★☆たのしいティータイム☆★
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魔導士ウルノーガ。
いかにも禍々しい響きの名前を持つその男こそがデルカダール王に成り代わり、16年もの間国を狂わせてきた超本人らしい。
一言でまとめれば勇者とデルカダールを対立させた全ての黒幕と言ったところだ。
「つまりグレイグさまは、そのウルノーガっていうのに騙されてたってこと?」
奢ってもらってしまったパンケーキ。
それを切り分けながらそんなことを訊くのも失礼な話かとは思うけれど、グレイグさまが良いと言ったのだから多分良いのだ。
「そうだ。…王や姫、イレブンたちにはもちろん、部下や民にも…お前にも。
取り返しのつかぬことをしてしまうところだった……」
悲痛な面持ちで、そして感情を無理矢理に押し殺した声音で答えるグレイグさまを見て、軽くそんなことを聞いてしまったことを後悔した。
「…グレイグの名誉のためにも言っておくけれど、ウルノーガの変身はそれはもう敵ながら見事なものだった。
アタシたちはもちろん…本物の王ちゃんと付き合いが長いはずのロウちゃんですら、すぐには見抜けなかったわ」
「いや、ゴリアテ。いい。俺だけは奴を偽者だと見抜けなければならなかったんだ。それを…!」
フォローに入るシルビアさんを制し、グレイグさまはまさに自己嫌悪の坩堝。
彼の中で恐らく何度も繰り返し、そして何度も同じ結論を出しては自分を責める。…当然のことかも知れない。
ウルノーガは強大な力を持った魔道士だ。
その真の目的は杳として知れぬまま怪人は勇者様たちに斃されたわけだが、そうでなければ。
グレイグさまは彼に操られるままに、デルカダールはおろかロトゼタシアにすら、大打撃を与えてしまっていたところだったのかも知れない。
たらればを言っても仕方ない、とはいえ済んだ話だとするには重すぎる。
グレイグさまだって将軍である以前に人間なのだ。
きっと、償いきれないほどの十字架を背負ったのだと本人は思っていることだろう。
ここで私も何か言うべきなのだろうが、どうフォローすることもできなかった。
…一応私もデルカダールの被害者ではあるしそれを差し引いても、あなたは悪くないと私が言ったところで彼にとってなんの救いになるだろうか。
「グレイグさま」
じゃあ私はどうするべきか。
季節のフルーツが盛られ、生クリームとさえずりのみつがたっぷりかかったパンケーキが報酬だとして、あまりに割に合わない課題。
私は一口大に切り分けたそれを、この空気であえて口に運び、甘く柔らかな生地を30回噛んで堪能し、飲み込む。
「その、空気を読まなくてごめんなさい。…ゴリアテって誰ですか?」
まさかの質問に、ぽかんとグレイグさまの口が開く。
驚きのあまり声は出なかったようで、ゴリアテという人物をただ指差す。
その先にいた彼はあからさまに無礼な扱いには腹を立てていなかった。
「んもうっ。グレイグったら、アタシのことはシルビアって呼んでって何回も言ってるのに」
その代わり、別のことでぷんぷん怒っていた。
「これだから脳みそまで筋肉のおじさんはイヤなのよ」
しかしながら否定もしていなかった。
「な、!俺とそんなに年は変わらんではないか!!」
「あらー?グレイグったら、レディに年齢の話はタブーだってパパから習わなかったの?
基本も押さえられないなんて、とんだ騎士様もいたものねぇ」
「男だろうお前は!!」
「え、イヤだ!アナタ、今時その認識はマズいわよ!?」
私を置いてけぼりに口喧嘩を繰り広げるおっさんたち。
内容は聞けたものではなかったが、それでも実はこの二人は割と旧知の仲なのだと理解するには充分だった。
もぐもぐと現実逃避がてらクリームをたっぷり乗せたパンケーキを食べる。美味しいな。
ダーハルーネ産のスイーツは、とりあえずさえずりのみつを使って入ればオッケーみたいな意図を感じないことはないのだけれど、それでも美味であることには間違いない。
しかし――。
わざと沈鬱な空気を無視したことで話をこうまで明後日の方向に捻じ曲げることができたシルビアさんの手腕に感服する。
グレイグさまが過ぎるほど単純もとい実直にしても、だ。
私の意図を拾い上げシルビアさんは自分を道化にしつつも見事にくだらない口喧嘩にすり替えた。
さすが旅芸人と言ったところか、もはやそれはある種の手品のようですらある。
…ゴリアテという名前がまさか本当に本名だとは思いもしなかったけれど。
ということを含め後で謝っとこうと思った。強く思った。
「あぁ、もう。ほんとイヤね。頭の固いおじさんは。アタシも、エルザちゃんも。
イレブンちゃんや他のみんなも!…ちっとも気にしちゃいないっていうのに」
ねえ?とシルビアさんにふられて、咄嗟に否定することができなかった。
…いや、そんな気は多分実は、はじめからないのだと自分でも思う。だって。
「まあ、パンケーキ奢ってもらっちゃったし…」
呆気に取られるグレイグさま。そんな彼を見るなり、シルビアさんは妙に得意げに胸をそらす。
隣の私を、嬉しそうに見つめて。
「ですって。おもしろいでしょう、この子。アタシこういうところ、とっても好きなの」
私は確かにグレイグさまに勇者様たちとの殺し合いを強要された。
しかしそれはあくまであの時点での私の生存を第一に考えてくれていたからだし、結果的にだが本当に邪悪な存在だったホメロスさまから守ってくれていたのだ。
それにユグノアでの出陣がなければ、間違いなくシルビアさん――じゃない、勇者様たちとの関係が続くことはなかっただろう。
こうやって三人でお茶をすることもなかったはずだし、シルビアさんと共にありたいとも思わなかったはずだ。
そんなわけで能天気なまでにポジティブシンキングだという自覚もあるがとにかく、私はグレイグさまに関してはさほど恨んではいない。
それでも謝罪してくれるというならばそれこそ、ちょっと高めのパンケーキでも奢ってくれれば、それで充分だった。
「エルザ…お前というやつは…」
グレイグさまはもちろん泣いてなんかいない。そういうタイプの人ではないのは、そのいかにも勇ましい外見通りだ。
けれども僅かに、声が、肩が震えていたのはわかった。
一瞬言葉を詰まらせ、尚も何か続けようと不器用に口を動かしかけたところで、シルビアさんがまたも邪魔をした。
「ほしい?あげないわよ」
いや?とか、え?とか、は?とか。発声したならばそんな感じだと思う。
効果音をつけるならぱ『ぽかん』以外に何かあるだろうかと考えるほど呆気にとられた表情のグレイグさまに、シルビアさんはくすくすと笑いかけた。
「あら、ごめんなさい。アタシとしたことがつい先走っちゃったわ!」
「本当にお前というやつは!」
私に対する同じ台詞とはニュアンスがだいぶ違う。
グレイグさまのシルビアさんに対するそれは、僅かに怒気すら含まれていた。
けれど。
グレイグさまは大きく息をつく。旧友は本来滅多に人の話を遮らないタイプだということを思い出したのだろう。
ようやく一口自分のカップに手をつける。
「エルザ。お前を巻き込んでしまい、本当にすまなかった」
カップをソーサーに置いて。改めて私を見据えるグレイグさまの目はどこまでも誠実だ。
「そして、礼を言おう。お前のお陰で、本当の意味で俺は先に進めそうだ」
頷く。けれど、いやと否定。
「私が今ここで生きているのは紛れもなくグレイグさま、それにシルビアさんやみんなのお陰です。
…グレイグさまだってそうでしょ?」
指摘するとグレイグさまはややきまり悪そうにシルビアさんを見る。
にっこり気持ちの良い笑顔を見せつけた旧友を確認、眉間にシワが寄る。指で押さえて数秒。
…それでも。
「そうだな」
と短く認めてくれた。
つられるように笑みが溢れる。
「ここのパンケーキ、おいしいです。ごちそうさまです。また今度はみんなで来たいです!」
そんなことを言う私に、唐突にシルビアさんが口を挟む。
「そうね、エルザちゃん。今度はアタシに奢らせてちょうだい!」
「ちょっと待てゴリアテ。エルザはともかく、俺はお前の料金まで持った覚えはないのだが」
「あらん?グレイグったら、しばらく見ない間に随分とケチな男になったものねぇ」
「…頼む。お前は一体どの立場から物を言っているのか一度教示してくれないか?」
こうして再び始まる、おっさん同士の緩くも容赦のないディスり合いを肴に食べる美味しかったはずのパンケーキの残り半分は、近年まれに見ぬほどまずいものとなってしまった。
「そもそも。36歳にもなってうら若きエルザちゃんに手を出そうなんて……、身の程知らずもいい加減になさい」
「…年齢の話はするなと先ほど自分から言っていなかったかゴリアテ」
「アタシはいいの。それにしても男って、イヤね。そんなに幼な妻に憧れるものなのかしら」
「言わせておけば…!」
…これはなんていうか、もしかしていちゃついているのだろうかこの二人。
シルビアさんに関しては少なくとも楽しそうだし嬉しそうだ。
そうだとしたらなんかやだな。
そんなもやっとしたものを最後に感じてしまいながら、今日の不思議なお茶会は閉幕となるのだった。
いかにも禍々しい響きの名前を持つその男こそがデルカダール王に成り代わり、16年もの間国を狂わせてきた超本人らしい。
一言でまとめれば勇者とデルカダールを対立させた全ての黒幕と言ったところだ。
「つまりグレイグさまは、そのウルノーガっていうのに騙されてたってこと?」
奢ってもらってしまったパンケーキ。
それを切り分けながらそんなことを訊くのも失礼な話かとは思うけれど、グレイグさまが良いと言ったのだから多分良いのだ。
「そうだ。…王や姫、イレブンたちにはもちろん、部下や民にも…お前にも。
取り返しのつかぬことをしてしまうところだった……」
悲痛な面持ちで、そして感情を無理矢理に押し殺した声音で答えるグレイグさまを見て、軽くそんなことを聞いてしまったことを後悔した。
「…グレイグの名誉のためにも言っておくけれど、ウルノーガの変身はそれはもう敵ながら見事なものだった。
アタシたちはもちろん…本物の王ちゃんと付き合いが長いはずのロウちゃんですら、すぐには見抜けなかったわ」
「いや、ゴリアテ。いい。俺だけは奴を偽者だと見抜けなければならなかったんだ。それを…!」
フォローに入るシルビアさんを制し、グレイグさまはまさに自己嫌悪の坩堝。
彼の中で恐らく何度も繰り返し、そして何度も同じ結論を出しては自分を責める。…当然のことかも知れない。
ウルノーガは強大な力を持った魔道士だ。
その真の目的は杳として知れぬまま怪人は勇者様たちに斃されたわけだが、そうでなければ。
グレイグさまは彼に操られるままに、デルカダールはおろかロトゼタシアにすら、大打撃を与えてしまっていたところだったのかも知れない。
たらればを言っても仕方ない、とはいえ済んだ話だとするには重すぎる。
グレイグさまだって将軍である以前に人間なのだ。
きっと、償いきれないほどの十字架を背負ったのだと本人は思っていることだろう。
ここで私も何か言うべきなのだろうが、どうフォローすることもできなかった。
…一応私もデルカダールの被害者ではあるしそれを差し引いても、あなたは悪くないと私が言ったところで彼にとってなんの救いになるだろうか。
「グレイグさま」
じゃあ私はどうするべきか。
季節のフルーツが盛られ、生クリームとさえずりのみつがたっぷりかかったパンケーキが報酬だとして、あまりに割に合わない課題。
私は一口大に切り分けたそれを、この空気であえて口に運び、甘く柔らかな生地を30回噛んで堪能し、飲み込む。
「その、空気を読まなくてごめんなさい。…ゴリアテって誰ですか?」
まさかの質問に、ぽかんとグレイグさまの口が開く。
驚きのあまり声は出なかったようで、ゴリアテという人物をただ指差す。
その先にいた彼はあからさまに無礼な扱いには腹を立てていなかった。
「んもうっ。グレイグったら、アタシのことはシルビアって呼んでって何回も言ってるのに」
その代わり、別のことでぷんぷん怒っていた。
「これだから脳みそまで筋肉のおじさんはイヤなのよ」
しかしながら否定もしていなかった。
「な、!俺とそんなに年は変わらんではないか!!」
「あらー?グレイグったら、レディに年齢の話はタブーだってパパから習わなかったの?
基本も押さえられないなんて、とんだ騎士様もいたものねぇ」
「男だろうお前は!!」
「え、イヤだ!アナタ、今時その認識はマズいわよ!?」
私を置いてけぼりに口喧嘩を繰り広げるおっさんたち。
内容は聞けたものではなかったが、それでも実はこの二人は割と旧知の仲なのだと理解するには充分だった。
もぐもぐと現実逃避がてらクリームをたっぷり乗せたパンケーキを食べる。美味しいな。
ダーハルーネ産のスイーツは、とりあえずさえずりのみつを使って入ればオッケーみたいな意図を感じないことはないのだけれど、それでも美味であることには間違いない。
しかし――。
わざと沈鬱な空気を無視したことで話をこうまで明後日の方向に捻じ曲げることができたシルビアさんの手腕に感服する。
グレイグさまが過ぎるほど単純もとい実直にしても、だ。
私の意図を拾い上げシルビアさんは自分を道化にしつつも見事にくだらない口喧嘩にすり替えた。
さすが旅芸人と言ったところか、もはやそれはある種の手品のようですらある。
…ゴリアテという名前がまさか本当に本名だとは思いもしなかったけれど。
ということを含め後で謝っとこうと思った。強く思った。
「あぁ、もう。ほんとイヤね。頭の固いおじさんは。アタシも、エルザちゃんも。
イレブンちゃんや他のみんなも!…ちっとも気にしちゃいないっていうのに」
ねえ?とシルビアさんにふられて、咄嗟に否定することができなかった。
…いや、そんな気は多分実は、はじめからないのだと自分でも思う。だって。
「まあ、パンケーキ奢ってもらっちゃったし…」
呆気に取られるグレイグさま。そんな彼を見るなり、シルビアさんは妙に得意げに胸をそらす。
隣の私を、嬉しそうに見つめて。
「ですって。おもしろいでしょう、この子。アタシこういうところ、とっても好きなの」
私は確かにグレイグさまに勇者様たちとの殺し合いを強要された。
しかしそれはあくまであの時点での私の生存を第一に考えてくれていたからだし、結果的にだが本当に邪悪な存在だったホメロスさまから守ってくれていたのだ。
それにユグノアでの出陣がなければ、間違いなくシルビアさん――じゃない、勇者様たちとの関係が続くことはなかっただろう。
こうやって三人でお茶をすることもなかったはずだし、シルビアさんと共にありたいとも思わなかったはずだ。
そんなわけで能天気なまでにポジティブシンキングだという自覚もあるがとにかく、私はグレイグさまに関してはさほど恨んではいない。
それでも謝罪してくれるというならばそれこそ、ちょっと高めのパンケーキでも奢ってくれれば、それで充分だった。
「エルザ…お前というやつは…」
グレイグさまはもちろん泣いてなんかいない。そういうタイプの人ではないのは、そのいかにも勇ましい外見通りだ。
けれども僅かに、声が、肩が震えていたのはわかった。
一瞬言葉を詰まらせ、尚も何か続けようと不器用に口を動かしかけたところで、シルビアさんがまたも邪魔をした。
「ほしい?あげないわよ」
いや?とか、え?とか、は?とか。発声したならばそんな感じだと思う。
効果音をつけるならぱ『ぽかん』以外に何かあるだろうかと考えるほど呆気にとられた表情のグレイグさまに、シルビアさんはくすくすと笑いかけた。
「あら、ごめんなさい。アタシとしたことがつい先走っちゃったわ!」
「本当にお前というやつは!」
私に対する同じ台詞とはニュアンスがだいぶ違う。
グレイグさまのシルビアさんに対するそれは、僅かに怒気すら含まれていた。
けれど。
グレイグさまは大きく息をつく。旧友は本来滅多に人の話を遮らないタイプだということを思い出したのだろう。
ようやく一口自分のカップに手をつける。
「エルザ。お前を巻き込んでしまい、本当にすまなかった」
カップをソーサーに置いて。改めて私を見据えるグレイグさまの目はどこまでも誠実だ。
「そして、礼を言おう。お前のお陰で、本当の意味で俺は先に進めそうだ」
頷く。けれど、いやと否定。
「私が今ここで生きているのは紛れもなくグレイグさま、それにシルビアさんやみんなのお陰です。
…グレイグさまだってそうでしょ?」
指摘するとグレイグさまはややきまり悪そうにシルビアさんを見る。
にっこり気持ちの良い笑顔を見せつけた旧友を確認、眉間にシワが寄る。指で押さえて数秒。
…それでも。
「そうだな」
と短く認めてくれた。
つられるように笑みが溢れる。
「ここのパンケーキ、おいしいです。ごちそうさまです。また今度はみんなで来たいです!」
そんなことを言う私に、唐突にシルビアさんが口を挟む。
「そうね、エルザちゃん。今度はアタシに奢らせてちょうだい!」
「ちょっと待てゴリアテ。エルザはともかく、俺はお前の料金まで持った覚えはないのだが」
「あらん?グレイグったら、しばらく見ない間に随分とケチな男になったものねぇ」
「…頼む。お前は一体どの立場から物を言っているのか一度教示してくれないか?」
こうして再び始まる、おっさん同士の緩くも容赦のないディスり合いを肴に食べる美味しかったはずのパンケーキの残り半分は、近年まれに見ぬほどまずいものとなってしまった。
「そもそも。36歳にもなってうら若きエルザちゃんに手を出そうなんて……、身の程知らずもいい加減になさい」
「…年齢の話はするなと先ほど自分から言っていなかったかゴリアテ」
「アタシはいいの。それにしても男って、イヤね。そんなに幼な妻に憧れるものなのかしら」
「言わせておけば…!」
…これはなんていうか、もしかしていちゃついているのだろうかこの二人。
シルビアさんに関しては少なくとも楽しそうだし嬉しそうだ。
そうだとしたらなんかやだな。
そんなもやっとしたものを最後に感じてしまいながら、今日の不思議なお茶会は閉幕となるのだった。