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「グレイグさま…すみませんでした」
「何がだ」
「その、せっかく賊を捕らえたのに、みすみす逃がすような真似をしちゃって」
シルビア号の甲板。
手すりに体を預けて海を眺めている元上司の横に並び、私は改めて謝罪した。
薄紫の髪を潮風に躍らせているがままにしているグレイグさまは、なぜ俺に謝ると短く聞いてくる。
気まずくて、目をそらした。
「わかっているじゃないか」
「そもそもここ、デルカダール領じゃないですしね」
「そういうことだ」
「ついでにお願いなんですけど、元上司として一緒に謝ってくれませんか?
…あの人怒るとほんと怖いんですよ」
「断る。そもそもお前の自業自得だろうが」
毅然と応えられ、ますます居心地が悪くなる。
一番謝らなきゃいけない相手は、見計らったように私の更に隣に位置した。
「あら、誰が怖いのかしら?」
心中はどうあれ、今は穏やかな笑みを浮かべたシルビアさん。
無駄に驚いて身体が跳ね上がり、今度は逆に縮こまる。
「エルザちゃん、教えてちょうだい。一体誰が怖いの?」
「えっと…」
目が合わせられない。
自覚はある。
今回海賊カンダタを逃がしたのは、恐らく人生でも最大級のやらかしだ。
それもソルティコ領で。しかも領主の息子の目の前で。
そもそも勇者様たちが手を貸してくれたにも関わらず。
呆れられても仕方ないレベルの超大失態である。
そういう意味ではグレイグさまは、元上司というのもあって謝りやすい相手ではある。
対してこういう時のシルビアさんは…。うん。プレッシャーがとにかくすごい。
「…アタシ、怒ってないわよ。今回のこと」
「え?」
「だってエルザちゃん、カンダタちゃんたちからは目立った危害加えられなかったみたいだし。
だからそれで許しちゃったんでしよう?」
ああ、まあ。と曖昧に返事する。
後ろから不意打ちで殴られたことは言わないほうが良さそうだ。
「それに?ずいぶんと仲良しになっちゃってたみたいだし」
「…やっぱり怒ってる?」
聞くと、シルビアさんはぷんぷんと怒り出した。
「当たり前じゃない!
とっても心配したのに、さすがのアタシも頭が追いつかなかったわよ!」
その様がなんだかかわいい。
吹き出したいのを我慢するのに必死だった。
「ごめんなさい」
結果肩がふるふるした。影響して、声も震えた。緊張なんてものはもはやなかった。
「…真剣味がさすがに足りなくてよ」
「ごめんなさい…でもシルビアさんかわいくて…ねえ?」
と、グレイグさまに振ってみると、
「俺は知らん」
なんてぶった斬られる。
「…エルザ、これだけは言っておくがな。
サシでやり合うならやり合うで、あの程度の相手ならばもう少しスマートに勝て」
「突然のダメ出し!?」
「珍しく気が合うわねグレイグ。…アタシもうヒヤヒヤしちゃって。
『ビットくん』っていうのは発想自体は面白いんだけど…芸としてはまだちょっと荒削りだし。
何よりエルザちゃん自身喋りすぎだわ」
「シルビアさんまで?」
しかもかなり辛口の判定である。
荒削りという言葉が刺さりまくる。
「ゴリアテ、そうではない。そもそもあのような小細工なしで勝てと俺は言っている」
「あらそう?そういうグレイグには遊び心が足りないんじゃなくて?」
グレイグさまの言い方に補助という名の小細工専門のシルビアさんはカチンときたのだろう。
彼も煽るような発言をし、両者の間にばちりと火花が散る。
「…やめましょう。グレイグの言うことにも一理あるし」
と見せかけてシルビアさんが大人を見せた。
グレイグさまもそれで引っ込――まなかった。
「早速だが、エルザ」
「え、また矛先こっち?」
「そう言うな。船を降りたら早速稽古をつけてやる。
『元上司』としてな。二度とあのようなことがないように」
やたらと『元上司』という言葉を強調してくるグレイグさま。
元上司と言う言葉をいつも傘に着て、
何かと甘えたり無茶振りしていることに対する意趣返しに違いなかった。
「え…でも…遠慮…」
しかし相手はあの猛将グレイグ。
どう控えめに見積もっても、
常人に耐え得るトレーニング内容ではないであろうことは火を見るより明らかで。
「グレイグ…」
シルビアさんの反応も、呆れ返ったように薄いもの。
「おもしろそうじゃなーい!アタシもまぜてーん!!」
ではなかった。ノリノリだった。
お目々キラキラだった。
もちろんだついでに模擬試合でもしようなどと、
こんな時に限って普段はあまり噛み合わない二人の意見は一致する。
「修行時代を思い出すわー。んー、早くつかないかしら!ね、エルザちゃん!」
「え、あ、う、うん…」
私、やっぱり今日が命日かもしれません。
アリスちゃんお願い。潮流にでもこの船乗せて。それで上陸ちょっと手間取って。
などと凄腕航海士が失敗するよう、不謹慎なお祈りを心からしてしまうのだった。
「何がだ」
「その、せっかく賊を捕らえたのに、みすみす逃がすような真似をしちゃって」
シルビア号の甲板。
手すりに体を預けて海を眺めている元上司の横に並び、私は改めて謝罪した。
薄紫の髪を潮風に躍らせているがままにしているグレイグさまは、なぜ俺に謝ると短く聞いてくる。
気まずくて、目をそらした。
「わかっているじゃないか」
「そもそもここ、デルカダール領じゃないですしね」
「そういうことだ」
「ついでにお願いなんですけど、元上司として一緒に謝ってくれませんか?
…あの人怒るとほんと怖いんですよ」
「断る。そもそもお前の自業自得だろうが」
毅然と応えられ、ますます居心地が悪くなる。
一番謝らなきゃいけない相手は、見計らったように私の更に隣に位置した。
「あら、誰が怖いのかしら?」
心中はどうあれ、今は穏やかな笑みを浮かべたシルビアさん。
無駄に驚いて身体が跳ね上がり、今度は逆に縮こまる。
「エルザちゃん、教えてちょうだい。一体誰が怖いの?」
「えっと…」
目が合わせられない。
自覚はある。
今回海賊カンダタを逃がしたのは、恐らく人生でも最大級のやらかしだ。
それもソルティコ領で。しかも領主の息子の目の前で。
そもそも勇者様たちが手を貸してくれたにも関わらず。
呆れられても仕方ないレベルの超大失態である。
そういう意味ではグレイグさまは、元上司というのもあって謝りやすい相手ではある。
対してこういう時のシルビアさんは…。うん。プレッシャーがとにかくすごい。
「…アタシ、怒ってないわよ。今回のこと」
「え?」
「だってエルザちゃん、カンダタちゃんたちからは目立った危害加えられなかったみたいだし。
だからそれで許しちゃったんでしよう?」
ああ、まあ。と曖昧に返事する。
後ろから不意打ちで殴られたことは言わないほうが良さそうだ。
「それに?ずいぶんと仲良しになっちゃってたみたいだし」
「…やっぱり怒ってる?」
聞くと、シルビアさんはぷんぷんと怒り出した。
「当たり前じゃない!
とっても心配したのに、さすがのアタシも頭が追いつかなかったわよ!」
その様がなんだかかわいい。
吹き出したいのを我慢するのに必死だった。
「ごめんなさい」
結果肩がふるふるした。影響して、声も震えた。緊張なんてものはもはやなかった。
「…真剣味がさすがに足りなくてよ」
「ごめんなさい…でもシルビアさんかわいくて…ねえ?」
と、グレイグさまに振ってみると、
「俺は知らん」
なんてぶった斬られる。
「…エルザ、これだけは言っておくがな。
サシでやり合うならやり合うで、あの程度の相手ならばもう少しスマートに勝て」
「突然のダメ出し!?」
「珍しく気が合うわねグレイグ。…アタシもうヒヤヒヤしちゃって。
『ビットくん』っていうのは発想自体は面白いんだけど…芸としてはまだちょっと荒削りだし。
何よりエルザちゃん自身喋りすぎだわ」
「シルビアさんまで?」
しかもかなり辛口の判定である。
荒削りという言葉が刺さりまくる。
「ゴリアテ、そうではない。そもそもあのような小細工なしで勝てと俺は言っている」
「あらそう?そういうグレイグには遊び心が足りないんじゃなくて?」
グレイグさまの言い方に補助という名の小細工専門のシルビアさんはカチンときたのだろう。
彼も煽るような発言をし、両者の間にばちりと火花が散る。
「…やめましょう。グレイグの言うことにも一理あるし」
と見せかけてシルビアさんが大人を見せた。
グレイグさまもそれで引っ込――まなかった。
「早速だが、エルザ」
「え、また矛先こっち?」
「そう言うな。船を降りたら早速稽古をつけてやる。
『元上司』としてな。二度とあのようなことがないように」
やたらと『元上司』という言葉を強調してくるグレイグさま。
元上司と言う言葉をいつも傘に着て、
何かと甘えたり無茶振りしていることに対する意趣返しに違いなかった。
「え…でも…遠慮…」
しかし相手はあの猛将グレイグ。
どう控えめに見積もっても、
常人に耐え得るトレーニング内容ではないであろうことは火を見るより明らかで。
「グレイグ…」
シルビアさんの反応も、呆れ返ったように薄いもの。
「おもしろそうじゃなーい!アタシもまぜてーん!!」
ではなかった。ノリノリだった。
お目々キラキラだった。
もちろんだついでに模擬試合でもしようなどと、
こんな時に限って普段はあまり噛み合わない二人の意見は一致する。
「修行時代を思い出すわー。んー、早くつかないかしら!ね、エルザちゃん!」
「え、あ、う、うん…」
私、やっぱり今日が命日かもしれません。
アリスちゃんお願い。潮流にでもこの船乗せて。それで上陸ちょっと手間取って。
などと凄腕航海士が失敗するよう、不謹慎なお祈りを心からしてしまうのだった。