クラウンテール
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、やかん…」
「火は消してるわ。大丈夫よ」
「…………ゴリアテさん」
目が覚めて一番に心配したのは、お湯を沸かしっぱなしにしていたことだ。
でもそこはさすがのゴリアテさんで、しかもさらっとベッドに寝かされていることに気づいて申し訳なくなる。
「ありがとうございます…ていうかさっきからごめんなさい。せっかく来てくれたのに…」
「気にしないわよ。驚いたけど。…お仕事そんなに辛い?」
気にはしないけど、気にはかけてくるらしい。
そして仕事の疲れを出したと勘違いされたらしい。ゆっくりと首を振る。
「そんなことはないよ。グレイグさま、人使いは荒いけど残業はほとんど寄越さないし」
「へえ。グレイグの仕事ぷりはあまり知らないけど、それは意外ね」
「そう。意外とね、部下思いみたい」
勇者様たちが邪神を討伐してからデルカダールに戻ったグレイグさまがまずしたことの一つが、私を呼び寄せることだった。
双頭の鷲の片方が欠けた今、軍事大国デルカダールは戦力の補充を急務としていた。
魔法戦士としてグレイグさまと戦闘面での相性が良いこと、それなりに気心が知れていること。
そして下層とはいえデルカダールの出身であることが決め手となったらしい。
また、マルティナさんの希望でもあるという。
なんともよくできた偶然。
ちょうど私も今一度デルカダール兵になることを目指そうとした矢先のことで、いささか話がうますぎるとも思ったけれど。
それでもまあ渡りに船だと以降私は彼の直属の部下となり、デルカダール兵として今も剣を振るっている。
…平和な今は、訓練や時々の魔物退治、ごくたまに憲兵の応援くらいに仕事は絞られるけれど、それはそれで良いことだ。
国の平和を守るという立場上決して楽な仕事ではないが、何でも屋をやっていた頃よりは腰が落ち着くぶん居心地が良かった。
あちこちを渡り歩きはしなくなったから、毎日が多少つまらなくはなったというのは、否定できないけれど。
「エルザちゃんがお城勤めになるって聞いたときは正直悔しかったわ。先を越されたって」
先、と気になる部分を復唱すると、ゴリアテさんは頷いて続ける。
「今だから言うけど、本当はあなたについて来てほしかったの」
淹れて少し経った紅茶を勧められ口をつけようとした時、そんなことを言われたせいでやめざるを得なかった。
ゴリアテさんは勇者様たちと別れたあとも、自分の夢を叶えるため、アリスちゃんをお供に、相変わらず旅芸人として世界を駆け回ってていた。
その活躍は目覚ましく、デルカダールにいても彼の噂を聞かない日はないくらいだ。
「なんで?女がいるかもってなると、イメージ良くないって…芸風的にも」
「ええ。アタシもそう思ったわ。…それでもって考えてる内に、グレイグにね」
苦笑する。
「迷ってもいいことないって知ってたのに、とんだ大失敗よ」
まるで後悔してないように明るく、後悔を話す。でも、それがどこかゴリアテさん、あるいはシルビアさんらしくなかった。
だっていつも尊重してくれる私の意思なんか無視しているのだ。
「ゴリアテさん…私、前言ったかも知れないけど。私の夢は…」
「デルカダールの兵士になることよね。覚えてるわ。忘れるはずないじゃない、あなたのことなんだもの」
この後、言いにくそうに彼は一瞬私から目を逸らした。
そして、それでも、言った。
「…自惚れてたのよ。エルザちゃんは、きっと断るって。それでアタシといることを選んでくれるって」
「がっかり、した?」
「アタシの勝手な感想だけで言えばね、したわ。
でもちゃんと自分のやりたいことを通せる子なんだって思うと」
ついぞ見ない、すごくきれいな笑顔だった。
「もっと好きになっちゃって」
なんでこんな話になったんだろうと思う。
緊張の糸が緩み、ゆるゆると息がもれる。
ため息も同然だった。退屈とかではもちろんない。
さっきみたいに卒倒するような強すぎるときめきを感じたわけでもない。
疲労感なのか安堵感なのか、今脳を占めいているのがどちらかなのかは、わからない。
「ゴリアテさんも人間なんですね」
「え、どうしたの急に」
「シルビアさんって呼んでた時にはわかんなかったことがいっぱいわかって、夢から覚めたみたい」
「…がっかりしたの?」
「まさか」
ゴリアテさんにときめきすぎて卒倒してベッドに運ばれていたわけだが、別に体調が悪いわけではない。
そして完全にゴリアテさんは油断していた。
おもむろに身を乗り出し、彼の首に腕をまわす。戸惑うように瞳孔が開くのとほとんど同じタイミングで、唇を奪った。
ほとんど噛みつくように。
「もっと好きになっちゃった」
んもう、と呆れたようにゴリアテさんは声をあげる。
「すっかりダイタンになっちゃって。一体誰の影響かしら」
「それ聞く?」
わかってるくせに、と笑うと、珍しくゴリアテさんは顔を真っ赤にした。
「火は消してるわ。大丈夫よ」
「…………ゴリアテさん」
目が覚めて一番に心配したのは、お湯を沸かしっぱなしにしていたことだ。
でもそこはさすがのゴリアテさんで、しかもさらっとベッドに寝かされていることに気づいて申し訳なくなる。
「ありがとうございます…ていうかさっきからごめんなさい。せっかく来てくれたのに…」
「気にしないわよ。驚いたけど。…お仕事そんなに辛い?」
気にはしないけど、気にはかけてくるらしい。
そして仕事の疲れを出したと勘違いされたらしい。ゆっくりと首を振る。
「そんなことはないよ。グレイグさま、人使いは荒いけど残業はほとんど寄越さないし」
「へえ。グレイグの仕事ぷりはあまり知らないけど、それは意外ね」
「そう。意外とね、部下思いみたい」
勇者様たちが邪神を討伐してからデルカダールに戻ったグレイグさまがまずしたことの一つが、私を呼び寄せることだった。
双頭の鷲の片方が欠けた今、軍事大国デルカダールは戦力の補充を急務としていた。
魔法戦士としてグレイグさまと戦闘面での相性が良いこと、それなりに気心が知れていること。
そして下層とはいえデルカダールの出身であることが決め手となったらしい。
また、マルティナさんの希望でもあるという。
なんともよくできた偶然。
ちょうど私も今一度デルカダール兵になることを目指そうとした矢先のことで、いささか話がうますぎるとも思ったけれど。
それでもまあ渡りに船だと以降私は彼の直属の部下となり、デルカダール兵として今も剣を振るっている。
…平和な今は、訓練や時々の魔物退治、ごくたまに憲兵の応援くらいに仕事は絞られるけれど、それはそれで良いことだ。
国の平和を守るという立場上決して楽な仕事ではないが、何でも屋をやっていた頃よりは腰が落ち着くぶん居心地が良かった。
あちこちを渡り歩きはしなくなったから、毎日が多少つまらなくはなったというのは、否定できないけれど。
「エルザちゃんがお城勤めになるって聞いたときは正直悔しかったわ。先を越されたって」
先、と気になる部分を復唱すると、ゴリアテさんは頷いて続ける。
「今だから言うけど、本当はあなたについて来てほしかったの」
淹れて少し経った紅茶を勧められ口をつけようとした時、そんなことを言われたせいでやめざるを得なかった。
ゴリアテさんは勇者様たちと別れたあとも、自分の夢を叶えるため、アリスちゃんをお供に、相変わらず旅芸人として世界を駆け回ってていた。
その活躍は目覚ましく、デルカダールにいても彼の噂を聞かない日はないくらいだ。
「なんで?女がいるかもってなると、イメージ良くないって…芸風的にも」
「ええ。アタシもそう思ったわ。…それでもって考えてる内に、グレイグにね」
苦笑する。
「迷ってもいいことないって知ってたのに、とんだ大失敗よ」
まるで後悔してないように明るく、後悔を話す。でも、それがどこかゴリアテさん、あるいはシルビアさんらしくなかった。
だっていつも尊重してくれる私の意思なんか無視しているのだ。
「ゴリアテさん…私、前言ったかも知れないけど。私の夢は…」
「デルカダールの兵士になることよね。覚えてるわ。忘れるはずないじゃない、あなたのことなんだもの」
この後、言いにくそうに彼は一瞬私から目を逸らした。
そして、それでも、言った。
「…自惚れてたのよ。エルザちゃんは、きっと断るって。それでアタシといることを選んでくれるって」
「がっかり、した?」
「アタシの勝手な感想だけで言えばね、したわ。
でもちゃんと自分のやりたいことを通せる子なんだって思うと」
ついぞ見ない、すごくきれいな笑顔だった。
「もっと好きになっちゃって」
なんでこんな話になったんだろうと思う。
緊張の糸が緩み、ゆるゆると息がもれる。
ため息も同然だった。退屈とかではもちろんない。
さっきみたいに卒倒するような強すぎるときめきを感じたわけでもない。
疲労感なのか安堵感なのか、今脳を占めいているのがどちらかなのかは、わからない。
「ゴリアテさんも人間なんですね」
「え、どうしたの急に」
「シルビアさんって呼んでた時にはわかんなかったことがいっぱいわかって、夢から覚めたみたい」
「…がっかりしたの?」
「まさか」
ゴリアテさんにときめきすぎて卒倒してベッドに運ばれていたわけだが、別に体調が悪いわけではない。
そして完全にゴリアテさんは油断していた。
おもむろに身を乗り出し、彼の首に腕をまわす。戸惑うように瞳孔が開くのとほとんど同じタイミングで、唇を奪った。
ほとんど噛みつくように。
「もっと好きになっちゃった」
んもう、と呆れたようにゴリアテさんは声をあげる。
「すっかりダイタンになっちゃって。一体誰の影響かしら」
「それ聞く?」
わかってるくせに、と笑うと、珍しくゴリアテさんは顔を真っ赤にした。