Hevenly sun
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どんな顔をしてあなたに会えば良いかわからなかったんです。
緊張で喉が渇き、あなたにに恋い焦がれるボクの体温は熱くなり、しかし冷たくなる。
これは彼に、シルビアさんに対する罪悪感だ。考えるまでもなくわかっている。
そしてボクからその報せを聞いたシルビアさんの顔色は、悪い。
「ウソよ……、ハンサムちゃん。そんなの、そんなのって、ありえない」
シルビアさんは無理矢理に笑みを形作る。
おどけた口調。
「は、ハンサムちゃん。もしかしてアナタ冗談を言ってるんでしょう?うふふふふ、イヤね、それならそうと言ってちょうだい!
でもその手のやつはアタシあまり好きじゃないから、今後は控えてくれると嬉しいわ!」
から笑いする彼にボクは何も言えなかった。
肯定も否定もできず俯くボクの様子を見て、シルビアさんも悟ったのだろう。
その美しい顔から、常に自信に溢れた笑みが消えた。
「もしかして、本当に…?」
シルビアさんが勇者たちと共にグロッタを訪れた。
なんでも平和になった世界各地を見て回っているらしく、彼らは最初に孤児院に向かった後しばらく各自自由行動を取ることにしたらしい。
そしてシルビアさんは一番にボクに会いに来てくれた。
それ自体はとても嬉しいことだ!
好きな人に会えて嬉しくない人間なんていない、単純にそういう話。
しかし、シルビアさんにはボクに会うにはボク以外の理由があった。…もちろんエルザのことだ。
元々別行動を取っていて滅多に会わないのだそうだが、それでも近頃は不自然なくらい会えないのだという。
その折、先にサマディーを訪れた際にファーリス王子に言われたのだそうだ。
グロッタのハンサムくんから話を聞けば良いのではないか、と。
あの野郎、ボクに押しつけやがった。
とその時は恨みにも思ったが、しかしこう思い直した。エルザの顛末を語るのにボクより相応しい人物はいない。
こうしてボクはシルビアさんをとある場所――グロッタの共同墓地に案内することになった。
エルザの遺体は異世界で散華してしまったのでもちろんない、石に名を刻んだ完全に形だけのものだ。
けれども、グロッタの隠れた英雄として、どうしても作らずにはいられなかった。それが今回の戦いに関わった者たちの総意だった。
【グロッタの救世主エルザ。魂は此処にあらずとも、その気高き心を忘るる勿れ】
その前でボクはシルビアさんに全てを話し、そして現在に至る。
「…ボクがあなたを悲しませる冗談なんて、言えるわけがないじゃないですか」
たっぷり、たっぷりの間をとってすら、震える声音でそんな物言いしかできない自分を内心で蔑んだ。
そのせいかわからない。しかし確かに、シルビアさんの灰色の瞳の奥が、揺れる。
途端ボクの胸は罪悪感で一杯になった。
あいつの死因はザキで、助けられるはずもなかったと納得せざるを得なかった事実が、いかにも無理矢理な言い訳にしか思えなくなった。
…そんなこと言えるはずがない。
たった数日しかエルザと行動を共にしていないボクですら、あのあまりにも呆気なくも残酷な戦死を前にまだ完全には立ち直れていないのだ。
シルビアさんが(認めたくない肩書だが)恋人の訃報を突然聞かされて、平静でいられるとはさすがに思えない。しかもあの死に様だ。
「ハンサムちゃん…」
消え入りそうな声だった。それこそ、ボクやあの女でなければ聞き逃してしまいそうなほどの。
考えたくもないほどの弱々しい声でシルビアさんは語りだす。
「あの子…エルザちゃんはね、とてもいい子なの。素直じゃないけどそこがとってもかわいくて。それだけじゃないのよ。
騎士みたいな誇りはない代わりに、清濁併せ呑むたくましさがある。なんていうか…、そうね、強いて言うなら」
口許が微かに笑む。
「しぶとい子」
その愛しげに彼女を語る様にボクの心は痛みはしたが、今ばかりはあまりに些細な問題だ。
いくらなんでもそこまでこの器は小さくない。
「ね、ハンサムちゃん。アタシ、思うの」
今までとは打って変わってシルビアさんは微笑む。
レディ・マッシヴの凛々しい顔とも、ステージ上の華やかな顔とも違う、穏やかで優しく、美しいとしか形容できないもの。
こぼれ落ちそうなほどの慈愛に少しの危うさを混ぜてシルビアさんは続ける。
「きっと、エルザちゃんは生きてる。だって言葉は悪いけど、殺しても死ななさそうな子だもの。
アタシの探し方がきっとまだ、そうよ。甘いんだわ!」
それを強さと呼ぶのか弱さと呼ぶのか、ボクにはわからない。
少なくとも、シルビアさんの妄言とすら言える持論を否定できないのはボクの弱さだ。
あいつの犠牲のお陰でバリクナジャを倒せたわけだが、その絶対的な死の証拠だけは未だに出せないでいる。
きっとシルビアさんは知らない方が良いのだと思う。
あの時の出来事など。
「…ごめんなさいね、ハンサムちゃん。せっかく話してくれたのに、信じることができなくて…」
「いえ、ボクは……」
信じてもらえないだろうが、それでも話すべきかと思う。
あいつがボクにくれたものを。
あいつが遺してくれたものを。悪感情しか持てなかったボクすら受容しきったことを。
「シルビアさんのそういうところが好きですから」
でもやめだ。
シルビアさんにとって、これ以上エルザの印象を良くしてやる必要はない。それではもう奴をライバルとは呼べなくなってしまう。
それにあの女は、シルビアさんをよろしくと言った。
だから、ボクはボクのために、そしてシルビアさんのために動くのがあいつにとって一番弔いになるのではないかと都合がいいかも知れないが思うのだ。
「…あえてボクは止めません。でも、時々で良いからグロッタにも来てください。ボク、待ってますから」
シルビアさんを見送ったボクの手は気づけば祈る様に組まれていた。
過ぎ去った時間は戻ることはない。
どれだけ求めても。それはボクにもわかることだ。
けれどそれでも思うのだ。
もう少し、救われる結末はあったのではないかと。
なぜだか強く、考えてしまうのだ。
緊張で喉が渇き、あなたにに恋い焦がれるボクの体温は熱くなり、しかし冷たくなる。
これは彼に、シルビアさんに対する罪悪感だ。考えるまでもなくわかっている。
そしてボクからその報せを聞いたシルビアさんの顔色は、悪い。
「ウソよ……、ハンサムちゃん。そんなの、そんなのって、ありえない」
シルビアさんは無理矢理に笑みを形作る。
おどけた口調。
「は、ハンサムちゃん。もしかしてアナタ冗談を言ってるんでしょう?うふふふふ、イヤね、それならそうと言ってちょうだい!
でもその手のやつはアタシあまり好きじゃないから、今後は控えてくれると嬉しいわ!」
から笑いする彼にボクは何も言えなかった。
肯定も否定もできず俯くボクの様子を見て、シルビアさんも悟ったのだろう。
その美しい顔から、常に自信に溢れた笑みが消えた。
「もしかして、本当に…?」
シルビアさんが勇者たちと共にグロッタを訪れた。
なんでも平和になった世界各地を見て回っているらしく、彼らは最初に孤児院に向かった後しばらく各自自由行動を取ることにしたらしい。
そしてシルビアさんは一番にボクに会いに来てくれた。
それ自体はとても嬉しいことだ!
好きな人に会えて嬉しくない人間なんていない、単純にそういう話。
しかし、シルビアさんにはボクに会うにはボク以外の理由があった。…もちろんエルザのことだ。
元々別行動を取っていて滅多に会わないのだそうだが、それでも近頃は不自然なくらい会えないのだという。
その折、先にサマディーを訪れた際にファーリス王子に言われたのだそうだ。
グロッタのハンサムくんから話を聞けば良いのではないか、と。
あの野郎、ボクに押しつけやがった。
とその時は恨みにも思ったが、しかしこう思い直した。エルザの顛末を語るのにボクより相応しい人物はいない。
こうしてボクはシルビアさんをとある場所――グロッタの共同墓地に案内することになった。
エルザの遺体は異世界で散華してしまったのでもちろんない、石に名を刻んだ完全に形だけのものだ。
けれども、グロッタの隠れた英雄として、どうしても作らずにはいられなかった。それが今回の戦いに関わった者たちの総意だった。
【グロッタの救世主エルザ。魂は此処にあらずとも、その気高き心を忘るる勿れ】
その前でボクはシルビアさんに全てを話し、そして現在に至る。
「…ボクがあなたを悲しませる冗談なんて、言えるわけがないじゃないですか」
たっぷり、たっぷりの間をとってすら、震える声音でそんな物言いしかできない自分を内心で蔑んだ。
そのせいかわからない。しかし確かに、シルビアさんの灰色の瞳の奥が、揺れる。
途端ボクの胸は罪悪感で一杯になった。
あいつの死因はザキで、助けられるはずもなかったと納得せざるを得なかった事実が、いかにも無理矢理な言い訳にしか思えなくなった。
…そんなこと言えるはずがない。
たった数日しかエルザと行動を共にしていないボクですら、あのあまりにも呆気なくも残酷な戦死を前にまだ完全には立ち直れていないのだ。
シルビアさんが(認めたくない肩書だが)恋人の訃報を突然聞かされて、平静でいられるとはさすがに思えない。しかもあの死に様だ。
「ハンサムちゃん…」
消え入りそうな声だった。それこそ、ボクやあの女でなければ聞き逃してしまいそうなほどの。
考えたくもないほどの弱々しい声でシルビアさんは語りだす。
「あの子…エルザちゃんはね、とてもいい子なの。素直じゃないけどそこがとってもかわいくて。それだけじゃないのよ。
騎士みたいな誇りはない代わりに、清濁併せ呑むたくましさがある。なんていうか…、そうね、強いて言うなら」
口許が微かに笑む。
「しぶとい子」
その愛しげに彼女を語る様にボクの心は痛みはしたが、今ばかりはあまりに些細な問題だ。
いくらなんでもそこまでこの器は小さくない。
「ね、ハンサムちゃん。アタシ、思うの」
今までとは打って変わってシルビアさんは微笑む。
レディ・マッシヴの凛々しい顔とも、ステージ上の華やかな顔とも違う、穏やかで優しく、美しいとしか形容できないもの。
こぼれ落ちそうなほどの慈愛に少しの危うさを混ぜてシルビアさんは続ける。
「きっと、エルザちゃんは生きてる。だって言葉は悪いけど、殺しても死ななさそうな子だもの。
アタシの探し方がきっとまだ、そうよ。甘いんだわ!」
それを強さと呼ぶのか弱さと呼ぶのか、ボクにはわからない。
少なくとも、シルビアさんの妄言とすら言える持論を否定できないのはボクの弱さだ。
あいつの犠牲のお陰でバリクナジャを倒せたわけだが、その絶対的な死の証拠だけは未だに出せないでいる。
きっとシルビアさんは知らない方が良いのだと思う。
あの時の出来事など。
「…ごめんなさいね、ハンサムちゃん。せっかく話してくれたのに、信じることができなくて…」
「いえ、ボクは……」
信じてもらえないだろうが、それでも話すべきかと思う。
あいつがボクにくれたものを。
あいつが遺してくれたものを。悪感情しか持てなかったボクすら受容しきったことを。
「シルビアさんのそういうところが好きですから」
でもやめだ。
シルビアさんにとって、これ以上エルザの印象を良くしてやる必要はない。それではもう奴をライバルとは呼べなくなってしまう。
それにあの女は、シルビアさんをよろしくと言った。
だから、ボクはボクのために、そしてシルビアさんのために動くのがあいつにとって一番弔いになるのではないかと都合がいいかも知れないが思うのだ。
「…あえてボクは止めません。でも、時々で良いからグロッタにも来てください。ボク、待ってますから」
シルビアさんを見送ったボクの手は気づけば祈る様に組まれていた。
過ぎ去った時間は戻ることはない。
どれだけ求めても。それはボクにもわかることだ。
けれどそれでも思うのだ。
もう少し、救われる結末はあったのではないかと。
なぜだか強く、考えてしまうのだ。