第三回デルカダール軍特別会議
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、もういいわ。エルザは無罪。でもその剣は没収。
あとでロウ様に封印してもらうってことで」
そしてマルティナさんの裁きはあまりにも早かった。
先のホメロスさまの気取った挨拶が、どうやらカンに触ったようだ。
「…いくらなんでも結論を急ぎすぎてはおらんか?」
「ええー」
「腹が立つ気持ちはわかるが」
困惑しながらもマルティナさんを窘めるロウさんはさすがだと思う。
その隣ではグレイグさまがなんとも言えない表情で、呆然と疑念を口にしていた。
「ホメロス…。なぜ、お前は……。エルザを使って…何を企んでいる…」
ホメロスさまは興味なさげに彼を一瞥してからゴリアテさんと私の方に向き直る。
「やってくれたな?」
口角をつり上げてはいるが笑っているのとは少し違う。
風貌こそクールだが、意外なまでに感情表現が(悪い方に)豊かな彼のご機嫌は、もちろん至極悪いものだ。
「デルカダールの姫に将軍、ユグノアの先王。オレ一人のために随分な人員を用意したものだ」
「あ、その件なんですけど」
目上の人が多いからだろうか。
ついなんとなく挙手をしてから発言してしまう。
「国家反逆罪の疑いがかかってます私。それ以前に」
「は?」
斜め上の展開に、首を傾げる冷徹な軍師。
さすがにもう少し説明の必要があるようだ。
「やっぱマズかったみたいで。ホメロスさまのプラチナソードを持ち出したの。
……しかもその幽霊とやりとりしてるとあってはって。
ロウさんの居場所を聞くのにマルティナさんに相談したらそんな理由で逮捕されました。
けれど、温情もあってここで簡易的な裁判をしてから、改めて罪に問うかどうかを決定するそうです」
「持ち出しても良いと、オレが許可したではないか。
…グレイグのバカも知ってのことだと思ったが?」
「うふふ。ホメロスちゃんも少し抜けていてよ。
存在しているのかどうかすらよくわからない人物の証言なんて、誰が信用して?」
ゴリアテさんの目が誰とも合っていない。
虚ろで、どこか遠くを見ている。
…私がまた逮捕される羽目になった直接的な原因はこの人だ。
ロウさんに【呪われたプラチナソード】を祓ってもらおうと考えたまではよかった。
けれど彼の現在の居場所を訊ねる際に、うっかりホメロスさまの名前をマルティナさんの前で出してしまったのだ。
シルビアさんは基本的にとてもしっかりしていて頭もよく回るのだけど本当に時々、引くレベルのポカをやらかす。
ぶっちゃけ私自身なにも考えていなかったので、彼を責めようとも思わない。
とはいえちょっと気まずくなるのは仕方ないと思う。
あとでフォローしようと、内心で固く決意した。
「…なる程。それは傑作だ。
業であろうとはいえ、いっそこの身が憐れになる」
ほんの一瞬だけ。ホメロスさまが自嘲的に笑んだ。
「それで。オレはどうすれば良い?貴様の身の潔白を証明でもしてやれば良いのか?」
ふわりと浮いたホメロスさまがぐるりと周囲を見下ろす。
マルティナさんはその尊大な態度を見て顔を顰める。
目の前の非常識よりそちらが気に食わないというのが、なんとも彼女らしかった。
「必要ないわよホメロス【元】将軍。
あなたの胡散臭い弁明よりも、この子の一言の方が余程信用に足るに決まっているもの」
「そう仰らずに発言をお許しくださいませ、マルティナ様。もちろん、この知将ホメロス。
貴女様の知能レベルに合わせたやさしい言い回しを用いましょうぞ」
トゲしかない言葉の応酬。そして無言の睨み合いは氷点下。
もし幼い頃のこのお姫様が魔物に襲撃されず、もし若き日の知将がウルノーガに仕えることにならなければ。
もしかしたら、日常的にこの光景が見られたのかもしれない。うわ怖い。
そうなったらそれはそれで、グレイグさまが可哀想すぎる。
同じことを想像していたのだろうか。
二人の壮絶な論争という名のただの口喧嘩を見て猛将の顔は真っ青だ。
それを察したのか、珍しく同情的に眉を下げてゴリアテさんが彼を見ている。
どう声をかけたものかと迷っている様子で。
「あー…。マルティナ姫よ、そろそろよいかの」
話はお互いの罵倒に大きく逸れた挙句どうにも決着しそうになかったので、ロウさんがとうとう痺れを切らす。
さすがに彼には逆らえないマルティナさんはそれではっとし、よく回る口を止めた。
「安い挑発に乗るでない。
さっきお前さん自身エルザに言っておったじゃろう。
腹が立つのもわかる。だが、本来の目的を見失ってはならぬ」
「随分手厳しいことを仰いますな」
口を挟んだホメロスさまを、ロウさんはギロリと睨みつけた。
「…何、選手交代をしようというだけの話じゃ。どうやらお前さんのみへの尋問で済みそうだからの」
「根拠を聞いても?」
「今のやり取りを見れば充分わかろうというものよ。ホメロス、お前にエルザをかばい立てする理由もないしの。
グレイグのように、彼女に罪悪感でも持っていればまだしも、お前にそのような情緒があるとも思えん。
……そもそもエルザは良くも悪くも堅実じゃからの。
国の裏切り者の墓を暴くなどという大それた真似は中々出来ぬのではないか?
総じて、よほど口先のうまいやつに丸め込まれたのだと……、ワシは見ておるが」
「確かに」
ロウさんの推測にグレイグさまが頷く。
「あの時ホメロス自身が言っていた。それこそエルザが剣を持ち出した時だ。
『オレがかまわぬと言ったからこの小娘はそれに従った。それ以上でもそれ以下でもない』。
……この耳で、然と聞いたぞ!」
即座になんでそれをお前が言わないんだという事情を知らない全員の目線が集まる。
たしかにホメロスさまが最初に証言した時点で、それを第三者である彼が肯定してればこの裁判は終わっていたのだ。
ようやくそのことに気づいたグレイグさまは、居心地悪そうに身を縮ませた。
「…じゃあまあ報告不足ってことで、グレイグはあとで始末書を書くこと。
ホメロスを相手にした挙句、上司のこの対応じゃ、エルザに責任を取れっていうのはさすがに酷だわ」
「逆にそれで済ませるのか、姫よ…」
「一応まだ実害は出てないし」
マルティナ姫の小ざっぱりとしたお裁きに、しかしグレイグさまがびくりと肩を震わせる。
ロウさんは少し呆れていたが、不満というわけではなさそうだ。
普段彼に厳しいゴリアテさんが、
「グレイグ、ドンマイよ」
と無闇に優しく励ましていたがどことなく哀愁が漂う。
こうしてあれよあれよという間に無罪が舞い降りたものの、なんとも残念な着地点になったものだと、内心ため息を吐いた。
「これで一件落着といきたいところだけど…。まだ話は終わってないのよね」
マルティナさんがため息を吐きながらソーサーを手に取り、メイドさんが淹れたお茶を飲む。グレイグさま謹製チョコレートは食欲旺盛な彼女を含めてもすでに誰も手をつけていない。
「エルザ。無罪放免早々大変だと思うけど、もうちょっと頑張って貰うわよ」
「ありがとうございます。
…マルティナさん、みなさん。引き続きよろしくお願いします」
集中力が尽きてきたのか、ホメロスさまの存在感が若干薄くなってきていた。
改めて魔力を込め、彼の輪郭をはっきりさせる。
「ホメロス。私はこれでも、あなたの存在を重く見ている。
うちの新米兵士を使って何を企んでいたのか、洗いざらい吐いてもらうわよ」
私に対してとは違い、どこまでも厳しい態度をマルティナさんは見せつけた。
あとでロウ様に封印してもらうってことで」
そしてマルティナさんの裁きはあまりにも早かった。
先のホメロスさまの気取った挨拶が、どうやらカンに触ったようだ。
「…いくらなんでも結論を急ぎすぎてはおらんか?」
「ええー」
「腹が立つ気持ちはわかるが」
困惑しながらもマルティナさんを窘めるロウさんはさすがだと思う。
その隣ではグレイグさまがなんとも言えない表情で、呆然と疑念を口にしていた。
「ホメロス…。なぜ、お前は……。エルザを使って…何を企んでいる…」
ホメロスさまは興味なさげに彼を一瞥してからゴリアテさんと私の方に向き直る。
「やってくれたな?」
口角をつり上げてはいるが笑っているのとは少し違う。
風貌こそクールだが、意外なまでに感情表現が(悪い方に)豊かな彼のご機嫌は、もちろん至極悪いものだ。
「デルカダールの姫に将軍、ユグノアの先王。オレ一人のために随分な人員を用意したものだ」
「あ、その件なんですけど」
目上の人が多いからだろうか。
ついなんとなく挙手をしてから発言してしまう。
「国家反逆罪の疑いがかかってます私。それ以前に」
「は?」
斜め上の展開に、首を傾げる冷徹な軍師。
さすがにもう少し説明の必要があるようだ。
「やっぱマズかったみたいで。ホメロスさまのプラチナソードを持ち出したの。
……しかもその幽霊とやりとりしてるとあってはって。
ロウさんの居場所を聞くのにマルティナさんに相談したらそんな理由で逮捕されました。
けれど、温情もあってここで簡易的な裁判をしてから、改めて罪に問うかどうかを決定するそうです」
「持ち出しても良いと、オレが許可したではないか。
…グレイグのバカも知ってのことだと思ったが?」
「うふふ。ホメロスちゃんも少し抜けていてよ。
存在しているのかどうかすらよくわからない人物の証言なんて、誰が信用して?」
ゴリアテさんの目が誰とも合っていない。
虚ろで、どこか遠くを見ている。
…私がまた逮捕される羽目になった直接的な原因はこの人だ。
ロウさんに【呪われたプラチナソード】を祓ってもらおうと考えたまではよかった。
けれど彼の現在の居場所を訊ねる際に、うっかりホメロスさまの名前をマルティナさんの前で出してしまったのだ。
シルビアさんは基本的にとてもしっかりしていて頭もよく回るのだけど本当に時々、引くレベルのポカをやらかす。
ぶっちゃけ私自身なにも考えていなかったので、彼を責めようとも思わない。
とはいえちょっと気まずくなるのは仕方ないと思う。
あとでフォローしようと、内心で固く決意した。
「…なる程。それは傑作だ。
業であろうとはいえ、いっそこの身が憐れになる」
ほんの一瞬だけ。ホメロスさまが自嘲的に笑んだ。
「それで。オレはどうすれば良い?貴様の身の潔白を証明でもしてやれば良いのか?」
ふわりと浮いたホメロスさまがぐるりと周囲を見下ろす。
マルティナさんはその尊大な態度を見て顔を顰める。
目の前の非常識よりそちらが気に食わないというのが、なんとも彼女らしかった。
「必要ないわよホメロス【元】将軍。
あなたの胡散臭い弁明よりも、この子の一言の方が余程信用に足るに決まっているもの」
「そう仰らずに発言をお許しくださいませ、マルティナ様。もちろん、この知将ホメロス。
貴女様の知能レベルに合わせたやさしい言い回しを用いましょうぞ」
トゲしかない言葉の応酬。そして無言の睨み合いは氷点下。
もし幼い頃のこのお姫様が魔物に襲撃されず、もし若き日の知将がウルノーガに仕えることにならなければ。
もしかしたら、日常的にこの光景が見られたのかもしれない。うわ怖い。
そうなったらそれはそれで、グレイグさまが可哀想すぎる。
同じことを想像していたのだろうか。
二人の壮絶な論争という名のただの口喧嘩を見て猛将の顔は真っ青だ。
それを察したのか、珍しく同情的に眉を下げてゴリアテさんが彼を見ている。
どう声をかけたものかと迷っている様子で。
「あー…。マルティナ姫よ、そろそろよいかの」
話はお互いの罵倒に大きく逸れた挙句どうにも決着しそうになかったので、ロウさんがとうとう痺れを切らす。
さすがに彼には逆らえないマルティナさんはそれではっとし、よく回る口を止めた。
「安い挑発に乗るでない。
さっきお前さん自身エルザに言っておったじゃろう。
腹が立つのもわかる。だが、本来の目的を見失ってはならぬ」
「随分手厳しいことを仰いますな」
口を挟んだホメロスさまを、ロウさんはギロリと睨みつけた。
「…何、選手交代をしようというだけの話じゃ。どうやらお前さんのみへの尋問で済みそうだからの」
「根拠を聞いても?」
「今のやり取りを見れば充分わかろうというものよ。ホメロス、お前にエルザをかばい立てする理由もないしの。
グレイグのように、彼女に罪悪感でも持っていればまだしも、お前にそのような情緒があるとも思えん。
……そもそもエルザは良くも悪くも堅実じゃからの。
国の裏切り者の墓を暴くなどという大それた真似は中々出来ぬのではないか?
総じて、よほど口先のうまいやつに丸め込まれたのだと……、ワシは見ておるが」
「確かに」
ロウさんの推測にグレイグさまが頷く。
「あの時ホメロス自身が言っていた。それこそエルザが剣を持ち出した時だ。
『オレがかまわぬと言ったからこの小娘はそれに従った。それ以上でもそれ以下でもない』。
……この耳で、然と聞いたぞ!」
即座になんでそれをお前が言わないんだという事情を知らない全員の目線が集まる。
たしかにホメロスさまが最初に証言した時点で、それを第三者である彼が肯定してればこの裁判は終わっていたのだ。
ようやくそのことに気づいたグレイグさまは、居心地悪そうに身を縮ませた。
「…じゃあまあ報告不足ってことで、グレイグはあとで始末書を書くこと。
ホメロスを相手にした挙句、上司のこの対応じゃ、エルザに責任を取れっていうのはさすがに酷だわ」
「逆にそれで済ませるのか、姫よ…」
「一応まだ実害は出てないし」
マルティナ姫の小ざっぱりとしたお裁きに、しかしグレイグさまがびくりと肩を震わせる。
ロウさんは少し呆れていたが、不満というわけではなさそうだ。
普段彼に厳しいゴリアテさんが、
「グレイグ、ドンマイよ」
と無闇に優しく励ましていたがどことなく哀愁が漂う。
こうしてあれよあれよという間に無罪が舞い降りたものの、なんとも残念な着地点になったものだと、内心ため息を吐いた。
「これで一件落着といきたいところだけど…。まだ話は終わってないのよね」
マルティナさんがため息を吐きながらソーサーを手に取り、メイドさんが淹れたお茶を飲む。グレイグさま謹製チョコレートは食欲旺盛な彼女を含めてもすでに誰も手をつけていない。
「エルザ。無罪放免早々大変だと思うけど、もうちょっと頑張って貰うわよ」
「ありがとうございます。
…マルティナさん、みなさん。引き続きよろしくお願いします」
集中力が尽きてきたのか、ホメロスさまの存在感が若干薄くなってきていた。
改めて魔力を込め、彼の輪郭をはっきりさせる。
「ホメロス。私はこれでも、あなたの存在を重く見ている。
うちの新米兵士を使って何を企んでいたのか、洗いざらい吐いてもらうわよ」
私に対してとは違い、どこまでも厳しい態度をマルティナさんは見せつけた。