Hevenly sun
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シルビアさんがいる。
それでこれは夢なんだな、とすぐに理解ができた。
いつものように凛とした、でもどこか柔らかくて上品な感じ。
実際はとても誠実なのに、なぜか胡乱な雰囲気は夢の中でも変わらないんだと、つい笑みが洩れる。
『エルザちゃん』
シルビアさんが、いつものようににこっと笑いかけてくる。
その屈託のなさが私はとっても好き。夢の中だからいいやと嬉しそうに駆け寄る。
そして、訊いてみる。
「ねえ、私がんばれてるかな。シルビアさんの役に立ててるかな」
彼は道化のように一度大げさに驚いて見せ、しかしごく真面目に、優しく答えてくれた。
『もちろんよ。とってもがんばってるわ。だからアタシ、エルザちゃんのこといっぱい褒めちゃう!』
妖艶で魅力的で、蕩けそうなくらいのとびきりの笑顔でシルビアさんは頭を撫でてくれる。
夢の中だとわかっていても、抗いようのない幸せに包まれた。
このパーティーにルーラを使うことができる人間はいないので、必然的に足を使うことになる。
ちなみに騎士の国発だからと約一名の強い要望で馬に乗ろうという話になりかけたが、
まともに乗馬ができる者がその一名しかいなかったのであえなく没となった。
そんな砂漠のキャンプ場。
夕飯にみんな大好きな干し肉を食べて楽しく身の上話なんかをして、そして静寂。
とはいえ焼けた薪が時折弾けていた。どこか離れたところでは恐らくウルフドッグが遠吠えをしている。
無音とは程遠い。
「眠れないのか」
それにまだ、起きている人間がいた。
「うん。どうもはじめての人と寝るのは苦手で」
「思い切り誤解を招く言い方はやめろ」
呆れたようにマスク・ザ・ハンサムは新たな枝を焚き火に投げた。
昼間ひたすらに暑い以外の感想が持てない砂漠の夜は、打って変わってとても冷える。
お腹を丸出しにして眠るサイデリアちゃんが風邪を引かないようにと、彼は配慮しているのだなと思った。
「…ファーリス、着いてきたな」
昼のサバクくじら戦を経て少し気を許してくれたのか、それとも単に退屈だからか。
雑談めいた話題をハンサムは振ってくる。
「そうだね。正直意外だったかも」
そういう風に返す。当の王子様は普段規則正しい生活をしているのだろう。
一番に眠ってしまった。冷えたのか、くしゃみをする。
そんな彼を見やり、ハンサムは少しおかしそうにする。
「不思議なものだ。あれだけ頼りないと思っていた男が今ここにいることに、ボクは少し希望を抱いている」
もう一度頷く。
ファーリス王子に約束通り本当のことを話すと、彼はこともあろうかわからないと宣った。
子どもを拐う魔物の話など聞いたことがないと。
それでまたハンサムも激昂しかけたのだが、しかしなおファーリスは笑っていた。
臆病者の性根を隠すように――ではなく、それを超えて不敵に。
『判断材料が足りないんだ。資料もないしね。だからボクをグロッタに連れて行ってくれ』
と。
堂々たる態度を見て、元より彼を必要としていた私たちに今更断る理由はなかった。
父である王様も同じ感想を持ったようで、息子の申し出に対しいいんじゃないかと言葉短く旅の許可を出した。
『平時ならともかく、現状の危機はサマディーばかりのものではない。
デルカダールの姫も世界のために戦っている、お前も少しでも貢献してきなさい』
このように父に告げられ、ファーリス様は力強く返事した。
ここに更にこの国での調査を終えたサイデリアちゃんを加え、グロッタ行きのパーティーが完成したのである。
そして旅立ち、今に至る。
「…エルザ」
ハンサムは枝を手に持ったままこちらを見る。焚き火の強い光が、彼の顔に複雑な陰影をつけていた。
「改めて、聞く。お前の目的は何だ?なぜボクたちに協力する?」
「疑ってるの?」
「不可解なんだよ。ダーハルーネでうるさく泣くだけの女だと思ったら、急に雰囲気が変わった」
「それ、もしかして褒めてる?」
「質問に答えろ」
どうやらハンサムは冗談が通じないタイプらしい。
少し茶化すと、今にも手にした枝を投げつけんばかりの勢いだった。
ため息を吐く。幸せが逃げるなんていう古臭い冗句をふと思い出した。
「何も考えてないよ」
「お前もファーリスみたいな言い回しが好きなのか?」
否定に首を振る。
「違うよ。何も考えてないの。それでもただ生きたい。もう本当に、それだけ」
胸にそっと手を当てる。
「でも、こんな時代でしょ?そうするのってなんていうか難しい。だからハンサム、あなたと組もうと思った。
…あなたなら私のことを理解してくれると思ったから」
各所で恩を売っておけば後々立ち回りが楽になるだろう。
そういう打算的な本音は、オブラートで真っ白になるまで巻いてしまうことにした。
そうか。気づいているのかいないのかハンサムは短く返事して、少し考え込む。
お前のことなんか知りたくもないと怒られる予想をしていたせいで、少し意外だった。
「お前にはすでに少なからず借りがある。それを返すまでは付き合ってやる。
その方がシルビアさんにも会えそうだし、お前の監視もできそうだ」
ハンサムは枝を焚き火に投げ入れ、立ち上がる。薄く笑みながら、すっと左手を差し出した。
「せいぜい利用しあおうじゃないか、お互いにな」
私も微笑み返し、無言で手を握る。そこに込められた悪意ごと呑みこむ度量くらいは、私にもまだあった。
それでこれは夢なんだな、とすぐに理解ができた。
いつものように凛とした、でもどこか柔らかくて上品な感じ。
実際はとても誠実なのに、なぜか胡乱な雰囲気は夢の中でも変わらないんだと、つい笑みが洩れる。
『エルザちゃん』
シルビアさんが、いつものようににこっと笑いかけてくる。
その屈託のなさが私はとっても好き。夢の中だからいいやと嬉しそうに駆け寄る。
そして、訊いてみる。
「ねえ、私がんばれてるかな。シルビアさんの役に立ててるかな」
彼は道化のように一度大げさに驚いて見せ、しかしごく真面目に、優しく答えてくれた。
『もちろんよ。とってもがんばってるわ。だからアタシ、エルザちゃんのこといっぱい褒めちゃう!』
妖艶で魅力的で、蕩けそうなくらいのとびきりの笑顔でシルビアさんは頭を撫でてくれる。
夢の中だとわかっていても、抗いようのない幸せに包まれた。
このパーティーにルーラを使うことができる人間はいないので、必然的に足を使うことになる。
ちなみに騎士の国発だからと約一名の強い要望で馬に乗ろうという話になりかけたが、
まともに乗馬ができる者がその一名しかいなかったのであえなく没となった。
そんな砂漠のキャンプ場。
夕飯にみんな大好きな干し肉を食べて楽しく身の上話なんかをして、そして静寂。
とはいえ焼けた薪が時折弾けていた。どこか離れたところでは恐らくウルフドッグが遠吠えをしている。
無音とは程遠い。
「眠れないのか」
それにまだ、起きている人間がいた。
「うん。どうもはじめての人と寝るのは苦手で」
「思い切り誤解を招く言い方はやめろ」
呆れたようにマスク・ザ・ハンサムは新たな枝を焚き火に投げた。
昼間ひたすらに暑い以外の感想が持てない砂漠の夜は、打って変わってとても冷える。
お腹を丸出しにして眠るサイデリアちゃんが風邪を引かないようにと、彼は配慮しているのだなと思った。
「…ファーリス、着いてきたな」
昼のサバクくじら戦を経て少し気を許してくれたのか、それとも単に退屈だからか。
雑談めいた話題をハンサムは振ってくる。
「そうだね。正直意外だったかも」
そういう風に返す。当の王子様は普段規則正しい生活をしているのだろう。
一番に眠ってしまった。冷えたのか、くしゃみをする。
そんな彼を見やり、ハンサムは少しおかしそうにする。
「不思議なものだ。あれだけ頼りないと思っていた男が今ここにいることに、ボクは少し希望を抱いている」
もう一度頷く。
ファーリス王子に約束通り本当のことを話すと、彼はこともあろうかわからないと宣った。
子どもを拐う魔物の話など聞いたことがないと。
それでまたハンサムも激昂しかけたのだが、しかしなおファーリスは笑っていた。
臆病者の性根を隠すように――ではなく、それを超えて不敵に。
『判断材料が足りないんだ。資料もないしね。だからボクをグロッタに連れて行ってくれ』
と。
堂々たる態度を見て、元より彼を必要としていた私たちに今更断る理由はなかった。
父である王様も同じ感想を持ったようで、息子の申し出に対しいいんじゃないかと言葉短く旅の許可を出した。
『平時ならともかく、現状の危機はサマディーばかりのものではない。
デルカダールの姫も世界のために戦っている、お前も少しでも貢献してきなさい』
このように父に告げられ、ファーリス様は力強く返事した。
ここに更にこの国での調査を終えたサイデリアちゃんを加え、グロッタ行きのパーティーが完成したのである。
そして旅立ち、今に至る。
「…エルザ」
ハンサムは枝を手に持ったままこちらを見る。焚き火の強い光が、彼の顔に複雑な陰影をつけていた。
「改めて、聞く。お前の目的は何だ?なぜボクたちに協力する?」
「疑ってるの?」
「不可解なんだよ。ダーハルーネでうるさく泣くだけの女だと思ったら、急に雰囲気が変わった」
「それ、もしかして褒めてる?」
「質問に答えろ」
どうやらハンサムは冗談が通じないタイプらしい。
少し茶化すと、今にも手にした枝を投げつけんばかりの勢いだった。
ため息を吐く。幸せが逃げるなんていう古臭い冗句をふと思い出した。
「何も考えてないよ」
「お前もファーリスみたいな言い回しが好きなのか?」
否定に首を振る。
「違うよ。何も考えてないの。それでもただ生きたい。もう本当に、それだけ」
胸にそっと手を当てる。
「でも、こんな時代でしょ?そうするのってなんていうか難しい。だからハンサム、あなたと組もうと思った。
…あなたなら私のことを理解してくれると思ったから」
各所で恩を売っておけば後々立ち回りが楽になるだろう。
そういう打算的な本音は、オブラートで真っ白になるまで巻いてしまうことにした。
そうか。気づいているのかいないのかハンサムは短く返事して、少し考え込む。
お前のことなんか知りたくもないと怒られる予想をしていたせいで、少し意外だった。
「お前にはすでに少なからず借りがある。それを返すまでは付き合ってやる。
その方がシルビアさんにも会えそうだし、お前の監視もできそうだ」
ハンサムは枝を焚き火に投げ入れ、立ち上がる。薄く笑みながら、すっと左手を差し出した。
「せいぜい利用しあおうじゃないか、お互いにな」
私も微笑み返し、無言で手を握る。そこに込められた悪意ごと呑みこむ度量くらいは、私にもまだあった。