Hevenly sun
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異国情緒溢れる建物が並ぶプチャラオ村は、その景観どおり観光地として栄えていた。
しかし今は魔王の影響だろう、さすがにややなりを潜めていた。
とは言っても転んでもただでは起き上がらないたくましい村民性、今度は謎のパレード軍団とやらが訪れた地として集客を行っている。
「…絶対シルビアさんと勇者さまだ」
で、今流行っている土産物が村の画家がそのパレード集団を絵描いた各種グッズ。
なんとも言えないとにかく祭のような派手な衣装を身にまとい、更には揃って妙になよなよした男(というと微妙に語弊がありそう)たちが、
ちょっと前に悪の限りを尽くしたフールフールという魔物を見事に退治したらしい。
なおこの事件でも結構な人数がいなくなったようだが、それはこのフールフールが単純に攫っただけだったようだ。というわけで多分無関係。
……それにしても、と思う。この絵結構出来が良いな。
「すみませーんこれください!」
「何やってんだお前」
背後から鋭いツッコミ。
厄介な奴に発見されてしまったなあと露骨に嫌な顔をしてみせる。
ハンサムは、わざとらしく大きくため息を吐いた。
「随分楽しそうにしているが、ちゃんと調査はしたんだろうな?」
「したよ!!っていうか今のハンサムにだけは言われたくないかな!」
「は?ボクの何が悪いと言うんだ!」
「何さらっと衣装チェンジしてんの」
「パレードの衣装(羽つき)9800ゴールド愛はプライスレスだ、文句あるか!?」
ひっと声にならない悲鳴があがる。
この最先端を全力疾走したセンスは間違いなくシルビアさんのもの。
そう思うと、頼むから横を歩かないでくれなんてとても言えない。
でも恐ろしいことにこの村では意外とこのぶっ飛んだ服が流行っていたらしく、その派手すぎる格好をした男性をゆく先々で見かけた。
さすがに身内が着るとは思わなかったけれど。
「ハンサム…それどこで売ってた?」
「あっちの土産物屋だが、残念。男物しかなかったぞ」
「そうでしょうね…」
ハンサムは勝ち誇っていたが、なぜかシルビアさん絡みでも全く悔しくなかった。
自分にはまだ信仰心が少々足りないのかも知れない。
「ははは。二人とも、相変わらず仲が悪いな」
喧嘩半分で立ち話をしているのが目立ったようだ。ファーリスが手を振りながらやって来た。小脇に大事そうに何かを抱えている。
「『世助けパレードから見る騎士論』…本まで出てるの」
著者こそシルビアさんとは違うけど。
…いやこれだけの人間の心を掴んで離さない彼はやはり、本来違う世界に生きているのだと思わざるを得ない。
「シルビアさんはボクの心の師匠だからね!
他者の考察も知って、ボク自身の騎士としての在り方をより深く考えたいのさ!!」
思ったよりもだいぶまともなことを言われる。
仕事そっちのけなのはこの際気にしないことにした。人のこと言えないし。
というか今更だけど今いる三人全員シルビア信者か。
偶然にしてもすごい。そのうち彼を崇める宗教ができそうである。
「ファーリス!お前もシルビアさん狙いだったとはな!」
「狙い?何のことだい?確かに一人の男としていつかあの人を超えたいとは思うが」
「ボクは!ボクは認めないかららな!!ちょっと顔と家と頭が良いくらいで!!!」
ハンサムの見当違いの宣戦布告だったが、やはりファーリスはいまいちピンとこなかったらしい。
理解できないなりに微笑みながら首を傾げていた。
「ね。寄り道してた私が言うのも難だけど、そろそろ本題に入らない?」
これ以上は埒が明かない。
そういうわけで手近な食事処を指し示しながら提案した。真剣に仕事をしていれば時間が経つのも早いものである。
決してシルビアさんのファン活動をしているわけではなかった。うん、多分。
「じゃあ、まず言い出しっぺの私から」
名前すら確認していない古ぼけた小さな店。
私の隣にはファーリス、向かいにはハンサムという構図で椅子につき、三人とも同じ定食を頼む。
給仕の女性が先に置いてくれた薄緑色をしたガラスコップの水でまずは揃って喉を潤し、報告会が始まった。
「まず、やっぱり子どもが消える事件はここでも起きてるらしいっていうことがわかったよ。
ビビアンちゃんが聞いた通りってとこ。
しかもこの村で知らない人がいないくらい件数は多いし捜査もしてるけど、手応えはないみたい」
彼らの証言を思い出しながら、尾ひれを除きひたすら語る。
それ以前にも、ここでは人が消えた事件が二回起きていた。
一つが、以前ファーリス王子が言っていた通称『呪いの絵』事件。
もう一つが、フールフールっていう魔物が起こした事件。
こっちはフールフールが村人の大切なものを奪っていって、その中には人間も含まれていたっていう話。
ただそのやり口は今回の事件とはあまりにも違うということは素人目にもわかる。
フールフールやその子分が無理矢理連れ去ったという目撃者も、そもそも多数いた。
その後さらわれた人たちに関しては、ここから南に行った洞窟の牢屋に、他の人の宝と一緒に閉じ込められていたのだそうだ。
「…というわけで、私はフールフールは無関係だと思う」
それにしても、だ。
自分で連呼しておいて難だが、フールフールって本当に自ら名乗ったのだろうか。
疑問になるほどのすごいネーミングセンスだ。
連呼しているとゲシュタルトが崩壊してくる。
繰り返しになるけれど本当に名乗ったのだろうか。
もっとも、『被害者の大切なものを奪う』というその卑劣極まりないやり口といい、さぞかしシルビアさんの怒りを買っただろうということは想像に難くなかった。
そういう意味ではその行いに相応しい名前かもしれないと、どうでもいい感想を持つ。
「ボクが今回の事件について掴んだ情報もエルザと同程度。メインは『呪いの絵』事件についてだ」
テーブルの上で手を組み、ハンサムはテーマから入る。
「事件の概要は以前ファーリスが言ったとおりだったから省く。
どうも絵画の魔物・メルトアが被害者を騙し、魅了だか洗脳だかをして自分の巣の中に誘い込んでいた。
…で、その巣というのが、その被害者いわく絵の中というか異空間というか、とにかく現実離れした世界だったそうだ。
フールフールというやつよりは、すっかり人が消えてなくなるという意味では今回の事件には近そうだな。
…だが実際のところ関係があるとは思えなかった」
そこまで言うとハンサム(存外真面目に仕事をしていたことに多少驚いた。衣装チェンジはしたままだが)はもう一度水を口に含んだ。
ファーリスはゆっくりと頷く。
「二人とも、ありがとう。ボクは始めから絵画の事件の方が怪しいと踏んでいた。
エルザくんにあえてフールフールの方の調査をお願いしたのは、改めてこちらは関係ないと確認するためだし、実際のところそうだった」
ファーリスは一度言葉を切り、天井を仰ぐ。
少しだけ言いにくそうに切り出す。
「……ボクは『呪いの絵』事件で被害者が実際に行方不明になった現場とされる遺跡に行ってみた。
巨大な、美しい女性の絵があったよ。
芸術品は見ている方だという自負はあるけれど、あれほどまでに立派なものは中々ないから後で見てみると良い。
…さて、本題はここからだ。
この遺跡でボクはしばらく怪しいものがないか調べていたわけだが、そこに何者かが訪れた。
こんな呪いの地にわざわざ足を運ぶ人間なんて、以前ならともかく今はそういない。
魔物なら対処できない、と思いボクは慌てて物陰に隠れた。
そのまま様子を伺っていると、そいつらはシャドーだということがわかった。
そして、絵の中に消えていった…」
ハンサムが気づいたように声をあげる。私もすぐにはっとなる。
「つまりそれって…!」
ファーリスはそうだ、と言った。
「ハンサムくんの話と統合して、ボクもわかったよ。あの絵の中にはまだ異世界がある。
……つまり、だ。イレブンくんたちが倒したはずのメルトアは、どういうわけかまだ生きている」
周りの席につくほとんどがおそらくプチャラオ村の住人だ。
下手に聞こえてしまい不安を煽ることのないように声を潜めつつも、ファーリスは確信した口調で〆る。
「今回の黒幕はメルトアだ」
ちょうどそこでタイミングよく食事が運ばれてきた。
報告会はそこで一度中断とし、冷めないうちにいただくことに暗黙の了解で落ち着いた。