とっくに目覚めてる
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切り結んだ相手のことは忘れない、とまでは私の脳みその都合上言えないけれど、
その殺気の持ち主に関してはとりわけ印象に残っている。
もしかしたらグレイグさまと並びかねないほどのその怪力を、決してまともに相手にしてはならない。
巨大な斧を手斧のように片手で扱う巨体に対抗するには、魔法がとにかく一番だ。
それもとにかく素早く出るやつ。
そこまで考えたのはあとになってから。
今はとにかく反射的に。
メラを唱える。
「ちっ」
舌打ちと共に迫り来ていたはずの斧が撤退。
その持ち主のやはり巨大な手は鬱陶しそうにメラの炎を払っていた。
覆面に引火したら困るのだろう。
「…やめろ、エルザ。今のはただの挨拶で余興だ、やる気はねえ」
「信じるに値すると思う?」
流れのまま剣を抜き、切っ先を向け、口以外は動かさない。
その様子を見て巨体――カンダタはそりゃそうかと呟いた。
そりゃそうだよ。
以前、私はこの人に今と同じような手口で誘拐されたのだ。もっともあの時は部下付きだったけれど。
「オラ。じゃあこれでいいだろ」
がしゃんと大音をたて斧が無造作に捨てられる。
そこまで見届けてから私はようやく多少納得することにした。
「妥協点ですね」
ひとまず剣は納める。
とはいえ独学で居合いは噛っているので、
油断しなければいざという時にも少なくとも無抵抗にはならない。
「…しっかりしたお嬢ちゃんだ」
カンダタは盗賊もとい海賊であり、それがゆえに人の隙をつくことを得意とする。
まず私の心境など恐らくお見通しだろう。
「今日はどんなご用です?まさかまた勇者様たちに」
「ねえよそれもねえ。…あ、でもそれアリかもな。エルザと組んで勇者どもを見事退治する俺様。
うん、イイ。なあおいエルザお前何でも屋だったよな?」
「却下。あと前それやったけど失敗しました」
「おいおい。お前シルビアって奴とベッタリなのになんでまた…いや色々あったんだな。
わかるぜぇその気持ち」
あんたなんかにあたしの何がわかるのよ、という使い古された言葉がある。
それを今心の底から使いたかった。
いやでも、前半の言葉でむしろすべて許した。
「とにかく、俺様が歩いてたら近くをお前が通り掛ったんでな。
先日の礼も兼ねて挨拶してやったってわけだ」
相変わらずはるか高みの目線から割ととんでもない言葉が出てくる。
挨拶で斬りかかるとは、やはり危険人物以外の何者でもない。
シルビアさんとお似合いのカップルだと言ってくれたお礼に、
この男を見逃したのは今更だが失敗だった気がする。
「私ね、カンダタさん。あなたをやっぱり捕まえるべきじゃないかって、今思ってる」
「ま、待て!剣を引けエルザ!あれから俺様たち、悪事なんかほとんど働いてねえよ!!!」
「すごく引っかかるんだけど。本当に?」
「本当だ!少なくとも、人さらいなんざもうしちゃいねえ!!」
私には態度から嘘を見抜くような能力はない。
しかしこの必死具合で、それ以上追及する気は当面失せた。
…思い切り胡散臭くはあったが。
「じゃあ何をやってるの?まさかその格好でまじめに働いてるとか言わないよね?」
「こんな格好の人間を雇うアホウがいたらお目にかかりたいところだ!」
先ほどまでの必死な態度はどこへやら、からからとパンツマスクは笑う。
どういう脳の構造をしているのか、切り替えが速すぎる。っていうか非常識な格好だって自覚はあるんだ。
「今はな、部下どもと伝説のお宝を探して航海の真っ最中だ。最近面白い話を耳にしてな。
なんでも…伝説の大海賊ってやつが遺したとてつもないモンだそうで、
この世の全てがそこにあるとか、なんとかってよォ。
そこで俺様たちも早速ありったけの夢をかき集め」
「カンダタさん!!」
「なんだ?人の話は最後まで」
「それ以上はいけない」
なぜかとてつもなく、最後まで説明を聞いてはいけない気がした。
「…とにかく、真っ当?になったみたいでよかった。カンダタさんのこと、ちょっと見直しました」
「は。俺様に真っ当だなんて言葉ァ似合わねえ。
人さらいやめたのだって、お前にスジを通しただけだ。だがこんな俺様に惚れたってえなら」
「惚れてません」
「えっ」
「惚れてません」
自分でも驚くほどの早口で、何より心からの本音である。
たとえば月くらい離れた国ならばあなたに惚れる逸材もいるかもしれないから、
まあ傷つかないでなんて心底無責任というかどうでもいいエールを心で送る。
「…まあ、さっきのは冗談だ気にするな」
これだから女というやつはと言うかのようにぼりぼりと頭をカンダタは掻く。
そのどこか悟った様子は、意外にも過去に女性関係で何かあったかのように見えなくもなかった。
興味はないけれど。
「別に気にしてないです。浮気とか夢にも思わない」
「そうだなお前そういう奴だな…。ったくあのカマ野郎の何がお前をそこまでさせるんだ」
カンダタのぼやきに、私はきょとんとする。
そっか。そりゃそうだよな、と奇妙に納得。
確かに美形とはいえ見た目若干胡散臭い(ただしパンツマスクが言える立場ではない)し、
おネエ様おネエ様と女が慕うのは違和感があっても仕方ない気はする。
仕方ない、親切心だ教えよう。
たぶん求められてはいないけど。
「…シルビアさんはね」
「あ?」
「とっても優しいの。困ってる人は絶対見過ごさないし、私もその優しさに何度も助けられた」
「お、おう…」
「あと、誰よりも 騎士道を重んじる真面目なところも好きだし、どんな時でも明るい姿勢を崩さない。
自分がどんな辛い思いをしたって、周りのためにも一番に笑ってみせる強さを持った人。
もちろん、他にも色々あるんだけど…本当にシルビアさんって素敵なひとなの」
「なあエルザ、わかったから…」
「それにね」
思わず両肩を抱く。
不意に夜のことを思い出してしまい、劣情に火がつく。
でも性事情までカンダタに話すのはさすがに躊躇われたから、結論をつけることにした。
「あくまでこれは私にとってなんだけど…シルビアさんは希望の象徴なの」
身体が震えてきた。イケナイ薬の禁断症状みたいに。そして興奮で、呼吸が荒くなってゆく。
「それにもうダメなの…とっくに離れられない体にされちゃったの…」
彼の生き方や趣味嗜好に、色んな意味で目覚めさせられたから。
「見くびってたぜエルザ…お前余裕で武闘家のねーちゃんよりやべえ…」
カンダタは呆れたように嘆息した。
そうかな?と問うと肯定の返事。
「人間わかんねえもんだ」
その後すぐカンダタは憲兵に発見され、脱兎のごとく逃げていった。
その殺気の持ち主に関してはとりわけ印象に残っている。
もしかしたらグレイグさまと並びかねないほどのその怪力を、決してまともに相手にしてはならない。
巨大な斧を手斧のように片手で扱う巨体に対抗するには、魔法がとにかく一番だ。
それもとにかく素早く出るやつ。
そこまで考えたのはあとになってから。
今はとにかく反射的に。
メラを唱える。
「ちっ」
舌打ちと共に迫り来ていたはずの斧が撤退。
その持ち主のやはり巨大な手は鬱陶しそうにメラの炎を払っていた。
覆面に引火したら困るのだろう。
「…やめろ、エルザ。今のはただの挨拶で余興だ、やる気はねえ」
「信じるに値すると思う?」
流れのまま剣を抜き、切っ先を向け、口以外は動かさない。
その様子を見て巨体――カンダタはそりゃそうかと呟いた。
そりゃそうだよ。
以前、私はこの人に今と同じような手口で誘拐されたのだ。もっともあの時は部下付きだったけれど。
「オラ。じゃあこれでいいだろ」
がしゃんと大音をたて斧が無造作に捨てられる。
そこまで見届けてから私はようやく多少納得することにした。
「妥協点ですね」
ひとまず剣は納める。
とはいえ独学で居合いは噛っているので、
油断しなければいざという時にも少なくとも無抵抗にはならない。
「…しっかりしたお嬢ちゃんだ」
カンダタは盗賊もとい海賊であり、それがゆえに人の隙をつくことを得意とする。
まず私の心境など恐らくお見通しだろう。
「今日はどんなご用です?まさかまた勇者様たちに」
「ねえよそれもねえ。…あ、でもそれアリかもな。エルザと組んで勇者どもを見事退治する俺様。
うん、イイ。なあおいエルザお前何でも屋だったよな?」
「却下。あと前それやったけど失敗しました」
「おいおい。お前シルビアって奴とベッタリなのになんでまた…いや色々あったんだな。
わかるぜぇその気持ち」
あんたなんかにあたしの何がわかるのよ、という使い古された言葉がある。
それを今心の底から使いたかった。
いやでも、前半の言葉でむしろすべて許した。
「とにかく、俺様が歩いてたら近くをお前が通り掛ったんでな。
先日の礼も兼ねて挨拶してやったってわけだ」
相変わらずはるか高みの目線から割ととんでもない言葉が出てくる。
挨拶で斬りかかるとは、やはり危険人物以外の何者でもない。
シルビアさんとお似合いのカップルだと言ってくれたお礼に、
この男を見逃したのは今更だが失敗だった気がする。
「私ね、カンダタさん。あなたをやっぱり捕まえるべきじゃないかって、今思ってる」
「ま、待て!剣を引けエルザ!あれから俺様たち、悪事なんかほとんど働いてねえよ!!!」
「すごく引っかかるんだけど。本当に?」
「本当だ!少なくとも、人さらいなんざもうしちゃいねえ!!」
私には態度から嘘を見抜くような能力はない。
しかしこの必死具合で、それ以上追及する気は当面失せた。
…思い切り胡散臭くはあったが。
「じゃあ何をやってるの?まさかその格好でまじめに働いてるとか言わないよね?」
「こんな格好の人間を雇うアホウがいたらお目にかかりたいところだ!」
先ほどまでの必死な態度はどこへやら、からからとパンツマスクは笑う。
どういう脳の構造をしているのか、切り替えが速すぎる。っていうか非常識な格好だって自覚はあるんだ。
「今はな、部下どもと伝説のお宝を探して航海の真っ最中だ。最近面白い話を耳にしてな。
なんでも…伝説の大海賊ってやつが遺したとてつもないモンだそうで、
この世の全てがそこにあるとか、なんとかってよォ。
そこで俺様たちも早速ありったけの夢をかき集め」
「カンダタさん!!」
「なんだ?人の話は最後まで」
「それ以上はいけない」
なぜかとてつもなく、最後まで説明を聞いてはいけない気がした。
「…とにかく、真っ当?になったみたいでよかった。カンダタさんのこと、ちょっと見直しました」
「は。俺様に真っ当だなんて言葉ァ似合わねえ。
人さらいやめたのだって、お前にスジを通しただけだ。だがこんな俺様に惚れたってえなら」
「惚れてません」
「えっ」
「惚れてません」
自分でも驚くほどの早口で、何より心からの本音である。
たとえば月くらい離れた国ならばあなたに惚れる逸材もいるかもしれないから、
まあ傷つかないでなんて心底無責任というかどうでもいいエールを心で送る。
「…まあ、さっきのは冗談だ気にするな」
これだから女というやつはと言うかのようにぼりぼりと頭をカンダタは掻く。
そのどこか悟った様子は、意外にも過去に女性関係で何かあったかのように見えなくもなかった。
興味はないけれど。
「別に気にしてないです。浮気とか夢にも思わない」
「そうだなお前そういう奴だな…。ったくあのカマ野郎の何がお前をそこまでさせるんだ」
カンダタのぼやきに、私はきょとんとする。
そっか。そりゃそうだよな、と奇妙に納得。
確かに美形とはいえ見た目若干胡散臭い(ただしパンツマスクが言える立場ではない)し、
おネエ様おネエ様と女が慕うのは違和感があっても仕方ない気はする。
仕方ない、親切心だ教えよう。
たぶん求められてはいないけど。
「…シルビアさんはね」
「あ?」
「とっても優しいの。困ってる人は絶対見過ごさないし、私もその優しさに何度も助けられた」
「お、おう…」
「あと、誰よりも 騎士道を重んじる真面目なところも好きだし、どんな時でも明るい姿勢を崩さない。
自分がどんな辛い思いをしたって、周りのためにも一番に笑ってみせる強さを持った人。
もちろん、他にも色々あるんだけど…本当にシルビアさんって素敵なひとなの」
「なあエルザ、わかったから…」
「それにね」
思わず両肩を抱く。
不意に夜のことを思い出してしまい、劣情に火がつく。
でも性事情までカンダタに話すのはさすがに躊躇われたから、結論をつけることにした。
「あくまでこれは私にとってなんだけど…シルビアさんは希望の象徴なの」
身体が震えてきた。イケナイ薬の禁断症状みたいに。そして興奮で、呼吸が荒くなってゆく。
「それにもうダメなの…とっくに離れられない体にされちゃったの…」
彼の生き方や趣味嗜好に、色んな意味で目覚めさせられたから。
「見くびってたぜエルザ…お前余裕で武闘家のねーちゃんよりやべえ…」
カンダタは呆れたように嘆息した。
そうかな?と問うと肯定の返事。
「人間わかんねえもんだ」
その後すぐカンダタは憲兵に発見され、脱兎のごとく逃げていった。