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ソルティコの海からからほど近い小島。気候は良く、景観も悪くない。
そこかしこにひしめく魔物をどうにかすることさえできたら、
すぐに観光地にできそうなくらいの好条件な環境。
ここがカンダタ曰く、勇者との因縁の地らしい。
「ちょっと前までここを根城にして暴れてたんだがよぅ、嗅ぎつけた勇者どもにやられちまったんだ」
「へー」
それにしても本当にいい気候だ。風も爽やか。
暑さは気になるが、むしろ水遊びをするならちょうどいい。
水遊びしたい。
でも、私は哀れ囚われの身なのである。
船の牢屋をここまで持ってくるわけにはいかないので、
今は手を拘束され、カンダタ船長の隣に置いた椅子に座らされていた。
周囲は彼の子分によって見張られ、囲まれている。
今逃げるのはかなり難しそうだ。
「逃げたりなんかしないから、そろそろほどいてくれないかなぁ、なんて」
「バカ言うな。テメーがタダモノじゃねぇことくらいこっちぁわかってンだ」
「その心は」
「あの変な格好のやつ、ありゃ最近有名な旅芸人だろ。
名前は知らんが。あんなやつの恋人が凡人とは思えねぇ」
「え、カンダタさん、いやカンダタ様もう一度お願いします」
「あ?凡人とは…」
「その前!」
「あんなやつの恋人…?」
「ありがとうございます!」
「お、おう。いいってことよ?」
顔面いっぱいにカンダタは疑問符を貼り付けるが、
恐らく彼は一生意味を理解することはないだろう。
人質のくせに気分がよくなる様を彼はますます理解できず、混乱しているようだった。
そんな緊張感皆無の雑談をしながら待つことしばし。
魔物以外にはカンダタ海賊団とその人質しかいないこの島に大きな船が着く。
そこから降り立ったのは、明らかに異質な存在だった。
しかしカンダタ自身が呼び出した者たちであることには、間違いない。
「カンダタ、…あんたまだこんなことやってんのか」
最初に口を開いたのはカミュくんだった。
どうやら顔見知りらしい、と言うか以前に接触があったというのは、
ついさっきまでカンダタ本人から嫌というほど聞かされていた。
「うるせー!
こっちはテメーらにやられてから悔しくて悔しくて!夜しか眠れてねんだよ!!」
「夜寝られるなら充分じゃない!!」
ベロニカちゃんの鋭いツッコミ。
「うるせえうるせえ!俺ァ昼寝もしてえんだ!!テメーら、やっちまえ!!」
非常に身勝手な主張を喚き散らしたカンダタは、自分の子分たちをけしかける。
勇者様たち8人に対して、彼らは10人プラスカンダタ本人。
人数では有利だが、結果は火を見るより明らかだ。
「つまんないからオシオキね」
小さく呟いたマルティナさんは、一瞬にして闇色の瘴気に包まれ悪魔化した。
かと思うとそれを内部から打ち破るように更にピンク色の暴風と変化し、
子分たちを弾き飛ばしながらこちらに突っ込んでくる。
…え、こちら?
拘束されているせいで避けられるはずもなくそれに巻き込まれ、私もカンダタも吹き飛んだ。
その衝撃で椅子は壊れた。
さすがに直撃はなかったものの、縛られていたせいで受け身すら取れず、思いっきり体を打ち付ける。
柔らかい草の上というのが不幸中の幸いだが、肉と骨がバラバラになりそうなほど痛い。
満足気なマルティナさんの側では、
シルビアさんが自分の出番を譲ろうと恭しくお辞儀していたはずなのだが、こちらを見て固まっていた。
想定外すぎる事態だ。しかも身内のせいで、である。当たり前だった。
「エルザちゃ…!ちょっとマルティナちゃん、何してんのよ!!」
珍しく取り乱し怒る彼に、小悪魔はさも当然のように答える。
「オシオキの対象はエルザもに決まってるわよ。
あんなつまらない連中に捕まっちゃって、情けないったら」
「すまんの…マルティナ姫がああ育ってしまった原因はワシにもあるのじゃろう」
私の方に駆け寄ってきたロウさんが拘束を解きながらそう言う。
「わかってて友だちやってるから大丈夫です…」
すまぬ、とロウさんはもう一度謝罪してきた。
彼が縄を解く間、セーニャさんが泣きそうな顔をしながら回復魔法をかけてくれる。
「エルザさま、ボロボロですわ。
さぞかし海賊団の方たちからひどい目にあわされたのでしょう…」
「いやカンダタたちからは基本的に何もされてないんだけどね?」
昨日海賊団と戦闘したときに確かに少なからず怪我は負ったが、
どう考えても今食らったマルティナさんからによるダメージの方が深刻である。
「お、おい!」
私と同じく吹き飛ばされたカンダタが半ばパニックになって怒鳴る。
「あの女!なぜエルザまで巻き込んだ!!テメーら仲間じゃねえのか!!」
「彼女ああいう人なんです…」
「悪魔か!!」
「たぶんそう」
「否定できんのう……」
「で、でもマルティナさまは素敵な方ですよ!」
三者三様、しかしほぼ一致した回答に人さらいを敢行するような無法者もさすがにドン引きだ。
「クソ!クソクソ!!クソがぁ!!!こうなりゃエルザの仇だ!!!
テメーらまだいけんだろ!!やるぞ!!!!」
「なんで私」
ヤケクソになってカンダタは叫ぶが、しかし。
「…すまんが、お前の子分たちはすでに捕えさせてもらった」
「猛将グレイグとかマジ無理ゲーっすわ親分すんませーん」
さすがグレイグさまは仕事が早かった。
10人にも及ぶ悪党たちを、彼は勇者様と共に、そして恐らく難もなくふん縛っている。
そしてこの場にいる誰よりも澄んだ目でドヤ顔する勇者様。
全然喋らないと思ったら率先して雑用してたっていうのも、なんていうかすごい。
「ウソ…だろ…?オイ…?」
呆けたように呟くカンダタ。
その表情は絶望に支配されていたと言っていい。
いや覆面だけど。
今にも斧を取り落としそうになるのを、しかし彼は力強く握り直す。
その瞳にはまだ闘志が宿っていた。
驚くほど、カンダタは燃えていた。
「ちくしょう!!俺様はやるぞ!!こンなところで捕まってたまるか!!」
筋肉質を通り越し化物じみた体格。
グレイグさまと力比べしたら、どうだろう。ひょっとすると勝敗はわからないかも知れない。
そもそもあの太い腕で持った斧で殴られてみろ、恐らく簡単に頭が割れる。
十中八九、本気になったカンダタは恐らくとても強い。それを通り越して危険だ。
もちろんそれはタイマンを張ればの話だが。
みんなでかかればきっと怖くない。