第一回デルカダール軍特別会議
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「とりあえずグレイグも突っ立ってないで。座って」
マルティナさんが手招きしてようやくグレイグさまは座る。
この生真面目すぎるところが長所であり、短所なんだと彼女が以前零していたことを思い出した。
わからなくもない。
「まず会議を始める前に、一つグレイグ将軍にお尋ねしたいことがあります」
「…何なりと」
突然姫が口調を姫っぽく改めることで緊張感が生まれる。そして次には早くも崩れた。
「これ作ったのグレイグ、あなたでしょ」
マルティナさんが指差す先。
先ほど置かれたばかりのごろごろとした不格好なお茶菓子は、精一杯好意的な目で見ればどうにかビスコッティと呼べそうだが。
姫が何が言いたいか考えもつかないらしいグレイグさまはあっさりと首肯し、およそ自分のイメージとはかけ離れているだろう行為の動機を淡々と語った。
「イレブンたちとまだ旅をしていた頃――カミュやゴリアテ、各地の料理を食べて私は気づいたのです。
美味い飯は士気を上げる、と」
「それで将軍自ら包丁を?」
「全てはデルカダールの為」
沈黙。
「ちょ、…!」
真面目すぎる彼の言は、まぎれもなく本音。
それをよく知るマルティナさんも、これにはさすがに困ったらしい。
そして仕事に関しては非の打ち所なく有能なグレイグ将軍のこと。
料理にかまけて他がおろそかになることなどあり得ない。
相変わらず盲目的なまでの忠誠心を無下にもできず、言葉に詰まる。
「ああもう!今後に期待します!」
グレイグさまの目が輝く。
この光景は見る人が見れば美しいのかも知れない。
素直になれない美しい姫と、そんな姫への忠義に生きる騎士。
しかして実態は残念なおっさんと彼への対応に本気で困る女王様。
ああ、うん、もう。
「エルザ、とっとと始めるわよ。音頭をとって」
「なんで私!?」
一番この中で立場も年も下なので司会進行は覚悟していたが、逆に言うとこの人たち相手に仕切り役とか割と恐ろしかった。
まあいいや、とため息をつく。
同じ釜の飯を食った仲だ。うまくいかなくてもきっと許してくれると踏んで、口火を切ることにした。
「前置きがすっかり長くなってしまいましたが。
これより第一回デルカダール軍特別会議を開始いたしますことを、お許し願えますでしょうか、マルティナ姫」
「許可します」
「ありがとうございます。ではこれより開始いたします」
真面目な空気はここで終わった。
「って今日の議題とか知らないんだけど。
…そもそもなんの肩書もないどころか新人の私が参加してるのおかしくない?」
デルカダール軍会議とは言ったものの、参加者は三人。
しかもその内一人はどう考えても場違いな私である。
要は、全然公式の会議ではなかった。
「おかしくないわよ。むしろあなた当事者よ、エルザ。
そもそもデルカダール軍会議なんて仰々しい名前つけたのはアレよ、そうでもしないと来なさそうな真面目バカがいるから」
バカの位置。
「その真面目バカとはもしかして私のことでしょうか」
「あんた以外誰がいるって言うのよ、グレイグ。…喜びなさい、今回もその真面目さが仇になってるわよ」
グレイグさまは意味が理解できなかったらしく、眉間にシワを寄せる。私にもわからなかった。
揃ってしかめっ面になった配下二人に、マルティナさんはサディスティックな笑みを浮かべるでもなく、ごく真面目に告げる。
「真面目バカとシルビアバカは絶対気づいてないと思ったから、わざわざ親切で呼び出したの。
噂になってるわ、あなたたち。付き合ってるんじゃないかって」
雷でも落ちたような衝撃を受けた。
が、すぐに思い直す。
ど、どうせこんな悪魔のような姫の言だ、絶対戯言だだって私やましいこととかした覚えないし。
「な、何かの冗談でしょ?」
「冗談で私がこんな子どもみたいなこと言い出すと思う?バカバカしい現実よこれは。
メイドたちなんかその話で持ちきり。本当に気づかなかった?」
気づかなかった。
たしかにグレイグさまは(仕事面では)尊敬できる上司だが、恋愛対象として見たことはまるでない。
というか、そもそもゴリアテさんにしか興味ない。
「全く一切身に覚えがないのですが」
うんうんとグレイグさまの意見に、首を縦に振りまくる。
「あれじゃない?グレイグ、訓練の時とか、エルザへの指導が妙に丁寧だったり、贔屓してるように見えるもの。
で、エルザはエルザでちょっとわからないことがあったら先輩すっ飛ばして将軍に聞くし」
上司と顔を見合わせる。
全く理解し難かった。グレイグさまとはただの上司と部下の関係。
旅をしていた頃はむしろ師弟に近いかもしれないと思ったこともあるし、今もせいぜいその延長線だ。
ぽかんとした顔をするグレイグさまも私と同じことを思ってるに違いない。
なんというかしょっちゅう関わっていたからたぶん他の人より話しやすいのだ、結局のところ。
いまだにマルティナさんと気安く口がきけるのと同じだけのこと。
「…私みたいな知ってる人間は良いんだけど、誤解されても仕方ないとも思うの」
そこまで言ってマルティナさんは紅茶を一口飲んだ。
誤解、か…。
今後はちょっと身の振り方に気をつけるべきだろうな、と反省しながらグレイグさまをちらりと見ると、思いの外彼は冷静ではあった。
「お言葉ですが、姫様。人の噂も七十五日と申します。そのような戯言など、無視していればそのうち…」
「あのねグレイグ。あなた自分の立場を自覚したことある?あなたは今や世界一の軍人!
これ以上話が大きくなったら、確実に記者が黙ってないわ」
「は、はあ…」
「エルザだって、このままだとそのうち嫉妬したこわーいお姉さんたちに…!」
おぞましくマルティナさんは声を低め震えさせるが、正直この人が一番怖いお姉さんだと思う。
「お言葉ですが姫様。エルザは女性兵でもすでにトップクラスの実力を」
「そういう反論聞いてないし知ってるから。今のは前置き!私が言いたいのは」
イライラした口調で妖怪四角四面男を制したマルティナさんは、多分今日一番恐ろしいことを言ってのけた。
「二人とも、考えてみなさい。お姉さんはお姉さんでも、絶対にバレたくないおネエさんがいるんじゃない?」
マルティナさんが手招きしてようやくグレイグさまは座る。
この生真面目すぎるところが長所であり、短所なんだと彼女が以前零していたことを思い出した。
わからなくもない。
「まず会議を始める前に、一つグレイグ将軍にお尋ねしたいことがあります」
「…何なりと」
突然姫が口調を姫っぽく改めることで緊張感が生まれる。そして次には早くも崩れた。
「これ作ったのグレイグ、あなたでしょ」
マルティナさんが指差す先。
先ほど置かれたばかりのごろごろとした不格好なお茶菓子は、精一杯好意的な目で見ればどうにかビスコッティと呼べそうだが。
姫が何が言いたいか考えもつかないらしいグレイグさまはあっさりと首肯し、およそ自分のイメージとはかけ離れているだろう行為の動機を淡々と語った。
「イレブンたちとまだ旅をしていた頃――カミュやゴリアテ、各地の料理を食べて私は気づいたのです。
美味い飯は士気を上げる、と」
「それで将軍自ら包丁を?」
「全てはデルカダールの為」
沈黙。
「ちょ、…!」
真面目すぎる彼の言は、まぎれもなく本音。
それをよく知るマルティナさんも、これにはさすがに困ったらしい。
そして仕事に関しては非の打ち所なく有能なグレイグ将軍のこと。
料理にかまけて他がおろそかになることなどあり得ない。
相変わらず盲目的なまでの忠誠心を無下にもできず、言葉に詰まる。
「ああもう!今後に期待します!」
グレイグさまの目が輝く。
この光景は見る人が見れば美しいのかも知れない。
素直になれない美しい姫と、そんな姫への忠義に生きる騎士。
しかして実態は残念なおっさんと彼への対応に本気で困る女王様。
ああ、うん、もう。
「エルザ、とっとと始めるわよ。音頭をとって」
「なんで私!?」
一番この中で立場も年も下なので司会進行は覚悟していたが、逆に言うとこの人たち相手に仕切り役とか割と恐ろしかった。
まあいいや、とため息をつく。
同じ釜の飯を食った仲だ。うまくいかなくてもきっと許してくれると踏んで、口火を切ることにした。
「前置きがすっかり長くなってしまいましたが。
これより第一回デルカダール軍特別会議を開始いたしますことを、お許し願えますでしょうか、マルティナ姫」
「許可します」
「ありがとうございます。ではこれより開始いたします」
真面目な空気はここで終わった。
「って今日の議題とか知らないんだけど。
…そもそもなんの肩書もないどころか新人の私が参加してるのおかしくない?」
デルカダール軍会議とは言ったものの、参加者は三人。
しかもその内一人はどう考えても場違いな私である。
要は、全然公式の会議ではなかった。
「おかしくないわよ。むしろあなた当事者よ、エルザ。
そもそもデルカダール軍会議なんて仰々しい名前つけたのはアレよ、そうでもしないと来なさそうな真面目バカがいるから」
バカの位置。
「その真面目バカとはもしかして私のことでしょうか」
「あんた以外誰がいるって言うのよ、グレイグ。…喜びなさい、今回もその真面目さが仇になってるわよ」
グレイグさまは意味が理解できなかったらしく、眉間にシワを寄せる。私にもわからなかった。
揃ってしかめっ面になった配下二人に、マルティナさんはサディスティックな笑みを浮かべるでもなく、ごく真面目に告げる。
「真面目バカとシルビアバカは絶対気づいてないと思ったから、わざわざ親切で呼び出したの。
噂になってるわ、あなたたち。付き合ってるんじゃないかって」
雷でも落ちたような衝撃を受けた。
が、すぐに思い直す。
ど、どうせこんな悪魔のような姫の言だ、絶対戯言だだって私やましいこととかした覚えないし。
「な、何かの冗談でしょ?」
「冗談で私がこんな子どもみたいなこと言い出すと思う?バカバカしい現実よこれは。
メイドたちなんかその話で持ちきり。本当に気づかなかった?」
気づかなかった。
たしかにグレイグさまは(仕事面では)尊敬できる上司だが、恋愛対象として見たことはまるでない。
というか、そもそもゴリアテさんにしか興味ない。
「全く一切身に覚えがないのですが」
うんうんとグレイグさまの意見に、首を縦に振りまくる。
「あれじゃない?グレイグ、訓練の時とか、エルザへの指導が妙に丁寧だったり、贔屓してるように見えるもの。
で、エルザはエルザでちょっとわからないことがあったら先輩すっ飛ばして将軍に聞くし」
上司と顔を見合わせる。
全く理解し難かった。グレイグさまとはただの上司と部下の関係。
旅をしていた頃はむしろ師弟に近いかもしれないと思ったこともあるし、今もせいぜいその延長線だ。
ぽかんとした顔をするグレイグさまも私と同じことを思ってるに違いない。
なんというかしょっちゅう関わっていたからたぶん他の人より話しやすいのだ、結局のところ。
いまだにマルティナさんと気安く口がきけるのと同じだけのこと。
「…私みたいな知ってる人間は良いんだけど、誤解されても仕方ないとも思うの」
そこまで言ってマルティナさんは紅茶を一口飲んだ。
誤解、か…。
今後はちょっと身の振り方に気をつけるべきだろうな、と反省しながらグレイグさまをちらりと見ると、思いの外彼は冷静ではあった。
「お言葉ですが、姫様。人の噂も七十五日と申します。そのような戯言など、無視していればそのうち…」
「あのねグレイグ。あなた自分の立場を自覚したことある?あなたは今や世界一の軍人!
これ以上話が大きくなったら、確実に記者が黙ってないわ」
「は、はあ…」
「エルザだって、このままだとそのうち嫉妬したこわーいお姉さんたちに…!」
おぞましくマルティナさんは声を低め震えさせるが、正直この人が一番怖いお姉さんだと思う。
「お言葉ですが姫様。エルザは女性兵でもすでにトップクラスの実力を」
「そういう反論聞いてないし知ってるから。今のは前置き!私が言いたいのは」
イライラした口調で妖怪四角四面男を制したマルティナさんは、多分今日一番恐ろしいことを言ってのけた。
「二人とも、考えてみなさい。お姉さんはお姉さんでも、絶対にバレたくないおネエさんがいるんじゃない?」