そいつはとってもありがたいベローーーン」
その時バリクナジャを背後から襲ったのは二人のベロリンマン。
もちろん彼の得意技である分身の産物だが、私の得意のバフ魔法でその能力は大幅に増している。
本体を含めたそんな彼らの強力な一撃が、牛鬼を強烈に襲った。
「ぐっ…。ベロリンマン貴様…!」
攻撃を受けたことでバリクナジャの握力が緩み、私も脱出を果たしていた。
乱暴に掴みあげられた腹いせに一発魔物を切り裂いてから着地。
「女、お前…」
「ベロリンマンがさ、今更人間を裏切るわけないでしょ」
三人のベロリンマンから袋にされ、胸から血を流しバリクナジャは揺らいでいた。
けれども斃れるには至っていない。
…これで決めるつもりだったんだけどな。
「この人が一番子どもたちを助けたがってるんだから」
「そうだそうだ!あとエルザにはもう男がいるベローーーン!!」
今に限定すれば微妙に余計なことを言いながら、ベロリンマンは後押ししてくれる。
彼の裏切りは作戦の内だった。
ファーリス王子とハンサムたち闘士がいつ来られるかわからない以上頼れるのは己とベロリンマンだけ。
どちらもそれなり以上に戦える。
しかしながら、いくつもの村や町から子どもを何人もさらうような強力な魔物を相手にするには、かなり心許ない戦力だ。
とするならばどうすると考えた時真っ先に浮かんだのが奇襲戦法。作戦はごく単純。
ベロリンマンが魔物側に寝返ったと思わせ、敵が油断したところを叩く。
黒幕こそメルトアではなくバリクナジャだったが、その見た目の通りの脳筋であったのも幸いし、作戦はほとんど完璧な形で遂行された。
もちろん、私の描いたシナリオと魔物にわざとやられまでした演技力、そしてベロリンマンの意外なまでの役者っぷりがあってのものだが。
「ゆ……許さんぞ……っ!ベロリンマン…、女ァ!!」
しかしながらたった一つの誤算。バリクナジャのダメージがどう見ても大したことないことを除けば。
ムチが打ち鳴らされる。それだけで地面に穴が開く。
シルビアさんもムチ使いだけどここまでのパワーはさすがにない。ピンチを察知する。
「許しを乞うのはあんただよ、バリクナジャ!」
それでも強気に啖呵を切る。ウンウンとベロリンマンが頷く。
なんだかんだ言っても二対一、ベロリンマンの分身を含めれば最大五体一だ。勝ち目は充分にあると言えた。
「あらん、バリクナジャ。ピンチですのね」
ここで先ほどのベロリンマンの証言は真実であったと唐突に判明する。どこに潜んでいたのか赤い影が揺らめいていた。
それは間もなく紙のように薄っぺらくも一つの魔物として体を成す。ニヤニヤと面白げに目尻を下げる。
「だから言いましたのに。その男はどうぜ使い物になりませんと」
「連れてきたのはキサマだろうが、ホロゴースト」
「あら、そうでしたっけ?」
バリクナジャのイライラとした口調を涼しく躱し、ホロゴーストと呼ばれた赤い影のモンスターはこちらに向き直る。
「二体一。非力なニンゲンでも、協力すれば強大な相手に立ち向かえる。そんな風に思われましたか?」
ホロゴーストが現れたことにより空気は冷たく張りつめた気がした。
「残念でしたね。私が加わることで数字の上ではイーブン。更に」
否。それは気持ちや比喩の問題ではない。ホロゴーストは実際周囲の熱を奪っていた。
大きく口を開けるとそこには輝く氷の粒が舞っている。空気も凍る絶望がそこにはあった。
「私はバリクナジャより強いのです」
ホロゴーストに猛烈な勢いで吐き出されてなおその吹雪は輝きを失わない。それどころか大気を冷やすことにより氷の粒は更に量を増し、美しくさえ思えた。
そういうことを考えなければならないくらい、もはやどうしようもなかった。なす術がないと諦めるとどうして妙に時間がゆっくりに感じるのだろうか。
私とベロリンマンの命を奪うきらきらとした極寒の吐息が襲う。吹き抜ける死の風を前に、私たちに成すすべなどなく――!