君はオルタナティブ
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デルカダールから徒歩でおよそまる一日。
そんな比較的近い場所に位置するイシの村で、近日ゴリアテさん(と何団体か)がショーをする。
そんなタイミングで偶々まとまった休暇が貰えた。
グレイグさまがそんなことに気が回るとは到底思えないから、おそらくは本当に偶然だ。
運命ってステキ!なんてガラにないことを思いつつも、行かない手はなかった。
ちなみにマルティナさんも誘いたかったのだけれど、残念ながら公務と被っていた。
実はまだ馬に乗れないのでたった一人で現地まで足を運ぶ。
その際幾度か魔物と戦闘になったが、強い敵を避けたのもあり、特に苦戦することもなかった。
それにしても…、と少々苦く思う。
勇者様たちのおかげですでに滅びているとはいえ、邪神がもたらした影響は魔物たちの生態系にとっても深刻なものだ。
具体的に言えば、デルカダール地方では以前は見られなかったほのおのせんしやブラックドラゴンといった強力な魔物が、未だ闊歩しているのである。
これらは最近徐々に数を増やし、もっぱらデルカダールの悩みのタネと化していた。
理由はごく簡単で、凶暴な上に強いのだ。
特にデルカダールでブラックドラゴンを単体で撃破できるのは、現在グレイグ将軍(と記録こそないがマルティナ姫)のみ。
この問題が世界一の軍事大国だけのものであるはずがなく、近々他国からの援軍要請による遠征等で忙しくなるだろうから覚悟しておけ、とグレイグさまに言われたことを思い出す。
…多分この休暇は今後の前取りみたいなものなのだと思うと、背筋がゾッとした。
イシの村に行くついでにイレブンくん(邪神を倒したから勇者も卒業したらしい)にルーラを習おうかなと思っていた矢先。
出会ってしまった。
鋼のような冷たく黒光りする巨体。
凶暴さしか感じない三白眼。
ブラックドラゴンである。
『ははははははは!』
瞬間、腰に帯いたプラチナソードが爆笑した。
…いや正しくはこの剣の以前の持ち主ことホメロスさま(の霊)が、である。
『散々黒龍との戦闘を避けてきたくせに鉢合わせとは、随分と愉快なことだ』
共同墓地に備えられていたこれはホメロスさま(の霊)とグレイグさまの許可を得て今は私の所有となっていた。
在りし日の将軍のかつて愛用していた品だけあり、見た目も機能も非常に優れていたのだが、一つだけ欠点があった。
『期待の新兵エルザ殿の快進撃も、これにて終幕か。まったく残念で仕方がない』
剣に取り憑いた金髪の美丈夫の霊が何かにつけて嫌味を言ってくるという、非常に嫌な呪いがかかっているのである。
数奇な出来事により手元に来ることになったのもあり、彼の想いも汲んで嫌々ながらも使うことを決めたのに関わらずこの言い草。
「今すぐ捨てたいこの剣」
『そうすれば貴様は確実に死ぬな?ああ、自殺願望があるのならば止めはしないが』
「私が死んだらこの剣はここに放置されますね。
そしたらホメロスさま、今度はこんな辺鄙な森に住まわれますか?」
軽い言葉のジャブを交わし、魔物に向き合う。
オフだろうがなんだろうが、人に害なす龍に出会ってしまったのなら、戦わないわけにはいかなかった。
だっていつ一般人を襲うのかわからないのだから。
『…おい。フバーハは使えるか』
声は冷たい。自分の元々イメージする軍師ホメロスそのものの声。
特に隠し立てする必要もないので使えますと答え、続きを促す。
『はっきり言ってやる。アレはお前の手に余るだろう。
オレが指示を出してやるが、まず長期戦になることを覚悟せよ』
「信じて良いんですか」
『いいかよく聞け。それは元はオレの剣だ。お前ごときの遺留品になどしてたまるか』
その言葉を受けて彼を信じることにして、いまいち慣れないフバーハを発動した。
これはブレス攻撃の威力を和らげる呪文である。
魔法のベールを纏った瞬間、早速ブラックドラゴンが動いた。
鋭い爪の一撃を振り下ろしてくるのをなんとか避ける。
それだけで地面に穴が開き、ぞっとした命の危機を覚える。
『一々狼狽えるな。次はスクルトだ』
ぴしゃりと私を制したホメロスさまが次の指示をする。が、しかし。
「できないです」
『は?』
「私!スクルトできない!」
『なん…だと…!?』
再び腕を振りかぶるブラックドラゴン。
大振りなその攻撃は当たったら即死を思わせるものの、避けることはさほど難しくなさそうだった。
『バカ!下がる奴があるか!』
私がバックステップを踏むと、珍しく取り乱した様子のホメロスさまが見て取れた。
そして聞き返そうとする頃には激しい炎が吹き抜ける。
このドラゴン、意外と知能が高いようで、先の爪の一撃は彼(?)にとってのフェイントだったらしい。
あえて大振りにして後ろに下がらせることで、本命のブレス攻撃を直撃させる。
『…もう遅いが、このタイプのドラゴンと戦う際、攻撃を避けるとしたら基本的に横軸だ。
縦だとブレスの餌食になる』
フバーハのお陰で深刻なダメージこそ食らわずに済んだ。
しかし火傷がひりついて痛い。皮膚を焦がす苦痛を誤魔化すように、息を吐く。
『だが黒龍の攻撃で最も強力なのは尾だ。スクルトも回復魔法もない以上、絶対にもらうな』
「見分け方は」
『身体のひねりだ。動きの鈍重さが奴の唯一の弱点。その時だけは思い切り下がれ』
言ったそばからブラックドラゴンが襲いかかってくる。
爪の一撃はホメロスさまに言われた通り、横に避ける。
そして彼の言うとおり遅い動きゆえに生じた隙で一気に近づき、ドラゴン斬りを叩き込んだ。
「かったぁ!どうなってんのこれ!」
じーんと腕が痺れる。
それほどまでにブラックドラゴンの鱗は硬い。
まるで金属を殴ったような感触だ。
『ふん。アレを真正面から小細工なしに斬れるのは、それこそグレイグの馬鹿力くらいなものだ』
黒龍は身体をひねる。ピオリムを詠唱しながら、猛然と逃げる。
ホメロスさまのアドバイスの通りだった。相手は尻尾で凪いできたが、当たらずには済んだ。
…代わりと言わんばかりに数本の木がへし折れたが。
「じゃあ詰みってこと!?このまま逃げるしかないの!?」
ホメロスさまはせせら笑った。
『逃げられるものなら逃げてみろ。黒龍は執念深いぞ。獲物は貪欲に追い続ける。
その習性を利用してウルノーガはかつてデルカダールの地下にこいつを持ち込み、厄介な政敵を始末してきた』
ブラックドラゴンの攻撃を必死でかわす私の傍らで、ホメロスさまはそんなことを語る。どこか他人事のように。
しかし、彼はそんな悪事にこれまで加担してきたのだ。
ブラックドラゴンの相手で非常に忙しかったが、それでも言うべきことがあった。
「最低ですね」
『どうとでも言え。これから死にゆく女に言われても、オレは痛くもなんともない』
「…死人に口なしって言葉知ってます?」
ブラックドラゴンの攻撃を避けるのは簡単だ。
多分武闘家や盗賊、旅芸人あたりならば見習いレベルでも捌けるような、それくらい鈍重な攻撃。
しかし一方で当たればそれだけで怖いし、今は簡単に逃げられても、早晩体力が尽きてトドメを刺されるだろうことは予想がついた。
また、反撃しようにもその硬い皮膚に剣はあまり通じないようだ。
バイキルトを唱えても同じことだろう。
そんな比較的近い場所に位置するイシの村で、近日ゴリアテさん(と何団体か)がショーをする。
そんなタイミングで偶々まとまった休暇が貰えた。
グレイグさまがそんなことに気が回るとは到底思えないから、おそらくは本当に偶然だ。
運命ってステキ!なんてガラにないことを思いつつも、行かない手はなかった。
ちなみにマルティナさんも誘いたかったのだけれど、残念ながら公務と被っていた。
実はまだ馬に乗れないのでたった一人で現地まで足を運ぶ。
その際幾度か魔物と戦闘になったが、強い敵を避けたのもあり、特に苦戦することもなかった。
それにしても…、と少々苦く思う。
勇者様たちのおかげですでに滅びているとはいえ、邪神がもたらした影響は魔物たちの生態系にとっても深刻なものだ。
具体的に言えば、デルカダール地方では以前は見られなかったほのおのせんしやブラックドラゴンといった強力な魔物が、未だ闊歩しているのである。
これらは最近徐々に数を増やし、もっぱらデルカダールの悩みのタネと化していた。
理由はごく簡単で、凶暴な上に強いのだ。
特にデルカダールでブラックドラゴンを単体で撃破できるのは、現在グレイグ将軍(と記録こそないがマルティナ姫)のみ。
この問題が世界一の軍事大国だけのものであるはずがなく、近々他国からの援軍要請による遠征等で忙しくなるだろうから覚悟しておけ、とグレイグさまに言われたことを思い出す。
…多分この休暇は今後の前取りみたいなものなのだと思うと、背筋がゾッとした。
イシの村に行くついでにイレブンくん(邪神を倒したから勇者も卒業したらしい)にルーラを習おうかなと思っていた矢先。
出会ってしまった。
鋼のような冷たく黒光りする巨体。
凶暴さしか感じない三白眼。
ブラックドラゴンである。
『ははははははは!』
瞬間、腰に帯いたプラチナソードが爆笑した。
…いや正しくはこの剣の以前の持ち主ことホメロスさま(の霊)が、である。
『散々黒龍との戦闘を避けてきたくせに鉢合わせとは、随分と愉快なことだ』
共同墓地に備えられていたこれはホメロスさま(の霊)とグレイグさまの許可を得て今は私の所有となっていた。
在りし日の将軍のかつて愛用していた品だけあり、見た目も機能も非常に優れていたのだが、一つだけ欠点があった。
『期待の新兵エルザ殿の快進撃も、これにて終幕か。まったく残念で仕方がない』
剣に取り憑いた金髪の美丈夫の霊が何かにつけて嫌味を言ってくるという、非常に嫌な呪いがかかっているのである。
数奇な出来事により手元に来ることになったのもあり、彼の想いも汲んで嫌々ながらも使うことを決めたのに関わらずこの言い草。
「今すぐ捨てたいこの剣」
『そうすれば貴様は確実に死ぬな?ああ、自殺願望があるのならば止めはしないが』
「私が死んだらこの剣はここに放置されますね。
そしたらホメロスさま、今度はこんな辺鄙な森に住まわれますか?」
軽い言葉のジャブを交わし、魔物に向き合う。
オフだろうがなんだろうが、人に害なす龍に出会ってしまったのなら、戦わないわけにはいかなかった。
だっていつ一般人を襲うのかわからないのだから。
『…おい。フバーハは使えるか』
声は冷たい。自分の元々イメージする軍師ホメロスそのものの声。
特に隠し立てする必要もないので使えますと答え、続きを促す。
『はっきり言ってやる。アレはお前の手に余るだろう。
オレが指示を出してやるが、まず長期戦になることを覚悟せよ』
「信じて良いんですか」
『いいかよく聞け。それは元はオレの剣だ。お前ごときの遺留品になどしてたまるか』
その言葉を受けて彼を信じることにして、いまいち慣れないフバーハを発動した。
これはブレス攻撃の威力を和らげる呪文である。
魔法のベールを纏った瞬間、早速ブラックドラゴンが動いた。
鋭い爪の一撃を振り下ろしてくるのをなんとか避ける。
それだけで地面に穴が開き、ぞっとした命の危機を覚える。
『一々狼狽えるな。次はスクルトだ』
ぴしゃりと私を制したホメロスさまが次の指示をする。が、しかし。
「できないです」
『は?』
「私!スクルトできない!」
『なん…だと…!?』
再び腕を振りかぶるブラックドラゴン。
大振りなその攻撃は当たったら即死を思わせるものの、避けることはさほど難しくなさそうだった。
『バカ!下がる奴があるか!』
私がバックステップを踏むと、珍しく取り乱した様子のホメロスさまが見て取れた。
そして聞き返そうとする頃には激しい炎が吹き抜ける。
このドラゴン、意外と知能が高いようで、先の爪の一撃は彼(?)にとってのフェイントだったらしい。
あえて大振りにして後ろに下がらせることで、本命のブレス攻撃を直撃させる。
『…もう遅いが、このタイプのドラゴンと戦う際、攻撃を避けるとしたら基本的に横軸だ。
縦だとブレスの餌食になる』
フバーハのお陰で深刻なダメージこそ食らわずに済んだ。
しかし火傷がひりついて痛い。皮膚を焦がす苦痛を誤魔化すように、息を吐く。
『だが黒龍の攻撃で最も強力なのは尾だ。スクルトも回復魔法もない以上、絶対にもらうな』
「見分け方は」
『身体のひねりだ。動きの鈍重さが奴の唯一の弱点。その時だけは思い切り下がれ』
言ったそばからブラックドラゴンが襲いかかってくる。
爪の一撃はホメロスさまに言われた通り、横に避ける。
そして彼の言うとおり遅い動きゆえに生じた隙で一気に近づき、ドラゴン斬りを叩き込んだ。
「かったぁ!どうなってんのこれ!」
じーんと腕が痺れる。
それほどまでにブラックドラゴンの鱗は硬い。
まるで金属を殴ったような感触だ。
『ふん。アレを真正面から小細工なしに斬れるのは、それこそグレイグの馬鹿力くらいなものだ』
黒龍は身体をひねる。ピオリムを詠唱しながら、猛然と逃げる。
ホメロスさまのアドバイスの通りだった。相手は尻尾で凪いできたが、当たらずには済んだ。
…代わりと言わんばかりに数本の木がへし折れたが。
「じゃあ詰みってこと!?このまま逃げるしかないの!?」
ホメロスさまはせせら笑った。
『逃げられるものなら逃げてみろ。黒龍は執念深いぞ。獲物は貪欲に追い続ける。
その習性を利用してウルノーガはかつてデルカダールの地下にこいつを持ち込み、厄介な政敵を始末してきた』
ブラックドラゴンの攻撃を必死でかわす私の傍らで、ホメロスさまはそんなことを語る。どこか他人事のように。
しかし、彼はそんな悪事にこれまで加担してきたのだ。
ブラックドラゴンの相手で非常に忙しかったが、それでも言うべきことがあった。
「最低ですね」
『どうとでも言え。これから死にゆく女に言われても、オレは痛くもなんともない』
「…死人に口なしって言葉知ってます?」
ブラックドラゴンの攻撃を避けるのは簡単だ。
多分武闘家や盗賊、旅芸人あたりならば見習いレベルでも捌けるような、それくらい鈍重な攻撃。
しかし一方で当たればそれだけで怖いし、今は簡単に逃げられても、早晩体力が尽きてトドメを刺されるだろうことは予想がついた。
また、反撃しようにもその硬い皮膚に剣はあまり通じないようだ。
バイキルトを唱えても同じことだろう。