Bon voyage !
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それから魔物との戦闘を交えつつ更にしばらく歩いて、ソルティコの町にたどり着いた。
セレブ御用達の美しい町並みを誇る静かな海ぞいの観光地という話は聞いたことはあるが、
実際に来たのは初めてだ。
いつかどこかの食堂で見た雑誌に載っていた写真と同じ、あの巨大な門と桟橋に出迎えられる。
石造りのそれは呆気にとられるほど堂々とした佇まいで、しかも美しい。
教養がないためうまく言い表せない自分がもどかしいくらいだ。
「なんつーか。居心地悪そうだな、オレたちみたいなのにとっちゃ」
元ならず者として似た雰囲気をまとっているからだろうか、カミュくんが声をかけてきた。
思わず、こくこくと頷く。
「うん。とってもきれいで、すてきな町なんだけど…なんだろ、肌にあわない感じ?」
「だな。別に恨みはないし長居するわけでもないが、ちょっと気が重いぜ」
私みたいな人間が足を踏み入れるなんて申し訳ない気がしてくる。
ある種の異世界というか、どこか選民的というか。
…実際はこちらが勝手に卑屈になっているだけであり、別にそんなことはないのだろうけど。
「あら!そうしたら、エルザちゃんはあっちでアタシとお花つみでもしてましょ!
すてきなお花畑を見つけたの!」
なんとなく卑屈な気持ちになっていたら、シルビアさんがそんなぶっ飛んだ提案を持ちかけてきた。
「ええ!?交渉はどーすんの!?」
抗議の声をあげるベロニカちゃんに、シルビアさんは涼しい顔というかもはや素っ気なく答える。
「ロウちゃんがいれば充分よ。ここの領主はね、頑固だけど不親切ってわけじゃないから。
ってことであとはお願いね!…行きましょエルザちゃん!」
「わっ!ちょ、待って!」
私に選択肢はないらしい。
かなり強引に手を引っ張られ、彼のコンパスに合わせさせられたためにほぼ小走りになる。
せっかくならオレも連れて行ってくれとか言い出すカミュくんのことは丸々無視して。
…それからしばらく無言で歩いた。
いつ止まるんだろう、と疑問に思うくらいよく口が動くシルビアさんにしては、
きっとそれは珍しいことだと思う。
「…ねえ、何か怒ってるの?」
と聞いても返事すらない。無視しているわけではないようだけれども。不安が募る。
やがて、不意に手は解放された。
眼前に広がるのは本当にお花畑だった。
名前はわからないけれど黄色のものが多くて、けれどもそれ一色ではなくとりどり。
比較的近くに臨む全体的に白いソルティコの町を彩っているようで一層魅力的だった。
シルビアさんはにっこり笑う。
「さ、エルザちゃん。好きなだけ摘んでいいわよ!」
「やったー!!」
とお花に駆け寄ろうとして、止まる。
「…って私この年で別にそこまでの乙女趣味はないよ。お花はきれいだけど。シルビアさんにはあるの?」
「ないわ。お花はきれいで好きだけど」
たっぷり10秒の沈黙。
「…あの町の空気ね、なんだかアタシにはあわないの。エルザちゃんとおそろいね」
と思いきや随分堂々と嘘を吐いてきた。
普段あれだけ明るく陽気な雰囲気を撒き散らしているくせに、上陸してからは変に黙りこくったり、
かと思えばそれを取り繕おうとしたのかいつもより明るく振る舞ってみたり、何かと不審なのだ。
『なんだかあわない』程度ではここまでにはならないだろう。
よほどの何かがあるのだと察するのは非常に容易だったが。
「そうなんだ。意外ですね」
…ここであからさまな嘘を吐くということは、追及してくれるなと言うことだ。
私は彼のそんな要望を、全面的に呑むという形で受け入れた。誰にだって知られたくない秘密はあるのだから。
「それにしてもここ、たしかにきれいだけど」
もういい加減話題を変えたほうが良いだろう。
というわけで手っ取り早くシルビアさんがわざわざ連れてきてくれたお花畑の話に戻ることにする。
「魔物も結構多いですよね」
巨大な黄色い花の魔物、スライムに跨った騎士、
真っ赤なドレスの下に巨大な鳥かごを仕込んだからくり人形と、こちらも中々カラフルな顔ぶれだ。
「ひぐらしそうちゃんと、スライムナイトちゃん。あとはメイデンドールちゃんね。
この辺りの魔物ちゃんは比較的大人しくて、こちらから手を出さない限りはあまり襲って来ないわ。
…懐かしいわね、子供の頃は良い遊び相手だった」
この町との因縁を本当に隠す気があるのかわからなくなる発言であり、
何気にこの人の幼少期が恐ろしくなる発言でもあった。
「シルビアさんってどんな子ども時代送ってたの」
「ふつうよ」
にこっと笑顔を見せられたが、これも絶対嘘に決まっている。
「でもね、ふふ。あの日町に来たサーカスを見て、目覚めちゃったの。
これだ!って。芸の道を極めてみんなを笑顔にする。これがアタシの騎士道なんだわって」
「きし…どう…?」
耳慣れない言葉に、思わず聞き返す。
シルビアさんは何も答えなかったが、にっこりとさっきよりもきれいに笑む。
「ね。エルザちゃん」
すいっと手を取られた。
「これも何かの縁。良かったら少しだけでいい、これからアタシが夢を叶えるお手伝いしてくれないかしら。
もちろん今後どこかの街で会ったときでいいし、報酬もその都度支払うし」
「それは――依頼って受け取っていいの?」
「ええ、かまわないわ。今は」
嫌な気持ちはしない。大きくて、暖かいシルビアさんの手に、自分のもう片方を重ねる。
「…そう。もちろん引き受けるよ。シルビアさんにはもう何度も助けられてる。
迷惑もかけたし…あなたの役に立つことを望みはしても、断るなんてとてもできない」
心からの本音だった。けれども、シルビアさんは違うのと否定する。
「そんな重たいものとは違うの。もっと対等でいましょ」
一度言葉を切る。
「ね。アタシ、アナタのことも当然笑顔にしたいの。だからこの縁、
たとえエルザちゃんが切りたくても、絶対にさせないわよ!」
一種の宣戦布告とも言えるような言葉。
ぽかんとして、けれどもすぐに体温が上がる。一体何を言っているのかこの人は。
自意識過剰気味の人が聞けば、告白に聞こえそうなくらいのセリフ。
そうでなくても勘違いしてしまいそうな言い回しに恥ずかしくなり、思わず顔をそらした。
「どうしたの?顔、赤くしちゃって」
「今確信した。シルビアさんって人たらしだよね」
「あら、照れてるの?エルザちゃんったらかわいいわね」
はいはい、と流すのが精一杯だった。
目を背けてなければ――あるいは恋でもしてしまいそうなくらいに、
シルビアさんという人間はあらゆる意味で美しいのだ。
けれども相手はおネエ様、いや完璧超人。
しかも立派な船を持つ経済力だけ考えても、ひたすらに身分が違いすぎる。
太陽のように輝かしい存在に手を伸ばしても、たちの悪い火傷をするだけに思えた。
「と、とにかく!シルビアさんの気持ちはわかった。いつでも何でも言ってね!安くするよ」
「じゃあ、早速依頼をさせてもらうわ。もうしばらくアタシの、話し相手になってちょうだい」
己の尊さにまるで自覚のない太陽は迂闊にそんなことを言う。笑って首を振る。
「それは私がむしろお願いしたいくらい。依頼じゃないよ」
セレブ御用達の美しい町並みを誇る静かな海ぞいの観光地という話は聞いたことはあるが、
実際に来たのは初めてだ。
いつかどこかの食堂で見た雑誌に載っていた写真と同じ、あの巨大な門と桟橋に出迎えられる。
石造りのそれは呆気にとられるほど堂々とした佇まいで、しかも美しい。
教養がないためうまく言い表せない自分がもどかしいくらいだ。
「なんつーか。居心地悪そうだな、オレたちみたいなのにとっちゃ」
元ならず者として似た雰囲気をまとっているからだろうか、カミュくんが声をかけてきた。
思わず、こくこくと頷く。
「うん。とってもきれいで、すてきな町なんだけど…なんだろ、肌にあわない感じ?」
「だな。別に恨みはないし長居するわけでもないが、ちょっと気が重いぜ」
私みたいな人間が足を踏み入れるなんて申し訳ない気がしてくる。
ある種の異世界というか、どこか選民的というか。
…実際はこちらが勝手に卑屈になっているだけであり、別にそんなことはないのだろうけど。
「あら!そうしたら、エルザちゃんはあっちでアタシとお花つみでもしてましょ!
すてきなお花畑を見つけたの!」
なんとなく卑屈な気持ちになっていたら、シルビアさんがそんなぶっ飛んだ提案を持ちかけてきた。
「ええ!?交渉はどーすんの!?」
抗議の声をあげるベロニカちゃんに、シルビアさんは涼しい顔というかもはや素っ気なく答える。
「ロウちゃんがいれば充分よ。ここの領主はね、頑固だけど不親切ってわけじゃないから。
ってことであとはお願いね!…行きましょエルザちゃん!」
「わっ!ちょ、待って!」
私に選択肢はないらしい。
かなり強引に手を引っ張られ、彼のコンパスに合わせさせられたためにほぼ小走りになる。
せっかくならオレも連れて行ってくれとか言い出すカミュくんのことは丸々無視して。
…それからしばらく無言で歩いた。
いつ止まるんだろう、と疑問に思うくらいよく口が動くシルビアさんにしては、
きっとそれは珍しいことだと思う。
「…ねえ、何か怒ってるの?」
と聞いても返事すらない。無視しているわけではないようだけれども。不安が募る。
やがて、不意に手は解放された。
眼前に広がるのは本当にお花畑だった。
名前はわからないけれど黄色のものが多くて、けれどもそれ一色ではなくとりどり。
比較的近くに臨む全体的に白いソルティコの町を彩っているようで一層魅力的だった。
シルビアさんはにっこり笑う。
「さ、エルザちゃん。好きなだけ摘んでいいわよ!」
「やったー!!」
とお花に駆け寄ろうとして、止まる。
「…って私この年で別にそこまでの乙女趣味はないよ。お花はきれいだけど。シルビアさんにはあるの?」
「ないわ。お花はきれいで好きだけど」
たっぷり10秒の沈黙。
「…あの町の空気ね、なんだかアタシにはあわないの。エルザちゃんとおそろいね」
と思いきや随分堂々と嘘を吐いてきた。
普段あれだけ明るく陽気な雰囲気を撒き散らしているくせに、上陸してからは変に黙りこくったり、
かと思えばそれを取り繕おうとしたのかいつもより明るく振る舞ってみたり、何かと不審なのだ。
『なんだかあわない』程度ではここまでにはならないだろう。
よほどの何かがあるのだと察するのは非常に容易だったが。
「そうなんだ。意外ですね」
…ここであからさまな嘘を吐くということは、追及してくれるなと言うことだ。
私は彼のそんな要望を、全面的に呑むという形で受け入れた。誰にだって知られたくない秘密はあるのだから。
「それにしてもここ、たしかにきれいだけど」
もういい加減話題を変えたほうが良いだろう。
というわけで手っ取り早くシルビアさんがわざわざ連れてきてくれたお花畑の話に戻ることにする。
「魔物も結構多いですよね」
巨大な黄色い花の魔物、スライムに跨った騎士、
真っ赤なドレスの下に巨大な鳥かごを仕込んだからくり人形と、こちらも中々カラフルな顔ぶれだ。
「ひぐらしそうちゃんと、スライムナイトちゃん。あとはメイデンドールちゃんね。
この辺りの魔物ちゃんは比較的大人しくて、こちらから手を出さない限りはあまり襲って来ないわ。
…懐かしいわね、子供の頃は良い遊び相手だった」
この町との因縁を本当に隠す気があるのかわからなくなる発言であり、
何気にこの人の幼少期が恐ろしくなる発言でもあった。
「シルビアさんってどんな子ども時代送ってたの」
「ふつうよ」
にこっと笑顔を見せられたが、これも絶対嘘に決まっている。
「でもね、ふふ。あの日町に来たサーカスを見て、目覚めちゃったの。
これだ!って。芸の道を極めてみんなを笑顔にする。これがアタシの騎士道なんだわって」
「きし…どう…?」
耳慣れない言葉に、思わず聞き返す。
シルビアさんは何も答えなかったが、にっこりとさっきよりもきれいに笑む。
「ね。エルザちゃん」
すいっと手を取られた。
「これも何かの縁。良かったら少しだけでいい、これからアタシが夢を叶えるお手伝いしてくれないかしら。
もちろん今後どこかの街で会ったときでいいし、報酬もその都度支払うし」
「それは――依頼って受け取っていいの?」
「ええ、かまわないわ。今は」
嫌な気持ちはしない。大きくて、暖かいシルビアさんの手に、自分のもう片方を重ねる。
「…そう。もちろん引き受けるよ。シルビアさんにはもう何度も助けられてる。
迷惑もかけたし…あなたの役に立つことを望みはしても、断るなんてとてもできない」
心からの本音だった。けれども、シルビアさんは違うのと否定する。
「そんな重たいものとは違うの。もっと対等でいましょ」
一度言葉を切る。
「ね。アタシ、アナタのことも当然笑顔にしたいの。だからこの縁、
たとえエルザちゃんが切りたくても、絶対にさせないわよ!」
一種の宣戦布告とも言えるような言葉。
ぽかんとして、けれどもすぐに体温が上がる。一体何を言っているのかこの人は。
自意識過剰気味の人が聞けば、告白に聞こえそうなくらいのセリフ。
そうでなくても勘違いしてしまいそうな言い回しに恥ずかしくなり、思わず顔をそらした。
「どうしたの?顔、赤くしちゃって」
「今確信した。シルビアさんって人たらしだよね」
「あら、照れてるの?エルザちゃんったらかわいいわね」
はいはい、と流すのが精一杯だった。
目を背けてなければ――あるいは恋でもしてしまいそうなくらいに、
シルビアさんという人間はあらゆる意味で美しいのだ。
けれども相手はおネエ様、いや完璧超人。
しかも立派な船を持つ経済力だけ考えても、ひたすらに身分が違いすぎる。
太陽のように輝かしい存在に手を伸ばしても、たちの悪い火傷をするだけに思えた。
「と、とにかく!シルビアさんの気持ちはわかった。いつでも何でも言ってね!安くするよ」
「じゃあ、早速依頼をさせてもらうわ。もうしばらくアタシの、話し相手になってちょうだい」
己の尊さにまるで自覚のない太陽は迂闊にそんなことを言う。笑って首を振る。
「それは私がむしろお願いしたいくらい。依頼じゃないよ」