第三回デルカダール軍特別会議
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「エルザ。なぜあなたがここに呼ばれたか。…わかっているわね?」
マルティナさんの自室。向かい合わせのソファに座った彼女の眼光は、いつもより数段鋭い。
王族のプレッシャーというものをもろに受け、緊張に唾を飲み込む。
私の隣に座るロウさんもなぜかちょっと震えていた。
…美人が怒ると恐いと言うし、仕方ないとは思う。
「あらかじめ言っておくわ。嘘は吐かないこと。
相手はあのウルノーガに仕え、長きに渡りこのデルカダール中を出し抜き続けてみせた男よ。
エルザ、あなたが言い包められていたとしても無理はないし、そこを責めるつもりはないから」
だから、正直な証言を。
日頃のあまりに自由奔放な態度はすっかりなりを潜め、ごく真面目にマルティナ姫は言った。
今日の衣装ですら、普段に比べたら露出度がせいぜい四割くらいである。つまりはそれくらい真剣だということだ。
だから私は決意を込めて頷くという選択をする。
…というか一歩間違えたら国家反逆罪の汚名を着せられる羽目になるので、頷くしかない。
さすがに二度目の逮捕はごめんだ。
それを見届けたマルティナさんは、今度はロウさんの方に向き直る。
それだけで絵になるほど美しい所作で膝を折り、深々と頭を垂れる。
「ロウ様。私はまだまだ未熟でございます。ゆえにその智慧でどうかお導きください」
「そう改まらんでもよい、マルティナ姫。この老いぼれ、どうせ暇をしていたところじゃ」
ロウさんはたっぷり蓄えた髭を弄りながら優しく微笑む。
低いテーブルの上に安置された使い古しのプラチナソード。
それを見る一見して穏やかなおじいさんの視線は、しかしマルティナさんより更に鋭く刃物のようだ。
「…とはいえ、ワシの知識がどこまで通用するかは見当もつかんがの」
その剣は私のものだ。…否、元はデルカダール双頭の鷲が一人、ホメロス軍師のものだった。
何がきっかけか国を裏切り魔道士ウルノーガに長年仕えていた彼の最期は、ロトゼタシアの中心【命の大樹】にて主君に殺害されるというなんとも悲惨なものだった。
ホメロスさまの遺体こそ今も現地に放置されている。
…けれどその一方で、いくら裏切り者とはいえその末路をあまりに哀れに思ったグレイグさまが、『せめて彼の愛用していた剣だけは』と密かにデルカダールに持ち帰ったのである。
かくして、遺体のない墓にそれは供えられ、そこから更に紆余曲折あって現在は私の手に渡っている。
そして今はその紆余曲折の部分が問題になっているのであり、ゆえに私はこうしてデルカダールのお姫様の裁きを待つ状況に至る。
しかもユグノアの先代国王までいらっしゃるときている。
精々なんとか庶民という身分にしがみついている、謙遜なしに小物の私にとっては、あまりにも過ぎたプレッシャーだ。
…いや、本人の希望とはいえホメロスさまの剣を持ち出した時点で十分身の丈以上の罪は犯している気がする。
「…それにしても、あの二人遅いわね」
普段のマイペースぷりを棚に上げてマルティナさんは不満を漏らす。
集合時間から五分が経過。
今私たちが待っている人物は二人いるわけだが、そのどちらもが時間はきっちり守る、本来生真面目なタイプだ。
不満に思う是非はともかく、マルティナさんが不思議に思う自体に無理はない。
実際私もそう思う。
「そう急くような話でもないからじゃない?犯人逃げられないし」
当事者でありながらまるで他人事のように肩を竦めてみせる。
マルティナさんは冗談めかした態度に少し笑う。
「エルザのくせに結構落ち着いてるじゃない」
「尋問されるのって、慣れてるの。すごく残念なことに」
「洒落にならんことを言うのう…」
ロウさんがごく呆れたように口を挟んだ。
と、不意にドアの方からノック音がする。
部屋の主がどうぞと言うが早いか、個室というには高価すぎるであろう扉が勢い良く開いた。バーンと。
「遅れてごめんなさいねん!グレイグにお説教してたら、ずいぶん時間がかかっちゃったわ!」
仮にもお城でそんな楽しいドアの開け方ができる人物なんて、私はゴリアテさんしか知らない。
贔屓目……ではあるかも知れないがとはいえ、そのパフォーマンスライクすぎる所作ですら、どことなく上品さを感じる。
先輩兵士方も、慣れているというのか諦めているというのか、注意しようという者はいなかった。
自分たちのトップであるグレイグ将軍を呼び捨てにしている時点で仕方ないのかも知れない。
しかも説教ときている。
「たしかに、シルビアにしては遅かったのう。というか一体グレイグと何があったんじゃ?」
「んー…。アタシが言わなくても、きっと今にわかるわ」
珍しく言葉を濁す彼の態度に、ロウさんはますます理解ができず首を傾げる。
一方でマルティナさんはなんとなく察したらしく顔を顰める。
私も容疑者という立場上、顔にこそ出せなかったが、どちらかというと彼女寄りだ。
…要は言い方とこのタイミング的に嫌な予感しかしなかった。
マルティナさんの自室。向かい合わせのソファに座った彼女の眼光は、いつもより数段鋭い。
王族のプレッシャーというものをもろに受け、緊張に唾を飲み込む。
私の隣に座るロウさんもなぜかちょっと震えていた。
…美人が怒ると恐いと言うし、仕方ないとは思う。
「あらかじめ言っておくわ。嘘は吐かないこと。
相手はあのウルノーガに仕え、長きに渡りこのデルカダール中を出し抜き続けてみせた男よ。
エルザ、あなたが言い包められていたとしても無理はないし、そこを責めるつもりはないから」
だから、正直な証言を。
日頃のあまりに自由奔放な態度はすっかりなりを潜め、ごく真面目にマルティナ姫は言った。
今日の衣装ですら、普段に比べたら露出度がせいぜい四割くらいである。つまりはそれくらい真剣だということだ。
だから私は決意を込めて頷くという選択をする。
…というか一歩間違えたら国家反逆罪の汚名を着せられる羽目になるので、頷くしかない。
さすがに二度目の逮捕はごめんだ。
それを見届けたマルティナさんは、今度はロウさんの方に向き直る。
それだけで絵になるほど美しい所作で膝を折り、深々と頭を垂れる。
「ロウ様。私はまだまだ未熟でございます。ゆえにその智慧でどうかお導きください」
「そう改まらんでもよい、マルティナ姫。この老いぼれ、どうせ暇をしていたところじゃ」
ロウさんはたっぷり蓄えた髭を弄りながら優しく微笑む。
低いテーブルの上に安置された使い古しのプラチナソード。
それを見る一見して穏やかなおじいさんの視線は、しかしマルティナさんより更に鋭く刃物のようだ。
「…とはいえ、ワシの知識がどこまで通用するかは見当もつかんがの」
その剣は私のものだ。…否、元はデルカダール双頭の鷲が一人、ホメロス軍師のものだった。
何がきっかけか国を裏切り魔道士ウルノーガに長年仕えていた彼の最期は、ロトゼタシアの中心【命の大樹】にて主君に殺害されるというなんとも悲惨なものだった。
ホメロスさまの遺体こそ今も現地に放置されている。
…けれどその一方で、いくら裏切り者とはいえその末路をあまりに哀れに思ったグレイグさまが、『せめて彼の愛用していた剣だけは』と密かにデルカダールに持ち帰ったのである。
かくして、遺体のない墓にそれは供えられ、そこから更に紆余曲折あって現在は私の手に渡っている。
そして今はその紆余曲折の部分が問題になっているのであり、ゆえに私はこうしてデルカダールのお姫様の裁きを待つ状況に至る。
しかもユグノアの先代国王までいらっしゃるときている。
精々なんとか庶民という身分にしがみついている、謙遜なしに小物の私にとっては、あまりにも過ぎたプレッシャーだ。
…いや、本人の希望とはいえホメロスさまの剣を持ち出した時点で十分身の丈以上の罪は犯している気がする。
「…それにしても、あの二人遅いわね」
普段のマイペースぷりを棚に上げてマルティナさんは不満を漏らす。
集合時間から五分が経過。
今私たちが待っている人物は二人いるわけだが、そのどちらもが時間はきっちり守る、本来生真面目なタイプだ。
不満に思う是非はともかく、マルティナさんが不思議に思う自体に無理はない。
実際私もそう思う。
「そう急くような話でもないからじゃない?犯人逃げられないし」
当事者でありながらまるで他人事のように肩を竦めてみせる。
マルティナさんは冗談めかした態度に少し笑う。
「エルザのくせに結構落ち着いてるじゃない」
「尋問されるのって、慣れてるの。すごく残念なことに」
「洒落にならんことを言うのう…」
ロウさんがごく呆れたように口を挟んだ。
と、不意にドアの方からノック音がする。
部屋の主がどうぞと言うが早いか、個室というには高価すぎるであろう扉が勢い良く開いた。バーンと。
「遅れてごめんなさいねん!グレイグにお説教してたら、ずいぶん時間がかかっちゃったわ!」
仮にもお城でそんな楽しいドアの開け方ができる人物なんて、私はゴリアテさんしか知らない。
贔屓目……ではあるかも知れないがとはいえ、そのパフォーマンスライクすぎる所作ですら、どことなく上品さを感じる。
先輩兵士方も、慣れているというのか諦めているというのか、注意しようという者はいなかった。
自分たちのトップであるグレイグ将軍を呼び捨てにしている時点で仕方ないのかも知れない。
しかも説教ときている。
「たしかに、シルビアにしては遅かったのう。というか一体グレイグと何があったんじゃ?」
「んー…。アタシが言わなくても、きっと今にわかるわ」
珍しく言葉を濁す彼の態度に、ロウさんはますます理解ができず首を傾げる。
一方でマルティナさんはなんとなく察したらしく顔を顰める。
私も容疑者という立場上、顔にこそ出せなかったが、どちらかというと彼女寄りだ。
…要は言い方とこのタイミング的に嫌な予感しかしなかった。