クラウンテール
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露店ですごい魚を見つけた。
『ゴクラクギョ クラウンテール』と汚い手書きのポップがついていた瓶詰めのそいつ。
ヒレは長くギザギザで、色は赤と白、そして差し込むように黒がまじり合っている。
その派手だけど優雅な外見が、なんとなくシルビアさんを思わせた。
一目惚れしたゴクラクギョを一緒に買った小さな水槽に泳がせて、数日が経った頃。
シルビアさんに似たような色合いをした彼は、積極的に泳ぐことをせずぼんやりゆらゆらと水の中に漂っている。
しかも魚のくせに時々水面に来ては、口で息継ぎをする。
彼とは似ても似つかないのっぺりとした性格で、これはこれで当初は面白かったが、早々に日常の一部に溶けていった。
そんな矢先、彼が来た。
軽く挨拶を済ませて上がってもらう。
クレイモランあたりの寒い地方からこちらへ来たのだろう、上等な上着を受け取ってハンガーにかけながら考える。
そういえば傭兵業をやめる直前、依頼のお礼として高めの紅茶をいただいていた。
とりあえずアレを出そうか、なんて思いつく。
「エルザちゃん。お魚を飼い始めたの?」
ヤカンに火をかけてから様子を伺うと、彼は興味深そうに小さな水槽の中をのぞき込んでいる。
「え、うん。一目惚れしちゃって、つい」
「あら、それは妬けちゃうわね。でも確かにヒラヒラしてて、きれい」
「色合いが、あの頃のシルビアさんみたいだなって」
「…あなたの感性ってたまにアタシの想像を超えてくるわよね」
褒められているのかわからないけど、とりあえずお礼を言う。
「相変わらず、ね。エルザちゃんって」
くすくすと笑われる。といっても、そこにバカにするような意図なんかは見当たりはしない。
ただただ優しく、それでいて満足気なものだ。
「シ…、あ、いや、ゴリアテさんだって…」
つい以前の呼び方をしかけて、それはそれで恥ずかしくなって、語尾が消え入る。
「ごめんなさい。まだ慣れてなくて。気を悪くしないで」
「いいのよん。むしろ恥ずかしがるエルザちゃんってかわいいのよね。久々に見られて得した気分だわ」
自分で名乗っている芸名とはいえ、今更名前を間違えられてふつうは良い気はしないだろう。
しかしながら自意識ふわふわ系おとめことゴリアテさんは、そんなことは気にしないらしい。
にこにこと許してくれる一方でさり気なく私の羞恥心のレベルを上げてくれた。
「でもいいものねぇ、本名で呼ばれるのも」
「そんなものなの?」
「そんなものよ。そりゃあシルビアって名前ももちろん気に入ってるけど…エルザちゃんに呼ばれると、やっぱり特別感があるのよ」
そしてこの上なさそうな殺し文句。きゅーんと心臓が鳴ったのが誇張表現とか抜きに聞こえた気がする。
おそらくゴリアテさんはきっと私を(萌え)殺しに来たのだろう。
しばらく会わなかったことで、彼に対する耐性がまるで消え失せていることに気づいた。
ゴリアテさんが好きすぎて過呼吸気味になるが、ここまでは想定内。
とにかく心配させるのはいけない。なんとか息を飲み込み、言葉を発することに集中する。
「あ」
「あら?このお魚ちゃん、ヒレを広げて…どうしたのかしら」
どうも黙り込みすぎたらしい。
ゴクラクギョの方に再び目を落としたゴリアテさんが、そんな声をあげる。
「…威嚇してますね」
「えっ」
まさかの着の身着のまま。
ステージ衣装で勇者様と旅をしていた頃よりわずかに落ち着いたとはいえ、ゴリアテさんはゴリアテさんだ。
相変わらず派手な格好をしている。
それがたぶんゴクラクギョを怒らせたのだろう。そういう性質の魚なのだ(と飼育書に書いてあった)。
「ご主人様を取られちゃう!…って思ったのかしら。
困ったわねぇ…、エルザちゃんはずっとアタシのなのに」
あ、無理。
殺し文句に文字通り殺された私は殺されたので、ばたーんと派手な音をして倒れる。
エルザちゃん、エルザちゃんと呼びかけてくるゴリアテさんに応対しようとしたが、頭を打ったせいか意識がなくなる方が先立った。
いやしかしこれぞ本望…。
『ゴクラクギョ クラウンテール』と汚い手書きのポップがついていた瓶詰めのそいつ。
ヒレは長くギザギザで、色は赤と白、そして差し込むように黒がまじり合っている。
その派手だけど優雅な外見が、なんとなくシルビアさんを思わせた。
一目惚れしたゴクラクギョを一緒に買った小さな水槽に泳がせて、数日が経った頃。
シルビアさんに似たような色合いをした彼は、積極的に泳ぐことをせずぼんやりゆらゆらと水の中に漂っている。
しかも魚のくせに時々水面に来ては、口で息継ぎをする。
彼とは似ても似つかないのっぺりとした性格で、これはこれで当初は面白かったが、早々に日常の一部に溶けていった。
そんな矢先、彼が来た。
軽く挨拶を済ませて上がってもらう。
クレイモランあたりの寒い地方からこちらへ来たのだろう、上等な上着を受け取ってハンガーにかけながら考える。
そういえば傭兵業をやめる直前、依頼のお礼として高めの紅茶をいただいていた。
とりあえずアレを出そうか、なんて思いつく。
「エルザちゃん。お魚を飼い始めたの?」
ヤカンに火をかけてから様子を伺うと、彼は興味深そうに小さな水槽の中をのぞき込んでいる。
「え、うん。一目惚れしちゃって、つい」
「あら、それは妬けちゃうわね。でも確かにヒラヒラしてて、きれい」
「色合いが、あの頃のシルビアさんみたいだなって」
「…あなたの感性ってたまにアタシの想像を超えてくるわよね」
褒められているのかわからないけど、とりあえずお礼を言う。
「相変わらず、ね。エルザちゃんって」
くすくすと笑われる。といっても、そこにバカにするような意図なんかは見当たりはしない。
ただただ優しく、それでいて満足気なものだ。
「シ…、あ、いや、ゴリアテさんだって…」
つい以前の呼び方をしかけて、それはそれで恥ずかしくなって、語尾が消え入る。
「ごめんなさい。まだ慣れてなくて。気を悪くしないで」
「いいのよん。むしろ恥ずかしがるエルザちゃんってかわいいのよね。久々に見られて得した気分だわ」
自分で名乗っている芸名とはいえ、今更名前を間違えられてふつうは良い気はしないだろう。
しかしながら自意識ふわふわ系おとめことゴリアテさんは、そんなことは気にしないらしい。
にこにこと許してくれる一方でさり気なく私の羞恥心のレベルを上げてくれた。
「でもいいものねぇ、本名で呼ばれるのも」
「そんなものなの?」
「そんなものよ。そりゃあシルビアって名前ももちろん気に入ってるけど…エルザちゃんに呼ばれると、やっぱり特別感があるのよ」
そしてこの上なさそうな殺し文句。きゅーんと心臓が鳴ったのが誇張表現とか抜きに聞こえた気がする。
おそらくゴリアテさんはきっと私を(萌え)殺しに来たのだろう。
しばらく会わなかったことで、彼に対する耐性がまるで消え失せていることに気づいた。
ゴリアテさんが好きすぎて過呼吸気味になるが、ここまでは想定内。
とにかく心配させるのはいけない。なんとか息を飲み込み、言葉を発することに集中する。
「あ」
「あら?このお魚ちゃん、ヒレを広げて…どうしたのかしら」
どうも黙り込みすぎたらしい。
ゴクラクギョの方に再び目を落としたゴリアテさんが、そんな声をあげる。
「…威嚇してますね」
「えっ」
まさかの着の身着のまま。
ステージ衣装で勇者様と旅をしていた頃よりわずかに落ち着いたとはいえ、ゴリアテさんはゴリアテさんだ。
相変わらず派手な格好をしている。
それがたぶんゴクラクギョを怒らせたのだろう。そういう性質の魚なのだ(と飼育書に書いてあった)。
「ご主人様を取られちゃう!…って思ったのかしら。
困ったわねぇ…、エルザちゃんはずっとアタシのなのに」
あ、無理。
殺し文句に文字通り殺された私は殺されたので、ばたーんと派手な音をして倒れる。
エルザちゃん、エルザちゃんと呼びかけてくるゴリアテさんに応対しようとしたが、頭を打ったせいか意識がなくなる方が先立った。
いやしかしこれぞ本望…。