Hevenly sun
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
という有名な冒頭が存在するが、異世界はまさしくそんな感じで、しかしそれほどには味気も趣もなかった。
旅の扉の渦は優しいとまでは言わずとも、ごくあっさりとボクたちを迎えてくれた。
とは言え空間は禍々しくねじ曲がりボクたちの立つ床はどう考えても重力に逆らい宙に浮き、眼下ではそこかしこで魔物が蠢いている。
異様かつ不気味。そして危険。
今のように必要に迫られていなければ決して来たいとは思わないようなおぞましい地だ。
「目下、魔物には襲われずに済んだみたいだ。良かったなファーリス」
「…皮肉はやめたまえハンサムくん。この様子じゃ戦闘は避けられないんだろう?」
「よくわかってるじゃないか。…絶対にボクらの側を離れるな」
肯首。先程の勇ましさはどこへやら、緊張でまた膝が笑う。
臆病な性根は変わらないものだなと自嘲する。しかし直らないものはしょうがない。
装備したボウガンと、道具袋の見破りの望遠鏡を思う。
こんなボクでもできることがあるのだから、せめてそれくらいは全うしなければならないと覚悟を決める。
できる、きっとできる。ボクは変わったんだ。
「…そろそろ行きましょう。ビビアンちゃんたちのことは歩きながら話したげる」
ビビアンくんは相変わらずの――いや、少なからず緊張をはらんだ表情で先導した。
「じゃあ、概要はあたいが。メダ女でもやっぱり子どもたちがいなくなってたよ。嘆かわしい話さ」
サイデリアくんがそう切り出す。
「この辺りの話はきっとあなたたちの成果と変わらないと思うけど、ほら学校って狭い世界でしょ?
少し興味深いことが聞けたのよね」
ビビアンくんがどこか楽しそうに言う。こてんと首を傾げながら続けた。
「さらわれた子どもたちに共通点はあるのかなって思って、たずねてみたわ。
お友だちはどんな子だったのって。…そうしたらね、みんな魔法の才能に優れている子たちばかりだった」
「すばらしい発見だ、ビビアンくん」
「うふ、やだもう王子ったらお上手。
でもね、すばらしい発見はもう1つあったの。そうよねサイデリア?」
ああ、とサイデリアくんはごく真剣にうける。
「メダ女にはとても優秀な生徒がいたんだ。
後輩が目の前で魔物にされて、連れて行かれる場面を見たってんで、あとをつけたらしい。
それでここに行き着いた。
彼女には絵の謎が解けなくて乗り込めなかったんだけど、その先がこんな危険な空間だったってなら、結果オーライってところさね。
…とにかくそれであたいらにお鉢がまわってきた」
サイデリアくんは身を震わせる。しかしながら彼女の口もとは興奮を禁じえないと笑みを浮かべている。
「正直この調子の良さに震えたね。風は吹いているってヤツさ。このまま事件解決まで」
「向かい風じゃなければ良いがな」
勢いづこうとする彼女に水を差す形を取ったのはハンサムくんだった。
案の定不満そうにしたサイデリアくんがにらみ付けるのをどこ吹く風と受け流し、明らかに無感情を装って彼はこちらの状況を説明した。
「お前らが調子よく調査を進めていた一方、こちらは大変だった。エルザがさらわれたんだ」
「なんだって!?」
「いないと思ったらそういうことだったのね。
あの子は子供じゃないけれど、魔力は豊富だし。また魔物化しちゃったの?」
素で驚く相方に対し、ビビアンくんは少ない情報から冷静に分析をする。
ハンサムくんはいやそうじゃないと彼女の妥当ながら間違った推理を否定してから、言いにくそうに続けた。
「こちらは犯人ははっきりしている。ベロリンマンだ。
間違いない。ボクもファーリスも、この目で見たんだ!」
ハンサムくんがそういった途端、サイデリアくんもビビアンくんさえ言葉を失った。
ベロリンマンという人物はその個性的な外見に反し仲間内からはよほど厚く信頼されているのだろう。
ビビアンくんは真っ青になって口もとを抑え、微かに震えてさえいた。
「し、信じられるか!だってあのベロリンマンだよ!?
子どもたちの失踪に、ハンフリー以外じゃ一番心を痛めていたじゃないか!」
「ボクだって信じたくないさ!だがあれは間違いなくベロリンマンだった…!」
ハンサムくんが足を止め、声を震わせる。
しかし泣きそうな表情になっているのは、彼ばかりではない。
「いくらラゴスの言うことでも、鵜呑みになんてできないわ…。
何かの、間違いじゃないの?ね、王子様。そうでしょう?」
ビビアンくんはよく頭は回るけれど時々感情的になる。今回もそうだ。
縋るような目でボクを見てくる。
ボクが、別人だよと否定するのを待っている。
「ボクにはなんとも言えない。残念だが」
首を左右に振る。擁護か非難かわからないが、誰か何か口を挟む前に続けて言った。
「だがわからないなりに彼を疑うのは止そうと思っている。
エルザくんをすでに連れ去った以上難しいかも知れないが、…まだ何かある気がするんだ」
根拠はない。むしろ全くの勘、でまかせと言って差し支えないレベルだ。
それどころか。
ボクは実際のところベロリンマンが黒幕でも別に驚かなくすらあった。
闘士たちとは違い彼とは面識がないからというのが主だった理由だが、わざわざそれを言ってただでさえ悪い雰囲気を更に乱す必要はない。
ウソも方便というやつだ。実際、第三者たるボクの意見で空気は僅かに和らぐ。
「……そうだな。お前がさっき、そう言ったばかりじゃないか。すまない、またボクは」
何か言おうとしたハンサムくんの口が止まる。
ひゅっと緊張で息を呑みこんでしまったのが、彼の横を歩くボクには少なくともわかった。
そしてその視線の先――この空間には基本的に壁がないから、違う島の様子は近ければよく見える――ボクは見てしまった。
「ベロリンマン、お前っ」
島としてはほとんど隣でありながらこの場所からは恐らく離れた場所。
そこに立ち尽くす大柄で、長い舌を垂らした男。
「エルザくん…なんということだ…!」
そして床に倒れ伏し、どうやら気を失っている様子の、ボクたちの探し人。
「どういうことだ!!説明しろ!!」
即座に激昂し怒鳴りあげるハンサムくんだが、ベロリンマンが要求に応えることはおろか返事すらしようという素振りはない。
まるっきりの無視だ。
それにますますハンサムくんは頬を紅潮させ、そして――。
「ハンサム!ベロリンマンは後だ!!」
サイデリアくんが声を張り上げるが、ハンサムくんのものとは違い冷静さを欠いているわけではなかった。
慌てて露払いを行ってくれていた彼女らの方を見ると、シャドーサタンやエビルドライブといった、悪魔系のモンスターの数々が並び邪悪に目を光らせている。
「案の定、ボクたちは歓迎されてないようだ…」
道具袋からボウガンと『見破りの望遠鏡』を取り出す。
皆からすればボクは戦力外だし自覚もあるが。それでも何もしないというのは、今のボクの性には合わない。
「とっとと蹴散らすぞ。ベロリンマンに追いつくんだ」
ハンサムくんが今までで一番低い声で言う。怒りを辛うじて抑えているといった風体。
「あん、ラゴスったらこわーい」
こんな時にでも彼を茶化すビビアンくんは、勇気があると思う。
「そういう前のめりで足を掬われたらビビアンちゃんが笑ったげるから、せいぜい気をつけてねっ!」
それでハンサムくんが何か言いかけようとするより先にビビアンくんは呪文の詠唱を始めた。
もはや敵は待ってくれない、そういう雰囲気だった。
という有名な冒頭が存在するが、異世界はまさしくそんな感じで、しかしそれほどには味気も趣もなかった。
旅の扉の渦は優しいとまでは言わずとも、ごくあっさりとボクたちを迎えてくれた。
とは言え空間は禍々しくねじ曲がりボクたちの立つ床はどう考えても重力に逆らい宙に浮き、眼下ではそこかしこで魔物が蠢いている。
異様かつ不気味。そして危険。
今のように必要に迫られていなければ決して来たいとは思わないようなおぞましい地だ。
「目下、魔物には襲われずに済んだみたいだ。良かったなファーリス」
「…皮肉はやめたまえハンサムくん。この様子じゃ戦闘は避けられないんだろう?」
「よくわかってるじゃないか。…絶対にボクらの側を離れるな」
肯首。先程の勇ましさはどこへやら、緊張でまた膝が笑う。
臆病な性根は変わらないものだなと自嘲する。しかし直らないものはしょうがない。
装備したボウガンと、道具袋の見破りの望遠鏡を思う。
こんなボクでもできることがあるのだから、せめてそれくらいは全うしなければならないと覚悟を決める。
できる、きっとできる。ボクは変わったんだ。
「…そろそろ行きましょう。ビビアンちゃんたちのことは歩きながら話したげる」
ビビアンくんは相変わらずの――いや、少なからず緊張をはらんだ表情で先導した。
「じゃあ、概要はあたいが。メダ女でもやっぱり子どもたちがいなくなってたよ。嘆かわしい話さ」
サイデリアくんがそう切り出す。
「この辺りの話はきっとあなたたちの成果と変わらないと思うけど、ほら学校って狭い世界でしょ?
少し興味深いことが聞けたのよね」
ビビアンくんがどこか楽しそうに言う。こてんと首を傾げながら続けた。
「さらわれた子どもたちに共通点はあるのかなって思って、たずねてみたわ。
お友だちはどんな子だったのって。…そうしたらね、みんな魔法の才能に優れている子たちばかりだった」
「すばらしい発見だ、ビビアンくん」
「うふ、やだもう王子ったらお上手。
でもね、すばらしい発見はもう1つあったの。そうよねサイデリア?」
ああ、とサイデリアくんはごく真剣にうける。
「メダ女にはとても優秀な生徒がいたんだ。
後輩が目の前で魔物にされて、連れて行かれる場面を見たってんで、あとをつけたらしい。
それでここに行き着いた。
彼女には絵の謎が解けなくて乗り込めなかったんだけど、その先がこんな危険な空間だったってなら、結果オーライってところさね。
…とにかくそれであたいらにお鉢がまわってきた」
サイデリアくんは身を震わせる。しかしながら彼女の口もとは興奮を禁じえないと笑みを浮かべている。
「正直この調子の良さに震えたね。風は吹いているってヤツさ。このまま事件解決まで」
「向かい風じゃなければ良いがな」
勢いづこうとする彼女に水を差す形を取ったのはハンサムくんだった。
案の定不満そうにしたサイデリアくんがにらみ付けるのをどこ吹く風と受け流し、明らかに無感情を装って彼はこちらの状況を説明した。
「お前らが調子よく調査を進めていた一方、こちらは大変だった。エルザがさらわれたんだ」
「なんだって!?」
「いないと思ったらそういうことだったのね。
あの子は子供じゃないけれど、魔力は豊富だし。また魔物化しちゃったの?」
素で驚く相方に対し、ビビアンくんは少ない情報から冷静に分析をする。
ハンサムくんはいやそうじゃないと彼女の妥当ながら間違った推理を否定してから、言いにくそうに続けた。
「こちらは犯人ははっきりしている。ベロリンマンだ。
間違いない。ボクもファーリスも、この目で見たんだ!」
ハンサムくんがそういった途端、サイデリアくんもビビアンくんさえ言葉を失った。
ベロリンマンという人物はその個性的な外見に反し仲間内からはよほど厚く信頼されているのだろう。
ビビアンくんは真っ青になって口もとを抑え、微かに震えてさえいた。
「し、信じられるか!だってあのベロリンマンだよ!?
子どもたちの失踪に、ハンフリー以外じゃ一番心を痛めていたじゃないか!」
「ボクだって信じたくないさ!だがあれは間違いなくベロリンマンだった…!」
ハンサムくんが足を止め、声を震わせる。
しかし泣きそうな表情になっているのは、彼ばかりではない。
「いくらラゴスの言うことでも、鵜呑みになんてできないわ…。
何かの、間違いじゃないの?ね、王子様。そうでしょう?」
ビビアンくんはよく頭は回るけれど時々感情的になる。今回もそうだ。
縋るような目でボクを見てくる。
ボクが、別人だよと否定するのを待っている。
「ボクにはなんとも言えない。残念だが」
首を左右に振る。擁護か非難かわからないが、誰か何か口を挟む前に続けて言った。
「だがわからないなりに彼を疑うのは止そうと思っている。
エルザくんをすでに連れ去った以上難しいかも知れないが、…まだ何かある気がするんだ」
根拠はない。むしろ全くの勘、でまかせと言って差し支えないレベルだ。
それどころか。
ボクは実際のところベロリンマンが黒幕でも別に驚かなくすらあった。
闘士たちとは違い彼とは面識がないからというのが主だった理由だが、わざわざそれを言ってただでさえ悪い雰囲気を更に乱す必要はない。
ウソも方便というやつだ。実際、第三者たるボクの意見で空気は僅かに和らぐ。
「……そうだな。お前がさっき、そう言ったばかりじゃないか。すまない、またボクは」
何か言おうとしたハンサムくんの口が止まる。
ひゅっと緊張で息を呑みこんでしまったのが、彼の横を歩くボクには少なくともわかった。
そしてその視線の先――この空間には基本的に壁がないから、違う島の様子は近ければよく見える――ボクは見てしまった。
「ベロリンマン、お前っ」
島としてはほとんど隣でありながらこの場所からは恐らく離れた場所。
そこに立ち尽くす大柄で、長い舌を垂らした男。
「エルザくん…なんということだ…!」
そして床に倒れ伏し、どうやら気を失っている様子の、ボクたちの探し人。
「どういうことだ!!説明しろ!!」
即座に激昂し怒鳴りあげるハンサムくんだが、ベロリンマンが要求に応えることはおろか返事すらしようという素振りはない。
まるっきりの無視だ。
それにますますハンサムくんは頬を紅潮させ、そして――。
「ハンサム!ベロリンマンは後だ!!」
サイデリアくんが声を張り上げるが、ハンサムくんのものとは違い冷静さを欠いているわけではなかった。
慌てて露払いを行ってくれていた彼女らの方を見ると、シャドーサタンやエビルドライブといった、悪魔系のモンスターの数々が並び邪悪に目を光らせている。
「案の定、ボクたちは歓迎されてないようだ…」
道具袋からボウガンと『見破りの望遠鏡』を取り出す。
皆からすればボクは戦力外だし自覚もあるが。それでも何もしないというのは、今のボクの性には合わない。
「とっとと蹴散らすぞ。ベロリンマンに追いつくんだ」
ハンサムくんが今までで一番低い声で言う。怒りを辛うじて抑えているといった風体。
「あん、ラゴスったらこわーい」
こんな時にでも彼を茶化すビビアンくんは、勇気があると思う。
「そういう前のめりで足を掬われたらビビアンちゃんが笑ったげるから、せいぜい気をつけてねっ!」
それでハンサムくんが何か言いかけようとするより先にビビアンくんは呪文の詠唱を始めた。
もはや敵は待ってくれない、そういう雰囲気だった。